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3.宿屋と初めての町長宅

「そういえばお姉さんの名前はなんていうんですか?」


 ブレイとシブキは案内をしてくれるといって彼らの前を歩いてくれている宿屋の女性に対してそう質問をした。


「あ、いけない。まだ自己紹介もしていなかったね。私は“蜜蜂の巣”でお父さんたちの手伝いをしているマレーだよ。これでも今年で17歳になるんだよ、よろしくね。」


 女性はマレーと名乗り簡単に自己紹介をしてくれた。


「よろしくお願いします。僕はブレイと言います、そしてこっちが、」

「シブキだ、よろしくな! マレー姉ちゃん!」


 ブレイとシブキも名前だけ伝えた。シブキに至ってはいきなり姉ちゃん呼びをしており、初対面の人に対してこれでいいのかと思ってしまった。


「ブレイ君とシブキ君ね。そういえば2人はどうしてこの町に? この辺りで見かけないからこの町の子じゃないよね? もしかしてそろそろ精霊祭があるからこの町に? あ、でもそれなら親御さんも一緒に来るはずかな…。」


 マレーはどうしてこの町に来たのかという質問をしてきたのだが、自分の推測なども含めて思いつくがまま聞いてきた。この時期に訪れる余所者だから推測の一部は間違いではないが、親御さんというところは普通に考えればそう考えてもおかしくないことだったが、今回は特殊な例ということで当てられるわけはないだろうと思っていた。



「え〜と、僕たちはライラックから来たんですけど、今回の精霊祭で使う祭祀道具を届けに来たんです。それと同時に他の村からも届けてもらったものを村に持って帰るっていうお使いも含まれていますよ。それと今回は僕たち2人だけです。」


 ブレイは今回コクリコに来た理由は精霊祭関係のお使いである旨を告げると、マレーは納得をしたような様子だったが、2人で村から町まで来たと聞くと驚いて、


「本当に!? 子供だけで村から町まで来るなんて危ないじゃない! ライラックはそんなに今は人手が足りないの? 冒険者ギルドで護衛を雇った方がいいんじゃない?」



 マレーはブレイとシブキの2人で来るのは危なかったんじゃないかと心配をして帰りには護衛も雇った方がいいと言ってきた。確かに一般的にこの年で村から町までのお使いを頼むというのはよっぽどのことじゃないとおかしいのだろう。しかし、今回は村長からシブキを見極めるいい機会ということでお使いを頼まれているのだが、それをどう説明したものかと思っていると、


「大丈夫だよ、俺とブレイなら! それに、道中じゃあ俺たち2人でゴブリンを4体も討伐してきたんだからな! スゲーだろ!」



 シブキは魔物を2人でも盗伐できたんだと自慢をしていた。誇らしげにシブキは言っているのだが、10歳ほどの少年2人が魔物を討伐して町まで来たと聞いてまたもや驚いてしまい、両手で抱きかかえていた食品の入った袋を落としてしまった。



 ブレイは目の前で落ちていく袋に反応できたので、すかさず一歩大きく踏み出してそれを受け止めるように手を出すと、間一髪地面に落ち斬る前にその袋を受け止めることができた。



「危ないですよ、ちゃんと持っていませんと。」


 ブレイは荷物を落としてしまったマレーに対してそう指摘をすると、


「あ、ごめんなさい。ありがとう…、じゃなくて、ゴブリンをた、倒してきたの…? こんな子供2人で…?」


 マレーは自分よりも幼い少年2人が討伐してきたとは信じられないという反応を隠しきれていなかった。


「おう! 俺たちこう見えてもやるんだぜ!」


 シブキは背負った武器をアピールしながらマレーにそう告げた。


「最近の子供はすごいんだね…、っと、ここだよ。宿の看板もランチの看板も目立たなくてすみません。こんなところに建っていてあまり大きな宿じゃないけど、私の家だし自慢の宿だよ。」


 マレーは宿屋に着くとそう言いながら紹介してくれた。



 “蜜蜂の巣”は人通りの多くない住宅街と商店の裏手辺りという、どうしてこんなところにというような立地で目立たないところにあるが、宿の外を見ると細かいところまで手入れが行き届いているきれいな建物だった。また、植木鉢があちこち飾られていたり、塀で囲まれた奥には広い花壇や木箱も設置してあった。


「ここが宿なんですね。案内をしていただいてありがとうございます。」


 ブレイは案内をしてくれたお礼を言いながら先程キャッチした荷物を返した。


「あ、ありがとう。拾ってもらってから受け取るの忘れていたね。それじゃあ、中に入ってよ。小さなところでだけど、部屋は空いているはずだから泊まれるはずだよ。」


 そう言いながらマレーは荷物を受け取り宿の中に案内をした。




「お父さーん、帰ったよー! それと、お母さん、宿の方にお客さん連れてきたよー!」


 マレーは帰るなり大きな声で呼びかけると、


「少しは静かにできないのか? ああ? っとに、いくつになっても子供なんだから。」

「まぁまぁ、元気なんだからいいじゃない。あ、いらっしゃいませ。え〜と、僕たちがお客さんなのかな? お父さんやお母さんはどこかな?」


 マレーの父親と思われる人は宿の奥の厨房からマレーに対して大きな声尾を出すなと注意をしただけだが、母親と思われる人は奥から出てきてブレイとシブキを見るなり、保護者はどこにいるのか尋ねてきた。


