7.ブレイのこれからと初めてのシブキとの接触 ~過去編(3)~
大変遅くなってしまいました…。
Twitterでも言いましたがPCが不調でして…m(__)m
今後は忙しくなるのでそれも相まって遅くなってしまうかもしれませんが、読んでいただけると幸いです
「さて、そろそろ話を進めたいと思うから、レプタ、ブレイ君を開放してくれないか?」
アジュガはレプタにそう声をかけた。レプタもこのままブレイを抱きしめたままでいるわけにはいかないことは理解してはいたので、どこか残念そうにした様子ではあったもののブレイを放してくれた。
そして、2人はアジュガに促されてソファに座った。席順としては、2人掛けのソファを挟んでテーブルがあり、左手奥にアジュガ、隣にレプタ、そして向かい合うように奥からキハダ、ブレイの順に席に着いていた。
「では話を進めるとしよう。一応念のために確認をしておきたいのだが、ブレイ君は本当に記憶を失っているのだな?」
アジュガは話を進めるうえでの前提として、ブレイが記憶を本当に失ってしまっているのか確認をしてきた。
「はい。僕が覚えているのは、え〜っと、シブキ君?が僕を見つけて、村長さんたちを呼んできてくれたところからの記憶はあります。なので、どうしてあそこに僕がいたのかまでは…。」
記憶がないとは言いつつも全く記憶がないというわけではないということなので、どこからの記憶はあるのか説明をした。
「そうか…、ふむ…。この村がどういうところにあるかはキハダ殿から聞いてはいるよな?」
「はい、朝にキハダさんから。」
「そうか。それでは私が一番気になっていて、彼が起きてから尋ねたかったと思っていたことからみんなで考察をしていこうか。」
アジュガはそう言ってから一息ついて、そのまま話を続けた。
「私が気になっているのは彼がどうやってこの村の奥に行ったか、ということだ。その解答の如何によっては村の警備を見直す必要があるからな。」
「そうですね…、確かにどうやって村に入ったのか不明のままですと賊も侵入できる可能性がありますものね〜…。」
アジュガが一番気になっていたことはブレイ自身も気になっていた、どうしてあの場所にいたのか、どうやってあの場所まで行ったのか、ということだった。それはこの場にいる全員が気になっていたことだろう。
「僕自身もそれについてはわかりません…。少なくとも自力であの場所に行ったわけではないと思います。」
「それには儂も同意じゃのう。」
ブレイはなんとなくという根拠のない感覚で自力ではないと言ったが、キハダはブレイが自力ではあの場所にたどり着いていないということを確信したかのように言った。
「と、いいますと?」
「うむ。お主もあの場所には魔物が出ないことは知っておるじゃろう? 仮に出たとしてもそれは空を飛んでくる魔物程度で、あとは小型の野生動物しか住み着いておらん。あの時のブレイの怪我の程度から考えてそんな小さな生物にやられたとは思えんからのう。」
「なるほど…。つまりブレイ君はあの場所に自力ではなく誰かの手で運ばれた、そう言うことでしょうか? ですが、そうなると何者かかが村に入り込んで彼をあんなところに置き去りにしたということでしょうか?」
キハダのした考察については納得できることが多かったのかレプタはそれを受け入れつつも、それならばブレイをあのような状態にした何者かがわざわざそのような手間をかけたのか、ということを不思議に思ったようだった。
「それはないじゃろうな。」
またしてもキハダは意見を否定した。
「そもそもそんな怪我を負わせた犯人がそのような手間をかけるはずがなかろうて。」
「では、キハダさんはどのようにお考えなのですか?」
レプタも自分では可能性としてはないと思っていた意見を即座に否定されたので、それならばあなたはどう思うのかと、彼の考えを聞き出そうとした。
「ふむ。先に言っておくと儂はそなたらよりも持っている情報の量が違う。じゃから儂のような考察をできんかもしれんのう。」
そんな前置きをしてからキハダは自身の考察を述べていった。
「そもそもどこから来たのか、それについては儂もわからん。これは情報が足りんからのう。じゃが、どうやって来たのか、これについて候補はあげられる。
候補の1つ目としては、誰かに転移をさせられたから、じゃのう。これに関してはブレイを守るために誰かがやったのか、はたまたブレイをどうにかしようとした奴が適当にやったのか、それによって意味は大きく異なることになるのう。
守るためならば、ここが安全とみなされて送られた。どうにかしようとして送られたならば人がそんなに来ないところで生きようが死のうが関係ないとして送られたか。そればかりは儂にもわからんのう。
候補の2つ目はそもそも誰かのせいということにしていた前提から崩れるが、何かしらの実験をして巻き込まれたという可能性もありうるはずじゃ。まぁあのような状態で実験をしていたとは思わんが、何かしらの魔道具の実験や暴走で転移ということもないとは言い切れんからのう。
