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運命の隷属  作者: 観月
第二章 運命は密やかに立つ
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探偵団・3

 五綵家公認の婚約者となれば、なおさら覆すことは勇気のいることになる。五綵家に信頼の置けない家柄だと思われたら、日本では動きづらい。


「落ち着いて! 深呼吸よ!」


 すう、はあ。


 佐奈が胸を張り両手を広げて息を吸い、背中を丸めて息を吐く。護と英治は思わずそれに合わせて一緒に深呼吸をしていた。


 さっきから一言も発していない怜生は、眉間に皺を寄せ、そんな三人を眺めている。


「いい? 皆落ち着いたわね? ってことはよ? 京極家で開催される、五綵家ご招待のパーティーで婚約発表の当人がいないなんてことは、ありえない。本人の身柄を確保してないのに、京極だってこんな危険な賭けには出ないと思うの。よねえ?」


「だから! それってもう鷹司君と弓削昴は、京極の手に落ちてるってことでしょ!」


 護の声が、ヒステリックに保健室に響き、


「そんな……!」


 英治が腰を浮かした。


 さすがの佐奈も顔色を変えている。

 

 そんな中で、柊は頭がうまく回らないでいた。まるで他人事のように聞こえてしまい、頭の中に、うまく事実が入り込んでこない。


「まあ、落ち着けよ」


 と、のんびりとした声を発したのは怜生だった。


「ピンチはチャンス、だろ?」


 怜生の唇の端が、不敵に持ち上がる。


「どこがチャンスなんだよ。二人を京極より先に探さなくちゃいけなかったのに、結局もう終わってるってことでしょ? もう探偵団なんて、解散だよね」


 護の口調は、次第に早くなっていく。しかし、怜生の瞳は、相変わらず笑みをたたえていた。


「怜生くん、聞かせて」


 佐奈が背後にあったベットの上に腰をおろし、怜生に向かって手を振る。選手交代とばかりに、怜生はゆっくりとした動作で立ち上がった。


「和眞は敵の手に落ちたかもしれないが、弓削昴についてはまだ完全に落ちたとは言えない状況だと俺は思う。婚約の相手が誰であるかはまだ公表されてないんだろう?」


「だから?」


 間髪をいれずに、護が噛み付いた。


「京極のパーティーより先に、鷹司君と結城くんが婚約してますって、公にするとか? でもどこでどうやって? あっちのパーティーはもう三日後だよ? その前に、そんなお誂え向きの大きなパーティーなんてないでしょ? あっちは五綵家までご招待の、大々的なやつなんだから。しかも、発表の場にいなくちゃいけない鷹司くんは、京極家が押さえてるんだよ?」


「パーティーならあるだろ? 最高にお誂え向きなやつがさ」


「ちょっと怜生、焦らさないでくれる? 考えがあるならはっきり言ってよね」


「あ!」


 怜生と護の会話を聞いていた鳴海英治が、鋭い声を発した。垂れ気味の目が、いくらか大きく見開かれている。


「それってまさか……」


 柊にも、ようやく怜生の言おうとしている意味が理解できた。


「ちょっとぉ! 私、わからないんだけどぉ!」


 頬を膨らませた佐奈に、柊は


「京極のパーティーそのもの……」


 と説明し


「ですよね?」


 と、怜生に向かって同意を求めた。


「正解」


 怜生の指先が柊を射る。


「え? え?」


 護はまだ頭を抱えていた。


 おそらく怜生の言わんとしていることは理解したが、不可能だと思っているのだろう。


「仮面舞踏会で婚約発表があるってことは、京極の館に和眞と昴はいると思って間違いない。佐奈と小田村は招待を受けてるんだろう? なんとか俺たちも潜り込めれば」


「弓削君と結城君を入れ替えるってこと……!?」


 怜生は銃の形を模した指先で、今度は護を射る真似をした。


「正解」


「しかし……それでは私が和眞様の正式な婚約者と、綺族の方々に知らしめてしまう……」


 小さく反論しようとする柊の声を遮るように、佐奈が


「いいわそれ!」


 と、手を叩いた。


「一石二鳥じゃなぁい! ね? 柊くん。そこまで大きなパーティーで正式に婚約発表されちゃえば、和眞くんだってそうそう浮気なんてできなくなるわよう!」


 いや、だからそれが困るのだと、反論しようとして、柊は思いとどまった。


 自分は結城家の養子である。結城家は一年ほど前に平民から華族に昇格していた。綺族ではないが、今は大きな企業グループのトップとして、特権階級の中でも一目を置かれている。自分が婚約相手ということならば、決して和眞のマイナスにはならないだろう。


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