24.S級クエストへの挑戦
「改めてよろしくね、ブライア。その……昨日は取り乱して、ごめんなさい」
「いえ、そんな……私の方こそ、配慮の足りない発言で、ごめんなさい。リーピアさん」
リーピアとブライアは和解した。
正確に言えば、一方的に絡んだリーピアが謝罪した感じだが、まぁ、ブライアも発言が迂闊だったのは確かだ。ブライアの性格は控えめで大人しいので、そこで謝罪はしたくありませんなどと言う拗れ方はしなかった。
ただまぁ、ブライアはそういう『無自覚煽り』みたいな事をしてしまう傾向はこれまでもあったらしく、私、よく『ギルドクラッシャー』だって言われました……と反省していた。
ともあれ。
女子2人の仲直りを経て、僕たち『居眠りドラゴン』には新たな仲間・ブライアを加えて5人となった。
「良かった良かった。一時はどうなる事かと」
「全くだ。しかし、これで俺とフリッターも遠慮なくお前らの能力に割り込んで戦闘可能になったわけだ。心強いな」
「ちゃんとブライアが健在で、30分毎に『視界封印』と『心眼開花』を継続できるって条件つきっスけどね?」
「そこは大丈夫です。この固有能力、便利ですけど持続時間が短いので、割とたくさん使えるんですよ」
「その辺りも私たち『無敵催眠』の個々の能力と少し、似たような感じね……単体じゃあまり役に立たないあたり。まぁあなたの能力は単体でも使える感じはするけど」
僕らは口々に戦術の幅が広がった喜びを語り合う。
そして、今後の展望についても。
「本格的に『無敵催眠』の有効化も可能となった事だし、そろそろ……行ってみる?」
僕は、リーピアに目配せする。
リーピアはハッと気付き、言った。
「S級クエスト!?」
そう。
今まで僕らはA級よりも上のS級クエストには一切手出ししなかった。
理由としては3点。
(1)そもそも、A級冒険者が何の実績もなくS級を軽々とクリアすると、不審がられてしまう恐れがある
(2)S級は達成難易度が高い上にリスクも大きく、それ故に僕らの『無敵催眠』でさえ、無条件に無効化するモンスターなどがいないとは限らない
(3)仮にモンスター討伐系ではなく別の種類の案件だと、逆に今度は『無敵催眠』そのものが役に立たず、クエストに失敗し、更に命を落とす危険性もある
今までこの(1)の理由、つまり『悪目立ちする』という部分ばかりを強調してきたが、実際の所S級ともなれば、僕らが検証しきれなかったレベルの凶悪なモンスターが居て、原則的に『視覚さえちゃんと保持していれば100%通じる』という特性を根本からひっくり返される恐れがある。
そういうリスクは、『手負いの一つ目モンスター』の時に重々承知の上である。
あれはB級上位だったけど、S級であんなタイプの厄介なモンスターに遭遇したら、恐らく『無敵催眠』が無効だと気付いた瞬間に僕たちの命が消える恐れがある。
そういうハイリスクな部分を考慮に入れ、僕たちは(主に僕とガルデだけど)S級クエストは考えうる万全の態勢にならない限り挑むのは止めよう、と言い含めていたのだ。
「欲を言えば、シースさんみたいな回復役も欲しかったけどね……」
僕はまだやや不安が残るのでそんな風に漏らす。
「そうね、確かに」
僕とリーピアが催眠+バフの特殊能力以外では基本、僕が力押しでリーピアが通常バフ。
ガルデが大剣による絶大な攻撃力と殲滅力、フリッターが素早さと手数で押すアタッカータイプ。
ブライアの主要な魔法はステータス異常系、つまりデバフである。
全体バランスは確かに良いのだが、残念な事にこの期に及んでもまだ僕たちのギルド『居眠りドラゴン』には回復役がいない。
「なら、無理にS級を狙うよりそっちを優先しても良いがな」
僕以上に慎重派なガルデはそう言うが、フリッターやリーピアは
「え~、慎重すぎっスよ。折角だし挑んでみましょ」
「そうよ、私はずーっと楽しみにしてたんだから!」
と息巻く。
さて、新入りのブライアはどうかな?
「どう思う、ブライア?」
僕は新人ゆえに口出しは避けようというスタンスに見えたブライアに水を向けてみた。
ブライアはおずおずと言う。
「は、はい。私もどちらかというとガルデさんに賛成ですね。やはり、B級上がりでようやくA級になりつつある程度の私では、S級は一足飛びすぎるかと思いますし……皆さんは、A級で経験を積まれているので自信があるのだと思いますけど」
そんな感じで見た目通りの消極性を見せる。あと、最後の台詞がやっぱり余計な気がする。
彼女の『無自覚煽り』の性格は無自覚だけに、徐々に治していかないとまーたこないだみたいにリーピアがカチンときて拗れそうだよね……。
僕はS級クエストをこなすよりも問題の多そうな女性陣の関係性に目配せをしつつ、意見をまとめた。
「そうだねえ。僕自身はどっちでも良いんだけど、今のところは賛成2の反対2で保留かな?」
「ええっ、言い出したのスレイドじゃない! 賛成派だと思ったわよ!?」
僕に梯子を外されたと言わんばかりに反論するリーピア。
ゴメンね、と僕は謝るジェスチャーをする。
「そっスね。言い出しっぺが『中立』ってのはおかしくないっスか? ここは賛成3の反対2で、強行しても良いと思うっスよ。何だかんだ、ラクショーかもですよ? やってみなきゃ分かんないじゃないっスか」
賛成派のフリッターも同じく、このまま行こうぜ!というノリで語る。
反対派のガルデは難しい顔をするが、まぁ、スレイドが決める事だ、と無言のうちに僕の顔を見る。
ブライアは、僕とリーピアの顔色を交互に伺っている。
僕は結論付けた。
「よし。じゃあ、試しにS級の中でも難易度が低そうで、かつ確実に『無敵催眠』が通じるであろう相手を狙おう。それならOKでしょ?」
折衷案的な感じで、僕は提案してみる。
議会は、満場一致で『OK』となったのである。
(つづく)
おやすみヒプノシスをお読みいただきありがとうございます!
恐れ入りますが、以下をご一読いただければ幸いです。
皆様からのブックマーク、評価が連載を継続する力になります!
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると幸いです!
また、つまらなくても★ひとつ頂ければと思います。
感想・レビューなどを頂けると、展開もそちらを吟味した上でシフトしていくかもしれません。
何卒よろしくお願いいたします!




