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おやすみヒプノシス  作者: 0024
30/76

30.ガルデの憂鬱

 俺の所属しているギルドの雰囲気が最悪だ。


 ―――なんて、どこかで使い古された言い回しだが、今の俺の現状を的確に表していると思う。

 ん?

 語り部がいつもと違うって?


 ああ、今回は俺、『居眠りドラゴン』におけるパワー担当こと、ガルデがお送りする。

 諸事情あってな。


 本来の語り部であるスレイドは今まさに、2人の女子に挟まれて大変な事になっているからな。

 たまにはこういうのも一興だろう。


 そんな訳で、今朝ウチのギルド内で起きた大波乱の後、俺たちは朝食を食べて、それからクエストを見繕いに冒険者ギルドへ向かったのだが……。


 ◆◆◆


「だから、リーピアさんはもう少し慎重になったほうが良いと思いますよ。スレイドさんが困惑してますし」


「あ・な・た・に、そんなこと言われる筋合いないわ! スレイドは私の相棒(バディ)で、こ……恋人なんだからね」


 今朝はあれだけスレイドとイチャついてた割に今は随分落ち着いているな、と俺は思った。

 堂々と恋人宣言して他からの立ち入りを許さん、くらいでも良かろうに。


「ちょっと二人とも、そういうノリはギルドハウス内だけにしてよ。周りの目があるんだから」


 スレイドもあの煮え切らない態度をどうにかして、『僕はリーピア一筋だよ!』とでも言ってハッキリ気持ちを示せば良いのにな。いやまぁ、言ってはいたが、まだ甘いというか。

 今朝の事件……つまり、ブライアがリーピアを焚き付けるための一芝居を打ってスレイドとリーピアの両想いを促進した『茶番修羅場』の後、更にその関係を盤石のものにするためにブライアがもう一芝居打った結果がアレだ。

 正直、スレイドや俺からすると見え見えの嘘って感じではあったが、女性陣はおおまかに騙されているらしい。


 あいつら、意外と鈍いんだよな……。戦闘じゃ色々、カンがいい癖に……。


「いやぁ、折角丸く収まったっぽいのにまーたケンカして、騒がしいっスよねぇ」


 ニヤニヤと笑うフリッター。お前は楽しんでるだろ。


「はぁ……」


 俺としてはブライアが身を削ってまであの2人にそこまでしてやらんでも良いと思うがな……。

 どうせ、遠からずくっつくだろうと思っていたし。

 俺はそんな感じで、スレイドとリーピアのために身を粉にして『恋の鞘当て』『憎まれ』役を演じるブライアを、少し不憫に思うのだった。


 ◆◆◆


「なぁ、ブライア。無理してないか?」


 俺は彼女に声をかけてみる。


「えっ、えっ? な、何がですか?」


 スレイドとは意思疎通できていたようだが、俺まで騙せていると思っているらしい。

 まぁ、気付かれていると思われたくはないだろうな、道化である事を。


「……ま、無理して話さんでもいい。ただ、俺はブライア自身の心身……特に心だな、そちらが健全であったほうが、ギルド内の雰囲気も良い方向に向かうと思うからな」


 具体的な言及は避け、ともあれブライアが自分の気持ちに素直に、というよりも、僅かにでもあったかも知れないスレイドへの恋心めいた何かを押し込めてまでリーピアを立てるための芝居を続けなくて良い、といった事を示唆してみた。

 余りに言葉が足りなくて通じないかも知れんが、直接的に言い過ぎるよりは良かろう。


「あ……もしかして、気付かれちゃってましたか?」


 そう思っていると、逆にブライアのほうから踏み込んできたので、俺は安心して答える。


「まぁな。存外、分かりやすいよ。お前の態度」


 苦笑しつつ、俺はブライアの表情をうかがう。

 ブライアは決まり悪そうに目を泳がせ、俺の方をチラチラと見る。


「そうですか……な、何か恥ずかしいですね。思惑を見抜かれるのって」

「でも、お前は立派だと思うよ」


 俺は素直な気持ちを言う。

 その言葉にブライアは少し照れたように、長い前髪で目を隠す。


 正直を言うと俺も、フリッターみたいな下世話な気持ちがないではないし、あの2人がヤキモキしているのを楽しく、というよりは微笑ましく見ていたところはある。しかしスレイドがいつまでもはぐらかし続けるリーピアに割と真剣に頭を悩ませているのは心苦しくもあった。


 スレイド自身が、男らしく……という言い方もどうかとは思うが、まぁ毅然とした態度でリーピアに決着を付ければ良かったのだろうが、アイツはそういう性格じゃない。そんな性格ならそもそも、元・俺のギルドである『黒煙の灯』から追放される事もなかったろう。俺も、あいつがもっと反論していれば肩を持ってやれた、という気持ちも、正直少しはある。


