31.フリッターの愚痴
「なんか、アタシだけぼっちの予感がするっスね」
アタシはフリッター、気ままなレンジャーっス。
今は色々あって『居眠りドラゴン』っていうギルドに属してるんスけど、元々アタシはソロで活動するのが好きで、だからぼっちであること自体にはさして思うところはなかったんス。
けど……。
「んもうスレイドったら、照れなくても良いのに♥」
「いやあのねリーピア。そりゃ僕も君と恋人になりたいとは言ったけどね、落差がね」
いちゃいちゃ。
「あ、ガルデさん……お疲れ様です。今日はA級だったからそこまでじゃないかもですけど」
「ああ、いや。十分な難易度だったしな。ブライアもお疲れ」
いちゃいちゃいちゃいちゃ。
「……アタシだけ除け者にされてる感じは、気に入らないっスねぇ~?」
露骨に『恋人同士』のスレイドとリーピアはいいっス。
最近リーピアのデレが甘すぎて砂糖苺を口から吐きそうっスけど、まぁ2人がイチャついてんのは、皆が望んでた結末だったし。
いや、でもあれ?ブライアはスレイドの事、まだ狙ってるみたいな事言ってたと思うんスけど。
いつの間に、ガルデとあんな『いい感じ』の間柄になってたんスかね?
気付かないうちにアタシの冗談の域を超えたもう一組のカップルが生まれ始めてる気がするっスよ?
しかも、スレイド・リーピアのなんか初々しいバカップル感と違って、ガルデ・ブライアって(27歳と23歳だから当たり前かもだけど)しっとりした大人な雰囲気のせいで割とガチめなカップルが生まれ始めている予感がしてならないっス。
そういえばアタシだけ年齢まだ明かしてなかったっスかね。
誰にかは置いといて。
アタシ、こう見えて20歳なんス。ハタチっす。
いや、まぁ冒険者稼業を気ままにこなしてただけで、他人はともかく自分の色恋なんかに微塵も興味なかったから浮いた話の一つもなくて当たり前なんスけど。
良い歳した女が、ギルド内でぼっちって、な、なんか、妙にこう心をザワつかせるっス。
そこでアタシは、言ってみたっス。
「スレイド達ばっかり、なんかズルいっス! もう1人増やしましょう! 男の仲間!!」
アタシのその宣言に、二組の(?)カップル達は、ええー……みたいな顔をしてたっス。
な、なんスかその反応。
人を男に飢えてるハンターみたいに。
そうかも知れないけど、もうちょっとこう、何か他に反応のしようがあるでしょ!!
◆◆◆
「……なんだ、その、つまり。あれか。スレイドとリーピアのみならず、俺とブライアが良い雰囲気に、お前には見えたのか」
「はっ、恥ずかしいです……」
「あーあー、もうカップル成立寸前のオトナ組のその鈍感な感じはいいっス! お腹いっぱいっス!」
アタシはみっともなく喚き散らす。
スレイドとリーピアがいると話がこじれそうなんで、3人だけの会話っスけど。
アタシとガルデとブライアは、酒場でグダグダ会議をしてたっス。
議題は、『アタシにもパートナーみたいな男あてがって欲しい』……って、露骨過ぎないっスかね?
「お前が言い出したんだろう……あと誤解があるようだが、俺とブライアは別に」
「ガルデの認識なんかどーでもいいっスよ。実際ブライアはどう思ってるかだけ訊かせて欲しいっス。結局、ブライアはどっちなんスか? マジでこのカタブツ男が良いんスか? ってことはもしかして、こないだの横取り宣言も嘘なんスか? あれも芝居なんスか?」
アタシはガルデの発言を遮って、ブライアに捲し立ててみるっス。
「あ、う、え……その、は、はい……」
「ほーーーーら語るに落ちたァ!!!」
自分でも言ってて何が嬉しいんだか分かんないっスけど、アタシは大喜びで指したっス。やっぱ推測当たってたっス。2回目のアレも演技だったんスね。
「今の今まで気付いてなかった癖に何を偉そうに……」
「え、もしかしてとっくに気付いてたって事っスか? 何で言ってくれなかったんスか!?」
ガルデのそんな呆れたとばかりの発言にアタシはますます除け者感を増幅させられてイライラするっス。
「だってお前、面白がって煽るだろ」
「ですね……」
酷いっス。アタシ、そんな感じだと思われてたっスか。
いや、まぁ、その。自覚はあるっスけど。
「ま、まぁ、それは良いじゃないですか。私がスレイドさんをまだ少しは好きって事にしとかないと、リーピアさんまたスレイドさんと前みたいになっちゃいますよ」
「いやぁ~~~? 正直、最近のバカップルっぷりからしてもうそれはないんじゃないっスかねぇ……」
アタシは言った。しかしガルデは、
「どうかな。リーピアはああ見えて鈍感な上に色恋については優柔不断だしな。スレイドがはぐらかしに対してあれだけ露骨に『ちゃんと聞いてくれ』と言っているにも拘らず、誤魔化し続けるような女だぞ」
などと言う。えらい言いようっス。ってか、スレイドへの肩を随分持つっスね。前はリーピアの肩持ってた癖に。このダブスタ男!!
