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運命の隷属  作者: 観月
第二章 運命は密やかに立つ
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協力者・2

 ひゅーっと、口笛を吹いたのは、おそらく怜生だろう。


 オートウォークが停まると、これまで行く手を遮っていた柵が、音もなく地面へと吸い込まれていった。


「小田村様、春野様、お待ちしておりました」


 目元を仮面で隠したタキシード姿の男性が待ち構えていて、一行を京極邸内へと案内してくれる。


 目前にあった巨大な扉をくぐり抜けた。


 扉だけではなく、建物はすべてが大ぶりで、自分が巨人の国に迷い込んでしまったような気がしてくる。


 この扉をくぐり抜ければ屋敷の中なのかと思っていたが、そこはまだ、屋根のない外空間だった。


 そこもすでにパーティー会場の一部であるらしく、様々な形、色とりどりの仮面を着け、着飾った男女が、そこここで、グラスを手にさざめいている。


 目元だけを隠した簡易的な仮面を被っている者が多いが、本当の獣のような頭部の者もいる。


 雄獅子の仮面をすっぽりとかぶった男などは、柊の腰周りもあろうかという太い二の腕がのおかげで、まるで神話から抜け出してきた神のように見えた。


 案内人は、人々の間を縫うように進んでいく。


 入口付近にとどまっていた人々は、案内人に先導される柊たち一行に気がつくと、わずかに退き、道を開けてくれた。


 こちらに視線を向けたまま、小声で耳打ちをしあう者もいる。


「どなた?」

「ほら、小田村様の……」

「友華様じゃなくて?」

「ほう、今日はドレス姿かね……」

「サナちゃんだ!」

「すごいフリル!」

「素敵」


 そんな言葉の数々が、周囲からとぎれとぎれに耳に届いた。


 これでは、仮面を着けている意味など、友華と佐奈にとっては、ないのではないかと思う。


 轟音が鳴り渡り、柊たち一行に向けられていた視線が、一斉に空に向かう。


 音と同時に広がった光の影が、人々を照らした。


 案内人は歩調を乱すこと無く、屋根のあるエリアへと入っていく。それまで肌に張り付くようだった湿った暑さが、すうっと引いていった。このエリアには冷房が効いているらしい。


 奥へと進むにつれ、人の数は減っていくようだった。


 部屋の最奥に、二階へと続く階段が見えた。大人十人が横に並んでも、ゆうゆうと歩けそうに見える広々とした階段だ。階段には白地に金糸で刺繍の入った、豪奢なカーペットが敷かれていた。


「シンデレラが降りてきそ……」


 柊の真後ろにいた、護の小声が聞こえた。


 決して無口とは言えない護だったが、京極の屋敷に入ってからというもの、口を開いたのは、これが初めてだ。


 階段の下までやってくると、仮面の案内人は振り返り


「どうぞ、ごゆるりとお楽しみください」


 と、慇懃に頭を下げた。


「ああ、ありがとう」


 友華はそこで、声を潜める。


「それから、頼んであった件だが……」


 男はすぐに身を起こすと


「はい、承っております。今すぐ和眞様にお会いになられますか?」


 と、尋ねてきた。


 柊の胸の中心が、ことり、と揺れる。


「会う会う!」


 手を上げながら、友華の隣から一歩進み出たのは佐奈だった。


「だって、のんびりしてたら、婚約披露、始まっちゃうでしょ? その前に友人として会って、ひとことお祝いを言いたいの。友華ちゃんは、いろいろご挨拶もあるでしょ? 私達だけでちゃちゃっと行ってくるよ!」


 いいでしょ? と首を傾げながらにっこりと笑う。


 こんな可愛い仕草の似合う佐奈を羨ましいと思う。柊には、こういうスキルはないし、向き不向きというものがある。自分自身には真似のできない技である。


「ああ、まあ、そうか?」


 わずかに言葉をつまらせ、すまないななどと、佐奈に微笑みかける友華に、柊は心の内で侘びた。


 それと同時に不安になる。


 佐奈は友華に迷惑はかけたくないから友華に相談はしないと言った。


 柊も、そこで納得してしまった。


 しかし、小田村の名前を使って和眞に会い、昴を救い出したとなれば、迷惑がかからないわけがない。


 佐奈はそのあたりを、どう考えているのだろうか。


「早く行こうよ!」


 仮面の案内人の後ろについて、階段を登る佐奈が階下の柊たちを振り返った。


 ふわりとした優しい色合いのドレス。細いうなじと腕は白く華奢であるのに、誰よりも大きな存在感を放っている。周囲にいる人々の目は、佐奈に向いている。


「ここ、登るのかよ……」


 声に振り返ると、目元を仮面で隠した護が、その下の頬を真っ赤に染めて、呆然と呟いていた。


 確かに、この豪奢な階段は、まるでパーティー会場のステージのようだ。


「行きましょう」


 柊が階段に一歩足を踏み出すと、誰かの大きなため息が、背後で聞こえた。


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