14.黒い魔女
今回もまた、多少なりとも流血表現ありです。苦手な方は注意。
早夜はその時、酷く胸騒ぎがしたのだ。
誰かが呼んでいるような、助けを求めているような……そんな感じがして、居ても立ってもいられなくなった。
だから早夜は抜け出した。
それはナイールが居ない時であった。
姿を消し、傍に付き従っていたカンナの制止も振り切り、あっという間に消えてしまう。
移動魔法を行ったのだと気付くのに暫しの間があった。
カンナは早夜がいきなり目の前から消えて動揺する。早夜に出会ってから、彼女の感情は豊かになってきていた。
改めてカンナは、早夜が自分にとって魂を、心を解放してくれる存在なのだと認識する。
しかし、その動揺はカンナに不足の事態を招く事となった。
早夜の魔力を感知し、その後を追おうとした時、ナイールが部屋に入って来たのだ。カンナは彼が近づくのを感知出来なかった。
「カンナ!? 何故カンナがここに!?」
彼はキョロキョロと部屋を見回し、そしてカンナを鋭い眼差しで見据えると、
「サヤは何処にいる?」
強い口調で言い放つ。
カンナは答えなかった。否、答える事が出来なかったのだ。
咄嗟にいい嘘が出てこずに瞳を泳がせる。
ナイールもその姿を訝しんだ。
こんな感情を露にしたカンナを見るのは初めてであったから。
しかし、詰問を緩めるつもりは彼にはなかった。
「カンナ、サヤは何処かと訊いている」
もう一度、命令口調で訊ねたが、やはりカンナは答えず、それどころか呪印を纏わせこの場から去ろうとする。
「待て、カンナ!」
そんなナイールの声も虚しく、カンナは姿を消した。
ナイールは苛立たしさからバンと壁を叩く。
「何故カンナが私の命令を聞かなかった……」
これは一体どういう事か……。
「そんなもの、あの男しかいないではないかっ!」
王子である自分よりも優先させる命令を下せる者は、この国で一人しかいない……。
ナイールはその男に会う為に部屋を出る。
早夜を取り戻す為に王に会いに……。
早夜は移動した先でそれを見た。
地面に無残に横たわる小さい生き物。
頭の花は、花びらが全部引き千切られていて体もボロボロだ。
早夜はそのあまりの惨さに口に手を当てた。近くには彼らが乗る円盤が落ちており、これもまた滅茶苦茶に壊されてしまっている。。
「……ひどい……」
早夜はその小さな生き物に近付いて、その体をそっと抱き上げる。
すると微かに身じろぎをし、まだ生きている事を確認できた。
「まって今直ぐ治す――ああ、そんな……」
早夜はすぐさま魔法で治療しようと思ったのだが、もう既に死に向かっているこの生き物を癒す事は出来ないと早夜の中の知識が教えてくる。
早夜はそのまま、魔力を出す事無く悲しみに顔を歪めた。
「……タスケテ……」
その時、小さな声を聞いた。この魔道生物の声だと気付き、ハッとして手の中を見下ろす。
小さな小さな瞳が早夜を見上げていた。
「ああ……ごめんなさい。私はあなたを救えない……」
けれど、魔道生物は首を横に振ると、その小さな手を差し伸べてくる。
その手には種が握られていた。
「違ウノ……コノ子ヲ助ケテ……」
「これって……」
早夜は、震える手でその小さな種を受け取った。
それを見届けると、この小さな生物は満足げに微笑み、そしてそれきり目を開ける事は無かった。
早夜はその魔道生物をピトの元へ戻そうと立ち上がる、
しかしその時、魔導生物のその惨状を気にするあまり、周りに目がいかなかった。
「奴隷がここで何をしている!」
「え……きゃあ!?」
早夜はグイッと後方に引っ張られ、そのまま尻餅をついてしまった。そして「ああっ」と声を上げる。
抱えていた小さな亡骸が、その手から転げ落ちてしまったからだ。慌てて駆け寄ろうとするも、阻まれてしまった。
