~秘密~
第二部《第二章》突入です。
『 歌は想い、そして心。
音色は記憶を蘇らせ
心の奥底を人に見せる。
旋律は光を呼び、詞は愛を紡ぐ。
青は故郷の色。そして私を表す色。
求めたものは自由。
けれど何をもって自由と言うのか
そもそも自由とは何なのか
かつての私には何も理解は出来ていなかった。
引き換えにしたもの。
それはとても大きくて、私には何も返せないけれど
その為にも欲しかったもの。
自由……。
この世界を初めて見た時
空にしかその色は無かった。
大地を表す黄色と茶色が
私には酷く新鮮に映ったのを
今でもよく覚えてる。
そしてそこで、初めてあなたに出会った。
初めて見たあなたは
とても恐ろしいと思ったの。
あなたを表す黄色と茶色は、
私にとって恐怖の色に変わったわ。
あなたは何もかも奪っていった。
あの空にしかなかった故郷の色さえも。
私はあなたをとても恨んだわ。
でもね、ある時知ってしまった。
私はあなたの中に
寂しさを見つけてしまったの。
そう……あなたも望んでいたのね
“自由”を……。
そうしたらもう
あなたに対する恨みや憎しみは
愛しさに変わっていったのよ。
だけど御免なさい。
その事はあなたに教えてあげられないの。
あなたが先にその言葉を言ってくれるまで
絶対に私からは言ってはいけない事になっているの。
ねぇ、だから早く言って?
私も早くあなたに伝えたい。
秘密のあの言葉を……。
きっとあなたは言ってくれるでしょう?
だってあなたはもう私の事を…… 』
「~♪ ~♪」
美しい竪琴の音と共に、何処までも澄んだ歌声が部屋に響き渡る。
それを歌うのは、白いほっそりとした肢体をこの国特有の、貴族の女性が身につける服を纏った女性。
その背に流れるのは美しい真っ直ぐの髪。彼女が動く度にゆらゆらと揺れ、まるで流れる清水のようだった。
白いその肌は透明感があり、瑞々しい。
その髪と同じ色の睫毛は伏せられ、白い頬に影を落とし、ふっくらとした薄いピンクの唇には笑みが浮かんでいる。
彼女はとても気持ちよさそうに歌っていた。
彼女が爪弾いているのは、片手で抱えられるほどの大きさの竪琴。しかし、その不思議な光沢のある真っ白い竪琴から流れ出る音は、重厚にして繊細で、弾いた傍から遥か彼方まで響いてゆきそうな、そんな壮大さまで合わせ持っていた。
よく見れば、表面は細やかな彫刻がなされている。この竪琴は、音色同様に見た目も繊細で美しかった。
しかし、そんな素晴らしい竪琴をどんなに見事に弾きこなしていたとしても、それを聴く者は何処にも存在しない。
そもそも、この部屋には窓も無ければ扉も無い。物理的には誰も入ってこられない造りだ。
けれど不思議と日の光のような明るさが、この部屋を照らしている。
光源は分からない。
ただ、石で出来た天井や壁や床には、びっしりと呪印やら魔法陣やらが描かれていて、何らかの魔法が施されている事が分かる。
部屋は広く、家具も一式揃っていた。
一部屋だけではなく扉は存在しなかったが、他にも部屋がある。きっと、その部屋にも呪印は存在しているのだろう。
女性の居る部屋は、居間のようになっていて、その真ん中で椅子に座って竪琴を弾いて歌っていた。
だがその歌は中断されてしまう。
奥の部屋から、「きゃぁぁぁああああ!!」という悲鳴と、ボスンと何かが落ちる音がしたのだ。
「な、何!?」
女性は慌てて奥の部屋へと向かう。
そこには部屋の半分を占める大きなベットが存在し、寝室である事が窺えた。
そしてそのベットに、見た事も無い黒髪の少女が横たわっている。
女性はそっとベットに近付いて少女を覗き込んだ。
漆黒の細い髪が散らばり、女性はその純粋な黒に目を奪われる。
(何て綺麗な黒なのかしら……)
黒が美しいと思ったのは初めてであった。
少女は白磁のような白い肌をしており、それがその漆黒をより際立たせている。
愛らしい顔をしており、その瞼を飾る睫毛も髪と同じような漆黒で、白い頬に影を落としていた。
その睫毛が微かに震える。
その奥に隠れる瞳を見て、女性はハッと息を呑んだ。
その瞳もまた漆黒。
見ていて吸い込まれそうな程であった。
少女は女性の見ている中で天井を見上げ、暫し呆然としてパチパチと瞬きをすると、女性の方を見て零れ落ちんばかりに目を見開かせる。
「……ナイール王子?」
微かにそう呟くのが聞こえた。
女性はその言葉を聞いてピクリと反応すると、明らかに動揺した様子で、そして何故だか不機嫌になった。
その不機嫌なままの口調で、女性は少女に話しかける。
「あなた誰? ムハちゃんの何?」
「……はい? ムハ……?」
短いので、オルハリウムの日記と二話同時投稿。
謎の女性目線で始まる第二章です。