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運命の隷属  作者: 観月
第二章 運命は密やかに立つ
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身勝手・1

 尚英学園寮D棟は、生徒たちの間で番棟、またはカップル棟などと呼ばれている。すでに発情期を迎え番となったものや、親公認の婚約者同士が暮らすための寮だからである。


 十七歳から二十歳という、きわめて早い年齢で発情期を迎えるオメガという性が存在する現代では、十代でのセックスや結婚をタブー視する風潮はない。ベータに関しては晩婚のものが多いが、アルファとオメガに関しては、早くに相性の良い相手を見つけることで、安定したより良い生を送ることができると考えられている。そのため、十代で婚約結婚出産まで経験するオメガも決して少なくはない。


 尚英学園寮は、AからDの、四つの棟から構成されていた。


 A棟はアルファとベータの男性が入寮する棟。B棟はアルファとベータの女性、C棟がオメガの男性と女性、そしてD棟が番と親に認められた恋人同士という区割りになっている。試行錯誤の結果、この割り振りが一番問題が少ないと判断されたのだ。


 D棟にベータが入ってはいけないという決まりはない。しかし、発情を持たないベータには番という概念がない。また、ベータは平民出身のものが圧倒的に多く、家同士の婚約ということもあまり行われない。もし、許嫁があったとしても、結婚をしないうちからの同居を望むものがベータ性には少ない。すると、必然的にD等に入寮するものは、アルファとオメガに限られてくる。また、いくら恋人同士であっても、親の公認となり将来を誓い合う間柄でなければD棟には入れない。


 それらの要因により、D棟に入る生徒は数は少なく、四つの寮の中で一番こじんまりとしていた。


 そのD棟、最上階である三階に、結城柊と鷹司和眞の住む部屋はあった。


 ◇


「和眞様……あっ……」


 カーテンを開け放された窓の外には、群青の夜空に、黒黒とした、木々の枝葉が、影絵のように浮かび上がっている。


 荒い息を吐きながら、柊は痩せ細った月を角膜にぼんやりと映していた。


「柊……」


 名を呼ばれ、手放しかけていた意識が戻ってくる。


「和眞様……」


 柊は重たい身を起こした。


「これ、ちょうだい?」


 柊は今、自分がどんな顔をしているのかを想像することができた。


 うっとりと笑って欲しがってみせることで、喜ぶアルファや、ベータ男性の多いことを知っていたし、意識してそういう表情を見せることも、今ではもう容易い。


 馬乗りになった柊の頬へと和眞の大きくて熱い手が伸びてきてくる。頬を包み唇を撫でていた親指が、少しずつ口内に差し込まれていく。


 尚英学園の入学式。出会った最初の日から、柊は和眞に抱かれた。相性は極めて良い、と感じている。今まで抱かれたどんな相手よりも、身体が快感を拾う。


 あれからもう、何度この男に抱かれたのか、柊は数えることもしていない。


 口腔内に深く差し込まれた指のせいで、柊の唇の端から、唾液が溢れる。


「口で」


 和眞の囁きに、柊は目を細めた。


 頬を包む手のひらに自分自身の手を重ね、口内にある和眞の指を何度も軽く吸うようにしながら、少しずつ吐き出していく。


「ああ……!」


 突然押し倒され、背中が柔らかい布団の上に落ちた。


 柊はもう和眞にしがみつき、あえぐことしかできなかった。



 

 ◇


「和眞様、起きてください。朝食の用意ができました」


 夏のまばゆい朝日の差し込む寝室で、柊はまだ夢の中にいるらしい和眞に声をかけた。


 昨夜のセックスは……すごかった……。


 あんなふうに我を忘れて快楽に浸ってしまうなんてこと、ここしばらくなかったはずなのに……。


 思い出すだけで顔が熱くなってくる。


 D棟に住む柊と和眞は、表向き親の決めた婚約者ということになっている。


 実際には落ちこぼれ、問題児というレッテルを貼られてしまった鷹司家の長男アルファである鷹司和眞の監視役として、結城家から鷹司家に貸し出されたに過ぎない。


 要するに柊と和眞の関係はセックス込みの、ビジネスである。


 柊の最大の目的は、和眞を更生させ、鷹司家の跡取りとしてふさわしい男に仕立て上げること。


 しかし、数カ月間和眞とともに生活をした柊は、少しばかり混乱していた。


 想像以上にこの鷹司和眞という男は、いい男なのだ。


 柊としてはもっと碌でもない、家柄を傘にきた嫌味なお坊ちゃまを想像していた。なにしろ同級生のオメガを妊娠させ、退学にまで追いやったくせに、自分はのうのうと二年に進学していると聞かされていたのだ。


 しかし和眞が、柊に対して高圧的に出てくることはなかったし、どちらかと言うと無口で無愛想だが、柊の意見を嫌な顔もせずによく聞いてくれる。


 お蔭で二年に入ってからの和眞は、一度も欠席をしていない。


 確かに勉学の成績だけを見れば、かなり残念なものだが、こちらも地頭が悪いようには思えない。


 セックスをする頻度は高いと思うが、これもまあ、高校生男子なのだから、普通と言える範囲内だろう。


 それに、柊自身が彼とのセックスで嫌な思いをしたことはない。


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