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異界の旅人  作者: ろーりんぐ
《第一章》
94/107

おまけ(ドキドキ!お風呂タイム2)

 クラジバールが舞台。

 本編とは全く関係ない話です。オールギャグ。

「はぁ~、いいお湯だわぁ~!」


 蒼が湯の中で伸びをする。


「ホントだねぇ~……あっ、蒼ちゃん、いくら魔力でコーティングしてあるからって、あんまり湯船に付けちゃ駄目だよ」


 早夜は湯の気持ちよさに溶けそうになりながらも、ハッとして蒼にそのように注意する。その眼差しは心配そうに、蒼の包帯の巻かれた腕に注がれている。


「分かってるって。でも、こんな異界の地で、まさか露天風呂に入れるなんて……。

 お陰で、腕の痛みも吹っ飛ぶわぁ」


 今、早夜と蒼は何故か、露天風呂などに入っている。

 それはある時、蒼が何気に呟いた言葉によるものだった。






「ああ……日本のお風呂が恋しい……露天風呂に入りたい……」


 実はお風呂好きの蒼。この砂漠に囲まれる国では、そんなのは望めないと切なげに溜息をついている。

 すると、丁度そこに通りかかったピトが、蒼の言葉に事も無げに「あるよ」と言ったのだ。


「な、何ですってぇ!? それ本当!?」

「フム、この国の初代の王となったサーゴが造らせた物ジャ。開墾しとったらたまたま温泉を掘り当てたとかで、故郷で入っていた物を再現したのジャよ」

「そ、そんな物があるなら、もっと早くに知りたかった! 私は今まで、何て無駄な時間を過ごしてきたの!」


 蒼は頭を抱えて嘆きに嘆いた。


「そ、そこまで? 蒼ちゃん……」

「蒼、ドンマイデツ……」


 あまりの蒼の嘆きっぷりに、早夜は唖然とし、花ちゃんはグッと拳を握り、ちっちゃくエールを送る。




「もしかして、そのサーゴって王様、日本人だったんじゃない? 情緒あるって言うか……渋いわぁ。素敵!」


 そうして連れてこられた露天風呂は、驚くほどに純和風であった。

 お陰で蒼のテンションは上がりっぱなしである。


「この際お湯の色が真っ青なのは関係ないわ! 私はこういうのを待っていたのよ!」


 そう、蒼の言うとおり、湯の色は真っ青であった。しかし、触れてみても、手に移るという事は無く、掬い上げると不思議な事に無色透明となる。

 ピトの話によれば、この地下に、青い石の鉱脈があるとの事。恐らく、その鉱石の成分が湯に染み出しているのだろうとピトは言った。


「なに、体に影響を及ぼす物ではないよ。寧ろ、美白効果と血行をよくする効果もあるみたいジャ。冷え性も治る。女性には嬉しい効能ジャろ?」


 ピトはニッと笑って、温泉の効能を説明した。

 すると、


「美白! 今美白と言ったミョ!?」


 何処からとも無くイーシェが現れた。


「美白と聞いたらイーシェ黙ってないミョ!!」


 そこにいる一同、どこまで地獄耳なのだろうと思わずにはいられなかった。





「へぇ、温泉? いいわねぇ」


 そう言ったのはミリア。イーシェが呼んだのだ。

 彼女も美白効果と聞いて、顔を輝かせている。


「お肌の綺麗になったミリアに、きっとムエイも惚れるに違いないミョ!」

「いやん、そう?」


 頬に手を当て、嬉しそうにモジモジとしている。


「と言う訳で、早速入るミョ!」


 こうして女性陣たちは温泉に入る事に。

 服を脱いだ際、早夜はミリアの胸を見てまたもや落ち込む。彼女もナイスプロポーションだった。

 ハァッと溜息をつき項垂れていた所、肩をポンポンと叩かれる。振り返ると、そこには真面目な顔をしたイーシェが立っていた。

 早夜とイーシェはお互いの胸を見合った。そして無言でガシッと握手をすると、コクリと頷き合う。

 二人の間に仲間意識が生まれた瞬間であった。


「乳のでかさで女の良し悪しは決まらないミョ」

「はい」

「大事なのは形ミョ。イーシェ達はそれを備えているミョ」

「はい」

「だから何も落ち込む事なんて無いんだミョ。寧ろありがたく思わなけれいけないミョ」

「え? 何でですか?」


 首を傾げる早夜に、イーシェはフッと笑って言う。


「でかい乳だと将来的に垂れるミョ。それを考えれば、イーシェ達は垂れる心配などせず、形いい乳のままでいられるミョ」


 親指をビシッと立て、早夜に頷きかけるイーシェ。


「イーシェ、それって私達の胸が将来垂れるって言いたいの?」

「何だかそこまで堂々と言われると、怒る気も起きないというか……イーシェさん強がってるようにしか聞こえませんよ」


 ミリアと蒼が呆れた顔で、変な仲間意識を持ってしまった二人を眺めている。


「フン、乳のでかい奴にイーシェたちの気持ちなんか解らないミョ!」


 早夜もその後ろでうんうんと頷いている。

 その時である。早夜のすぐ背後で立つ者が。


「サヤ様、私もご一緒してよろしいでしょうか?」

「うひゃああ!!」


 耳もとでボソリと囁かれた為に、早夜は酷く吃驚した。振り向くと、そこには紫の波打つ髪に暗い灰色の瞳を持つカンナが立っていた。


「えっと……も、勿論いいと思いますよ。ねぇ、蒼ちゃん?」


 ドキドキとする胸を押さえて、早夜は蒼を振り返ると、彼女はニッと笑って頷く。


「露天風呂は皆で入るものよ! 裸の付き合いは当然じゃない!」




 と言う訳で、女性五人仲良く温泉に浸かる事になった。

 しかし、女性が集れば、当然の事ながら、話は恋の話となるわけで……。



「で、如何なのよ早夜。結局の所、本命は誰?」

「えぇ!? ほ、本命って……」

「本命って何々!? サヤちゃんって他にもお相手が居るの!?」

「ええ、それが居るんですよ。アルフォレシアの二人の王子が、既に早夜にめろめろだそうです」

「あ、蒼ちゃん! め、めろめろって……」

「人は見掛けによらないってホントだミョ。そんな虫も殺さないような顔して男達を手玉にとっているミョ?」

「やるわね、サヤちゃん!」


 感心した様子のイーシェとミリア。早夜は真っ赤になって否定する。


「て、手玉になんかとってませんよぅ!」

「何言ってるのよ早夜! あなたがその気になれば、亮太はもちろんの事、シェル王子にリカルド王子、ナイール王子にあの三つ目のリジャイって男だって言い成りよ!」

「えぇー! リジャイもサヤちゃんにー!?」

「気に入っているとは聴いていたミョ……でもまさかそこまでとは思っていなかったミョ」


 ムムゥと腕を組んで考える仕草をするイーシェ。


「こうなったらもうあれミョ! 男達を利用する悪女になるのもまた一興ミョ!

