21.暗闇と心眼
「『暗闇』を扱う能力?」
「はっ、はい。私、幻惑系の固有能力で、暗闇で視界を完全に封じる事が可能なんです」
目の前にいる気弱そうな女の子は僕にそう言った。
彼女は僕たちがとあるA級クエストをこなしている際に出会った、冒険者である。
「視界を完全に……か」
僕は期待しつつ尋ねる。
「ねぇ、その能力って、暗闇にするだけなの? 戻したりも可能?」
すると彼女は言う。
「え、えっと。戻すというよりは、重ねがけみたいな感じで視界をクリアにできます。正確には視神経は封じた状態になるんですけど、周りの動きを把握できるようにする、いわゆる『心眼』みたいな能力で……あ、これも私の固有能力なんですけど……地味ですみません」
ションボリと彼女は言うが、僕は天啓を得た気がした。
彼女こそ、僕らの『無敵催眠』の弱点をフォローできる人材だと。
僕はリーピアに目を向けて言う。
「ねぇ、リーピア。彼女……」
「……そうね」
リーピアは不満そうにしつつも、彼女の能力は僕と同じく、ドンピシャだと感じたらしい。
「ね、ブライア。君、僕たちのギルドに入らない? 歓迎するよ」
「えっ……わ、私なんかがあの高名な『居眠りドラゴン』の皆さんの仲間に……!?」
彼女……ブライアは、畏れ多いです!とばかりに恐縮する。
しかし僕はギュッと彼女の手を握り、強く勧誘する。
「お願いだよブライア。君の人柄と能力、僕達には凄く必要なんだ」
「えっ、えっ、えっ……」
真っ赤になってアワアワとテンパってしまうブライア。
彼女の目深にかかる黒い前髪の奥からも、困惑の色が見て取れる。
控え目で気弱で、いかにも庇護欲をそそられるブライアは、今の僕からすればパーティの守り神になりうると思える存在だった。
尤も、僕らの能力を完全に説明していない今の彼女には、勧誘される理由を見出せないのだろうけれど……。
そもそも僕は何故、彼女と出会ったのか。
今回はそこから語るべきだったろう。
発端は、あるクエストだった。
◆◆◆
「視界を封じる系統の能力を持つ冒険者が行きそうなクエストを探す?」
僕はリーピアの提案を鸚鵡返しに尋ねた。
「そう。『無敵催眠』の弱点、敵味方無関係に巻き込む特性の解消の第一歩はそれかなって」
なるほど、と納得する。
確かに、視神経を喪失させなくとも、それと同等のステータス異常を一時的に付与する能力を持つ冒険者が仲間になってくれれば、敢えて味方にそれをかけて、仲間への誤爆を封じる事が可能だ。
でも問題がある。
「それだと、味方の目が見えなくなるけど、どうすれば?」
リーピアは答える。
「解除可能な能力ならよし、別の能力で補えるのでもいいわ。ともあれ、視界を封じるだけでも、一度眠らせて解除して起こす、よりは肉体的負担も段違いだろうし、何より味方に変なダメージ負わせる心配がなくなるわよね」
「確かに……」
そう、『無敵催眠』の味方巻き込み問題は、僕らの能力で間違えて味方を眠らせてもリーピアの制限解除で起こせば良いだけ、という単純な問題でもなかったりするのだ。
何せ、能力が能力だから基本的には混戦中に使う用途が主になる。
50m範囲ギリギリのステルス作戦ならまだしも、咄嗟にそんな混戦状況で味方を眠らせでもしたら、その瞬間どんな怪我を負うか分かったものではない。
それに、眠らせて起こせばいいというのも安直で、この能力で眠らされた人間の肉体的負担は実のところかなり大きい。
制限解除で起こした後のガルデやフリッターの疲労は、正直に言うと結構辛かったらしい。
脳を強制的に瞬間催眠で昏倒させるのだから、まぁそこそこ乱暴である。
そう考えるとやはり、巻き込まないための補助能力は欲しい所だった。
「じゃあ、暗闇にする能力の持ち主と、それを補う能力。この二つがあればバッチリな訳だね」
僕が理解してまとめると、リーピアはそうね、と言った。
「視界を封じる系統の能力を要するクエストとなると、やはり腕力が強いがそれだけ、といったタイプが多くなるだろうな。オークやトロール、巨人族のようなタイプか」
「じゃあその辺見繕ってみるっスかね。アイツらはアタシみたいな素早さで翻弄するタイプとはあんま相性良くないんスよねえ、単純にタフだから」
ガルデとフリッターも僕達の意見を参考に、それらしきクエストを探す。
「コレなんかどうだ? 一つ目巨人の討伐、A級中位だな。危険はそこそこだが、普通に戦っても何とかなるだろう」
「良さそうね」
「弱点の目ぇ潰しちゃえばラクショーっスね。それやると『無敵催眠』は無効化されちゃうっスけど」
「決まりだね」
ガルデの提案に僕らは頷き、該当クエストで出会える可能性のある冒険者に目星をつけていくことにした。
偶然に頼っていては見つからない。
そう判断した僕らは、該当能力を持つ冒険者が僕たちと同じクエストを受けるように斡旋してくれないか、と冒険者ギルドに要請してみた。
「良いですよ〜。ゲストという形で『居眠りドラゴン』と共闘できるという話を、そういう能力を持つ冒険者につければ良いんですね」
冒険者ギルドのお姉さんは快く了承してくれた。
日頃、高難易度クエストを受ける僕らへの恩恵というやつだ。信頼もだいぶ強くなってきたね。
「よし、じゃあ後はその能力を持つ冒険者と一緒に討伐するのを待つだけだね」
僕は言うがリーピアは、
「ダメよ、ちゃんと人柄も見ないと。能力だけなら多分、幾らでもいるからね」
と釘を刺してくる。
「そうっスね。今んトコ、互いが信頼できてるからこそ『無敵催眠』の秘密も厳守できてる訳だし」
「ああ、能力も大事だが、何よりそこだな」
フリッターとガルデも同意する。
僕も最近、信頼できる人にだけ囲まれていて危機意識が薄れつつあったが、十分に気をつけよう、と思い直したのだった。
(つづく)
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