25.上級魔族討伐
「あれが……上級魔族……」
「さ、流石にゾクッとするわね……」
「プレッシャーが中級魔族の比じゃないっスね」
「S級クエストの討伐指定にされるだけの事はあるな……勇者や聖女はあんな連中をいとも簡単に倒せるのだろうか……」
「ひ、ひぃい……私、怖いです……」
僕ら『居眠りドラゴン』は、満を持して最高難易度の討伐クエスト、S級に挑む事になった。
僕らが拠点にしている町、リクラスタの周辺には存在すらしていない、超危険指定モンスター。
それが、上級魔族と呼ばれる、魔族の中でも最上位に位置する奴らだった。
尤も、こんな連中でさえも魔王の手下としては雑魚の類らしいが……。
「『無敵催眠』があれば、魔王グレイファーを相手取れるかも!なんて粋がってたけど、私全然甘かったって思うわ。こうして遠巻きに上級魔族見てるだけで気分悪くなってきた」
いつもはノリノリ!って感じのリーピアがこの調子なのだ。
敵の強さがそれだけの脅威である事が、肌身で伝わるというものである。
慎重派の僕やガルデは、緊迫しつつ脂汗を拭う。
リーピア同様に楽観主義的なところのあるフリッターは、実はこういう危険には最も敏感である。
レンジャー特有の危機管理意識なのだろう、表情が真剣で、隠蔽能力の使用は中級魔族にすらほぼ通じなかったのだから使うだけ無駄、と冷静な判断を下して、敵に気付かれないギリギリの距離を測ってくれていた。
その距離、およそ80m。
つまり……
「『無敵催眠』の、圏外じゃないですか……」
絶望的な声音になって、ブライアが震えている。
そう。僕らの能力『無敵催眠』は、半径50mが限界。
しかし、フリッター曰くあの上級魔族は恐らく敵の気配を感知する何らかの結界を有しているとの事。
故に近づくのは得策ではないと斥候を買って出てくれ、その結界の効果範囲を敵の通った魔力の痕跡から推測し、割り出したのである。
「敵の結界範囲内に踏み込んだら最期っス。皆、絶対にこの距離は保つっスよ」
「そうは言っても、このままだとどうにもならんぞ」
緊迫する空気の中、慎重派のガルデでさえ膠着状態に物申す。
そう、このままではクエスト失敗になる。
とはいえ、命がかかっていると考えれば、それも止む形無しか。
「くっ……悔しいわ、スレイド。私、あなたと組んでこんな屈辱的な思いしたの、初めてかも」
「まだ通じないと決まった訳でもないよ。戦う前から諦めないで、リーピア」
しかし現状では打つ手がない。
レンジャーであるフリッターの『分析』を大袈裟だと断じて踏み込むのは、あまりに愚策。
何か考えを巡らせるべきだ。
「アタシが考えるに……結界に踏み込む前に、牽制か陽動が必要っスね。多方向から攻めるべきっス」
フリッターは自ら敵に近付かない方が良いと警告した手前、策を練る一番手を買って出た。
しかし。
「そ、そんなこと言っても、その役目を誰が……? まさか、自分から囮役になりたい人、この場に居ますか……?」
ブライアは恐怖のあまり、完全に怖気づいてしまっている。
後、やっぱり最後に一言余計だ。
「囮役というか、この場で一番可能性があるのは僕とリーピアだと思うけどね。上級魔族に『無敵催眠』が通じるかどうか、分からないのがリスキーだけど」
「通じなかったら最後だぞ。お前らだけじゃない、俺たちも全滅する。それは本当に最後の手段だと思え」
ガルデの警告に、僕の勇み足が制される。
確かにその通りだ。
「じゃ、じゃあ私の『視界封印』で敵の視界を封じましょう! そうすれば」
「『無敵催眠』が無効化されるわね……」
あぅっ、とブライアが根本的な事を忘れて涙目になる。
そう、敵の視界を封殺できれば確かにスキは出来るだろう。
しかしそうすることで敵に僕たちの『無敵催眠』に対する耐性を与えてしまう事になるのだ。