 男達から甘い汁を吸い取るだけ吸い取って、後はポイミョ!」

「えぇ!? そんなの酷いですよぅ! ただでさえナイール王子は利用してる感が否めないのに……」

「ああそっか、色々と隠してるもんねぇ、サヤちゃん。ムエイ様の事とか、こうして私達と無断で会ってる事とか……」

「うう……」

「でも早夜、嘘とか苦手でしょ。逆にナイール王子は鋭そうで、色々と察してそうだよね」

「意外にもう、ばれてるかもしれないミョ。それを敢えて泳がす。油断してると、痛い目見るかもしれないミョ」

「えぇ!? そんなぁ、そんな時は如何すれば!?」

「ご安心下さい、サヤ様。その時は私が身を挺してでもお守りいたします」


 おろおろとしているサヤに、今まで黙って会話を聞いていたカンナがそんな風に声を掛けてきた。まるで騎士の様な口ぶりである。

 おまけに、先ほどから彼女は何やら熱い眼差しでじっと早夜だけを見詰め続けている。

 その絡みつくような視線に、早夜はお互い裸でいるだけに落ち着かない気分だった。

 その様子に気付かずに、蒼が身を乗り出して早夜に訊ねてきた。


「それで、早夜? 亮太からの告白の返事はどうするつもりなの?」

「うっ」


 蒼の言葉に、言葉を詰まらせる早夜。心の隅にずっとあった事だけに面と向かって訊かれるとどうも弱い。

 そのままぶくぶくと顔半分を、青い湯の中に沈める。


「その様子じゃ、何て返事するのか決めかねてるのね?」

「ぶくぶく……」


 湯の中に息を吐き出しながら、早夜はコクリと頷いた。


「そう言うのをいつまでも先延ばしにしていると、痺れを切らした男が暴走して迫ってくるという事が多々あるから気を付けた方がいいミョ」

「……暴走……」


 何故かミリアが暴走と聞いて、頬を赤らめている。一体何を想像しているのやら……。


「返事が出来ないって事は、やっぱ他の誰かが好きな訳? だとしたら誰? やっぱりリカルド王子? それとも大人なシェル王子かしら?」

「こうなったら、洗い浚い全部喋るミョ! 何処まで経験済みミョ!? 押し倒されたかミョ?」

「あ、そういえば、ナイール王子に押し倒されたのよね、サヤちゃん」

「うえぇぇ! ミ、ミリアさん! それ言っちゃ駄目――」

「なんですって!? それは初耳だわ! どういう事、早夜!?」

「えっ、あ……うう……」


 蒼、イーシェ、ミリアに詰め寄られ、顔を真っ赤にして身体を竦めていると、またもやカンナがボソリと言った。


「此方に来られる前に、シェル王子に一度襲われかけておりました……私はそれを阻止しようとしたのですが、その前にリジャイ様がそれをお止めになり、胸を触られるだけに留めました」

