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1.お使いと初めての戦闘

今回は少し長くなってしまいましたが、よろしければお読みください。



 天気は快晴、青空が広がり雲もなく、心地の良い風が村に吹いていた。風に吹かれる木々には葉が生い茂り、きれいな花を咲かせているものもあった。


「それじゃあ行ってくるね、お爺ちゃん。」



 少年は玄関口でそう声をかけてリュックサックを背負い、お爺ちゃんと2人で住んでいる小さな家から出発しようとしていた。


「おお、もうそんな時間か。忘れ物はないか?」

「大丈夫だよ、お爺ちゃん。ちょっとそこの町まで行くだけだし、この前もらった剣もちゃんと持ってる。それと、この村から持って行く道具もね。」

「そうか。それなら問題はないな。あの聞かん坊の面倒を頼んだぞ。お主でなくては手綱をうまく握れんだろうからのう。」

「ははは…、面倒を見るなんて自信はないけど、余計なことをしでかさないかは見張っておくよ。」


 彼はそういうと、家に残るお爺ちゃんに手を振りながら家を出て行った。



 ここは、ライラックの村。人口は50人にも満たない山々に囲まれた小さな村。特に何か名産品があるというわけでもない穏やかで静かな村だ。


 そして少年の名は、ブレイ。今年11歳になる少年だ。彼の身長は135㎝程で、そこまで大きいわけではない。そして、彼の髪は村でも珍しい白髪だ。肌も色白で女性のようにほっそりとした体つきである。



「おーい、ブレイ、遅いぞ!」


 ブレイが家を出て、村の南門まで駆けて行くと彼よりも身長も大きく、筋肉質な体格の少年が待っていた。

 


 彼の名前はシブキ。シブキは村長の家の息子で、村長の家の家系は全員がダークブラウンの髪で、彼もそれに反しない髪色だ。他の村人たちは基本的に黒や明るい茶髪なので髪の色が違う彼の一家やブレイは目立ってしまうことが多い。


 シブキの夢は村を出て大冒険をして物語や舞台に出てくる英雄になることだ。彼が目指そうと思ったきっかけは、過去にこの村で行われた旅の一座の演劇を見たからだ。

 

 そしてそれ以降その物語の英雄に憧れ体を鍛え、この村を出て冒険をしたいと言い続けている。村長は村の代表者としてはそんなことは認められないと何度もシブキと口論をしているが話は平行線になることが多い。そして、その度にブレイは村長からシブキに考えを改めさせるように言われてげんなりしている。


 

 そんなシブキとブレイは、近々村で行われる予定の“精霊祭”の準備の手伝いをするために近くの町、“コクリコ”に行くことになっている。

 

 精霊祭とは、この近辺の村々で行われている祭りで、今は姿を見せなくなってしまった精霊たちに対して過去の過ちを謝罪し、感謝の気持ちを伝えるという祭りである。

 

 

 そして、その祭りの中では“精霊の舞”を行うことになっていて、毎年各村で選ばれた精霊の巫女としての役割を担う少女という者がいる。


 その少女たちは祭りの中で特別な衣装を着て、各精霊たちに祈りをささげるのだ。


 今回このライラックの村で選ばれたのは、村長の娘でシブキの妹あるアネモネだった。

 

 アネモネはブレイと同じ10歳で、長いダークブラウンの髪をもつ小柄な少女である。彼女はシブキと違って大人しく、控えめなところもあり今回精霊の巫女として選ばれたことにも恐縮しきっていた。舞を本番に失敗しないようにと朝だけではなく、日が落ちても何度も繰り返し練習をしている姿をブレイは見かけている。

 

 

「おーい、ブレイ!早く行こうぜ!」


 ブレイがシブキに声をかけられてもゆっくりと歩いて彼のもとへと向かっているのでしびれを切らしたように急かしてきた。


「もう、シブキは少しぐらい落ち着いて。このお使いは時間に余裕があるんだし、ゆっくり行こうよ。そんなに焦ってもあまりいいことはないんだよ?」

「けど、せっかく村から出る機会を得られたんだぜ? これが落ち着いていられるかってんだよ。」


 ブレイはそわそわして落ち着きのないシブキを窘めたのだが、シブキは落ち着くどころかその興奮を抑えられないという様子だった。


 ライラックでは、子供のうちは勝手に村の敷地から外に出ることが禁止されている。坂を下ったところまでなら採取のために出てもいいとされているが、それでも大人と一緒でないといけないとされている。


