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運命の隷属  作者: 観月
第二章 運命は密やかに立つ
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協力者・6

「あなた……僕会ってみたかったんだ!」


 佐奈の背後からぴょんと飛び出した侑眞は、柊の側までやってきて、顔を右に左に倒しながら、あらゆる角度で柊を観察している。その仕草は子どもらしく可愛らしい。


「結城柊。一代目結城家当主結城重盛の一人息子。旧姓平良柊!」


 柊はぎくりと侑眞から一歩後退った。


 柊の旧姓を知っているということは、柊が重盛の養子であることを、知っているということだろう。和眞の弟であるのだから知っていてもおかしくはない。


 しかし、柊が養子であることは公になっていることではない。


 それをことさら口にするなんて、一体どういうつもりなのだと、思う。


「侑眞!」


 強めの声が和眞から飛んだで、侑眞は頭を掻きながら「ああ、ごめんなさい!」と、素直に謝った。


 その笑顔に、悪意のようなものは感じない。


「不躾なことをして、申し訳ありませんでした。兄が、あなたのことを大切にしている、というのがわかりました」


 と、今度は大人びた様子で頭を下げる。 


 このくるくると変わる印象。無邪気さの奥に隠された強かさ。


 佐奈と似ていると、柊は感じた。


「この際、京極としては昴がいようがいまいが、目的は達せられるだろう?」


 和眞が侑眞を振り返る。


「平民上がりの、どこの馬の骨とも知れない、子持ちオメガと婚約。その挙げ句、大々的な婚約発表の日に逃げられる……京極としたら、昴が逃げてくれたほうが、俺の評判が下がって、好都合じゃないのか?」


 大きな瞳を上へ向け、何やら考えるように兄の言葉を聞いていた侑眞が、肩をすくめた。


「仕方ありません。今僕の目の前にある選択肢の中では、それが最善なのかもしれません。嫌だと言っても、この人たち、決行しそうですものね」


 侑眞の目線を追うと、護が拳に力を込め、今にも襲いかかるぞとでもいうような、ファイティングポーズをとっている。可愛らしいドレス姿だから、あまり迫力はないのだが、その隣に寄り添う怜生の眼光は、かなり鋭かった。


「じゃあ……俺、先生と逃げていいのかよ!」


 身を乗り出す昴を、侑眞はちらりと横目で眺めてから


「ええ」


 と、うなずいた。


「やった! 英治!」


 飛びついた、という表現はよく聞くが、文字通りぴょんと飛び跳ね、渾身の力で誰かに飛びつく人間を、柊は生まれてはじめて目の当たりにしたかもしれない。


 しかも昴は、飛びついた勢いのまま英治に接吻したのである。


「ひゃああ!」

「うわあああ」


 声を上げたのは護と当の英治だった。


 他のメンバーは、特に反応を示していないが、護は両手で顔を覆ったまま頬を赤らめ


「信じられない!」


 と、憤慨していた。


 人前で、恥ずかしくないのかと怒鳴りだした護に向かって、侑眞は人差し指を立ててみせた。


「しーっ! 静かに」


 護を黙らせると、侑眞は抱き合っている英治と昴に向き直った。


「京極はいいとしても、等々力は納得しないでしょうね。彼らベータの組織は、アルファ以上に自尊心が高くて、沽券なんてものに拘りますからね。あなた達、ここで逃げたとしても一生等々力からは逃げ回らなければいけない人生ですよ? いっとき身を隠せばいいというものではない。わかってますか?」


「俺の方は問題ないね」


 そう答えて、昴が伺うような上目遣いで英治を見上げと、英治は昴を見つめたまま、しっかりとうなずいた。


 ヒューッと口笛がなり


「ステキ!」


 という佐奈のつぶやきが聞こえる。


「どうやってこのコロニーから出るつもりです?」


「それはね……」


 護が着ていたドレスを脱ぎ捨てた。


 上半身は裸だが、下半身には膝丈の、スパッツのようなものを履いている。


 護はその姿のまま、脱ぎ捨てたドレスの裾に手を入れて、ごそごそと探っていたが、しばらくすると裾のなかから平べったい板のようなものを取り出した。


「これだよ」


 手にした板を、侑眞に向かって振ってみせた。


「それ……って、最新の組み立て式バランススクーター?」


 護の手の中のものに吸い付けられるようにして、侑眞の瞳が輝き始めた。


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