「きゃぁぁぁー!! 言わないでぇー、カンナさーん!」

「な、なんてこったい!! 早夜ってばもうそこまで進んでたの!?」

「と言うか、襲われたって言葉が気になるんだけど……ムエイ様には絶対に言えないわ……」

「ミョミョミョ~! 吐くミョ~! 一体誰が本命なんだミョ~! お前の一番を教えるんだミョ~!」

「い、一番って言われても……きゃ~! イーシェさん、顔が怖いです! それに何ですか、その手!」


 此方に迫るイーシェの手の形が、何かを摘もうとしている様に見える。


「言わないと摘んで捻り上げてやるミョ!」

「ひ、捻り上げるって、何を!?」

「フッフッフッ、その目は分かっているミョ? ぜ~ったい分かっているんだミョ!」


 早夜は咄嗟に胸を押さえて後退る。

 すると、背中に柔らかな感触が。振り返ると、そこにはカンナがいる。

 思わず早夜は、彼女の後ろに回り込み、身を隠した。

 早夜の耳に、バシャバシャと此方に迫ってくる音と、「吐くんだミョ~」と言うイーシェの声が聞こえてくる。


「もー、止めてください! 誰が一番だとか、そんなの選べる訳ないじゃないですか! 皆さん素敵過ぎて、私には勿体無いと言うか……」

「つまりは、ちやほやされて嬉しいからこのままでもいいんじゃないと言った所かミョ? やっぱり悪女ミョ」

「なっ! ちがっ」


 ぐさりと来る言葉を平然と放つイーシェに、早夜は否定の言葉を発しようとした。だが不意に、早夜の前にいるカンナが離れたかと思うと、フワリと身体が浮いた。


「え? え? カ、カンナさん!」


 なんとカンナが早夜を抱き上げたのだ。そして、湯船の淵に座らせると、早夜の手を恭しく取った。

 イーシェを始め、それを見ていた者は皆、ポカンとしてしまう。


「選ぶ必要はありません……」

「あ、あの……カンナさん?」


 突然のカンナの行動に、戸惑いを隠せない早夜。しかし、早夜を見つめるカンナの表情は憧れと崇拝が浮かんでいた。


「誰か一人を選ぶ必要などないのです。気に入られた方全員を婿に迎えればよろしいではありませんか」

「……は?」


 早夜もまたポカンとしてしまう。


「あなたは覇王であられる……望めば世界を手に入れられる御方……。何も一人だけを選ばれる事はありません」


 カンナは早夜の手を取ったまま、徐々に顔を近づけてくる。

 だんだんと纏う雰囲気も、怪しくなってきて、思わず声が上ずる。


「あ、ああああのカカカンナさん!?」

「できる事ならば、私もその婿の一人に選んでくださると嬉しいのですが……」


 一瞬時が止まった。

 そして時が再び動き出すと同時に、


『ええぇぇぇ!?』


 カンナ以外の声が、この露天風呂に響いた。


「ちょッ、ちょっと待って? 確かに早夜は女の私から見ても可愛いけど……」

「お、女同士の禁断の恋!?」

「これが噂の百合ってやつミョ?」

「カ、カンナさん!? 婿って……私達女同士ですよ!?」


 たじろぐ早夜に、カンナは悠然と微笑んで見せる。


「ご安心下さい、サヤ様。私達一族は、性別を好きなように変えられます」


 皆が『えっ!?』と声を上げるよりも早く、カンナは自身に呪印を纏わせたかと思うと、見る間にその身体が変わってゆく。

 大きな膨らみを持つ胸は縮み、女性的な丸みをもっていた体は、固く筋肉質なものへと変わった。

 顔も、目が少々切れ長になり、唇は薄く鼻筋もすっと通って、何処から如何見ても男性の顔つきになる。カンナの面影を残しながらも、その美青年ぶりに、早夜は言葉も出ない。ただ、幸いな事に下半身は青い湯の中で、変化を見ずに済んだ。