 また、精霊が過去にいたとされている小さな湖が村の北側にあるが、そのあたりにも行くことはできる。ただし、北は林と小さな湖はあるもののその先は切り立った崖となっており、危ないので滅多なことがない限りは林の奥まで行かないようにと言われている。


 ちなみに精霊祭はこの村の北側の林の手前にある広場で行われることになっている。村の敷地の外にはなるが、少しでも精霊の近くで行うのがよいと考えられているためそこで行われるのだ。


「はぁ…、怪我しても知らないからね? それに、もし、怪我をして外の魔物に後れを取るって判断されたら村を出ていくっていう夢も困難になると思うからね。」


 ブレイはどうなっても知らないからという諦めたようなウンザリしたような様子でシブキにそう言った。シブキはそんなブレイの言葉を聞いて、


「確かにな。でも、ここらに出るっていう魔物はそんなに強くないし、俺たちでも十分倒せるだろ? だから俺たち2人だけで町まで向かっていいって許可が出たんだし。」


 シブキはブレイの指摘に確かにと納得しつつもそう反論をした。そして、そんな風に言ってくるシブキの言葉にブレイはこのお使いを頼まれたときにシブキから隠れて村長から伝えられていたことを思い出してしまった。



『よいか、このことはあのバカ息子には話すんじゃないぞ? 今回は村で手伝えることは少ないし、狩りで男どもが出払っているからお前たちにお使いを頼むと言ったがそれは建前じゃ。シブキが今回のお使いでちゃんと魔物に対処して問題がなく帰ってくることができれば少しはシブキが言っておる冒険についても考えてもやらんと思っておる。

 そのためにもブレイ、しっかりとシブキのことを採点してやってほしい。そして、その結果を後で儂に伝えてくれ。あいつが話すのは個人的な体験になるじゃろうし、第三者から見た意見を聞きたいのじゃ。

 お前さんはシブキの近くにいることも多く、あいつもお前さんの言うことぐらいはしっかりと聞いてくれるはずじゃ。よいか、このことことはシブキには内緒じゃ。くれぐれも無茶はしないで帰ってくるんじゃぞ?』

 

 ブレイは村長も素直じゃないないんだからと思ったが、シブキが冒険に出るために必要な試験だということなので落ち着いてほしいと思った。



「ん? どうしたんだ? 急に黙り込んで。」

「いや、何でもないよ。とりあえずシブキは外に出れることで浮かれ気味だけど、お使いなんだし安全に行こうよ。こっちの村から持って行くものもそうだけど、壊したりしたら大変だからね。」

 

 ブレイは、村長からはシブキに伝えるなと言われているので、思い出していた話については伝えず、評価をする側として安全に行けるようにと思ったことを進言した。



「そうだな。アネモネの衣装が傷ついていたら泣いちまうだろうし、気を付けていかないとな。よし、出発しようぜ!」



 シブキはブレイの言うとおり、頼まれたものを壊さずに届けて持って帰ることが大事だということには納得したようで少しは落ち着いてくれたようで、ブレイに出発の旨を告げた。


 ブレイもこれなら少しは大丈夫だろうとシブキの後に続いて南門を出た。



――――――――――


 

 南門から出て坂道を下り、ブレイとシブキは魔物が出てこないか周囲に気を配りつつ街道を歩いていた。



「なんだか拍子抜けだよな。思ったより何にもなくて退屈だぜ。」


 歩き始めて数時間が経ち、村を出てからあまり代わり映えのない景色を眺めながら進んでいるとシブキはそんなことを言い始めた。



「シブキはそういうけど、僕は魔物には襲われたくないからこのままでいいと思うよ。安全第一に進まないと。」

「けどよ、やっぱり魔物とかと戦いたいじゃんかよ。冒険に戦いはつきものだろ?」

「僕たちが今日村を出ていいのはお使いのためであって、狩りや魔物との戦闘ためじゃないんだからそういう文句を言わないでよ。それに僕たちじゃそんなに強い魔物が出てきたら勝てないよ? 確かにこの辺りに出てくるのは弱い魔物が多いっていうけど最近異変が多いみたいだから気を付けないと。」



