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おやすみヒプノシス  作者: 0024
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01.短時間催眠と限定バフ

 所属していたギルドから追い出されてしまった。

 理由は単純で、自分の能力(スキル)が弱すぎてお荷物だったからだ。


「お前といるとクエストの分け前減るんだよな」

「どっか別のギルドで頑張ってね」

「あ、二度と連絡してくるなよ」


 口々に言い募るギルドメンバー。

 ギルドマスターの、背の高い青年が一人だけ、申し訳なさそうに言う。


「悪いな……。みんながこう言うからしょうがないんだ。分かってくれ」


 僕はぽつねんとその場に取り残されてしまう。


「あぁ……()()独りになっちゃったか……」


 そう。

 別にコレ、僕の仲間が薄情だってだけじゃなくて、いつもの事なのだ。

 僕はあちこちのギルドやパーティに仲間に入れて貰っては、追放されるという事を繰り返している。


「まぁ……こんな能力じゃ、無理もないか……」


 この、戦闘にも旅の支援にも役立てない能力は僕が生まれついて保持している、いわゆる固有能力(ユニークスキル)なのだが、コレがまた本当に使えない。

 効果はほんの僅かしか保てないし、直接的なダメージを与えられるわけでもない。


 そんな僕がギルドから追い出されるのも致し方ない事ではあった。


「しょうがないな……次を探そう」


 僕があてどもなく冒険者ギルドへ向かい、次に入れてくれそうなギルドを探していると。


「きゃっ……な、なんですか、あなたたちは」

「なんだよ、姉ちゃん1人なら俺たちのパーティに入らねえかって言ってるだけだろ?」

「へっへっへ、今なら無料でまわせるぜえ」


 うわぁ。

 女の子が、男二人に絡まれている。


 僕は嫌なものを見てしまったな……と思ったが、見てしまったものはしょうがない。女の子に絡んでいるガラの悪い男達に話しかける。


「あの、すいません」


「あぁん? なんだ坊主、引っ込んでろ!」

「邪魔すんじゃねえぞ」


 口々に僕を遠ざけようとするが、僕は構わず続ける。


「僕、今しがたギルドから追い出されちゃって、独りなんです。仲間が必要なら、僕を入れてくれませんか?」


 無駄だろうなと思いつつも、僕は交渉を試みる。

 案の定、男達は僕の言葉に激昂して言った。


「はぁん!? お前みてーなモヤシをか!? ふざけんな!」

「男はお呼びじゃねーんだよ。あとお前、この状況見えてる?」

「た、たすけて……」


 女の子は怯えて僕に助けを求める。

 もっと大声を出せば冒険者ギルドの受付や警備の人にも声は届くだろうけど、すっかり萎縮してしまっているみたいだ。

 仕方ないな。


「ちょっと、ジッとしてて下さいね。目を瞑ってて」


 僕は女の子にそっと近付いて耳打ちすると、自らの能力を発動させた。

 ピカッと一瞬僕の指先が発光し、男達の視覚を奪う。


 といっても、それは目を眩ませる能力って訳じゃない。


「……はれ? 俺ら、何してたんだっけ」

「んん? アニキ、飯食おうと思ってたんじゃなかった?」

「おおそうそう、そうだよ……なんで忘れてたんだろうな」


 男達は口々にそう言ってテーブルの方へ向かい、乱暴な口調で給仕の女性を呼び出し、注文をしていた。女の子は助かった、と言いながらも何が起きたか理解できない、というような表情で事の成り行きを眺めていた。