「サヤ様……いかがですか? お望みとあらば、年齢も体系も変えられますが……」


 声も男性の物へと変わり、元々女性の時も低めであったが、今は更に低く、身体の奥底まで響いてきそうな甘いバリトンであった。

 早夜は暫し固まっていたが、ハッと我に返ると、振り返って他の者を見た。

 皆、あんぐりと口を開けっ放しにしている。

 その時、ふと手の甲に少々熱を持った柔らかい物が触れ、前を見ると男カンナがそこに唇を寄せているのが見えた。

 姫君を護る騎士の如く手の甲に口付けるカンナ。しかしながら、お互い裸で、しかもじっと此方を見据える彼(彼女?)の灰色の瞳は、劣情に満ちた熱の篭もったもの。


「それとも、サヤ様が男性となられ、私にあなた様の種を植え付けて下さいますか?」

「へ?」


 またもやカンナは呪印を解けさせると、今度は早夜にそれを向けて放つ。


「い、いや、ちょっと! ひゃぁぁぁあああ!!」


「キャー、早夜ー!?」

「い、いやーん! 何これ!?」

「ミョォォォオオ!?」




「蒼!? 何カアッタデツカ――ハッ! コレハ!?」


 脱衣所にて、蒼達が出た時の為にせっせとタオルやら水やらを細々と用意していた花ちゃん。突然の騒ぎに様子を見に来て、そしてそれを見た花ちゃんはクワッと口を開けた。


「タオルガ足リナイデツ!!」





「何だ今の叫び声は!?」


 丁度ピトの元に来ていたリュウキは、突然聞こえてきた悲鳴にハッと顔を上げる。


「ああ、皆で露天風呂に入っとるよ」


 ピトはまるで今の悲鳴が聞こえていなかったかのように、平然と答える。


「温泉って……またか蒼……」


 アルフォレシアでのお風呂騒ぎを思い出して、嫌な顔をする亮太。確かに今の悲鳴の中には、蒼の悲鳴も含まれていたように思う。

 けれども、早夜の悲鳴もまた聞こえた。


「あいつ……早夜さんに変な事してないだろうな……?」


「それにしても、露天風呂というのは何なのだ?」

「ああ、それ、俺も知りたいな」


 ロイとカムイが不思議そうに首を捻っている。

 如何やら二人の世界には露天風呂が無い様である。

 その質問に、ピトが「屋外にある、皆では入れる大きな風呂の事ジャよ」と実に完結に答えた。

 するとロイとカムイの二人は対照的な反応を示す。


「風呂というのは、あの熱い湯に入る事であろう? 我はあれはどうも苦手だ……体を洗うなど、水で十分だ」

「へぇ、でっかい風呂かぁ……そりゃまた贅沢だなぁ。俺の世界では水は貴重だったからな。ましてや外でだなんて夢のまた夢だぜ!」

「?? 何で外だと夢のまた夢なんだ?」


 リュウキが不思議に思ってそう訊ねると、カムイは事も無げにこう答える。


「俺の世界では、自然ってのがもう殆ど死滅してたんだよ。なんつーか滅びる寸前ってやつか? 食いもんや水は人口の物しかなかったし、地面から水が湧き出すなんて話は、御伽噺か夢物語の中でしかなかったからさ」

「……カムイお主、見掛けによらず壮絶な人生を送っていたのだな……」

「ははは! 壮絶かどうかはしんねーけど、毎日食うもんがなくて腹すかせてたな。兄弟も多かったし。俺の父ちゃんと母ちゃんは科学者で、しかも俺以外の兄弟全員天才ってやつで、いつも発明とかしてたから、他の家族よりは楽な暮らしだったと思うぞ? 一週間に一回くらいはまともな食事にありつけてたし」

