26.祝杯とお灸
「それじゃ、S級クエスト……上級魔族討伐を祝して……かんぱーい!」
「乾杯! いやークエストの後の一杯は最高よね!」
「乾杯~、そっスねぇ~!」
「乾杯」
「か、乾杯……ですっ」
それぞれが思い思いに盃を呷り、勝利の美酒に酔いしれる。
「まさかS級まで行くとは……」
「『居眠りドラゴン』、ホンモノかよ……」
「あたし入れてもらえば良かったかなぁ」
そこかしこから僕らのギルド『居眠りドラゴン』の噂をする声が聞こえ、今日は久しぶりにS級クエストをクリアしたギルドが現れたという事で、冒険者ギルド内の酒場は、それはもうお祭り騒ぎもかくやといった有様であった。
「ふっふっふ、これで私たち、名実ともにS級ギルドよね! 鼻が高いわ~」
「ちょ、調子に乗りすぎないでね? リーピア」
「……ま、今日ぐらいは良いんじゃないか。何せ、あの上級魔族を討伐できたんだ」
「ほんとほんと、今日は飲んで歌って踊ってパーッと騒ぎましょ、パーッと!」
「あ、あうう……わ、私なんかがこの場に居て良いのかって気がしますけど、えへへ……誇らしい、です」
リーピアがいつも通り増長し、ガルデは珍しくそんな彼女を窘めもせず、フリッターは毎度のことながら誰よりも軽いノリで楽しみ、新入りのブライアでさえもちょっぴり胸を張っている。
僕はそんな皆の様子を見て改めて、このギルドを結成して良かった、と思い……そして、この5人でS級クエストをクリアできた事に対する喜びを噛みしめるのだった。
◆◆◆
「ぷはーっ! 店員さん、もう一杯!」
「リーピア! もう10杯目だよ! 明日二日酔いで起き上がれなくなっても知らないからね!?」
「相変わらずザルだな、リーピアは……」
「ガルデとスレイドが呑まなさすぎるんス。ほら、もっともっと」
「や、やめましょうよそのノリ……フリッターさんってばぁ……あぅ、わ、私のグラスに注がないでくださいっ!」
どんちゃん騒ぎも深夜まで及び、いよいよ皆……っていうかリーピアとフリッターだけど、泥酔の域にまで達してきた。
「ほら、そろそろお会計と帰る準備しよう!」
僕は呂律の回らなくなってきたリーピアが11杯目を注文しようとするのを遮り、パンパンッと強引に閉めた。
「うぇ~しょうがないなぁ~、それじゃあギルドハウスで二次会しよ~~~」
「どれだけ呑むんだよ」
「あははは、アタシもまだ呑み足りないっスよぉ~!! ホラ残りがまだあるっスよ、呑めやブライア~アタシの盃が受けられんっスか~?」
「あわわわ……フリッターさん、本当にやめてってぇ~! 私お酒弱いのにぃ~~~!」
まだグダグダしているリーピアとフリッターに僕はお灸を据えることにした。
「久々に使うけど……ま、いいよね」
僕は指先を2人に向け、言い放つ。
「短時間催眠!」
僕はリーピアと組み始めて久しく使わなかった自前の『あまり役に立たない』、数秒間だけ意識を混濁させて記憶を改竄・消去する『短時間睡眠』の能力を発動させた。
あ、因みに名前は特についてなかったんだけど、『無敵催眠』のネーミングセンスがイマイチカッコよさに欠けると文句を言ったリーピアの案に僕が乗っかって、後付けで命名したものだ。
威力が弱いほうにカッコいい名前つけるってのも、なんか変だけどね。
パァッと軽い閃光が2人の視覚野を通じて、脳に刺激を与える。
「はれ……? わ、私なんで酒場に……」
「おりょりょ? ギルドハウスに帰るんじゃなかったっスか?」
「そうそう。さっさと帰ろう」
僕はそう言って能力の効果が切れる前に2人を強引に酒場から連れ出し、ギルドハウスに連行していく。
「す、スレイドさんってばあの能力、味方に向けて使うの全く躊躇しませんでしたね……」
「いや、まぁどうせ数秒しか保たんからな……とはいえ、やや乱暴ではあるが」
なんか僕の所業についてブライアとガルデが若干退いているみたいだけど、いや、このくらい2人には良い薬でしょ、と僕は思った。
◆◆◆
「あーっ! ズルい、スレイド、『短時間催眠』使ったのね!」
数秒後に気付き、リーピアが僕に抗議する。
なんか、良い感じに酔いも醒めてるみたいだ。
「ぶーぶー! ギルドマスターの横暴だー!!」
フリッターがギャーギャーと騒ぐ。
「あのね君たち……限度を考えようよ、限度をね」
別にお酒のお金が惜しいんじゃないが、2人の身体が心配なのだ。
「もう、何ならもう何発か撃とうか? 連続使用すると効果が薄まる弱点もあるから、使ってもあんまり意味ないけどさ」
そう、この話も敢えてしなかったが、効果が短いだけで使用回数が多いなら、連発すれば持続するのではという意見もあるだろう。
実はそれは無駄である。短時間のうちに何発放っても、この能力の効果はどんどん薄れるので、実質無駄撃ちになる。
「もう、しょうがないなぁ。じゃあ、ギルドハウスで晩酌に付き合ってくれたら許してあ・げ・る♪」
そんな風に微妙な色目を使うリーピアに僕は白眼視を向ける。
「日付変わりそうなタイミングで晩酌もないでしょ。大人しく寝なさい」
僕は子供をあやすようにリーピアの背中をさすりつつ、肩を組んで歩きだす。
「おおっ、大胆っスねぇ~! ヒューヒュー!!」
フリッターの煽りがクソうざい。ていうか古いよ。
「ははっ……ま、お前らはそうして仲良くしているのが一番だ」
「ですね、ふふ」
ガルデとブライアもそんな事を言いだすので、気恥ずかしくなってしまう。
「んあ~~~、スレイド、大丈夫だってぇ~~~……距離置いて~~~」
自分から色目を使っておいて肩を組まれて照れるのか……と僕は半ば呆れながらも、リーピアから少し距離を置いた。
リーピアは自立してフラフラと歩き出し、僕はその後ろをゆっくりと追いかける。
こうして、僕らのS級クエスト討伐の宴は、静かに幕を下ろしていくのだった。
(つづく)
おやすみヒプノシスをお読みいただきありがとうございます!
恐れ入りますが、以下をご一読いただければ幸いです。
皆様からのブックマーク、評価が連載を継続する力になります!
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると幸いです!
また、つまらなくても★ひとつ頂ければと思います。
感想・レビューなどを頂けると、展開もそちらを吟味した上でシフトしていくかもしれません。
何卒よろしくお願いいたします!