 シブキは魔物と戦いたくてうずうずしているようだったが、ブレイは戦いをしたいとは思っていなかった。生き物を殺すことに忌避観があるわけではないが、不要な争いはしたくないのだ。



 また、村長から聞いていた話とお爺ちゃんやほかの村の人が


「最近現れる魔物が少し強くなっていたり、あまり見ない魔物が現れるようになっているって噂があるぞ。」


と、言っていたのだ。そのことからも魔物との遭遇を極力避けて無事に町まで行って、村まで帰ることができればいいと思っている。



「大丈夫だって。俺たちも武器を振り回して使い方を覚えたし、実践でもうまくやれるはずだって。ブレイは心配しすぎなんだよ。もっとどっしりと構えていかないとな。」


 シブキはそう言って近くに魔物がいないか探しながら進んでいった。



 シブキは〈大剣Ⅰ〉の〈技術(スキル)〉を持っている。これは武器が大剣に分類されるものを装備して一定以上の熟練度があると手に入るものである。シブキは背に大きな大剣を背負っており、ブレイとの訓練でも木製の大剣を使っている。


 シブキが大剣にこだわったのは村に来た、劇の一座が公演してくれた演劇の内容に出てくる英雄が大剣を使って魔物を倒して多くの人を救ったことに憧れたからである。



 そして〈技術〉とは、世界に個人がどういった技能を持っているか認められた証のようなもので、〈技術〉があれば行動に一定の補助も入るのである。


 〈技術〉にはⅠ〜Ⅹのレベルがあり数字が大きくなるほど熟練度が高いのだ。一定の熟練度に達することで進化する〈技術〉もあり未だに〈技術〉については不明なことが多い。


 一般にはⅠは見習いとされⅣまでは努力すれば辿り着ける。それ以上となると人並み以上の努力や才能と言われるものが必要だ。また、〈技術〉にはレベルのないものもあり、その違いは何かということが大きな町や国で研究もされている。


 シブキがもっている〈技術〉は〈大剣Ⅰ〉のみで、ブレイがもっているのは、〈気配察知Ⅰ〉、〈直観Ⅰ〉である。


 これらは、シブキとの稽古の間に身に着けた〈技術〉である。ブレイが武器技術の習得に至らないのは様々な武器を試して器用貧乏のような感じに陥っているからである。今回剣を買ってもらったのは使った中でまだしっくりくるのは剣だったというだけであり、確かにこれだ、と決めている武器はないのだ。


 また、ブレイが〈気配察知Ⅰ〉と〈直観Ⅰ〉を手に入れたのは力で劣るシブキに対して予測で行動をしていたことに由来し、相手の気配を感じ取り、なんとなくこう来るだろうと感じ続けているうちに手に入っていたのだ。




「っ!」


 しばらく歩いていると急にブレイは立ち止った。


「どうした、魔物か?」


 シブキはブレイが急に立ち止まり腰に下げている剣に手をかけたことから周囲の警戒を強めた。


「魔物かどうかわからないけど、この辺りで僕たちを狙うなら十中八九魔物だろうね。盗賊について村長は何も言ってなかったし。」

「そうか。」


 シブキは舌なめずりしながら魔物が出てくることを警戒しつつも、ようやく魔物と戦えるということに興奮していた。


 ブレイは自分たちに向けられた敵意を探るため目を瞑って辺りの気配に集中すると、


「あそこだ。あそこの木の裏の方から3体、いや、4体の気配を感じる。少数だけど群れているからゴブリンかな? 気配が希薄な奴はおそらくゴブリンアーチャーかな。それ以外は特に違いがわからないから普通のゴブリンかゴブリンソードマンだと思う。」