「はじめまして。ブレイと言います。今回は僕たちだけでこちらに泊めていただきたいんですけど、大丈夫ですか? 村の人たちからこの宿が穴場でおすすめと聞いてきたんですけど。」


 ブレイが2人で来たことと泊まることが可能か聞くと、


「あら、まぁ! こんな小さな子2人で村から来たなんて信じられないわねぇ。 でも、分かったわ。幸いにして部屋は空いているところしかないから泊まることはできるわよ。ちゃんとお金はあるかしら?」


 マレーの母親はブレイの言ったことは半信半疑であったけれど、とりあえず後で詳しい話を聞くことにして宿屋としての本来の業務を優先することにしてくれた


「はい、村長から宿泊費とお使い用の代金をいただいていますので大丈夫です。ちなみに代金はいくらになりますか?」


 ブレイはお金を持っているから心配はいらないと告げたが、料金表がなかったので宿泊にかかる費用について質問をした。


「あら、そういえば料金がわかりにくいって言われていたわね。うちは、夕飯と朝食込みで1シルバー(S)よ。娘にも安いって言われているけれど、夕食も朝食も自家製の物がほとんどで費用はほとんどかかっていないし、部屋も2人くらいずつしか入れないからこれくらいでもいいと思うのよね。ほとんど趣味でやらせてもらっているお店だからね。」


 マレーの母親はそう言ってくれたのだが、朝食も込みで1(S)というのは破格なのでブレイとシブキにしても是非ともこの宿に泊まらせていただきたいと思った。


「それでは数日程よろしくお願いします。代金は先払いですか?」

「いえいえ、後日まとめてお支払いで大丈夫ですよ。予定より長くなったという人もいてその分も後から生産というのだと二度手間で大変でしょう? だからうちの宿ではここを出る時に払ってもらっているの。あ、でも夕飯や朝食で別途注文をしたときはその時にお支払いをしていただくわ。」



 そのように注意事項を説明してくれると、カウンターのところでガサガサと何かを探し始めた。ブレイとシブキは何を探し始めたのか気になって顔を見合わせていると、



「あったわ、これに名前を書いてちょうだい。最近は泊まりに来る人がほとんどいなくて台帳をどこにしまったのか忘れちゃって。名前は書けるかしら? 書けなければ代筆もするけれど。」

「大丈夫、俺たちは字を村で習っていたから書けるぜ!」


 先程まで会話を任せっきりにしていたシブキがそう返事をしすると、台帳を受け取って名前を書き始めた。村ではいろいろと教育を受けているブレイとシブキなので問題はないが、普通の人の識字率はそこまで高いわけではないのでこうして字を書けない人の代わりに書く人もいるのだ。また、それを仕事としている人もいるという話もあるほどだ。


「あらあら、いいとことの坊ちゃんなのかな。え〜と、シブキ君とブレイ君でいいんだね?」

「「はい。」」


 2人が台帳に書いた名前があっているのか声に出して確認をしてくれた。これで字に誤りがあっては台帳に書いた意味がないからだ。



「はい、じゃあ、これが101号室の鍵よ。マレー、2人を案内してあげて。2人も部屋にその荷物を置いたりしたら、そっちの食堂にきたらどうかしら? 2人だけでここまで来た理由も聞きたいわ。」

「夕食の時でよろしければお話しますが、まずは町の中も見て回りたいのでその後でもいいですか?」


 ブレイはこのお使いについての話をするのは吝かではないとは思うのだが、先に丁野町のところへ挨拶もしておきたいし、時間に余裕があれば先ほど話していたように屋台も見て回りたいのでそのように言った。


「わかったわ、じゃあ坊ちゃんたちのお話楽しみにしているわ。マレー、後はよろしくね。」


 マレーの母親は、マレーにブレイとシブキを任せると厨房の方へと向かった。





「それじゃあ、2人とも部屋に案内するからついてきてね。」


 マレーは母親から鍵を受け取ると、ブレイとシブキに声をかけ階段を上がり部屋へと案内をしてくれた。


 2人は案内された部屋に入ると一息ついた。


「やっと一息付けるな。それにおばちゃんもだけど、思ったよりいい宿でよかったぜ。」

「そうだね。優しそうな人たちでよかったよ。それで、この後のことだけど、武器を持ったまま行くのはダメだろうし、今町長のところに行くのに不要なものは置いてから行くことにしない? この宿なら盗られる心配もないと思うんだ。」


 ブレイは荷物を軽くしてから町長を尋ねることを提案した。本来ならば宿に武器を置いて行ったりすることはしない方がいいとされているのだが、今回尋ねるのは町長のところということで武器を携帯して尋ねるのは無礼だろうと思ったからだ。