「いつものお前を見ていたら、全く想像もできない暮らしをしていたんだな……」


 カムイの意外な故郷の話を聞いて、驚きを隠せないリュウキたち。しかし、その時花ちゃんが「タオルタオル」と言いながら飛んできた。


「おい、花!」


 亮太が咄嗟に花ちゃんを呼び止める。

 花ちゃんはピタリと止まって、亮太を見た。


「アイ、何デツカ?」

「あのさ、今早夜さん達の悲鳴が聞こえたけど、何かあったのか?」


 すると花ちゃんは、クワッと口を開けたかと思うと、


「蒼ガ鼻血ヲ出シマツタ!」

「は?」


 花ちゃんはそれだけ言うと、またもや「タオルタオル」と言いながら行ってしまう。


「……蒼が鼻血? あいつ……また流血騒ぎ起こしやがて……」


 呆れて溜息をつく亮太。

 子供の頃も、家族ぐるみで温泉旅行に行った時、はしゃいで転んで頭を打って、血を流した事を思い出す。そして今回は鼻血。頭を打つよりはましだと、呆れながらも何処かホッとしていた。


 そして、話を聞いていたリュウキもまた、ホッと肩の力を抜く。


「如何やら早夜には何も無いらしいな。よかった……」


 しかし、ホッとするのも束の間、タオルを持て再び現れた花ちゃんに、ピトがふと疑問を投げかけた所、不可思議な答えが返ってきたのだ。


「何たって蒼は、鼻血を出す羽目になったのかの?」

「早夜ノ上ニ、カンナタンガ乗ッカッタンデツ」


『は?』


 この場にいる全員の声が重なった

 そしてまたもや、言うだけ言って花ちゃんはそのまま行ってしまう。


「何か今、変な言葉を聞いたんだが……」


 リュウキがこめかみを押さえて、難しい顔をしている。


「カンナがサヤの上に乗っかったと聞こえたのだ……」

「何だ、とっくみあいの喧嘩か?」

「いや、それは有り得ないだろう……如何やらカンナは早夜に忠誠を誓っているようだし……」

「………」

「おや? 亮太、お前さんも鼻血が出とるぞ?」


 見れば亮太蹲り鼻を押さえている。地面にはぼたぼたと赤い血溜まりが広がっていった。

 リュウキは目を眇めると、


「いかがわしい想像をするな……」


 と、亮太の頭を鷲掴みにして睨んでいる。


「ズ、ズビバゼン……」


 ミシミシと頭蓋骨が軋みをあげる中、亮太は鼻を押さえて、赤くなったり青くなったりと急がしそうであった。




 そうしている内に、女性陣がぞろぞろと出てきたのだが、その顔は皆一様に赤くなっていた。

 それは、風呂上りだからという事ばかりでは無さそうである。



 蒼はタオルで鼻を押さえながら、


「いやー、久しぶりに鼻血吹いたわー……」

「蒼ダイジョーブ?」

「大丈夫大丈夫、あまりの光景に興奮しただけだから」


 等と花ちゃんに手を振っている。



 ミリアはと言うと、真っ赤な顔で、何やらブツブツと言っていた。



 イーシェは、興奮気味に目を輝かせ、頬を紅潮させたまま、


「いいもん見させてもらったミョ。でも意外にサヤのブツがでかかったのには驚きミョ」


 ムフフと笑っている。



 一番最後に早夜だが、彼女は何故か酷くショックを受けていた。そしてカンナの姿は無かった。恐らく、いつものように姿を消して早夜の後ろについているのだろう。

 何だか異様な雰囲気に、声を掛けるのは躊躇われたが、リュウキは勇気を出して早夜に声を掛けた。


「早夜? 元気が無いが、如何した? 何があった?」


 勤めて優しく声を掛けたのだが、早夜はリュウキの顔を見た途端、顔を真っ赤にして目に涙を浮かべたかと思うと、


「私、私……もうお嫁に行けませーん!」


 等と叫んで、移動魔法で何処かに移動してしまった。

(嫁にいけない!? 早夜、一体何があったんだ!?)



