03.祝杯と昔の仲間
「大成功だったわね! いやあ、あんなに上手くいくとは」
「安心したよ。これで僕らも晴れて中級冒険者だ」
僕たちは冒険者ギルドでお祝いの乾杯をした。
「この調子で次はAランク行かない? 折角だし」
「そうだね。でも、もうちょっとBランクのダンジョンも周って行こう。Bランクの中でも、僕がこれまで攻略出来なかったやつとか、行ってみたいし」
そんな風に僕らが次のダンジョンへの希望をワイワイと話していると、
「スレイドじゃないか。お前、中級冒険者になったんだって?」
と、僕らのテーブルの近くには、僕のかつてのギルド仲間がいた。
「ガルデ……」
僕はかつての仲間である、戦士ガルデの顔を複雑な表情で見つめる。
「おいおい何だよ、その不景気なツラは。中級冒険者になったとも思えないな」
ガルデは僕のテーブルに自分の飲んでいたグラスをゴトリと起き、僕とリーピアの宴席に割り込んできた。
「なぁスレイド、そっちのお嬢さんは?」
リーピアの方を向いてガルデは尋ねる。
リーピアは顔を顰めて答える。
「あの、急に割り込んできて誰ですか? 失礼ですけど、私そういう不躾な人に名乗る名前は持ち合わせていないんです」
毅然とした態度で答えるリーピアに、ガルデも僕も目を丸くした。
「り、リーピア」
僕は彼女を窘めようとするが、ガルデは大笑いして言った。
「ははは、いや全くだ、悪いなスレイド、急に割り込んじまって。お嬢さんも悪かったな。改めて自己紹介するよ。俺はガルデ。先日までスレイドが所属してたギルドで、マスターやってんだ」
「あら、スレイドさんが役立たずだって言って追放したギルドマスターさんでしたか。よくもまあ、抜け抜けと顔を突き合わせられたもので」
ガルデの謝罪と自己紹介も意に介さず、苦虫を噛み潰したような嫌悪感を露わにしてリーピアは嫌味をまくし立てる。
僕はオロオロと両者を交互に見るが、ガルデは少し申し訳なさそうに言った。
「あの時は済まなかったな。どうしてもギルドメンバー全員の意見を尊重せざるを得なくてさ」
「い、いや。良いんだよ、しょうがない事だもん」
僕がそんな風にしてガルデを庇う様子が気に入らないのか、リーピアはムスーっとしていた。
「何よ、スレイドがそれじゃ私の立つ瀬がないじゃないの……」
ブツブツと文句を言いつつお酒をあおるリーピアをまぁまぁと宥めながら、僕はガルデに問い掛ける。
「で、えーと、何だっけ。あ、そうそう、僕が中級になったって話だっけ?」
ガルデはそうそう、と話を続けた。
「どういう経緯でそうなったかまでは訊かないけどさ、おめでとう。そっちはそっちで、楽しくやってるみたいだからさ、なんつーか、俺からのお詫びとお祝いだ。遠慮せず飲んでくれ」
と言うと、何やら給仕の女の子に注文する。
やがてやってくるお酒のボトル……ボトル?
「ボトルキープしといたやつだけどよ。祝いの席にちょうど良いかなって」
「あ、ありがとう……」
リーピアはまだ不満そうにしていたが、お酒の銘柄を見てギョッとした。
「こ、こ、これは……」
「結構良いやつなんだぜ」
僕はそこまでお酒に詳しくないので分からないが、目を剥いて早く飲みましょう、と急かすリーピアの態度とガルデの説明から、相当高価なお酒なんだな……と察する事はできた。
瓶から注がれるキラキラした黄金色に輝く美酒。そこから漂う豊潤な香りは、確かにとても美味しそうだ。
リーピアはじっくりと味わいつつ、軽く一口を飲み下す。
「……美味っっっっしい〜〜〜!! うあ〜〜〜、生きてるうちにコレを飲めるなんて! ガルデさん、ありがとうございます!」
「お、おう……喜んでくれて何よりだぜ」
掌を返したようにうっとりと喜ぶリーピアの現金さにガルデと僕は苦笑しつつ、リーピアに続いてそのお酒を飲む。
臓腑が焼け付くような強烈なアルコールの味と共に、不思議と滑らかで甘くてじんわりと身体中を癒してくれるような清涼感があった。
「あ……ホントだ、凄く美味しいね、これ。喉越しが爽やかで、でも濃厚っていうか……ちょっとばかりアルコール強いけど」
僕はあんまりアルコール分の強いお酒は得意じゃないんだけど、その僕でも美味しいと思えるのだから相当だ。
「はは、お前がそう言ってくれりゃ開封した甲斐もあったな。ま、色々あったけどお前の前途を祝して」
「……うん、ありがとうガルデ」
僕はかつての仲間の杯を受け、静かに乾杯をするのだった。
◆◆◆
「良い人だったねガルデさん。最初はちょっと失礼な人かと思ったけど」
「折り合いの悪かった前のギルドでは唯一の善良な人だよ……まあ、僕の経歴を軽く聞いてるだけだとそこまで伝わらないから、悪印象持ってもしょうがないけど」
すっかり良い気分で酔っているリーピアに、僕は苦笑しつつそう説明した。
「唯一ねえ。じゃあ、他の人は全然救いようがない感じだったの?」
リーピアは酔っているにも関わらず細かい事を聞き咎めてくる。
「そうだね、まあ向こうからすれば僕の方が救いようのない役立たずなんだけどさ」
僕は自嘲気味に言う。
「それにしても言い方とかあると思うんだけどね。二度と連絡してくんな、なんて言った奴、モンスターに喰われて死んじゃえば良いのに」
「不謹慎だよ、リーピア」
酔った勢いもあってか、大分乱暴な事を言うものだ。
「そんな連中、モンスターに襲われてても私だったらほっといちゃうかな。スレイドは助けちゃうの?」
僕は答える。
「もちろん。一時期は仲間だったわけだしね」
「お人好しだなあ」
リーピアは呆れたように笑う。
「ま、でもスレイドがそうしたいなら良いんじゃないかな」
そんな状況に出会う事自体、出来れば避けたいけどね、と付け加えつつリーピアはそれきり睡魔に襲われ、深い眠りについた。
「ちょっと! ここ僕の部屋だよ、自分の部屋に戻って!」
僕は眠りこけたリーピアを引きずり、彼女のベッドに寝かせるのに数十分格闘する羽目になったのだった。
(つづく)
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