11.ガルデの特訓
「スレイド! もっと周りに気を配れ! 今、蝙蝠どもがお前の血を吸いに来たぞ!」
「うっ、うん!」
「リーピア! 杖は重心を後ろに持つと自分が振り回されやすい! 力があまりないお前は先端で牽制するようにしろ!」
「ひーん、そんな使い方あんまりした事ない!」
ガルデは僕らの新たな目標である『普通の修業』のために、自分は普段行かないB級ダンジョン『人食い蝙蝠の洞窟』に付き合ってくれた。
僕とリーピアは2人組になってからというものずっと『無敵催眠』に頼り切っていたので、こういう普通の冒険者としての戦い方は随分久しぶりだった。
「はーっ、つ、つらい……」
「僕も……筋力、もっと鍛えたほうが良いかな……」
剣を振り疲れて僕はへたり込む。
「こんな洞窟内でへたるなよ。『無敵催眠』は封印中なんだからな」
「いやぁ、でもいざとなったら使うからね?」
「命の危険が迫った時は躊躇いなくね」
「やれやれ。そんな心構えじゃ、上達速度が鈍るな」
苦笑してガルデはそろそろ潮時かな、と言った。
「まぁ今日はこの辺にしとくか。根を詰めるだけが修業じゃないからな」
「やった!」
「じゃ、今日は帰ろうか……」
◆◆◆
「んん~~~! 身体をいっぱい動かした後のご飯は美味しいわね!」
「だねぇ。染み渡るよ」
「お前ら、1ヶ月も冒険者として普通の戦闘してこなかったんだもんな。ま、今日はゆっくり休んで、また明日から頑張ろう。徐々に元の戦い方もレベルアップさせなきゃな」
僕らはクエストを終えて蝙蝠の羽を納品すると、いつものようにギルドハウスでご飯を食べていた。因みに、今日の料理当番は僕。
「スレイド、こんな料理上手だったのね。どうして?」
「1人で旅する事が多かったし……パーティやギルドに入れてもらっては、雑用を率先してやってたのもあってね」
僕ら思い出話を語ると、やや決まり悪そうにガルデが言う。
「スレイドはこまめによく働いてくれてたよ。俺はずっとそこについて評価してたんだがな……」
「ま、もうその話は良いよ」
「暗くなっちゃうしね!」
僕たちは過去のわだかまりを捨てて同じギルドメンバーとなったのだから、もう以前の話は抜きにしようとガルデには言っていた。とはいえ、自分自身が僕を迫害したわけでなくとも、自分の統括するギルメンの悪意や暴走を止められなかったという気持ちはまだ少しあるのだろう。そこについても、まぁ、すぐに吹っ切れというのも難しい。
『居眠りドラゴン』にガルデを迎え入れた時、一応吹っ切って貰えるように働きかけてはみたけどね。
「それより、この修業何日くらい続ければ良いのかな」
僕は何となくガルデに尋ねてみる。
「今日の調子だと、そうだな……。リハビリとレベルアップを兼ねて考えて、まぁ10日ほどやっていれば十分だろう」
「10日かぁ」
「でも自分がレベルアップしていくのって楽しいわね」
リーピアはそんな風に言う。僕も同意する。
「今までがズルしてるみたいな感覚あったからね。実力が上がるって、確かに嬉しい」
「とはいえ、やはりいつでも能力を使えるから、という安心感はどうしても捨てきれんな」
「そこよねぇ」
そうなのだ。
僕とリーピアが健在である以上、この『無敵催眠』はいつだって使えてしまう。
つまり、実質的に無敵状態で舐めプしてるようなものだ。
「あ、よく考えたら、僕とリーピアが離れ離れで修業すれば良いんじゃない?」
僕は基本的な事を忘れていた。『無敵催眠』は2人揃わなきゃ発動できない。
つまり、リーピアがいなければ僕は『短時間催眠』しか使えない普通の冒険者だ。
リーピアだって同じく『幻惑系短時間能力にしか適用できないバフ』という微妙な能力しかめぼしいものは使えない。でも、彼女はその他の補助系魔法もいくつか扱えるので、その発展にも役立てるはずだ。
