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運命の隷属  作者: 観月
第二章 運命は密やかに立つ
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探偵団・5

 ◇


 セントラルイレブン以外にも、日本各地にコロニーは点在している。すべてのコロニーを日本国の中枢で把握しているかと言われれば、否である。


 企業や個人所有のコロニーも数多あり、日本中にある全てを把握する機関は存在しない。


 廃れ、人の住まなくなったコロニーもあれば、そんなコロニーを再利用し、新たに住み着く集団もある。


 セントラルイレブン以外のコロニーは、それぞれが一つの国であるとも言えた。日本の中枢がファーストコロニー及びセカンドコロニーであることは確かなのだが、この二つのコロニーにも、それほど強力な支配力はない。


 セントラルの名を持たないコロニーでは、そのコロニーの所有者が一国一城の主、というわけである。


 また、各コロニーは巨大な壁にぐるりと囲まれており、大抵の場合出入り口はない。




 人々がコロニーの外に出ようとした場合、移動の場として選ぶことができるのは、陸上でも、上空でもなく、地下である。


 ラグナロク(世界の終焉)以降、地下に潜った人類は、地中に数多(あまた)の居住区と、それをつなぐ交通網を作り上げていた。


 コロニーを建設する技術を得て、主な活動場所を地表に移した人類だが、地上にはにはまだまだ危険な地域が多い。そんな危険な場所に道路や鉄道を建設するよりも、すでにあった地下空間を利用し、交通網を整備したほうが安全で、迅速に作業をすすめることができたのである。


 地下を這い回る土竜(人間)の、地上への出入り口が、コロニーなのである。


 ◇


 新暦三三〇年。八月三日。京極家主催仮面舞踏会当日。


 薄暗い地下の高速道を、一台の大型車が時速百キロを超えるスピードで駆け抜けていく。灰色の流線型は、扁平な甲虫を思い起こさせた。


「結城はわかるが、お前たち二人と鳴海先生が佐奈とそれほど仲が良いとは、知らなかったぞ」


 一番後ろの座席に、進行方向を向いて座る小田村友華は、シルバーに輝くマーメイドラインのドレス姿だ。膝上から入るスリットからはふわふわとした銀のシフォンが溢れ出している。


 細身のラインはきりりとした友華によく似合っていたが、その姿のまま腕を組組んで見下されると、尋常ではない威圧感だった。


 隣に座る佐奈は、優しい水色を基調にしたドレスだ。スカート部分には幾重にもフリルが重なり、水色から裾に向かってピンク色に変化していく。フリルの重なりは、見ようによっては、魚の鱗のようにも見える。


 耳に着けた大ぶりのイヤーカフはお揃いで、魚の鰭のような形をしていた。二匹の人魚姫、というコンセプトらしい。


「無理を言ってすいません……」


 恐縮仕切りで、身体を縮こまらせているのは鳴海英治だ。


 車の後部座席は、運転席と透明な板で仕切られており、独立した空間になっていた。


『運転手には、こちらの会話は聞こえていない』


 と、最初に友華が説明をした。


 足元の気持ちのよいカーペット。頭上できらめく小ぶりのシャンデリア。


 車の中だというのに、小さな応接室に居るかのような錯覚を起こす。


 出入り口になる部分を空けて、コの字型に配列されたソファ。中央の小さなテーブルには花を活けた花瓶。出入り口の隣には冷蔵庫や、食器棚まで備え付けられており、車の中で生活しようと思えば可能であるのかもしれない。


 柊、護、怜生、英治の四人は、友華と佐奈の従者として、小田村家所有の車で、尚英学園のある第五コロニーから、京極所有のコロニーに向けての移動中だった。


 婚約発表の前に、ひと目和眞に会いたい。という柊の願いを、友華が聞き届けてくれた。


『鷹司家でどのような判断があったのかはわからんが、結城の気持ちもわかるしな』


 というのが友華の談である。


『わぁん、ありがとうゆかちゃん』


 と、ハートマークが飛び出しそうな甘い声で友華に飛びつき


『ついでにね、怜生くんとぉ、風紀のふくいいんちょーとぉ、鳴海先生も一緒に行きたいんだってぇ』


 と、ねだった際には、さすがの友華も


『はぁ?』


 と、滅多に出さない驚きの声を発したのだそうだ。

 柊は直接その様子を見たわけではないが、佐奈が逐一報告してくれた。


 ◆


「鷹司とお前たちを会わせてやるくらいのことはできるだろうが、いくら私でも、それ以上のことはできんぞ」


 後部座席で腕組みをしたまま、友華は四人を見回した。


 友華と佐奈に向かい合うように柊と英治が座り、横を向く席には怜生と護が座っている。


「それにしてもさ……僕、本当にこの格好で京極のパーティーに参加しなくちゃいけない? 僕だってバレたら死ぬ!」


 と言うなり、突然護が泣き崩れた。本当に泣いているわけではないのだが、顔を両手で覆い、身体を二つに折り曲げるようにして、護は膝に顔をうずめていた。


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