15.新たな仲間
「むー……なんか微妙に納得いかないっスけど、負けは負けっス。仲間になりますよ」
「ありがとう、フリッターさん」
「いやぁ、レンジャーが仲間になってくれるなんて心強いわね」
僕らは『無敵催眠』でフリッターさんを眠らせ、勝利した。
勿論、能力についてはまだ秘密だ。
「いやはや、あんなにハデに岩山にぶつかるとは思わなかったぜ。ま、何羽か『岩飛び兎』がいて、大怪我になるような事態にはならなかって良かった」
ガルデがやや説明口調で言う。
「なんか変っスねぇ。そんなしくじり、アタシがやらかすなんて」
不審だ、という顔をしているフリッターさん。僕らは誤魔化す。
「そ、そういう時もありますよ」
「そうそう、調子が悪い日的な?」
「……絶好調だったっスけどねぇ……」
じとー、と僕らを睨み付けるフリッターさん。
「まぁ、細かい話は良いじゃないか。それより、そこにいる『岩飛び兎』だけじゃクエストには足りないんだ、いくらか体毛を分けてくれないか」
と、交渉を続けるガルデ。
「ま、それは良いっスよ。ご自由に必要分を取ってって下さいな」
その件に関しては些事であるとでも言いたげに、手をひらひらと振るフリッターさん。
むしろやはり、自分が謎の負け方をした事に納得がいっていない、という風である。
「うーん……このアタシが受け身も取らずに岩山に激突なんて、なんだかなぁ」
うんうんと唸り、気絶した割には頭にダメージを受けていない事にも疑問を覚えているらしい。
まぁ、不自然ではあるか……。
僕らは改めて、迂闊に『無敵催眠』の件を口にした事を悔いていた。
「ね、ねぇリーピア……やっぱり正直に言う?」
「ダメダメ。まだ信用できるか分からないでしょ」
僕らはフリッターさんに聴こえないよう距離を置き、超小声で相談する。
ガルデは何やら適当な雑談で間を持たせて、僕らの相談をカムフラージュしてくれている。
「……怪しいっス」
だが、フリッターさんの不信の目はますます僕らを鋭く射貫く。
「そもそも、あの時の下手な陽動からして変だったんスよねぇ……あんな派手な動き、さもアタシに『あっちに走り抜けて下さい』と言わんばかりで……面白そうだから乗ってあげましたけど」
バレバレだったらしい。まぁ、それはある程度予測済みであったが。
「んー……それに、気絶した割に頭にコブの一つも出来てないんスよね、アタシ。体に外傷もないし」
すかさずリーピアがまくし立てる。
「あっ、その、私ってば実はちょっと回復魔法が」
しかしフリッターさんは言う。
「回復魔法が使えないのは見え見えっスから、嘘つかないで下さい」
だらだらと汗を流すリーピア。何故バレたのか、という顔だ。
「見た感じ支援系魔法と肉弾戦が主体っスね? 回復魔法の使い手って、自然と自分の傷を自分でも癒すから、そんな露骨に身体中に浅い傷、残る訳ないっス」
観察力の鋭いフリッターさんに、割と生傷の絶えないリーピアは看破されていた。
そうなんだよね……リーピアって、活動的な格好、つまり剥き出しの肌に結構あちこち傷を作っちゃうから、よーく見ると分かるんだよね……。
「あ、う、えーと」
「しょうがない、そろそろちゃんと種明かししよう」
僕は観念して言う。
リーピアもガルデも仕方ないか、といった風に同意した。
「もしかして……さっき言ってた『おやすみヒプノシス』ってのと関係あるんスかね? 名前からして、催眠系?」
と、こちらが説明するまでもなく、ほぼ察しがついているらしき鋭いフリッターさんに、僕は説明を始めるのだった。
◆◆◆
「はえー……な、なんスかその反則能力」
僕からの説明を受けて、フリッターさんはズルい!と言わんばかりの尖らせた口で、呆れるやら感心するやらといった複雑な表情を見せていた。
「それでアタシが急に昏倒したわけっスね。岩飛び兎をクッションに使うための陽動だったとは思いもよりませんでしたよ」
自分の身体を気遣った事にも驚いている様子だった。
「ごめんね、騙すみたいな形で。この能力の事って、あんまり他人に吹聴したくないんだ」
僕は謝り、フリッターさんは納得する。
「まぁ、そりゃやっかまれそうな能力っスもんね。どう考えても、他人に軽々しく明かすモンじゃないっスね」
よく自分に話したもんですよね、とも言った。
「私はまぁ、正直あんまり明かしたくなかったけど、スレイドとガルデがあなたの人柄を見て良いと判断したんでしょうし」
「そんなところかな。俺もスレイドが言うならと思ってアンタを信用した」
「えらく信用されたもんっスね。裏切れないじゃないっスか」
苦笑してフリッターさんは言う。そして僕は続けて言った。
「それで……もし、フリッターさんさえ良ければなんだけど、ウチのギルド『居眠りドラゴン』に入ってくれないかな? 丁度、ウチにレンジャーが欲しかった所なんだ」
「おやおや、勧誘でアタシを引き込んで、情報もしっかり外には漏らすまいというハラっスか。可愛い顔して中々の交渉力じゃないっスか、スレイドさん?」
ニヤッと意地悪な顔をしてフリッターさんは言った。僕は困惑して苦笑する。
「スレイドにそんな高度な駆け引きできないわよ。ガルデのほうがまだ、タヌキってくらい」
「まだ、ってのが引っ掛かるな。まぁ俺も腹芸はそこまで得意じゃないが……」
むしろリーピアが一番そういう交渉事には長けているはずだが、彼女はそもそもあんまり積極的に勧誘に回ろうとしないんだよね。どういう訳か。
「ま、いいっスよ。アンタ達といると、楽しい体験が出来そうな気がするっスからね。『無敵催眠』の反則っぷりでラクできそう、という打算もなくもないっスけど、それ以上に」
あけすけでバカ正直にフリッターさんはそんな事を言ったあと、
「何より、アンタたちの仲間の絆って観てて気持ち良いっスから!」
と、僕らが思わず照れてしまうような屈託のない笑みと共に、よろしくっス!と握手を求めてくるのだった。
(つづく)
おやすみヒプノシスをお読みいただきありがとうございます!
恐れ入りますが、以下をご一読いただければ幸いです。
皆様からのブックマーク、評価が連載を継続する力になります!
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると幸いです!
また、つまらなくても★ひとつ頂ければと思います。
感想・レビューなどを頂けると、展開もそちらを吟味した上でシフトしていくかもしれません。
何卒よろしくお願いいたします!