「く、口に出てますよ……」
「しまったっス。てへぺろ★」
「クソうざいな……」
まぁそれはどうでも良いっス。
今はあのバカップルの話じゃなくて、目の前の二人がどうなのかって話っス。
仮にブライアがスレイドへの気持ちはもうないとしても、じゃあ最近二人が良い感じなのってなんでなんスか。
アタシがそう水を向けてみると、
「いや……本気でそんな感じまでは行ってない」
「だからガルデには聞いてないっス」
「その……ガルデさんの言う通り、実際には何もないですよ? ただ、私たち、ギルドの中じゃ慎重派の2人として、その、性格が合うんですよ、多分……私がスレイドさんに少しだけ懸想していたのも事実ですし、それって多分、性格的に少しだけ近かったから、だと思うんですよね……」
ブライアはそう言うっスけど、でもスレイドとリーピアなんて正反対みたいな性格っスけどねぇ……。スレイドはやや慎重。リーピアは無鉄砲でノリノリ。
「いや、あの二人は出自というか、お互いがお互いの能力を求めあっている側面も大きいだろ」
「だからガルデの意見は」
「あの、そんなに無下にしなくても。ガルデさんの言う事も一理あると思いますよ」
やたらガルデを庇うっスね。
こりゃ本気か。
アタシは絶望的な気分になる。
「あ~~~二組目も確定かぁ~~~、割とガチで凹むっス」
「……何でそんな急に男を求めてんだ? お前、そういう感じの女じゃないだろ」
「だからガルデ」
「もう、いい加減にしてあげてください、フリッターさん。ガルデさん、こういうのって、理屈じゃないんですよ。恋したいって気持ち、女の子には普通にあるものですから」
女の子には、って言うっスけど。
いや、別に恋がしたい訳じゃないんスけどね。
「単にこう……アタシ、ぼっちなのが辛いだけなのかもっス」
「何言ってんだ。ぼっちじゃねえだろ」
アタシはガルデの言葉を遮る間もなく、やや怒った彼の顔を見上げる。
「……ごめんなさい。今のは、冗談にしても、言い過ぎでしたね」
アタシは思わずいつもの口調から変わってしまいました。
そう、この口調、実は半分演技なんです。
サバサバした、カラッとした、ひょうきんで、明るくて。
そういう自分に憧れて、ウジウジした所なんて誰にも見せたくなくて、変わろうとして。
「……フリッターさん、寂しいんですね。分かりますよ」
ブライアがアタシに言う。
「いや……別に、寂しいとかじゃないですけど……」
アタシは彼女の言葉を思わず否定してしまうが、図星だった。
「……らしくないな。まぁ、それもお前の本音ってやつなのかね」
ガルデはそう言うと、何やら給仕に注文する。
「ホラ。今日は奢りだ、飲め」
見るとそれは……あ、あ!
「ご、ゴールデン・フォール!?」
それはガルデがたまに『ボトルキープしているんだ』と言っていた、宿代20泊分にもなるやったらめったらお高いお酒!!
確かスレイドとリーピアの中級冒険者祝いとかで呑んでたっていう!
「い、いいんですか!?」
「嫌な事は酒でも呑んで忘れちまうのが一番だからな。俺も付き合う」
「はいっ、私も弱いから程々にですけど」
「……ありがとうございます、二人とも。何か、変な所見せて、ごめんなさい」
アタシは口調を直すのも忘れて、ボトルから注がれる金色のお酒をグイッと飲み干す。
「……っっっぷっっはぁああああああ!!」
美味しい。
胃が焼け付くように熱いけれど。
「フリッター、6人目の仲間を男にするかどうかはさておいて、これだけは忘れるなよ。俺もお前も『居眠りドラゴン』の一員で、仲間同士なんだからな」
「はい。辛いことがあったら、いくらでも愚痴なんて聞きますから。溜め込んだり……元々しない性格でしょうけど、言って下さい」
「……ははっ」
ガルデの言葉の優しさに不意を打たれ。若干失礼なブライアの『無自覚煽り』も今はアタシの涙腺を緩ませる効果しかなくて。アタシは、静かに涙しながら、とっても美味しいお酒をぐびぐびと呑み続けるのだった―――。
(つづく)
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