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5.宿屋の夜と初めての出会い ~過去編(1)~

この話の途中から過去編を始めます。

この章はあくまで長い長いプロローグのようなもので、この物語の基本的な設定の説明をすることが多くなると思います。

今回の話ではこの世界における、魔法という概念について説明します。

「ごちそうさまでした、とても美味しかったです。」

「美味い夕飯だったぜ!」


 ブレイとシブキは食べ終えると、マケマやマレーたちにそのようにお礼を言った。彼らとしては、この美味しい夕飯を作ってくれた親父さん―グリーズにもお礼を伝えたかったのだが、ブレイとシブキが食べている間は一度も顔を出さなかったので彼女たちにお礼を言い、そのことを伝えてもらおうとしていた。


「はい、ありがとうね。特にシブキ君はいい食べっぷりで見ててこっちもうれしくなったわ。主人にも好評だったって伝えておくわね。」


 マケマはブレイたちの食事についてそう感想を伝えると、ブレイとシブキの食べ終えた食器類を片付け始めた。


「ほら、マレーも食べ終えたのだからこっちの仕事を手伝ってちょうだい。」

「はーい。じゃあ、ブレイ君とシブキ君、うちのご飯を美味しく食べてくれてありがとうね。後で部屋にはお湯を持って行ったりはするけど、それ以外ではこちらから用事がなければ行くことはないと思うから、何か要件ができたら遠慮なく言ってね。」


 マレーもそう言うと、マケマが持って行ききれなかった食器を持って厨房へと片づけの手伝いをしに行った。



「じゃあ、僕たちも部屋に戻ろうか。」

「そうだな。お湯も後で持ってくるっていうし、それまでは明日何するか決めようぜ。」


 マケマとマレーが食堂からいなくなるとブレイとシブキもその場にとどまる理由もないので食堂から自分たちの部屋へと戻っていった。



―――――



 ブレイとシブキは部屋に戻ると、翌日以降の予定を決めようと思っていたのだが、思った以上に多くのことがあったたためか、気が付けばこの日の村を出てからことを振り返っていた。


「にしても、村の外ってこうなってたんだな。俺が思っていたよりもいっぱいの人がいて、街道を歩いていると魔物がいて、俺が知らないことばかりだった。聞いていたことを実際に自分の目で見るとこんなにも違うんだな、」

「それはそうでしょ。僕たちが見たこともない、聞いたこともない未知がこの世にはいっぱいあるってお爺ちゃんも言っていたしね。」


 ブレイもシブキに同意するかのように自分の考えを言った。


「そりゃあ、ブレイは()()()()()()()()()()()()()()()()()んだし、もしかしたら外の世界のことを知っていてそう思うかもしれないけどさ。…そういえば、村の外に出て何か()()()()()()()()()()()?」


 ブレイの意見について大人っぽい解答をしてきたことで拗ねたような返事をしたのだが、シブキは思い出したかのように唐突にそう聞いてきた。


「ううん、全然。今でも確かに過去のことを思い出せないことは気にかかるけど、それでも今は特に困っていないんだし、いつかは思い出せるといいなって思うけど、急ぐ必要もないんじゃないかな?」


 ブレイは思い出せないことについて事も無げにそう言った。すると、


(………い…え、……早……、記憶……を……取……戻し……い。時……残…て……ん。)


 ブレイの頭に突然どこからか、聞いたことがあるような、ないような懐かしくも思えるような、そんな不思議な声が聞こえた気がした。

 

「…え、シブキ、何か言った?」

「ん? 何も言ってないけど、どうかしたのか?」

「ううん、僕の気のせいみたい。」

「そうか? 実は疲れてたりするんじゃねえか? 無理すんなよ。」



 シブキはブレイが疲れているから何か聞こえた気がしているのかと思い早く休むように言い、ブレイは先ほど聞こえたかもしれない声はシブキの言う通りかもしれないと思い気のせいだったと思うようにした。


「まぁ、お前が疲れるなんてことはないと思うけどな。」

「確かにね。僕も不思議に思うよ、この体については。」


 ブレイとシブキはブレイの体が疲れを感じることはないということについて話していた。


「お前は会った時から本当に何も()()()()()もんな。傷を負うことはあっても治らないことはないし、体を動かしても全くと言っていいほど疲れない。けど、どんなに訓練しても筋肉はついていないように見えるけどな。」


 シブキはブレイの体について、ブレイが村に住み始めてからシブキが見てきて感じていたことを伝えた。そして、ブレイはシブキにそう言われて出会った時のこと、それからの村でのことを思い出していた。





 ブレイとシブキがあったのは約5年前のことだった。ブレイもどうしてそこにいたのかはわからない。気が付くとブレイは湖の近くの林にいた。体中に怪我を負い、今にも死んでしまうかもしれない、それほど酷い状態だった。そしてなんとか開く片方の目で辺りを見渡した。


(体が動かないな…。にしても、ここはどこだろう? 体にも違和感しかないし、何も思い出せないし…。)


 ブレイはその場で仰向けになったままの今の状態についても思い出せず、また、自分一人でこの場にいても治癒の見込みもなければ人の姿も見当たらないので治療を受けられるわけでもないことだけはわかり途方に暮れてしまっていた。