本来は敵に使う能力であるブライアの『視界封印』は、この場では役に立たない。あくまでそれは、『無敵催眠』の味方への影響を無効化するための手段なのだから。
「……しゃぁないっスね。ここは、アタシが囮役になるっス」
「何か策があるのか?」
ゴリゴリと頭を掻き、遂に動き出すフリッター。尋ねるガルデ。
「いんや、弓矢で意識を逸らして、なるべくこっちに引き付けるだけっス。こういうヘイト役はまぁレンジャー的に、そこそこやってたっスからね」
「じ、実質無策で敵の囮になるって事じゃないの?」
僕は苦言を呈するが、
「無策じゃないっス。……あんま使いたくなかったけど、アタシの『奥の手』があるんスよねぇ」
ニヤッと笑うとフリッターは『奥の手』を懐から取り出す。
それは、何やら鏃のように見えた。
「それは……何?」
リーピアが疑問に思い尋ねる。
「ふっふっふ、解説は後でしてあげるっス」
「おい、遊びじゃないんだぞ。今すぐ解説しろ」
ガルデがドスの利いた声で言う。
そしてフリッターがやれやれしょうがない、という風に解説をしようとした時だった。
「んもー、しゃあないっスねぇ…………っ!! 皆、逃げるっス!! 気付かれた!!!」
フリッターのその声を機に、僕らは危機意識をMAXに上げる。
『万一、80m範囲外でも気付かれた場合』の事前の打ち合わせ通り、俊足のフリッターは敵に露骨に見える遠距離の高台に行き、陽動。
僕とリーピアは、敵の背後に周って『無敵催眠』の準備。
そしてガルデはフリッターの前衛に立って、可能な限り敵の攻撃を受け止め受け流す。
更に、ブライアはガルデ・フリッターが万一にも僕らの『無敵催眠』に巻き込まれないよう、すぐさま『視界封印』と『心眼開花』を同時発動させる。
これらの事を一瞬で判断して動けた僕らは、それなりに熟練の冒険者といって良いだろう。
だが敵もさるもの、僕らのその動きを察知していたかのように、最も危険性の高い僕らを狙いにかかる。
「グォオオオオッ!!」
恐ろしい咆哮が空気と大地を伝って、僕らにプレッシャーを与えてくる。
「リーピア! 距離を置くんだ!」
「分かって……るっ!」
リーピアは敵の攻撃を食らっても多少は耐えられるように、僕と自身に身体強化をかけながら、僕と離れないように一緒に上級魔族から距離を置く。
「そら! そっちに気を逸らすと、ダメダメっスよ!!」
しかし、その隙を逃がすフリッターではなかった。ガルデも背後から大剣で攻めようとする。
……フリッターは『奥の手』と言っていた鏃を散開の際に矢に手早く括り付けていた。
恐らく、アレは何か特殊な矢だ。
「そうら!! 奥義、『影縫の矢』っス!!」
ビシュッ、ビシュッ、ビシュッ、ビシュッ!!
立て続けに4本射出された黒い矢は、上級魔族の『影』に突き刺さる。
あたかも外したかのようなその攻撃は……なんと、上級魔族の動きを、縫い付けた。
「!! なるほどな!! やるな、フリッター!!」
そう言うと大剣を構えて勢いそのまま、魔族の腕に斬りかかるガルデ。
「喰らえ魔族!! 『乾坤一擲!!』」
ズバァッッッ!!
凄まじい威力を誇るガルデの大剣による振り下ろしの一撃は、さしもの上級魔族も動きを縫い付けられた無防備状態では到底受けられない。
恐らく魔力で硬化されているであろう皮膚も、一刀両断にされる。
「グォオオオオオオオオンン!!!」
背後から左腕を斬り落とされ、怒りの形相に燃え上がる上級魔族。そしてそのまま、たった今腕を斬り落としたガルデに向き合う形で、グルリ!と踵を返す。
「まずいっス! もう動けるんスか!? 3ヶ月かけて丁寧に練り込んだ魔力なのにぃ!!」
だが、一足遅い。
「「無敵…催眠!!」」
僕とリーピアは、敵の動きが止まったほんの数瞬。
そこを狙い、背後から必殺の『無敵催眠』を発動させた。
効いてくれ!