「あ……ありがとうございます。いま、いったい何を……?」

「しっ。長くは保たないんだ、この能力。さっ、今のうちに離れよう」


 女の子からのお礼もそこそこに、僕は彼女を伴って冒険者ギルドから出ていく。


「えっと……」

「大丈夫だった? 変な事されてないよね」

「あ、はい。それより、さっきのは……?」


 女の子からの疑問に僕はああ、と気付いて答えた。


「さっきのは、僕の能力(スキル)ね。()()()()()なんだ」


「短時間……催眠? それってつまり、幻惑系の能力ですか?」


「まぁ、そんな感じ。効果はそこそこ強めに働くんだけど、見ての通りで……」


 と、僕が離れた冒険者ギルドを指差して見やると……


「あぁ!? さっきの女、どこ行きやがった!!」

「アニキぃ、なんで俺ら飯食ってたんすかね……」


 さっきの男達は既に正気に戻っており、女の子を探して大騒ぎしている。


「……って感じだから、あんまり役に立たないんだ」


 僕は苦笑するが、女の子はそれを見て感激していた。


「凄い! そ、そんな能力が役立てないなんて……信じられないです!」


 僕はそんな反応をされたのは初めてで嬉しくなるが、冷静に説明する。


「って言っても、せいぜいが数秒の間、記憶を飛ばして気を逸らすくらいだしさ……すぐ戻っちゃうから、冒険の役にはあんまり……」


 そうなのだ。

 モンスター相手にこの能力でほんの僅かに催眠をかけても、あんなにすぐに正気に戻ってしまうんじゃ仲間の支援にもならない。

 今みたいに暴漢相手に使っても、一時凌ぎにしかならないし。


「じゃ、僕はこれで……はぁ、仲間、見つけられるかな……」


 トボトボと僕が女の子と別れて歩き出そうとすると、女の子は僕の服の裾を掴んだ。


「待って! 待って下さい、あの!」


「え?」


 そして女の子は僕に言った。



「私なら、あなたの力を最大限に活かせる気がします」



 それは、僕にとって運命の出会いだったのかも知れない。


 今から思い返すと、そんな風に思えるのだった。


 ◆◆◆


「私、リーピアって言います。よろしくお願いします」

「僕は。スレイド。よろしく」


 僕たちは自己紹介を終えると、冒険者ギルドの目立たないところでパーティ結成記念の乾杯をしていた。さっきの男達はもう居ないから大丈夫だろうけどね。


「スレイドさん、改めて私の能力について説明させて頂きますね」

「うん」


 リーピアは僕に、さっき実演してみせた能力についての解説を始めた。


 時を遡ること、3時間前。


 ◆◆◆


「最大限活かせるって……どういう事?」


 去ろうとした僕を引き留めた彼女の言葉に、疑問を覚えた。


「私の能力、補助系なんです。能力を強める能力っていうか……いわゆる、バフというやつなんですけど」


 それを聞いて僕は納得した。

 でも解せない。


「バフって、引く手数多の能力じゃない。誰もが欲しがるでしょ? 僕なんかと組んでも、メリットはないと思うけど……」


 ところが彼女は言うのだ。


「いえ……お恥ずかしい事ですけど、私の能力、役に立たなくて」


 おかしな事を言うものだ。

 バフが役に立たないとはどういう事だろう。


「百聞は一見に如かずですね。あの、あなたの能力って他にも何かありませんか? さっきの短時間催眠以外で」

「え? まあ、弱い火炎系の魔法とかなら」

「ではそれにバフをかけてみます」


 僕は火炎魔法を唱える。彼女がバフの能力を使う。

 しかし、僕の火炎魔法は強まったように見えなかった。


「え?」


「ね、言ったでしょう? 私のバフ能力、普通の能力を強める事って出来ないんです」


 なるほど、と僕は思った。

 どういう能力なら強められるのかまでは聞いていないが、これじゃ汎用性に欠けるから役に立たないよね。


「それで、僕の短時間催眠なら強化できるって事?」

「はい、そうなります」


 でも、それってどういう事なんだろう。

 汎用能力に適用できなくて固有能力にしか適用できないとかなのかな?

 固有能力なら強化できる、って言うなら、もっと使い勝手の良い能力の持ち主と組めば良いだけのはずだ。


「固有能力にのみというより……今のあなたのような、限定的能力に対してしか使えないという感じなんです」


「限定的……」


 それはつまり、効果範囲や持続時間に著しい制限のかかっている能力という事だろうか。


「はい、なので、あなたの能力にこそ私の能力が活かせると思います! 証明してみせますよ」


 彼女はそう言うと、モンスターのいる荒地まで向かいましょう、と言い出す。

 この辺のモンスターなら、さほど強くないし大丈夫かな……

 僕は彼女について行った。


 そして、近くにいた狼型モンスターに向けて、僕の短時間催眠を放って下さい、というのだ。


「こう?」


「はい、私がバフを掛けたら、すぐにお願いします」


 そして僕が彼女の合図に従って短時間催眠能力を放つと。

 今まで普通に歩いていた狼型モンスターが、突然グッタリと倒れ、そのまま昏倒してしまった。


「え、ええ!? こんな効果になるの、初めて見た」


 まるで強力な催眠魔法でも掛けられているみたいだ。


「近付いて触ってみましょう。揺り起こしても多分起きませんけど」


 彼女の言うように、確かにモンスターはぐっすりと眠っており、一切の反応を示さなかった。

 しかも、ほんの数秒じゃない。

 何分経っても目を醒まさない。


「……これ、いつ解けるんだろ」


「試してみないと分かりませんけど、多分死ぬまで」


「ええええ!?」


 どうやら僕の短時間催眠能力は、彼女の限定バフの効果によって、()()()()に格上げされてしまったらしい。


 ◆◆◆


「……という感じで、私のバフは幻惑系限定で……それも短時間しか持続しないタイプの能力にしか適用できないのです。一応、前例としては霧の魔法で視界を塞ぐ魔法使いさんと組んでた事がありましたけど、彼女は別の能力を発展させて私とは別れちゃったんですよねえ」


 リーピアはそう一息に説明すると、ほぅ、と息をついてお酒をあおった。


「僕の能力があんな強力なものになるなんて思いもよらなかったよ。効果の短さのせいで役に立たない代わりに、使用回数は凄く多いんだけどね。君のおかげでなんだか、心強いよ」


「いえいえ、こちらこそです! あなたの能力のおかげで、色んなモンスターを穏便に捉えたり倒せますしね! いやあ、この出会いに感謝です!」


 僕たちは何度目かになる乾杯をして、良い気分で酔っていた。


「うぇへへへぇ、スレイドさぁん、これからよろしくお願いしますねぇ」

「話がループしてるよ、リーピアさん……ちょっとちょっと、服はだけてる!」

「リーピアさんだなんて余所余所しいですよ! 呼び捨てでいいです」

「いや君も僕の事呼び捨てじゃないし……」


 すっかりへべれけになったリーピアに僕は参ってしまう。

 そして次の瞬間、リーピアの発した言葉にはもっと参ってしまった。



「じゃあ、スレイドって呼ぶね。だから私の事もリーピアって呼んで?」



 酔っぱらった勢いなのだろうけど。



「……はいはい、分かったよ、リーピア。これから、よろしくね」



 そうして僕らは、一緒のパーティを組む事になったのである。


(つづく)

おやすみヒプノシスをお読みいただきありがとうございます!


恐れ入りますが、以下をご一読いただければ幸いです。


皆様からのブックマーク、評価が連載を継続する力になります!


【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると幸いです!


また、つまらなくても★ひとつ頂ければと思います。


感想・レビューなどを頂けると、展開もそちらを吟味した上でシフトしていくかもしれません。


何卒よろしくお願いいたします!

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