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運命の隷属  作者: 観月
第二章 運命は密やかに立つ
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身勝手・6

 尚英学園高等学校では、生徒は皆何某かの委員会に所属することが義務付けられている。学級委員はもちろんだが、風紀、報道、飼育、園芸……などがあり、それぞれの生徒が自分の能力に見合った委員会を選択し、学園のために尽力している。


 和眞は昨年度に起こした問題のせいで、本人の意志に関係なく、風紀委員に入ることというペナルティーを課せられていた。


 風紀委員の基本理念は『全校生徒の模範たれ!』である。委員会室の真正面には大きく黒々とした文字でしたためられたそれが、額に入って掲げられている。


 また、風紀委員となると、服装の乱れや、遅刻や無断欠席などの問題を取り締まる側になる。


 そういった組織に参加させることにより、和眞の生活態度も自ずと改まるであろうという学校側の思惑が見え隠れする。


 しかし残念なことに、学校側の期待をものともせず、和眞の頭髪は相変わらず金色に光り輝いている。


 風紀委員は他の委員会と比べて仕事量が多く、正規委員がオメガのみで構成されるという特殊な委員会だ。(アルファである和眞は正式にはオメガを助けるサポート委員という位置づけになっている。)


 そんな風紀委員の仕事の一つに、学園の見回り業務というものがある。


 学園の昼休みは、十二時から一時半にかけてと、長めに設定されており、その時間帯に、学園内を正規委員オメガ二名とサポート委員一名の三人一組となり、学園を見回るのである。


 生徒たちは午後の授業に向けて、ほっと気の抜ける時間なのだが、とかく気の緩みも生じやすい。


 特に教師の目の届きにくい校舎外の遊歩道の見回りに重点が置かれる。


 この日、当番にあたっていた柊と和眞は、時間のかからないパン食で昼食を済ませ、委員会室に向かった。


 アルファとオメガのカップルは優先で同じ班にしてもらえる。二人共に新人委員だという理由で、見回りの際のもう一人のメンバーは、副委員長である護が引き受けてくれた。


 まだ誰もいないないだろうと踏んでいたのに、扉を開けると、そこにはすでに貝瀬護が待ち構えており、三人はすぐに校舎北西に広がる遊歩道へと向かった。


 遊歩道内は緑が多く、生徒たちにとっては憩いの場であると同時に、危険な場所でもある。緑が多いということはそれだけ死角が多いのだ。


 茂みに隠れてこそこそと、校則違反を犯すものも、少なくない。校則自体はゆるいものなのだが、喫煙、飲酒、敷地内での性交渉などはご法度である。当然と言える校則であるのに、意外と違反するものが多い。


「もう慣れた?」


 夏用の半袖のシャツの左袖に風紀の黄色い腕章をつけ、護は先頭に立って遊歩道内を歩いていた。


「この見回り、冬でもやるのか?」


 特に温度や湿度の調節をされていないコロニー内は、雨や雪が降ることはないが、夏には熱くなるし冬には寒くなる。尋ねた和眞の金髪はしっとりと湿り気を帯び始めている。


「夏も冬も、見回りはするよ」


 護は周囲を見回しながら足早に煉瓦の敷き詰められた遊歩道を進んでいく。


「こんな熱い日に、こんな場所利用する生徒少ないだろう?」

「だからだよ」


 護の足が止まり、くるりと和眞を振り返った。


「生徒がたくさんいる時期は逆に安全でしょ? 生徒が少ない時期こそ、隠れてこそこそおかしなことをしようって生徒が出てくるんじゃない?」


 和眞は面倒くさいとばかりにがくりと肩を落としたが、、確かに護の言うことも尤もだ。


「それに、陽の当たる場所は暑いけど、木陰とかあずま屋の中は、案外涼しいものだよ。水辺もあるしね」


 護はまた歩き出す。


 春に比べれば見かける生徒数は少ないものの、時折木陰でゆっくりと昼食をとったり、開けた場所でボール遊びになどに興じる生徒は思った以上に多いようだった。


 入り口から十分程歩けば、もう中央に位置する池が見え始める。


 大きな松のアーチに、池に張り出すように設置されたあずま屋も視界に入ってくる。


 柊が護や和眞と初めて出会った場所だ。


 遊歩道内で一番大きなあずま屋には、設置されたベンチに人影が一つだけ見えた。


「あ……」


 その人物に目を向けた護の肩が僅かに上がる。


 あずま屋の屋根の作り出す濃い影の中の人物に目を凝らすと、そこには入学式で柊が投げ飛ばした相手――陣内怜生が、手にした文庫本に視線を落としていた。


 柊はあの入学式の騒動以来、怜生を見かけることはあっても、会話をしたことはない。クラスも委員会も寮も一緒ではないのだから、ほとんど接点がないし、怜生の方でも柊を見かけても素知らぬ振りを通している。


 風紀の手から逃れた怜生は、特にお咎めもなく、普通に学園生活を送っているようだった。


 怜生が護を襲おうとしたことは、此処にいる三人しか知らないのだし、柊にしろ和眞にしろ口外する気などない。


 襲われた当人である護が口をつぐんでしまえば、あれはなかったことになる。


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