祈るような僕とリーピアの能力は……
「グ……ォ……グゥ…………グゥ………」
「や……」
「やったぁあ!!」
そう、絶大な魔力を誇る上級魔族相手にも、しっかりと通用したのだった。
◆◆◆
「終わってみればあっさりだったっスね~」
「わ、私、役に立ってましたか……?」
「スレイドから俺までの距離が50m範囲内だったからな、勿論役に立っていたさ」
「ヒヤヒヤしたよ……ホント、効いて良かった」
「フリッターとガルデが隙を作ってくれたお陰ね……助かったわ、死の危険を身近に感じたの、初めてかも知れない」
僕らは眠らせた上級魔族の首をしっかりと斬り落とし、魔力反応が完全に停止したことを確認して、その場にへたり込んでいた。
「いやぁ、『影縫の矢』があんな一瞬しか通じないなんて流石に予想外っス。奥の手だったんスけどねぇ」
フリッターのあの奥義は、敵の影に命中すると『金縛りの魔法』が発動するものらしく、3ヶ月もかけて鏃に練り込んだ魔力を全て費やしていたとか。
「なので、次に使えるのは3ヶ月後っス。あんま乱用させないでくださいね」
「大丈夫、上級魔族にも『無敵催眠』が通じるって分かった以上、フリッターの負担は減ると思うよ。……まぁ、S級クエスト自体、そんなに頻繁に受けたくないけどね……」
僕は正直な心情を吐露する。
「わ、私も怖すぎました。寿命、何年か縮まったと思います……あ、足、動かないですし……」
「お疲れ様、ブライア。あなたのお陰で安心して『無敵催眠』を使えたんだから、誇って良いわ。しゃんとして!」
ブライアが未だにぶるぶる震えているのを、リーピアがポンポン、と優しく背中を撫でる。
「はは、一番間近で上級魔族を見た俺も、ブライアを笑えないぜ。身体がホラ、見てみろよ」
ガルデも震えが止まらないといった様子で、珍しい彼の姿を見て僕は思わず綻ぶ。
「あはは、本当にみんな、お疲れ様! 大変だったけど、これで晴れて、S級クエスト完了だ!」
僕がそう言って〆ようとすると、リーピアが片目を瞑って茶目っ気たっぷりに言う。
「家に帰るまでがクエストですっ! 油断しないでね!」
違いない。
僕らは5人揃って、大いに笑うのだった。
(つづく)
おやすみヒプノシスをお読みいただきありがとうございます!
恐れ入りますが、以下をご一読いただければ幸いです。
皆様からのブックマーク、評価が連載を継続する力になります!
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると幸いです!
また、つまらなくても★ひとつ頂ければと思います。
感想・レビューなどを頂けると、展開もそちらを吟味した上でシフトしていくかもしれません。
何卒よろしくお願いいたします!
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バトル回です。いつもよりかなり長いですが、気合入れてみました。
今回はちょっとだけ語りを入れます。僕自身の作品の間におけるキャラの強さのバランスの話です。
上級魔族の強さの設定に関してですが、僕の他の完結済み連載作品『まちがいだらけのプリンセス』においてはヒロインである聖女・リエルが一蹴する程度の雑魚でした。
同じく主人公であった勇者トルスが戦っても同じようなものだったでしょう。
でもそれは、彼らが『ガチのRPG的世界観』における『世界を救う』キャラだからゆえの余裕の描写です。
(それに、物語序盤では下級魔族に苦戦したトルスも、聖剣を得て飛躍的にレベルアップしたから、とか細かい事情があります)
『まちがいだらけのプリンセス』は、『追放ざまぁ』テンプレに沿ったこの作品と違って『王道RPGファンタジー』のノリで書いてはいたものの、バトル描写は割と控えめにしてました。
勇者トルスと聖女リエルの恋物語の側面が強かったのもあるからです。
なので、雑魚との戦闘なんて書いてもね、っていう。
その反動みたいな部分もあって、今回はかなり丁寧にバトルを書いてみました。
それに、いくらチートスキルを有するとはいえこの作品に出てくる主人公スレイド達は、救国の英雄でもなければ、超一流の冒険者でもありません。
故に、チートスキルを得たからと言って、それに頼ってスパッと上級魔族を倒すのは、なんか『勇者と聖女』の格が下がる気がしたのです。
それじゃスレイド達も魔王倒せるじゃん?みたいな。
あくまでも僕の作品内の横の繋がりを意識したパワーバランスの話という割とどうでもいい駄文ですが、もし両作品を並べて読んでくださる方がいらしたら、その辺りに注目して頂けると幸いです。