そして候補の3つ目はダンジョンでの転移トラップじゃのう。この可能性は限りなくゼロに近いと思っておるがのう。ダンジョンによるトラップで外にランダムテレポートしたという話は聞いたことがないからのう。せめてダンジョンの入り口か、その真上の座標に送られたということはあるらしいが、関係のない場所に送られたというのはちと考えにくいのう。そもそもこんな年の子供を連れてダンジョンに入るとは思えんし、入ったとしてもそもそもの話の前提となるダンジョンはこの辺りで発見されておらんはずじゃ。」
キハダの長々とした3つの候補の話を聞き、ブレイを含め3人は黙り込んでしまった。キハダはブレイの体を診ていた時からどういう状況で怪我を負い、あの地にいたのかをずっと考えていたようだった。
「…いや〜、驚きましたな。キハダ殿は既にいろいろと候補は考えていたようで…。」
「なに、年寄りとして物事を悲観的に考えておるからのう。人と出会った数も多ければそれだけ多く失うことも経験しておる。どういう事故が起こり得るのか、どう対処するのか、そう言うことは常日頃から考えておるのじゃ。」
「そうですか…。私もまだまだですな。しかし、キハダ殿の候補道理であると考えると、どれであったとしても怪我を負ってから飛ばされたとお考えなのですかな?」
キハダの考えを聞き、改めて自分の中で消化し終えたアジュガはそのように尋ねた。
「少なくとも儂はそう思って居るのう。どうあったとしてもあそこでは傷つける外敵もおらず、また、周囲もその余波を受けた地形にはなっていなかった。そう考えると、怪我を負ってから転移させられたと考えるべきじゃ。」
「そうですか…。では、少なくとも村に何者かが侵入したわけではないと、そう考えてもいいですかな?」
アジュガは今までの考察を基に差し当たって村に危険があるわけではないと判断をしたようでキハダに確認をしてきた。ブレイに記憶がないのではどれほど候補を挙げても正確な答えは得られないので、アジュガとしては村のことを優先的に考えようとしているのだ。
キハダはその問いに対しては無言で頷き、たくさんしゃべったから喉が渇いたのかテーブルの上のお茶に手を伸ばした。
「それじゃあ、この話は一度ここまでにして次に移ろうか。」
アジュガはブレイの今までの経緯についての話を終えると、次について話を進めた。
「ブレイ君、君はこの後どうするつもりだい?」
アジュガは唐突にそう質問をしてきた。
「え〜っと、僕は…。」
突然今後のことについて質問をされてブレイは答えることに戸惑ってしまった。なぜなら彼自身も今後の見通しを立てることもできず、どうしたものかと考え込んでいたことだからだ。そのまま答えを口にできないままでいると、
「応えづらい質問をしてすまないね。しかし、村長としての立場から言わせてもらうと、部外者である君をずっと村に置いておく道理はないわけだ。」
「そんな言い方しなくてもいいじゃない! まだ彼はこんなにも幼いのよ?」
村長である立場としてアジュガはこの村に留まることについて否定的な意見を口にしたのだが、レプタはそれについて咎めた。
レプタはまだ子供だからいいじゃないか、とブレイをこのまま村に置いてあげるほうが良いと思っているようだった。
「私も心情的にはレプタと同じではいるが、身元のはっきりしない子をこのまま村に留めておくわけにはいかんだろう?」
「そうですけれど…。」
レプタもアジュガの言い分が村の代表者の1人としてわからなくはないのだ。すると、
「それなら儂のところで預かろうか。」
一通りの意見を述べてから静観を決め込んでいたかに思われたキハダがそんなことを口にした。
「儂のところにも助手の一人や二人いた方が仕事もやりやすいからのう。記憶がないなら余計な知識もないとうことになり儂の教えをしっかり覚えてくれるじゃろう。どうじゃ?」
キハダは村長夫妻に尋ねるのではなくブレイ自身にそう問いかけていた。
「…僕のような人を引き取っても大丈夫なんですか? 自分で言うのもなんですが、身元不明で出会った時は重傷だったことに加えて、記憶がないなんて怪しさしかないと思うのですが…。」
ブレイ自身もこの村に置いてもらえるなら助かるとは思ったのだが、キハダがこうも簡単にブレイを村に留めるための提案をしてくれたことには疑念を抱いてしまった。
「そうじゃのう。確かに話を聞いている限り怪しいとは思うんじゃが、お主はそんな悪巧みをしているわけじゃないんじゃろう? それに儂だって打算がないわけじゃない。加えてお主が何かしようとしても今のままなら老いぼれの儂でもまだ止めることぐらいはできるからのう。」
キハダは笑いながらそう言ってきた。ブレイはキハダの実力というものを知らにが、村長夫妻は確かに…と口にこぼしながら納得している様子ではあった。
どうしてこんなにもキハダが村長夫妻から信用をされているのか。ブレイは当然知らないことだが、彼らは若かりし頃のキハダについて知っているのだ。キハダは薬師として研究をしつつも、必要となった薬草については自らの手で薬草を収集しているという変わり者だったのだ。その採集の地は町の近場から高レベルの魔物が闊歩するような危険地帯まで様々だった。
そんなところにまで単身で乗り込んでいくことからも非常に有名な冒険者だった。本人は冒険者としての実績は重視しておらず、冒険者としての資格も危険地帯に入り込むための通行証程度としか考えていなかった。そして、当然そんな考えについてくるような仲間もいなかったのでソロの冒険者だったのだが、どういうわけかこの村に定住するようになったのだ。
