黄金の杖と剃刀の刃(かみそりのは) ある二人の怪盗の話
熟練の怪盗と若い怪盗二人の駆け引きを書いてみました。
短い文章でどれだけ場の雰囲気を表現できたか自信はないですが、よろしければご覧ください。
一人の男が場末の酒場で安酒の入ったグラスをあおる。まだ開店から早い時間らしく、カウンターの端に座る男とマスター以外は紳士風の若い男がテーブルでワインを嗜んでいた。
カウンターの彼は、コートが薄汚れ、被っている帽子は所々に穴が開いており、白髪が見え隠れしていた。この酒場の雰囲気に彼の姿は馴染んでいたが、彼の足元にあるモノは不釣り合いであった。
布で包んだ杖らしき物の隙間からは金色の輝きが覗いている。
「ちょっといいかな」
彼の隣の椅子に先程までテーブルにいた若い男が腰かけた。若い男はスッキリとした黒のタキシードに身を包み、流行りのシルクハットを被っている。この酒場にはあまりにも不釣り合いだった。
「あんた同業者だろ?」
男は言う。彼は黙ってただグラスの中の安酒を口にする。
「分かってるさ。あんたの足元にある黄金の杖。盗ってきたんだろ?」
沈黙が続いた。暫くたってようやく彼は口を開く。
「なら、どうする?俺を役人に突き出すか?それとも殴り飛ばして奪うか?」
若い男は言う。
「いや、俺は平和主義者でね。よければ俺の物と交換といかないか?その杖だとお宅は外じゃ目立ち過ぎる。俺ならば何ら違和感はない筈だ」
「交換?何とだ?」
若い男は彼が話に興味を示した事に上手くいったと思った。若い男はスーツの内ポケットから剃刀の刃を取り出した。
「これは先祖から伝わる由緒正しき剃刀だ。あんたの杖と価値は変わらない筈だぜ」
全くの嘘であった。彼の祖父が使っていた髭剃り用の剃刀だ。
彼は暫し悩んだ末、頷いた。
「…いいだろう。交換だ」
(しめた)
若い男は剃刀の刃を手渡し、彼の足元にある黄金の杖を手にした。
その時だった。
酒場の扉が音を立てて開き、大勢の役人が押し入った。
「大人しくしてもらおう。そこにいる二人、盗っ人だな。通報は受けた」
いつの間にかマスターは店を出て役人を呼んでいたのだ。
二人は為す術もなく縄で縛られ、荷馬車に押し込まれた。
油断しているのか見張りはいない。
「ちくしょう。もう少しで金持ちになれたのによ。ついてねぇぜ」
若い男は悔し涙を流した。
「いや、お前さんついてたぜ」
ふと見上げると縄から抜け出した年老いた彼が若い男の前に立っている。見るといつの間に盗ったのか、右手に黄金の杖、左手に剃刀の刃を持って差し出した。
「さぁ、どうする?交換するかどうかはお前さん次第だ。あと酒場のツケは手間賃だぜ」
亀の甲より年の功。
年配の方に学ぶ事は多いものです。
自分も精進しなくては。
ご覧頂き、ありがとうございました。