(どうしてこんなに痛いと思うのに冷静でいられるんだろう…。)


 ブレイはそう思いながら青空が広がる空を自由に飛び回る2羽の鳥たちをぼうっと見ていた。



「おい、大丈夫か!?」


 どれくらいその状態でいたのかわからいが、不意にそのような声が聞こえてきた。動かない顔を頑張ってそちらに向けようとすると、


「無、無理すんなよ! え〜と、こんなときどうすればいいんだよ…。そうだ! 薬師の爺ちゃん呼んでくるから待っててくれ! それまで死ぬなよ! 絶対だぞ!」


 ブレイに対してそう言っていた少年の声は段々と遠ざかっていた。ブレイもおそらく彼は村の人に連絡をしに行ったのだろうと思った。そして、初めて見るあまりにも酷いその光景に動揺していたのでブレイの返事を一切待つことはなく走って戻ったのだろう。


(まぁ、声は出せそうにないから返事はできなかったと思うけど。)


 ブレイはそう思いながら少年が村の人を呼んでくるのを待った。




 体の痛みのせいでどれほど経ったのかわからなかったが、遠くから先ほどの少年の声に加えていくつかの知らない人の声が聞こえてきた。。


「こっちだよ、こっち!」

「年寄りをもっと労わらんかい。これでも走っておるじゃ。」

「それにしても本当にこんなところに村で知らない少年がいるのか?」

「俺の言うことが嘘だっていうのかよ!」

「そうは言ってないが。しかし、儂の村で、だが、こっちは…。」

「まぁまぁ、行けばわかることですよ」



 複数の足音は次第にブレイに近づいてきた。


「ここだ!」


 先程少年の声が聞こえたのと同じくらいの距離まで近づいて少年が叫んでいた。


「なんと!」

「これは重症じゃぞ!早く治療しなければ…!」

「まずはどうすれば!?」


 ブレイの近くまで走り寄ってきた複数の大人たちの声も少年から遅れて聞こえてきた。ブレイはその声に反応して体を動かそうとしたのだが、ブレイの傷ついた体は言うことをきくことはなくピクリとも動かなかった。


「…あっ、……う…。」


 せめて声だけでも発して状態を伝えようと思ったが喉に焼けるような激しい痛みが走り、口からは意味をなさない音が微かに漏れただけだった。


「無理にしゃべらんでもいい。それにしてもこんな状態で意識があるとは…。」


 お爺さんはそういうと、ブレイの体を診始めた。


「すまんがそこの泉から水を汲んでこの桶に。体を拭いてやらねば診れるものも診れんわい。それにしてもこやつは男か女か? 血だらけでわからんが髪も長く女子のような顔じゃが、違和感があるの。」


 お爺さんはそう言ってブレイの下半身の確認をしようとすると、


「もう、わからないんだったら失礼なことはしないでくださいな。私が体を拭いて確認をします。あなた、水を汲むのお願いするわ。」


 女性はそう言ってブレイの体を触ろうとするお爺さんを止めていた。



 男性―女性の妻が水を汲んでくると、その桶の水にタオルを付けてブレイの体は拭かれた。そして、そのまま体中に付着していた血液が軽く拭かれたことにより、女性に性別がわかるようになった。


「この子は男の子ですよ。こんな顔をしていますけどね。それでもかなり重症のようです。それに拭いたことでわかりましたが切り傷や擦り傷が至る所にあります。幸い体に残りそうな傷はほとんどないと思いますが…。それで、治癒魔法か回復魔法、どちらかを使いますか?」


 女性はブレイの体の状態を目視でできる範囲の確認を終えると、あまりの怪我の深さ・多さにそのように質問をしていた。


「うむ、状態はまだ儂にはわからんが本格的な治療までもつかわからんので回復魔法だけでも頼む。これほどの状態で意識があることが奇跡的じゃが、治癒をさせるほどの体力があるかもわからん。」


 そうお爺さんが言うと、女性は魔法陣を展開して回復魔法をかけ始めた。




 この世界において治癒魔法と回復魔法は似て非なる魔法である。

 

 そして、そもそも魔法とは何か。

 

 この世界において魔法とは生物の体に内包された魔力、自然界にあふれる魔素に干渉して引き起こされる超常現象である。そして、魔法と一般的に言われているが、段階的に魔術・魔法・魔導という順に高位になっている。

 

 魔術は呪文の詠唱を用いて決められた現象を引き起こすことである。簡単に言えば、魔力や魔素をただ使うだけなのだ。そのため初心者で魔力や魔素への干渉の仕方を覚えれば使えるようになる人は多い。ただし、必要な魔力を持たないものは発動をすることもできないので、どういった属性の魔力を持っているのか確認をするのにも使われたりもしている。

 

 魔法は呪文の詠唱は必要なく、その代わりに引き起こす現象を正しくイメージし、必要な量の魔力・魔素に干渉して引き起こすのだ。魔法では、魔法陣の展開が自動で行われてしまう点で魔術よりも隠密性に欠けるという点もあるが、魔法を自由に扱うことができるのでその使い道は魔術よりも広範である。また、不思議なことに魔方陣は個人ごとに異なっているのでその点も研究されていたりもする。

