12.リベンジ
「あいつか?」
「うん」
「ひっさしぶりよね、ってかしぶとく生きてたもんね」
僕とリーピアが以前に討伐に失敗した『手負いの一つ目モンスター』。
なんだかんだで生き延びていたソイツは、未だに古代遺跡の跡地でウロウロしていた。
本来ならギョロギョロと動いている目玉は閉じられ、深い傷が刻まれている。
こいつはそもそも、ある冒険者がその目を斬り付けて手負いにはしたものの激怒させてしまい、モンスターの暴走を受けてその冒険者は死んでしまったという、かなりのいわくつきのヤツだ。
本来ならA級のモンスターなのだが、危険な武器であるその一つ目から発する光線は封じられているため、B級クエストとして登録されている。
とはいえ、危険度がA級なのにB級の報酬しか貰えないのでは……と尻込みする人が多く、僕らが取り逃がしてから1ヶ月以上経つというのに、未だに討伐されていない。
「強さだけならA級、『無敵催眠』は視神経が完全に傷つけられているため通じない、更に報酬は安い……ま、およそ修業でもなければ受けたくはないクエストだな。お前らは……通じるか通じないかを検証するために受けてみたんだっけか」
「そうなのよ。あの時は酷い目に遭ったわね」
「逃げるので手一杯だったよ……」
僕らは一つ目モンスターの怒りを買って、目が見えない割に何らかの超感覚で僕たちを意識できるのか執拗に追いかけてきた。
結局僕らはほうほうの体で町まで逃げ帰れたが、そこで受けた傷がかなり深くなったことは記憶に新しい。
「神官の治療費、高かったんだから元は取り返すわよ!」
「も、モチベーションが明後日の方向だよリーピア。僕らの腕試しだろ?」
「そういうこったな。ま、いざとなったら俺も加勢するから。安心して行ってこい!」
ガルデが力強くそう言うと、僕らは声を揃えて言った。
「オッケー!」
「任せといて!」
◆◆◆
結論から言うと、僕ら2人で倒せた。
「意外とあっさりだったわね」
「それだけガルデの修業のお陰で強くなれたんだよ!」
「おお……お前ら、本当に強くなったな……」
修業をつけてくれたガルデも、感極まっている。
一つ目モンスターは魔術の使い手で、僕らの動きをどうやら熱源探知しているようだという事に気付いた。なので、僕は弱い火炎魔法を使ってモンスターの気を引き、その隙にリーピアが通常の支援魔法で僕の筋力や速力を地味に上げてくれ、僕はリーピアとクロスアタックでダメージを与える。
シンプルだが、その繰り返しだった。
「熱源に反応することに早々に気付けたのが良かったわ」
「そうだね。前は『無敵催眠』が通じないだけでパニクっちゃったからそんな観察どころじゃなかったしね」
「そういう、冷静な洞察力も冒険者としてのレベルアップの結果だな」
そんなわけで僕らはしっかりと『自分たちの実力』だけでリベンジを果たし、意気揚々と町へ帰っていくのだった。
◆◆◆
「それじゃ、一つ目モンスターへのリベンジ達成を祝して……」
「かんぱーい!」
「乾杯」
一応『居眠りドラゴン』のギルドマスターである僕が乾杯の音頭を取った。
「な、なんかこういうのも久しぶりだね」
「ガルデがギルドに入ってからだもんね」
「もう、20日過ぎか。早いもんだな」
僕とリーピアが組み始めてから計算すると、2ヶ月。
僕らはいっぱしのA級冒険者パーティ、そしてA級ギルドとして名実共にその実力を冒険者ギルドに轟かせつつあった。
「……ふぅ。これからは、目立たずにA級クエストもこなせるかもな。ま、本当に危ない時こそ『無敵催眠』の出番だろうが……」
「そうだね、何の後ろめたさもなくA級受けられるって、やっぱり嬉しいよ」
「ねー、変に自分たちの力を制限するの、結構ストレスだもんね」
僕とリーピアは頷き合う。
「で、どうする? 具体的にA級クエストといっても、お前らが以前に受けていたドラゴン退治なんかは、正直かなり上位のものだが、流石にいきなりああいうのはやらないんだろ?」
「そうだね。一応あのドラゴン退治は『まぐれ』って事にしておいたから、もう暫くは地道にA級下位クエストからだね」
「そうねー。資金難って訳でも無いし」
僕たちは相談する。
「ふむ……じゃあ、これなんかどうだ」
ガルデが僕たちに丁度良さそうなクエストを探して、見繕ってくれる。
ホント、こういう部分はやっぱり経験の違いだよね。
「お、これは」
「良いわね!」
「だろ? 何も戦うだけが俺たち冒険者じゃない。今の俺たちなら、これはやり甲斐があるぜ」
ガルデが見つけてくれたクエストは―――そう、探索・採取系クエスト。
つまり、端的に言うと『薬草を拾い集め』たり『貴重な資源を発見した』りするタイプのクエストだ。
危険は少ないが、地道で根気が要り、そしてレンジャーといった特殊な探索スキル持ちがいないウチには、結構な難易度になるはずだ。
「レンジャーをどこかでスカウトしても良いんだが……変に『無敵催眠』の秘密を嗅ぎ付けられても困るんだろ?」
「だね」
「いやぁ、そこでこのクエストとは、ガルデさん、お目が高いわ」
ガルデが見つけてくれたクエストは―――『岩飛び兎』の住処から、彼らの体毛を集める事。
『岩飛び兎』とは文字通り岩をピョンピョンと飛び跳ねて移動する、山岳地帯に生息するモンスターだ。彼らは攻撃力は弱く臆病だが、何しろ動きが素早く警戒心が強い。
故に、いかに発見されず彼らの体毛を切り取って持ち帰るかがポイント。決して、戦って殺す必要性はない。捕らえるだけでもOKだ。
「反則技の『無敵催眠』は、1回。これでどうだ」
「良いハンデだね」
「巣を見つけて一網打尽にしちゃえば1回で終わっちゃうけど」
リーピアのズルい発言に僕は笑いつつ、ま、いざとなったらね、と言い含めて僕たちは次なるクエストへの展望を語り合うのだった。
(つづく)
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