29.砂糖苺
「はい、あ〜〜〜ん❤️」
「……あ、あーん」
「……何があった」
「……さっきの修羅場っぷりは、どこ行ったっスかね?」
「ふふふ」
とんでもない修羅場を見るのに耐え切れず、いち早くギルドハウスから退散していたガルデとフリッターが頃合いを見計らって帰ってきた頃。
僕は晴れて『恋人』になったリーピアから、砂糖を山盛りかけた苺を口から吐きそうなくらいの甘々ラブラブ攻撃を受けていた。
具体的に言うのも嫌になるが、僕が作ろうとしていた朝食は自分がお詫びに作る!とばかりにリーピアが作り直し、しかもその手作りの朝食を手ずから僕に食べさせるという、新婚さながらのバカップルっぷりである。
……正直、今まではぐらかしてからかうばっかりだったリーピアとの落差が激し過ぎて、気圧差で耳が痛くなるみたいな気分だった。
「ほらほら、ちゃんとゆっくり噛んで食べてね、スレイド」
「……うん……」
恋の鞘当ての『仕掛け人』として僕らの間を取り持ったブライアはニコニコとその光景を眺めており、フリッターは首を捻るばかり。ガルデはというと……
「……なるほどな。ブライア、お前、一芝居打ったのか」
と、男女の機微に聡い所を見せてきた。それを聞いてようやく、フリッターもポンと手を打った。
「あぁ、そゆことっスか。通りで急すぎるなあとは思ったんスよね。そんな素振り、あんま見せなかったブライアがあんな急に積極的になるなんて、おかしいと思ったっス」
ホントにフリッターもそう思ったのかはさておいて、まぁ、ちょっと不自然だったよね。
「うふふ、ホント私バカだったわよね。素直になれば良かっただけなのに。ああ、幸せ……」
満面の笑みで僕に朝食を運びながら、うっとりとリーピアはそう言う。
更に続けて、
「ブライア、あなたの事も誤解しててごめんなさい。この泥棒猫、ギルドクラッシャー、大人しい顔してド淫乱のクソ女とか思っちゃって、私ってば早とちり!」
きゃーっと恥ずかしそうに言うが、あの、リーピア、言葉を選ぼう?
誤解だって分かったんならその罵詈雑言は引っ込めて良いでしょうに。
「いえいえ、気にしないで下さい。私はただ、いつまでもいつまでもいつまでもくっつかないお二人にヤキモキして、お節介を焼いただけですし」
多少のイラつきを覚えているのだろう、こめかみをピクピクさせつつブライアはニコニコと笑みを浮かべてそんな嫌味とも謙遜ともつかない返答を返す。
「……や、やっぱちょっとギスギスしてる気がするっス」
「ま、まさか。ブライアは善意であんな心にもない芝居を打ったんだろう」
フリッターとガルデが、何とも言えない空気を醸し出すブライアから若干退いて、笑い合う。
しかしそこでブライアはもう一波乱起きそうな台詞を投下する。
「え? 私、あれが全部お芝居だって言いましたか?」
ピシッ。
皆の胸中に、空気が張り詰めたような音が聞こえる。
暫しの沈黙の後、口火を切ったのは、今まで満面の笑みで恋人モードを楽しんでいたリーピアであった。
「……ブライア?」
問い詰めるようなジト目と軽い殺意を漂わせるリーピアに、ブライアは追撃をかける。
「え、だって、私からしてもスレイドさんは優しくて気配り上手で魅力的ですし。私のあの告白に真剣な気持ちが全くこれっぽっちもなかったって、本気で思ってますか? それに、今から思えばスレイドさんのリーピアさんへの扱いが微妙に雑だったのもリーピアさんが半分は悪いせいっていうか、自業自得ですよね?」
びきびきびきっ。
リーピアの血管が切れる音が聞こえた気がした。
無自覚ではなく確信的に繰り出されるブライアの煽り文句は、的確にリーピアに精神的ダメージを負わせている。
「……ほ、ほほほ、冗談が上手いわね、ブライア? ついさっき、芝居だって言ってた癖に」
「いえ、だから、お芝居の側面もあるけどそれが全部じゃないって感じの事、今言ったじゃないですか。あ、もしかして伝わりませんでした? ごめんなさい、ハッキリ言った方が良かったですか?」
ぶちぶちぶちぃっ!!
いかん、幻聴とかじゃなくガチで血管切れてんじゃないの?回復!回復魔法の使い手が欲しい!!
「……それ以上は宣戦布告と見做すわよ」
怒りを滲ませてリーピアはブライアを睨み付ける。殺気がヤバい。
「ええどうぞ。そのくらいでなければ、横取りする方も張り合いありませんしね」
ニコリと笑ってブライアは言う。そして僕にだけ分かるようにこっそりと目配せするブライア。
……ああ、そういう事か……。
僕はブライアの意図に気付いて、椅子からガタリと立ち上がって、そのままリーピアとブライアの間に立つような形を取る。片手はリーピアの肩に置いて、分かりやすく恋人アピールをする。
「ブライア、そんな事言われても僕は揺るがないから。僕にとって一番大事なのはリーピア。だから、君に横取られてあげたりはしないよ」
僕はブライアの自らを犠牲にした2回目の芝居に乗っかって、しっかりと宣言した。
鈍いリーピアは気付かないだろうけど、これで彼女も安心するだろう。
「あらあら、お安くない事。ま、私の方が良いって思ったら、いつでも乗り換えて良いんですからね」
白々しくそんな『憎まれ役』を演じるブライアに僕は苦笑を隠すのがやっとだった。
しかしリーピアは、
「スレイド……」
と感極まったように僕を見つめて頬を染める。
ざ、罪悪感あるなあコレ。
「何だかわかんないっスけど、丸く収まったって事で良いんスかね?」
「……まぁ、な」
フリッターはさておき、ガルデはやや勘付いているらしく苦笑いをしていた。
そんな感じで僕らの波乱の朝は、人間関係に多少というにはちょっとばかり大き過ぎる変化を迎えつつも、どうにか平穏なものへと戻っていくのであった。
(つづく)
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