13.気ままなレンジャー
「こ……これ、難易度高すぎるね……」
「動き素早すぎー!!」
「確かに、ちょっと難易度が高すぎたな……」
僕とリーピアとガルデは『岩飛び兎』のいる岩山に来て、はや2時間。揃って頭を抱えていた。
冒険者ギルドのお姉さんからは『本当に大丈夫ですか? レンジャーがいないのに』と言われたが、その意味を痛感している所である。
「探索系クエストって同ランクのクエスト内でも低く見られがちだけど、甘かったね」
「いやもうマジ、今までで一番難しくない? 1匹も捕まえられないなんて」
「俺も正直ナメてたな。確かに専門外だが、もっと簡単に捕まえられると」
これは封印していた『無敵催眠』を使わざるを得ないか……と僕たちが思った時だった。
「おんや? 先客っスかね?」
僕らの目の前に、ひょうきんな雰囲気の狩人……いや、これが『レンジャー』ってやつか?……といった風貌の女性が現れた。
「ああ、アンタも『岩飛び兎』の体毛狙いの冒険者か?」
僕とリーピアは今にも使おうとしていた『無敵催眠』を慌てて引っ込め、その女性に話しかけるガルデの様子をうかがう。
「はい、アタシはフリッターって言いまスよ。兎の体毛狙いもあるけど、普通にこいつら仕留めて肉頂こうって思惑もあったっスよ」
かんらかんら、と明るくハキハキと話すフリッターさん。
短くまとめた茶色の髪。その後ろからは三つ編みにしてまとめているところを見ると、解くと長いのかな?
快活な雰囲気とマッチしている小さくフラットな身体つきはいかにもすばしっこそうである。
「肉……岩飛び兎の肉って美味しいの?」
僕は何となく訊いてみた。
「はい、そりゃもう。こいつら、岩をぴょんこぴょんこ跳ね回るじゃないっスか。その足の筋肉の引き締まり具合といったら、絶妙な味わいで」
じゅるりとヨダレを垂らしつつフリッターさんは恍惚とした表情で答える。
「へぇー、ってなんかそんな話聞いたらお腹空いてきちゃったわ」
ぐぅ、とお腹の虫を鳴らすリーピア。
「そうだな。休憩にしよう」
目配せするガルデ。今ここで『無敵催眠』を使うわけにはいかないし、僕も同意する。
「おや、良いんですか? 全部狩っちゃうっスよ、アタシ。にひひ」
ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべるとフリッターは弓を構える。
「ぜ、全部は無茶でしょ。いくらあなたがレンジャーだからって」
と、リーピアが言った瞬間だった。
すぽぽぽぽぽん!!
間抜けな音と裏腹に正確無比な弓の連射が、次々とその辺りを飛び回る『岩飛び兎』を射抜く。
1,2,3……軽く10羽近くは仕留めている。
「え……」
ポカーンとしてしまう僕。
ゆ、弓ってあんな引き方できるの??
僕は不思議に思ったが、そうか、あれがレンジャー固有の能力ってやつか。
恐らくは魔力か何かを弓に込めて、通常では有り得ない連射を可能としているのだろう。
「にひひ、大漁っス」
フリッターさんは何羽もの『岩飛び兎』のやや短い耳を掴んで乱雑に自分の持ってきたらしき麻袋に放り込む。
「な、なんてムチャクチャな」
リーピアは呆れるが、僕たちはもっとムチャクチャな手段で仕留めようとしていたことを思うと苦笑せざるを得ない。
「ほう……レンジャーの職業固有スキル『連続弓矢』か。とはいえ、そこまでの連射は初めて見るな」
「おやよくご存じで。アナタ、只者じゃないっスね?」
ガルデの言葉にフリッターさんはキラリン、と音が出そうな表情で彼を振り返る。
「まぁ、傭兵上がりで冒険者稼業もそこそこ長いんでな」
僕はリーピアに耳打ちする。
「どうしよ。『無敵催眠』使わずにフリッターさんを出し抜くのは無理だよね」
「そうね……とはいえ、何の罪もない人を巻き込んで発動させるのもねぇ」
僕たちの会話にフリッターさんは耳をそばだてていた。
「なんスか?『おやすみヒプノシス』って」
僕らはギクリ、とする。
「え、あ、聴こえてたんですか!?」
僕はうっかり正直にそんな反応をしてしまう。
バカ!とリーピアに窘められるがもう遅い。
「職業柄、音はよーく聴こえるっスよ」
まぁでもフリッターさんは別に僕らのその言葉を気にした様子もなく、特に突っ込んでこなかった。
ただ一言、快活に言う。
「なんか良く分かんないっスけど、アタシを巻き込む能力なら遠慮して欲しいっスね」
「あっ、はい。だ、大丈夫です。使わないです」
「うん、そうね」
バレても困るし、とは口には出さない。そこでガルデが口を挟んだ。
「なぁフリッター。アンタを見込んで、頼みがあるんだが」
「なんスか? 兎の分け前寄越せって話なら、ご遠慮下さいっスよ?」
フリッターさんはからかうような口調で言うが、ガルデはそうじゃないんだ、と首を振る。
「俺たちの、仲間になってくれないか?」
「えっ」
「ちょ、ちょっとガルデ」
ガルデの口から出た言葉には、僕もリーピアも驚愕する。
いや、いくら何でも出会ったばっかりの人だよ?と思うのだが、ガルデは片目を瞑って何やら心配するなと言いたげだ。
「んー、アタシは勝手気ままな一人旅なんで、仲間にしたいならそれなりの条件があるっス」
少し思案してフリッターさんは言う。
「ああ。何をすればいい?」
ガルデが交渉を続ける。僕らは息を呑む。
「見たところアンタ達、A級くらいの冒険者でギルド組んでるんスよね? アタシにその腕前見せて下さいよ。それと、アタシの行動を束縛しない事。この2点、守れますか?」
僕たちは考えた。
腕前を見せるのは吝かではない。勿論、いきなり『無敵催眠』を明かすわけにはいかないが……。
束縛しない、なんてのは別に言われるまでもない事だ。まだお互い知り合ったばかりで、そんな我儘を通すほどの間柄でもない。
「あぁ、約束しよう。腕前はちゃんと見せるし、アンタは自由にしてくれていい」
「交渉成立っスね」
ニヤリと笑うとガルデとフリッターさんは握手をする。
僕らはどうしていいか分からないので、取り敢えずは事の成り行きを見守る事にした。
ガルデはニッと笑って、『まぁ見てろ』と言わんばかりである。
どうするつもりなんだろう?
僕は期待と不安が入り混じる表情で、同じような顔のリーピアと顔を見合わせるだけだった。
(つづく)
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