ともかく、村長夫妻はキハダの実力についてもよく知っているのでキハダのところで預かるというのならば特に文句の言いようはなかった。
「え〜と、それでしたら僕からもよろしくお願いしたいです。」
ブレイも周囲が納得してくれて、キハダ自身も家に置いてくれるということなのでその提案を受け入れようと思った。
「うむ。アジュガとレプタもそれでいいかのう?」
ブレイとキハダの間の話はまとまったのでそれについて尋ねると、
「私からは言うことはないです。キハダ殿が責任を持って彼の身を預かるというのならば私も安心できます。」
「そうね〜。私も大丈夫かしら。でも、ブレイ君に何かあれば直ぐ私に言ってくださいね。これでも2人の子供を育ててきているのですから力になれることもあると思いますよ。」
「うむ。そうさせてもらうかのう。」
アジュガとレプタはキハダが預かってくれるならば揉めるようなことはなくなると安心したようだった。また、レプタはブレイのことが気になっていて、子育てをしたことのないキハダでは手に負えない事態があるかもしれないことを懸念しており、何かあれば直ぐに伝えてほしいと言った。
キハダも自身の手に負えない事態は起こり得ると思っていたのでレプタの要請は渡りに船ということですぐに承諾をした。キハダにとって風邪を引いた、熱が出たというような病気ならばすぐに対応はできるが、子供の小さな感情の機微による変化についてはわかりかねるところがあったのだ。そういうことからもキハダはレプタの力を借りられるのは助かることだった。
ブレイについての話が一段落すると、彼らは村内での近況報告をしていた。最近の作物の出来具合、近くの村から聞こえてくる噂など、話の種は尽きることはなかった。
「おい、あの時の奴が目を覚ましたってのは本当か!?」
彼らが話をしていると、玄関の方からドカドカと騒々しい足音が聞こえたかと思うと、勢いよく部屋の扉が開け放たれた。
「ノックもせずにいきなり入ってくるんじゃない!」
「そうよ、今回はキハダさんだったからいいものの、他の村からのお客様だったら失礼に当たるわよ。」
「うっ…、ごめんなさい。けど、アネモネが知らない子供を連れて客が来てるっていうしあいつかと思って…。」
シブキは怒られてしまったが、自分が見つけた少年がどうなったのか心配で居ても立っても居られなかったのだ。
「だとしてもだ。落ち着いて行動できるようにと毎日…。」
日ごろから口を酸っぱくして言っているにもかかわらずシブキの行動が改善されないことにアジュガは言いたいことが多くあったので説教が始まりそうになった。ブレイはそんな光景を目にして話が長くなりそうと思ったのと同時に、自分のことを心配して駆けつけた彼がそこまで説教されているのを見るのが忍びなくて、口を挟むことにした。
「…そもそもお前は、今はいいものの、」
「アジュガさん、話を遮ってすいませんが説教はまた後程ということで彼に挨拶をしてもいいですか?」
「ゆくゆくは…、む、う、うむ。そうだな。私も熱くなりすぎたようだし今はここまでにしよう。それに、私たちだけで話をしていてはブレイ君もつまらないだろうし、シブキと話をしてくるといい。この村に同年代の子は他にいないからね。」
「そうね。シブキは後でもう一度話をしますからね。それと、ブレイ君は病み上がりだからあまり無茶させないようにお願いね。帰りはキハダさんのところに送ってあげてちょうだい。」
アジュガとレプタはシブキへの教育的指導をあきらめてはいないが、このままここでお説教をしてはブレイやキハダに迷惑がかかると思い後回しにしてくれた。そして、シブキにブレイと一緒にいる時間を設け、ブレイの面倒を見るように頼んだ。
また、シブキにはブレイがお説教という面倒な話の時間を止めてくれた救世主のような存在に見えていた。しかし、彼の残念なところは後回しにされたことに気づかずにこれで説教が終わったと思い込んでしまったことだろう。
「よし、わかったぜ! じゃあ、こっちこいよ! 庭で話しようぜ!」
シブキはお説教はなくなったと思い込み、ブレイに早く行こうと急かして一刻も早くこの場から退散しようとした。
「今行きます。それでは、すみませんがしばらくこの村でお世話になります。」
ブレイはシブキに急かされたのでその場を後にしようとするが、しっかりと3人に挨拶をしてから部屋を出ようとした。
最後まで硬い口調は変わらなかったが、残された3人は時間が経てば砕けた口調に変わるだろうと思いその点を今は指摘せずに彼を見送った。キハダも笑顔でブレイを見送り、部屋を出る直前に慌てたように、
「そうじゃ、帰りはそのまま儂の家に向かって構わんからのう。そのころには儂も帰宅しておるはずじゃ。いなければすまんがまた、ここに来てくれ。」
「わかりました。」
ブレイはキハダに返事をしてからシブキの後を追うように彼が言っていた庭の方に歩いて行った。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次話もよろしければお読みください
次にいつ投稿できるのかわかりませんが、できる限り早めに出したいと思います。