 いや、あの件に関してはほぼ、俺の監督不行き届きだとは思うが……今にして思えば、俺はどうしてあんな欲得尽くの連中と組んでしまったんだろうな。自分の人を見る目のなさゆえか、それとも俺にも最初の頃は……


 と、俺が過去の事を思い返して懊悩しそうになっていると、ブライアは心配そうに俺を見た。


「あの、どうかしました? 何か真剣な顔で悩まれているようですが」

「ああ、いや。これからどのクエストを受けようかと思ってな。S級を立て続けに、というのは全員が嫌だろう?」


 俺は適当に思いついた嘘で誤魔化す。ブライアも同意する。


「そうですね……やはり、A級上位辺りのクエストをもっと地道にこなして、地力をつけるべきですよ」


 ところがそれに反論する声が上がる。


「って言っても上級魔族(アークデーモン)相手に私たちの『無敵催眠(おやすみヒプノシス)』通じたじゃない?」

「そっスね~。まぁ、結構なリスクはあるけど絶対無理じゃない感じはあるから、また受けてもいいんじゃないっスか?」


 ウチのギルドのアクティブ女性陣は、本当にこういうところ、考えなしだな……。

 お前ら、もうちょっとで全滅するかも知れなかったんだぞ。

 俺は苦笑しながらスレイドに視線を送る。

 スレイドも同じように苦い顔をしつつ、2人を窘める。


「あのねえ、今回の上級魔族(アークデーモン)にたまたま通じた可能性だってあるでしょ。S級モンスターは未知も多いんだから、迂闊な事して皆を失いたくないんだよ、僕は」


 口が上手いな。

 そう言われてしまえば、『恋人』になったリーピアは元より、フリッターも黙らざるを得ない。


「そう……ね」

「ギルドマスターがそう言うなら、まぁ、しゃぁないっスかね~」


 俺は胸を撫で下ろす。このギルドで一番の慎重派なので、正直に言うとS級は暫くこりごりである。まして俺は前衛に居たので、一番近い位置で上級魔族(アークデーモン)圧力(プレッシャー)を感じた身としては、あんな連中とホイホイ戦える勇者達の力量とは如何ほどのものなのかと、雲の上の戦いを想像してブルッてしまう。


 ……まぁ、流石にそんな泣き言は、『頼れる兄貴分』ポジションとしても、スレイドよりも年上の最年長者としても言いにくいが(因みに俺の年齢は、27である)。


「良かったですね、ガルデさん」


 と、俺の心中を察したかのようにブライアがニコリと笑う。


 おやおや。


 このギルドで一番の新入りである彼女は、どうやら人の心を読む事に随分と長けているようだ。……その割に、無自覚の『余計な一言』が多い気がするのは、アレも実は計算なのか?と勘繰ったりするが。


「はは、ま、皆が平穏無事に過ごせるのが一番さ。冒険者っぽくないかも知れんがな」


 そう、平穏無事が一番。

 それは男女の色恋においてもそうだ。


 このままスレイドとリーピアが普通に進展して、何事もなく固定化されてしまえば、ブライアも余計な気を回さずに済むのにな……。俺は、2人の恋路のために身を削るブライアに対して、また少し同情的な気持ちになった。その視線に気付いたのか、


「心配してくれてるんですか? ガルデさん」


 と、ほんのちょっと悪戯っぽい蠱惑的な笑みを浮かべてブライアが俺を上目遣いで見つめる。


 俺は、不意を打たれたようにドキリとした。


 身長差がすごい上に童顔なので、俺の胸くらいの位置から見上げてくるブライアは、正直に言ってしまうと『子供』にしか見えない。

 ……だがその彼女の、たまに見せる大人びた表情や、背丈に似合わない豊かな身体つきに、男として何も感じないと言うとウソになる。


「まぁ……俺は、ブライアもちゃんと幸せになって欲しいと思ってるよ。勿論、スレイドとリーピアの幸せは第一だけどな」

「ふふ、優しいんですね。流石『居眠りドラゴン』最年長の、お兄さんです」


「あ~っ、なんか怪しい会話してるっスね!? こっちはこっちで、恋のよ・か・ん!!」


 そんな風に静かに語り合うギルド慎重派の俺たち2人を茶化すフリッター。


「お前は、少しはデリカシーって言葉を覚えろ……」


 俺は軽く手刀を作ってトン、とフリッターの頭を小突くと、毎度の事ながら頭を抱えるのであった。


(つづく)

おやすみヒプノシスをお読みいただきありがとうございます!


恐れ入りますが、以下をご一読いただければ幸いです。


皆様からのブックマーク、評価が連載を継続する力になります!


【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると幸いです!


また、つまらなくても★ひとつ頂ければと思います。


感想・レビューなどを頂けると、展開もそちらを吟味した上でシフトしていくかもしれません。


何卒よろしくお願いいたします!

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