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運命の隷属  作者: 観月
第二章 運命は密やかに立つ
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協力者・7

「そ、ソリュード? とかいう商品名で売り出されたやつ。すっごく軽くて持ち運べるのが特徴」

 佐奈も広がった裾のなかから一台のソリュードを取り出す。

「京極印だ。洒落てるだろう? かなりスピードも出るんだぜ?」

 にやりと口の端を歪ませたのは怜生だ。

「京極邸を脱出したら、それで地下までいく予定です」

 柊が説明を買って出た。

「歩いていたら、時間がかなり掛かる。少しでもリスクを下げたいので。コロニーを出て地下に潜ってしまえば、こちらで用意した車が待ってます。後は私に任せていただきたい」

 柊の言葉を聞きながらも、侑眞は興味深そうに二枚の黒い板を眺めていた。

「へえ。これがソリュードかあ。僕これまだ試したことないなあ。へえ。ハンドル部分まで折りたたんで板状になるの?」

 などとしきりに感心しているが、一通りソリュードを眺め回すと、立ち上がって一同を見回した。

「うん。ちゃんと計画は立ててるんですね。これだったらいけそうだと思います。京極の警備は屋敷内に集中してるし、一度邸内に入った招待客が出ていく際にはさほど厳しいチェックはないはずです。それに、こう言ってはなんですが、ここまでこぎつけた以上京極としてはもう、昴さんにさほどの興味はないはずです」

 どういうわけかいつの間にやら侑眞までこの奇妙な探偵団の一員のような口ぶりだ。

 佐奈はもうすっかり警戒心を説いてしまったらしい。

「でしょでしょ?」と、得意気にしている。

「はい、じゃあさっさと入れ替わってしまいましょう!」

 侑眞は率先してその場を仕切始めた。

 柊の中で、鷹司侑眞という人物へのイメージが、かなりの勢いで塗り替わっていく。

 一族の後継を争う腹違いの兄と弟。

 兄を追い落とそうと張り巡らされる策略。

 どうしたって兄弟仲が良いはずがないと思っていたのに、こうしてみると、侑眞の方では兄に対して悪意を持っているようには見えない。和眞にしても、特に侑眞を疎んじているようではない。

 かといって、特に好意的にも見えないが、鷹司和眞という男は、これが通常である。誰に対しても、何に対しても、肩入れをしたり興味を示すという場面を、柊は見たことがない。

 それは、彼自身についても同じであるように思えた。

 誰と婚約させられようが、自分が粗末に扱われようが、まるで他人事のように、無関心だ。

「あなたは……」

 柊は小声で侑眞に声をかけた。

「なに?」

 侑眞は、和眞を幼くしたような顔で、くるりと柊を振り返る。

「あなたは和眞様と、鷹司家の後継を争っていらっしゃるのではないのですか?」

 侑眞は目を見開いて、それから笑いを堪えるように口元を抑えた。

「やだなあ、柊さん」

 侑眞は人差し指を横に振る仕草をしてみせた。いい年をした大人がしたのなら、随分と気障たらしい仕草だったが、侑眞のような可愛らしい少年がしてみせると、微笑ましく感じてしまうから不思議だ。

 柊の得た情報が確かならば、侑眞は今現在中学一年であるはずだ。

「僕を鷹司の跡取りにしたいのは京極でしょう? 僕としては、兄さんでも僕でも、どちらが後継者になってもいいと思っていますね。京極の孫ではあるけど、僕は京極の人間じゃあありませんからね。鷹司が有利になる方を選ぶ」

 それはいかにもアルファらしい考え方だった。

 理性的な、感情を排したようなものの捉え方は、アルファ特有のものだ。

 ベータやオメガではこうはいかない。損得、好悪、そんなものが、下そうとする判断にも大きな影響を与える。

 このアルファの理性と、オメガの繁殖力によって、人類は破滅への道を外れ、再びこの地球上の主となろうとしているのだった。

「それなのに……」

 ふと侑眞に目を向けると、彼は少しばかり怒ったような表情で柊を下から睨んでいた。

「柊さん、このままだったら、どうしたって京極に有利に事が運びすぎると思いませんか? 鷹司としては、あまり歓迎できないバランスです。それに、僕としては、このまま兄さんが後継争いからあっさりと落伍してしまうのは、面白くありません」

「……面白くない?」

「ええ、僕は結果として兄が家督を継ごうが僕が家督になろうが、どちらでも良いと思っていますが、それまでの家督争いには、ちょっとばかり興味がありますね。ね? 柊さん。柊さんとしては、兄の側についているわけでしょう? この状況どう思います?」

 そう言って、意味ありげにまた柊を見つめていた。

 何かを見透かそうとするような視線に、柊は思わず目を逸らす。

『弓削昴を助けて英治とともに、安全な場所へと逃がす』

 これが柊達”にわか探偵団”の第一の目標である。

 しかし。その裏に、もう一つの目標も設定されていた。

 とっとっとっ……と、早くなる鼓動を抑えながら、この少年には、柊達のもう一つの思惑が知れているのではなかろうかと、柊には思えてならなかった。


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