20.祝賀パーティー
「……はい、クエスト完了ですね。お疲れ様でした! 大変だったでしょう、このクエスト」
冒険者ギルドのお姉さんに言われ、確かに、と僕らは顔を見合わせる。
「いやあ、魔族の数が多すぎてもう、死ぬかと思いましたよね」
フリッターがそういうと、
「そうね、おや……支援魔法がなければ、絶対途中で死んでた」
と、うっかり『無敵催眠』と言いそうになるリーピアが口をつぐみ、
「まぁ、全員の実力をキチンと連携させた結果だな」
ガルデが上手く誤魔化してくれ、
「ホント、大変でした! でも、皆がいるから乗り越えられたんです」
と、僕が結んだ。
「ともあれ、今日はゆっくりしていって下さいね。報酬とは別に、お祝いに酒場でパーティでもどうですか?」
受付のお姉さんは受注クエストを快く引き受け、更に大成功させた僕ら『居眠りドラゴン』のギルメン全員に奢ります、と言ってくれた。
「わぁ! 良いわね、最近お祝いとかあんまりしてなかったし!」
と、お酒好きのリーピアは真っ先に乗る。
「そうだな。たまにはバカ騒ぎも良いだろう」
ガルデは静かにうなずき、
「おおっ、お祝いっスか! いやぁ、お祝いはいいっスよねぇ!!」
お祭り・お祝い好きらしいフリッターも同意したので、
「うん、それじゃお言葉に甘えて。お願いします、お姉さん」
そんな訳で、ギルド『居眠りドラゴン』をメインとしたクエストお祝いパーティが開始されるのだった。
◆◆◆
「ぷはーっ! 美味しいっ!! あぁ、この一杯のためにお仕事してるって感じよね~♪」
「り、リーピア。ホント、呑み過ぎないでね……」
「がっふがっふ! うんまーっ、このご飯めっちゃ美味しいっス! ほら、ガルデもちゃんと食べてまスか!?」
「食べてるよ。そんながっつくな、フリッター」
ワイワイと楽しく僕らは食事をする。
お酒が進み皿も積み上げられ、やがて誰ともなく言い出す。
「次の活動方針はどうしようか?」
僕たち『居眠りドラゴン』の活動目的は、実のところ明確ではなかった。
これまでの活動経緯を振り返ると……
①ギルドを追放された僕とリーピアが出逢い、『無敵催眠』を入手
②僕とリーピアの2人で作られたパーティが、『無敵催眠』で調子に乗ってB級~A級クエストをこなしすぎて、悪目立ちする
③成り行き任せにA級冒険者までのし上がってしまい、身動きがとりづらくなったところでかつてのギルメン3人に監禁され、それをガルデが助けてくれ、ガルデが仲間に
④『無敵催眠』の乱用を控え、普通の修業をしてレベルアップ、かつて実力では倒せなかった敵にリベンジを果たし、晴れて名実ともにA級冒険者に
⑤レベルアップの確認のため、『岩飛び兎』を捕まえに行くクエストの途中で偶然レンジャーであるフリッターと出会い、色々あって仲間に
⑥4人になったパーティに舞い込んできた今回の受注クエスト『勇者・聖女の手助けのため、同中にいる魔族を出来るだけ討伐する』をクリア
……って感じだ。
「なんか、結構行き当たりばったりだったんスね?」
追加メンバーのフリッターはそう言う。まさにその通り。
「大きな目的とかは、特になかったんだ。元々僕もリーピアも、ギルドやパーティに所属したり抜けたりを繰り返しつつ、単に日銭を稼いで生きているタイプの冒険者だったからね」
「そうねえ。別に高尚な目的があって冒険者やってるわけじゃないし。楽しいから?かな、強いて言えば」
「ガルデはどうなんスか?」
そこでフリッターはガルデに水を向けた。
そういえば、ガルデの活動方針は僕もよく知らない。
「うん? ギルドマスターのスレイドじゃなく、俺に訊くのか?」
「スレイドさんは今言ったじゃないスか。別に大きな指針ってないって」
ガルデは意外そうな顔をするが、やや思案してから答える。
「……そうだな、俺も崇高な目的などないが、一つだけ考えていることはあるな」
やはりこういう時、にわか仕立てのギルドマスターである僕よりもガルデのほうがしっかりした考えを持っているようだ。僕は気になって尋ねてみた。
「それって、何?」
するとガルデは答える。
「お前らの『無敵催眠』だが……今回の戦いで、弱点も明らかになったとは思っている」
「それは」
「そうねぇ」
僕とリーピアはお互いに顔を見合わせ、苦笑した。
そうなのだ。
無敵に思えた『無敵催眠』だが、実のところスキルの回数制限が、7日間ぶっ通しで魔族相手に乱用していたら、徐々に天井に到達しそうになった。
僕もリーピアも、あと少し魔族の蔓延る『ドラゴンの道』が長ければ、道半ばで倒れていたかもしれない。
「まぁ、7日間も継続して戦うクエストなどそうそうないが……その点については、留意すべきだろう。だが、何よりやはりつらいのは、俺たち信頼できる仲間ですら巻き込んでしまう点だな……」
「でもそれはしょうがないんじゃないっスか? そういう能力特性なんでしょ?」
遠距離からの攻撃が主体なフリッターは気にしていない様子だが、どうしても近距離攻撃を主体とするガルデは、自分が常に僕たちの側にいられないのを歯がゆく思っているらしい。
「確かにそうなんだがな。俺は、出来ればその『無敵催眠』に耐性をつける方法を見つけたいんだ」
「耐性、ねぇ」
「うーん、どうしたら良いんだろうね? 効果範囲に入った瞬間、絶対に視覚に働きかけちゃうからなぁ」
『無敵催眠』が通じない相手は2種類。
(1)完全に視覚が初めから存在しない
(2)視神経が断絶しているなどの理由で『目が見えない』
いくら戦場で側にいられないからといって、ガルデにこの(2)を選択させるなどもっての他だ。
「じゃあ、またこの『無敵催眠』の検証でもしてみる? 何らかの方法で、耐性得られないか……」
「ああ、出来ればそれを突き詰めたい。耐性を得る手段は、弱点にもなる。それを信頼ならない誰かに看破されたら、『無敵催眠』が無敵でなくなるという脆さを露呈する事にもなる」
ガルデは割と真剣にそう言っているようだ。
僕ら以外の誰かが、そこまで細かく僕らの能力を検証するとも思えないが……
取り敢えず僕は能力のパートナーたるリーピアに話を振ってみる。
「リーピア、何か心当たりはあるかな? 耐性を得る方法」
「うーん……」
リーピアは考え込むが、特に案は浮かばない、といった感じだ。
「まぁ、別にすぐに見つけなきゃいけないわけじゃないさ。これからどうするか、を考えたときに俺はそこを考えたいなと思っただけでな」
ガルデは僕たちを困らせるのも不本意だとばかりに、前言を撤回するようなことを言った。
「ま、気長にいきましょ」
フリッターはそう言ってグイッとお酒をあおる。
「……そうだね。焦っても、しょうがない」
「そうねえ。そういえば回復役の件も、シースさんと別れてお流れになっちゃったし」
僕とリーピアは頷き合い、宴会を再開しながら、次の目標について考えを巡らせるのだった。
(つづく)
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