10.新たな目標
「……無敵催眠、だと……」
「うん、僕とリーピアの力を組み合わせることで、初めて使える能力なんだけどね」
「あーあ、明かしちゃった。まぁ、ガルデさんなら信用できるから良いけど!」
僕は元ギルメン3人組に監禁された僕を助けてくれたガルデを僕たちのギルドハウスへ迎え入れ、これまでの事情を説明した。ガルデはあまりのことに驚いていた。
「そんな強力な能力を得たから、A級冒険者としてもやっていけたわけか……なるほどな。それで、あいつらに目を……」
「そういうこと! ガルデさんの事も最初は疑ってたんですよ、私はね」
「もう。リーピアったら」
僕はいつものリーピアの皮肉に苦い顔をするが、まぁ、ガルデも気を悪くした様子はないし、別に良いか。それよりも。
「……そりゃそうだ、疑われないわけがない。しかし……そんな能力を何故、わざわざ俺に明かしたんだ?」
そう、そこの話をしていなかった。
あの状況でも僕はまだ、ガルデに能力の事を黙っていることはできた。
ただ、ガルデが僕に責任を感じて3人を自分のギルドから追い出し……つまり、それは実質的にあの4人で構成されていたギルドの解散を意味する……ところまでした以上、僕も彼を完全に信じよう、と思ったのだ。
「そういう訳だし、過去のわだかまりはもう捨ててさ。あのギルドで僕に唯一よくしてくれたガルデを、これ以上申し訳ない気持ちにさせたくもないしね」
「そうか。ありがとうな……」
と僕がガルデと和解の雰囲気を見せるとすかさずリーピアが釘を刺しに来る。
「他言は無用ですけどね!」
「分かり切ってる。絶対に言わないさ」
ガルデは即答する。
僕はもうそんな恒例のやり取りに慣れてしまい、ただ笑うだけだった。
そして僕は改めて、ガルデに手を伸ばして握手を求める。
「……じゃあ、これからよろしく。ガルデ」
「……あぁ、改めて。今まで本当に色々迷惑かけちまったな。俺に出来ることがあったら何でも言ってくれ」
「よしてよ。もう本当のギルド仲間になるんだから」
「……あぁ!」
僕とガルデは固く握手を交わし、笑いあった。
「……な、なんかキラキラした男の友情って感じの光景……や、やめて……ま、眩しすぎる……」
そんな風に顔を覆うリーピアに僕とガルデは顔を見合わせ、苦笑した。
◆◆◆
「ガルデはね、A級冒険者なんだ」
「へぇ、やっぱり。あの身のこなしからして、B級ってレベルじゃないとは思ったわ」
「なりたてさ。お前らみたくドラゴン討伐なんて、そうそう出来るもんじゃない」
僕らは新しくメンバーを迎え入れた『居眠りドラゴン』として、雑談混じりに今後の活動を明確にしていこう、という話をしていた。
「しかし、やっぱり今のままだと少々、動きが派手過ぎるとは思うな。俺を加えたとしても、A級3人のギルド……それがホイホイとドラゴン退治なんか続けてたら、悪目立ちは避けられん」
「そうだよねぇ」
「町を移ろうかって案もあったんだけどね」
「ギルドハウスの年間契約料払ったばっかりなのか? そりゃ勿体ないな」
「ガルデもそう思うよね」
「とはいえねぇ」
さてどうしたものか、と思案していると、ガルデから一つの案が浮かんだ。
「だったら、ギルド活動じゃなく傭兵でもどうだ? 元はと言えば俺は冒険者じゃなく傭兵だったんだ。コネはあるぜ」
「傭兵?」
「なるほど……」
今のギルドの活動は基本的に自分たちが能動的にギルドに登録されたクエストを受けてモンスター討伐や素材集めをするものだ。
それに対して傭兵は、特定の集団または個人に雇われて、ある程度の期間の護衛や派兵に向かう仕事となる。
しかし僕は思う。
「あんまり人が多いところで無敵催眠を使うと、周りの人全員巻き込んじゃうんだよね……」
「っていうかそもそも、ガルデさんも巻き込んじゃうわ」
「あぁ、そうなのか」
すっかり失念していたが、今のところこの能力の影響を受けないのは術者である僕自身と僕の能力を強化するリーピアだけなのだ。ガルデとて、この能力の影響は受けてしまう。
「ふむ。折角同じギルドメンバーになったが、同時活動は難しそうだな……」
確かに。
僕らの無敵催眠がもう少し範囲制御できれば良いのだが、残念ながらそこまでの細かい調整はいくらやっても無理だった。
僕を中心とした半径50m、視覚が有効な相手に対して100%効果のある催眠能力。
かかった相手の催眠を解除できるのはリーピアのみ、解除の時だけは特定の人を選べる。
「あ、でも眠ったあと、解除はできるね」
「そこに俺がいる意味があるか?」
苦笑してガルデは言う。
それもそうだ。
となると、ガルデには半径50mより範囲外で待機してもらう事になる。
しかしそもそも、視覚を喪失していないタイプのモンスター相手に僕らが戦うメリットがないのだ。
「過ぎたるは及ばざるが如し、だな。中々取り回しの難しい能力ではあるみたいだ」
ガルデはそう結論付ける。
この能力を使う限り、異常なほどの効率でモンスターを倒せるのは確かで、でも、それを目立たずに成果を上げるのは結構な抑制が必要となるようだった。
「ペース落とす以外に方法なさそうだね」
「そうねぇ」
「ま、それならそれで、どうだ? 普通に腕を上げる修業でもしないか」
「普通に」
「修業?」
その考えは僕たちにはなかった。
そういえば、無敵催眠を得てからというもの、僕らは冒険者として腕を上げるための修業などは特にしていなかった。
いや、必要なかったというのが正しい。
せいぜいが、能力の効果範囲や制御について検証するくらいのもので、僕たちの冒険者としての地力は低いとまでは言わなくとも、B級そこそこ止まり。
「ちゃんと自分の力量を上げれば、あいつらみたいな卑劣な連中に襲われてもどうにか出来るしな」
「そうだね」
「確かに」
あいつらというのは、僕を襲った元ギルメンの3人のことだ。
僕は迂闊にも1人で歩いている所を3人に不意打ちされたため、無敵催眠を発動させる事もままならずに捕らえられてしまった。
僕自身の実力が十分であれば、あんな事にはならなかったのだけど。
「そうと決まれば、B級クエストを改めてやり直しだな。実力で突破できるのは、どの辺までだ?」
「この能力得て初めて突破した辺りが限界じゃない?」
「じゃあ、『人食い蝙蝠の洞窟』?」
それを聞いてガルデは納得した。
「あぁ、なるほどな。B級冒険者の登竜門ってところだな。よし、じゃあそこで『無敵催眠』は封印して、個々の力量を上げるための修業をつけよう」
という事で、意見がまとまった。
僕たちはガルデの言うように『普通の修業』をすることにしたのだった。
(つづく)
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