「え〜…。でも…まぁ、仕方ないか。武器なんて持って行ったら危ない奴って思われるかもしれないな。それなら持って行くのはお金と“精霊の花冠”だけでいいか?」


 シブキは武器を置いていくことは渋々ながらも了承をしてそう言ってきた。ブレイもさすがに街中で、しかも町長という立場の人に会うのに武器を携帯しているわけにはいかないか、と考えたらしい。


「そうだね。今回は時間があるわけでもないし、町の中を探検するわけでもないから、それで十分かもね。」


 ブレイはそう言って部屋の隅の方にリュックサックから要らないと思われるものを抜き、花冠が入った収納袋を取り出した。



 この収納袋は、村には3つしかない貴重な錬金魔道具である。錬金魔道具は、錬金術を生業にしている錬金術師や、”古代文明具”(オーパーツ)とされる錬金釜によって作ることができる。錬金術師による錬金道具の作成は、学園や師匠から勉強をする、または、専門書を個人などで読み解いていき、魔力を自在に操れる人が作れるとされており、少数の人たちで行われている。


 一方、錬金釜による作成は素材と魔力さえあれば誰でも作成できるという優れた魔道具だが、発見され報告をされた錬金釜は世界でも5つしかなく、かなり高額で取引をされたとされている。しかし、誰でもできると言ったが、作成をするのに魔力がかなり必要とされていたり、1人の人が使用登録をすると他の人が使えなかったりと、かなり癖の強い魔道具である。


 今回ブレイとシブキは村長から花冠を無くさないようにということでこの収納袋に入れた状態で預かっている。そしてそれをブレイのリュックサックに入れて運搬をしていた。


「よし、それじゃあ早速行こうぜ! 早く行けばもしかしたらそのまま町長と会えるかもしれないだろ?」

「むしろ町長はこの時間なら仕事中かもしれないから会えないかもよ?」

「うっ、そうかもしれないが…、まぁ、と、とにかく行こうぜ!」


 シブキは荷物を持つとそのまま先にドアから飛び出て行ってしまった。ブレイもそんなシブキに置いて行かれないように必要ないと判断したものはリュックサックから取り出して部屋を後にした。



「それじゃあ、マレーさん、少し外に出てきます。夕飯までには戻ると思いますので。」

「はーい、わかったわ。気を付けて行って…、って、あれ、さっきは剣も背負ってなかったけ?」


 マレーはブレイとシブキを見送ろうとしたが、先程まで装備していた剣が無かったので疑問に思ったようだ。


「これから行くのは町長さんの家なので剣を持って行くのは危ないかと思ったので部屋において行かせていただきました。」

「そういうことね、わかった。それなら部屋の物が盗られないように見ておくから安心して行ってきてね。」

「ありがとう、マレー姉ちゃん!」

「ありがとうございます。」


 ブレイとシブキはマレーにお礼を言って、宿屋を出て行った。




 町長の家に行くのは、歩いても40分程で着くので見慣れない街並みをゆっくり見物しながら向かった。


「ここはコクリコの町長の家だ。子供が遊びに来る場所ではないぞ。」


 町長の家に着くと、門番をしていた兵にそう言われた。大きな町ではないため1人で門を見張っているようだが、それでもかなり強そうな男性と感じ取れた。


「すみません、私たちは町長さんのところへお使いを頼まれてきました。用件はライラックからの精霊祭の祭祀道具の取引です。」


 シブキが珍しく丁寧な言葉づかいで門番の対応をしていた。シブキも村長や母親から礼儀作法は嫌々ながらもしっかりと習っていたので、時と場合によってはしっかりとした言葉遣いをできるようになっているのだ。


「むむっ、そうか。それならその証拠を見せてもらえるか?」

「はい、こちらになります。」


 シブキから促されてブレイは収納袋から1つだけ“精霊の花冠”を取り出し門番に確認をさせると、


「ふむ、どうやら本物のようだな。それではここで少し待っていてくれ。中で対応を聞いて来よう。」

「ありがとうございます。時間の都合がつかないのであれば後日また尋ねようと思っていますので。」

「はははっ、子供が気を使うもんじゃない。あの人も精霊祭は楽しみにしているし今もそれ関連の書類を見ているはずだ。祭祀道具が届いたならすぐに対応してくれるさ。」


 そう言って門番の人は家の中へと入っていった。


「門番の人はなかなか話しやすい人だったな。」

「そうだね。あれだけ親しみやすい人なら町長さんも難しい人じゃないかもね。」


 シブキとブレイはそんなことを話していると、


「お待たせしました。今町長は忙しいので私が案内をします。こちらへどうぞ。」


 中からはそこそこ年を取っていそうな男性が迎えてくれた。門番も彼の後ろから出てきて手を振って歩み寄り、門を開けてくれた。ブレイとシブキは許可をもらえたので、門番に開けてもらった門をくぐり、軽く会釈をしてからそのまま中に入っていった。


ここまでお読みいただきありがとうございました。


また次話もよろしければお読みください。


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