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運命の隷属  作者: 観月
第二章 運命は密やかに立つ
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探偵団・6

 護は、佐奈の衣裳とよく似た、ロングドレスを身につけていた。顔を埋める膝は、レースがふんだんに使われたふわふわとした生地に覆われている。


 幾分佐奈のものよりはおとなしめのデザインなのだが、それでも十分に豪奢であり、肩が出るほど大きく開いた襟元に、胸にはちゃんとパッドも入っている


 このドレスを身につけることに、最後まで抵抗していた護だが、誰がどう見ても、かわいらしい女性にしか見えない。


 佐奈が似合っていると喜ぶと


『だから嫌なんだよ!』


 と、護はますます頬を膨らませた。



「じゃあ、いいんちょーはずっと仮面をかぶってればいいでしょお? 私達の従者が男ばっかりだったらおかしいじゃないの。それに、似合うわよぉ?」


 柊くんもね、と付け加えて、佐奈は柊にウィンクをしてみせた。


 佐奈と友華に向かい合うようにして進行方向に背を向けたシートに座る柊も、ロングドレスを身に着けている。


 ただ柊の衣装は半袖に立ち襟で、他の三人に比べると、かなり肌の露出を抑えた意匠だ。


 細身の上衣(じょうい)とは対象的に、長く裾を引いたフィッシュテールドレスはかなりのボリューム感があり、黒い生地に銀の糸で細やかな刺繍が施されている。


「まったく、鷹司の考えていることが、私にはわからない……」


 佐奈に釣られるようにして、柊に目を移した友華の面には、憂いの色が浮かんだ。


 実は当初、柊は護の着ているドレスと、お揃いのものをを着る予定だった。二人の人魚姫と、男性女性二人ずつの従者、という設定で、友華が急遽用立てしてくれたのだ。


 しかし、デコルテの大きく開いたそのドレスを、柊は着ることができなかった。柊の鎖骨や胸には、まだ和眞の残した痕が生々しく残っていたのである。


 今日までには少し薄れてきたものの、まだ完全に消えたわけではない。


 その事実が友華の同情を買う後押しとなった。


『あの男は、結城にそんな痕を残しておきながら……別の誰かと婚約だと?』


 友華は柊の肌を見て絶句した。


 もともと真面目で努力家の柊を、友華は気に入ってくれていた。柊の胸元に散る鬱血痕は、友華の中にあった『結城が不憫である』という思いを、強くさせたに違いない。


 だが柊たち五人は、友華にことのすべてを話さなかった。


 どう転んでも、友華の後ろには小田村家の存在が見え隠れする。


 もし、友華が事の真相を知っていてこの計画に乗ったとなれば、京極家と小田村家の間に波風が立たないとは限らない。


 利用しているような格好になるのは心苦しいが、それが友華の、ひいては小田村のためでもあると判断してのことだった。


 佐奈も、それを望んでいた。




 柊は友華に小さく微笑みかけた。


「私は、和眞様のために尚英学園に入学しました。それなのに和眞様は私に一言もなく姿を消してしまわれた」


 そうして、決して恨みがましくならないように気をつけながら、想い人であるアルファに捨てられた悲しいオメガを演じる。


「最後に一言、(いとま)を告げさせていただければ、それで……。学園も退学しようと思います」

「結城が退学することはあるまい?」

「そうよそうよぉ!」


 柊の言葉を聞いた友華の眉間にぐっと力がこもり、佐奈が勢いよく加勢する。


「学校は勉強するためにあるのだぞ? 結城にはその資格が十分あるだろうに。鷹司や……」


 友華はそこで、怜生の姿を一瞥した。


「陣内よりは、よほど勉学に対する意欲があると思うぞ」


 名指しされた怜生は、軽く頭に手を当て「はいはい、わかってます」と、口の中で呟いている。


「ありがとうございます。しかし……勉学なら学校へ行かなくともできますし……」


 ふうむ、としばらく考え込んだ友華は、柊に問うた。


「結城は、将来のことを、どう考えているのだ?」

「家の……結城の……仕事に関われればと思っているのですが……」


 思わず本当の気持ちを吐露してしまったのは、友華の真摯な視線に気圧されたからなのだろう。


 柊の答えを聞いた友華の顔が、途端に明るくなった。


「それはいい!」


 珍しく、声が弾んでいる。


「鷹司など、気にすることはないぞ。結城ならオメガであってもきっと成功するに違いない。そのためにも学園をやめるなど、もったいない。あそこには日本国の綺族や華族、平民の中からも優秀なものが集まっている。学校生活を通して得た繋がりは、大きな財産になるに違いない」


 友華が言ったが、彼女こそ、そういったコネクションを持ちたいと願う学生にとって、誰よりも魅力的な人間であるに違いないのだ。


 その事をわかっているのだろうかと考え、柊は思わずクスリと笑ってしまった。


 柊の反応に、友華が首を傾げる。


「なにかおかしなことを言ったか?」

「いいえ、ですが、こうして小田村様とお近づきになれただけで、じゅうぶん学園に入学した意味があったと思います」


 もちろん、佐奈さんや、他の皆さんとも、と、柊は全員の顔を見回した。


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