 ブレイは自分たちの右斜め前方にある草が生い茂っているところに生えている木の辺りを指さしながらそう言った。



「よし、それなら俺がアーチャー以外をひきつけるからアーチャーを先にブレイが倒しておいてくれ。」


 シブキはそう言うと背負っていた大剣を両手で抱えて戦闘の用意を始めた。



 ブレイはシブキの判断に従うということで、腰にあった剣の柄に手をかけたまま、草むらを大きな円を描くように移動した。また、その際に極力足音を立てないようにしつつ、背をかがめて気配を断つようにした。


 ブレイが目指していた昨日らをとれるところまで移動を終えると、シブキは大声をあげながらゴブリンに突撃していた。



「おらあああぁぁー!」


 シブキは昨日らに集まっていたゴブリンのうち一番近くにいた奴に大剣を上からたたきつけて、頭を打ち砕いた。


 ゴブリンも雄叫びを上げながら走ってくる少年には驚き不意を突かれたということでソードマンらしき1体は紫色の気持ちの悪い血を流しながら倒されてしまった。残されたゴブリンとソードマンの2体は近くに置いていた棍棒と粗末な銅の剣を手に取りシブキに応戦しようとした。


また気配を断っていたアーチャーも木の上から矢を弓につがえてシブキを狙っていた。


 

 ゴブリンたちの背後に回ることができたブレイにはそのアーチャーの動きも見えていたが、さすがに木に登って落とすことはできず、またアーチャーのように弓を持っていたわけではないので移動をしながら拾っておいた手ごろな石でアーチャーの頭部を狙った。



「はぁっ! おらっ! このっ!」


 シブキは大剣を振り回して棍棒と銅の剣を弾いていた。シブキの攻撃は一撃が重いぶん動作が大きく、2対1で立ち回ったことがないシブキはすぐには攻勢に出ることができていなかった。


 そして、アーチャーはそんなシブキの様子を見ながらタイミングを狙っており、何度か打ち合っている中で対応が遅れたときの大剣が大きく弾かれたその瞬間に弓を放とうとしていた。


(シブキは僕としか武器の打ち合いをしたことがないから2体同時は厳しいか…。でも、あのアーチャーのタイミングもわかりやすいし、そろそろ僕も任されたことをしないとね。)


 ブレイは気づかれないギリギリのところまで接敵して、弓で狙いを構えるその瞬間を待った。


 そして、自分が獲物を狙う側で相手に狙われているとは気が付かないアーチャーはシブキの大剣が弾かれたその瞬間、矢を放とうとした。


(今だっ!)


 ブレイは大きく手を振りかぶり、獲物であるシブキの隙に集中したその瞬間に後頭部めがけて石を投げつけた。




 ゴツンっ!



鈍い音が聞こえた。


 そして、後頭部に石を勢いよく当てられバランスを崩したアーチャーはそのまま木から落ちていった。


「せいっ、やぁっ!」


 ブレイは落ちてきたアーチャーに素早く駆け寄り鉄の剣を抜いて、その首を刎ねた。アーチャーは何が起こったかわからないまま紫色の汚い噴水のような血飛沫を上げた。


 ブレイは大きな血飛沫が上がるので素早く後方に下がり、その血を浴びないようにしつつ、剣をその場で払うことで剣に付着した血を払い飛ばした。




(よし、ブレイはうまくやったようだな。これでアーチャーもいなくなったし、こっちのこいつらに集中できるな!)


 シブキは大きく上がった血飛沫を見てブレイがアーチャーを討伐したことを悟った。


 そして、血飛沫が上がったことでシブキから目を逸らしてしまったゴブリンとソードマンに大きく詰め寄り2体を剣の腹を使って押し飛ばした。


「おらぁぁっ!」


「よし、お前らもこれで終わりだ!」



 急に押し飛ばされたことでソードマンはバランスを崩しよろめいたところを薙ぎ払われ、もう1体のゴブリンはそのまま払った剣を戻し、大きく振り上げて落としたことでその首から斜めに一閃。体はきれいに2つに分かれてしまった。


「よっしゃー! 俺たちの勝ちだ!」


 シブキは大剣を背負いなおして両手を挙げてそう言った。



「はぁ、油断大敵だよ。」


 ブレイは両手を挙げて喜んでいるシブキに駆け寄りながら鉄の剣を振り抜いた。


「え?」


 シブキはブレイに斬りかかられて間の抜けたような声を出した。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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