「蒼……本当、一体何があったんだよ。あの早夜さんの様子はただ事じゃねーだろ?」


 亮太が蒼に問いかける。

 リュウキを前にした早夜の様子を見て、何だか凄く嫌な予感がするのだが、蒼は先ほどの花ちゃんのように、クワッと口を開けたかと思うと、


「ビバ! BL!」


 と叫んだ。


「はぁ?」

「いやー、私そういったの好きな方じゃなかったんだけど、なんてーの? 元が女同士っていうのも多少はあると思うのよ?」

「は? いや、蒼?」

「もー、早夜ってば男になっても可憐だわー……でも艶かしさもあるっていうか……」

「お前、何言ってんだ?」


 全く意味が分からなかった。

(早夜さんが男ってどういう事だ?)



 一方リュウキは、暫し固まっていた後、ふと我に帰ると、丁度右前方でブツブツと呟いているミリアに、何があったのか訊ねようとした。

 しかし、リュウキが声を掛けた途端、ミリアはピシリと固まる。早夜同様、逃げられるかと思ったが、そんな事は無く、何処かボーとしてリュウキを見てきた。

 何だかその目つきが怖いような気がするのは気のせいであろうか。


「お主達、如何したのだ?」


 そこにロいも加わって、ムエイの隣に立ったのだが、ミリアが突然「ヒャー!」と言う奇声を発した。

 そしてグルンと背を向け、またもやブツブツと言っている。


「な、何だ?」

「我の顔を見た途端叫ぶとは……我はミリアに何かしたのか?」


 しかし、ミリあの呟きをよく聞いてみると、


「駄目よミリア、そんな想像しちゃ」


 とか、


「ああっ、でもなんかドキドキするっ!」


 等と聞こえてくる。

 そして、そんなミリアの肩を、ポンと叩く者がいた。

 ミリアが顔を上げると、そこには真珠色の瞳があった。


「イ、イーシェ……」

「で? どっちが受けで、どっちが攻めミョ?」

「っ!! いや~ん!! ムエイ様が汚される~!!」


 ミリアは、そんな事を叫びながら顔を覆って走り去ってしまう。

 その場に残されたリュウキとロイは、互いに顔を見合わせ、唯一事情を知っていそうなイーシェに目を向けるのだが、


「ミリアは想像力が逞しいミョ。お前たちもあんまり気にしなくてもいいミョ。例えどんなにミリアの頭の中で汚されようとも、実物には何の影響も無いミョ」

「汚されるって何の事だ!?」

「ミリアは一体どんな想像をしたのだ!?」

「だから気にするなと言っているミョ。知ったが最後、立ち直れないのは目に見えてるミョ」


 更に気になる事をいうイーシェに、頭を抱えるリュウキとロイ。そんな中で、カムイだけは何処までも暢気に、「そんな事より露天風呂入ってもいいかぁ?」と言っていた。

 結局の所、誰にも彼女達に何が起こったのか知る事は出来なかったのである。



 ただ、その後露天風呂へと向かったカムイの感想は、


「いやー自然って不思議だなぁ。あんな紫色の湯が地面から湧いて来るんだろ? 吃驚だわ」


 そう言って、


「おかしいのぅ。湯の色は青色の筈なのにのぅ……」


 と、ピトを不思議がらせたのだった。





 今回は、カンナの性別変換と、カムイの故郷のお話をちょっぴり書きたかったのです。


=カムイの話=

 カムイは兄弟はいっぱいいます。弟3人、妹2人、お兄ちゃん4人、お姉ちゃん3人、カムイを合わせて13人兄弟です。

 彼らは皆天才で、何故かカムイだけ筋肉馬鹿に育ってしまいました。

 あ、彼の斧は、一つ上のお兄さんが作ってくれた物です。外に狩りに行く時の為に。カムイはもっぱら、外で食材探しをしていました。

 彼が此方に来た時、彼の世界はもういつ滅びてもおかしくは無かったんですよね。それを、カムイの両親と兄弟達は力を合わせて、この世界から脱出しようと装置を作りました。

 カムイはその時何をしていたのか……実は寝ていました。彼には手伝えませんから、邪魔にならないように寝てたんですよね。

 そして、彼の寝ている間に装置は完成。しかも一つだけ。

 彼の両親と兄弟達は誰を装置に乗せるか悩みました。色々と悩んだ末、何処でも生き残れそうなカムイを乗せる事に。

 彼らはカムイが寝ている間に装置に乗せ、この世界から脱出させたのでした。

 だからカムイは知りません。両親や兄弟達も、装置に乗って、何処かで生きていると思っています。


 ちょっぴり悲しいカムイの真実……。

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