 

 そして、魔導とは魔法陣の展開もなければ呪文の詠唱も必要なく、自然体で魔力や魔素に干渉して引き起こす現象である。魔導ともなればイメージをそのままの形で引き起こすのでより自由に魔力や魔素による減少を引き起こせるのだが、そこまでの修練を積める者はほとんどいないと言われているので使用者は極少数だと言われている。また、そのような人物がいたとしても国に囲われたりもしていて、魔導とは異なり個人の自由はなくなるとも言われている。。

 

 そしてその中でも治癒魔法は、術者の魔力を対象に働きかけることで対象自身の魔力や体力を基に内側から治療・回復する魔法である。

 

  回復魔法は、術者の魔力を対象に働きかけることまでは同様だが、効果は、術者の魔力を対象の体力や魔力に変換することで外部から治療する魔法だ。

 

 どちらがいいかと言われると場合によるのだ。回復魔法は発動までの時間もかかり、対象によっては抵抗されることもあるのだが、外部からなので思うように治すこともできる。しかし回復魔法は術者の魔力を大量に使用するのでそう何度も使用できるものでもない。

 

 一方、治癒魔法は対象自身の内側の体力や魔力に働きかけているので抵抗はほとんどないのだが、対象が瀕死であればあるほど回復の見込みも低いのだ。

 

 かつて、重傷者に治癒魔法を無理やりかけてそのまま死なせてしまうこともあったので、これらの魔法は覚える際にどういった人にどちらの魔法をかけるべきか厳しく指導されたほどだった。

 

 今回の場合、対象であるブレイに意識はあったので見た目より酷くなく治癒の見込みもあるかもしれないのだが、それでも重症に見える状態だったので念のため回復魔法がいいとお爺さんは判断したのだ。

 

 

 回復魔法が発動し、ブレイの体に走る痛みが少しずつ和らいでいくと、



「うっ…、私にはもう限界です…。」


 女性はそう言って魔法の行使を止めた。


「む、それほどか?」

「はい。私ではこれ以上魔力がもちません。意識があるのがおかしいくらいの重症です。むしろ生きているのが不思議なくらい。そして、それほどの重症なのに彼の体力が減っていないようにも感じられました。そんなことはないと思いますが…、ですが、そのように…。」

「ふむ…、そうか。お前さんがそんな嘘をつくとは思っておらんし、お前さんの回復魔法を信用しているからそういうこともあるのじゃろう。ここからは薬師である儂の出番じゃ。坊主、口を開けてくれ。」


 お爺さんはそういうとカバンから緑色の液体の入った小瓶と青色の液体の入った小瓶を取り出した。


「これは儂が調合した回復薬と傷薬じゃ。傷薬は飲むやつを持っておったからちょうどよかったな。これで体内にも効くはずじゃ。」


そう言って小瓶の蓋を外しブレイの口元に持って行った。そして、ブレイも震えさせながら口を開くと液体が口の中に入ってきた。口に入ってきた液体はとても苦く、思わず咽そうになり吐き出しそうになったが口を抑え込まれ、


「ちゃんと飲まんと効果がでんじゃろう。」


 お爺さんに無理やり液体を飲まされた。そして、飲んでから少しすると不思議なことに喉の痛みはなくなっていき体の痛みもほとんどなくなっていた。


(あり…、あ、あれ…?)


 治療をしてもらったお礼を言うためにブレイが口を開こうとするが、体から段々と力が抜けていき、さらに瞼も落ちていってしまった。



「ふむ、薬も効いてきて眠ったようじゃな。」

「もう大丈夫なのか、こいつ?」


 手伝えることもなく、邪魔をしないようにと男性に抑え込まれていた少年は、治療を終えたお爺さんにそう質問をした。彼は自分が見つけた重症の相手だったのでかなり心配をしており、本当にもう大丈夫なのか不安だった。


「うむ。この状態でしばらく儂の薬を飲んで寝ておればよくなるはずじゃ。」

「そうか、よかった。」


 少年は安堵したようで力も抜けその場に座り込んでしまった。


「しかし彼はいったいどこから来たのでしょうね。ここに来るためには村を通り抜けるか、反対の崖を上るしか方法がないはずだわ。」

「うむ。それはこの少年が目を覚ましてからじっくり聞けばよいことじゃ。さて、帰るぞ。儂の家でしばらく預かるから儂の家まで運んでくれ。」

「お、俺が背負って行くよ!」

「シブキじゃ危ないから私が抱っこしていくわ。落としたら大変でしょう?」


 そう言って女性はシブキが背負おうとするのを止めて、ブレイを優しく抱き上げて連れて行ってしまった。


「あ〜っ! もう、俺でもそれくらいできるのに…。」


 シブキはそう不満を漏らしたが、女性が―彼の母親が運ぶ方が安全だということは確かなのでそれ以上文句は言わずに後ろから着いていくのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございました。


この章の終わりにこの物語の設定のまとめ、登場したキャラクターについても人物紹介を載せておく予定です。


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