「ふむ。効率はやや下がるが、俺とスレイド、俺とリーピアの2人で組んで毎日交互に修業するか?」
「それってガルデの負担が大きくない? 大丈夫?」
僕は心配するが、
「いや、どのみち毎日お前らの修業には付き合うつもりだったぞ。普通の修業をするにあたって、俺のレクチャーは要るだろ」
と、律儀にも毎日手伝ってくれるつもりのようだ。
もちろん責任感もあるのだろうが、ガルデの申し出は嬉しかった。
「じゃあ明日はスレイドの日にする? 私は明後日」
「そうだね」
そうして僕らの通常修業の日々が始まった。
◆◆◆
「はっ! やぁっ!」
「無駄が多いぞ、スレイド! お前の剣は小回りが利くんだ、素早く振って構えを戻す、これが基本だ!」
「うん!」
僕はガルデに剣の指南を受けていた。
ガルデの主力武器は大剣で、隙が多いタイプなので僕とは別だけど、彼の剣術の腕はそういう得手不得手と関係なく一級だ。
ギィン、ギィン! と僕たちの剣劇が響く。
「たぁっ!!」
「おっ」
ガルデは感心するように僕の太刀筋を受け流しつつ、今のは良い感じだ、と目配せする。
そうして僕の修業は過ぎていった。
◆◆◆
「今日はリーピアの修業の日か。彼女は主に支援魔法と杖による攻撃だけど、どういう修業してるんだろ?」
僕はギルドハウスで夕飯を作りつつ2人の修業風景を想像した。
すると。
「ただいま~~~! く、クッタクタ……」
「ようスレイド。飯作ってんのか、ありがとうな」
「お帰り! どうだった?」
僕が尋ねると、リーピアが言った。
「聞いてよ~、ガルデったら私に『お前はまず、基礎体力をつけろ』って言ってね、走り込みさせたの! 走り込みよ!?」
「そ、それはまた基本的な」
「重要な事だ」
確かにリーピアは万能型に見えたが、スタミナがそんなにある訳じゃない。
動きは素早いが瞬発力系。ゆえに、長時間の戦いで先にへばるのはいつも彼女のほうだ。
「スレイドとのバディを組むんなら、同じくらいの体力は必要だと俺は思うがな」
「ぐっ、正論」
「あはは」
僕たちは笑いながら、夕食を共にした。
◆◆◆
そして20日後。
「よく頑張ったな、二人とも」
「うん、ガルデのお陰だよ! 2人分の修業を交互に10日だから2倍付き合ってもらう事になってホントごめんね」
「いやー、キツかった。ガルデ、結構スパルタなんだもん」
僕たちは、晴れて『実力で』A級冒険者に届くくらいのレベルになれたのだ。
これも、A級冒険者のガルデの辛抱強い修業のおかげである。
「よし。じゃあ、今度こそ3人で、A級クエストに挑めるな」
ガルデは満足そうに腕を組んで意気込む。
「でも、どうしましょ? A級でそこそこ、私たちに相応しいのってあるかしら?」
「……うーん、そうだね」
僕はやや思案する。
「あ、じゃあさ。絶対に『無敵催眠』が通じなかった、あいつを倒そうよ」
思い出した。そう、B級上位くらいだがA級にほど近い『手負いの一つ目モンスター』を相手に僕らはまだ勝利できていない。
中々強力な魔力を行使する奴で、お得意の一つ目から放出される光線こそ封じられているものの、厄介な相手なのだ。
僕とリーピアは『無敵催眠』の検証を兼ねて、一度手痛くやられている。
「リベンジにちょうどいいわね」
リーピアも同意すると、ガルデは頷いた。
「そうだな。危険もそこまで大きくはなさそうだし、レベルアップの成果を試すには良い相手だろう」
そうして僕らは、B級上位クエスト『手負いの一つ目モンスター討伐』に向かう事になった。
(つづく)
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