見上げれば早夜は、数人の男たちに囲まれていた。皆上等の服を着て、宝石類も付けている。肌はこの国特有の褐色で、早夜はこの者達がナイールの言っていた貴族なのではないかと思った。
「一体何処から浸入した?」
「女……まだ子供か……」
「しかし……見ろ、この娘。奴隷のくせに我ら貴族の高貴な格好をしているぞ」
男達は、早夜を値踏みするようにじろじろと見た。
ハッとして自分の格好を見る。
いきなりの事で全く着替える暇もなかった。
不躾にじろじろと見下ろしてくる男達に、早夜は寒気を覚えながらも通して欲しい旨を伝える。
しかし男たちは厭らしく顔を歪めると、それぞれに顔を見合わせながら笑い出した。
「何故我らがお前のような卑しい奴隷の言う事など聞かねばならぬのだ」
「お前たち奴隷は我ら高貴なるクラジバール人の単なる所有物なのだという事を忘れるな」
「そうだ。我らが必要となった時にだけ喜んでその身を捧げればいい」
「そう、そして今が我らが必要とする時だ」
「──っ」
早夜はビクリと肩を震わせた。男たちの視線が残忍なものに変わった事に気付いたからだ。
「ソレはもう使い物にならなくなってしまったからな」
ボロボロの姿で横たわる魔導生物の亡骸を顎で示しながら男の一人が言った。
早夜は目の前が真っ暗になるのを感じる。恐怖が別の物に磨り替わった。
一体この人たちは何を言っているのだろう。一つの命に対してなんて言い草なのだろうか。
珍しく早夜は怒り心頭である。
この人たちには何を言ってもきっと通用しないだろう。命の重みも分からぬ愚か者たちなのだ。
早夜は冷ややかに男たちを見据えた。
「何だその目付きは!?」
当然男達はその視線を見咎め、怒鳴り付ける。
「奴隷の分際で我らにそのような視線を投げ掛けるとは……」
「これは躾が必要だな……」
「しかし、この前の様に直ぐに壊さぬように気を付けねばな」
男たちの手が早夜に伸びる。
早夜は身の危険を感じ、その場から移動しようと魔法を使おうとした。しかし、どんなに集中しようとしても魔力が外に出てこようとしない。
「そんな……どうして!?」
「ん? もしかして今、魔法を使おうとしたのか? はっ、その枷は随分と甘い設定になっているのだな。一体誰が飼い主なのやら」
「私の奴隷は、許可なくして魔法を使えば直ぐにでも発動するようにしてありますよ」
「それはあなただけではない。奴隷を飼う上で常識でしょう」
「それもそうですな」
男たちがそんな事を言って談笑している間、早夜は自分の足元を見る。そして魔法が使えない訳を知った。
(この絨毯の模様、魔法陣になってる!?)
手に触れる感触も心地よい、毛足の長い絨毯。見るからに高そうなその絨毯に描かれた模様は、魔力を内側に閉じ込める効果の物だと分かった。
恐らくこの魔法陣を壊せば何とかなりそうであったがしかし、こうして悠長に分析している場合ではなかった。
「あっ! ぅ……」
グイッと髪を引っ張られ、早夜は痛みに顔を歪める。この場にいる男の一人が髪を引っ張って早夜を立ち上がらせたのだ。
男たちは下卑た笑み浮かべて、このいかにもか弱そうな少女を如何にして痛め付けてやろうかと考えていた。
だがしかし。
「ぐああぁぁー!!」
男の叫び声と共に、早夜は自由となる。
ゴトン。
続けて聞こえた音に、早夜だけでなく、この場に居る者達全てがそれを見て驚愕し、震え上がった。
「ああああっ、腕がぁ!! 私の腕がぁ!!」
早夜の髪を引っ張った男の腕が、途中から無くなっていたのだ。
男はぼたぼたと出血する腕を抱え込むようにして蹲る。
「汚らわしい手でサヤ様に気やすく触るな!! 我が覇王であるサヤ様を傷つけようとするなど、万死に値する!」
「っ!! カンナさん!!」
そこには紫の髪を振り乱し、怒り狂うカンナの姿があった。
彼女は早夜の声に振り向くと、ホッと安堵の表情を見せる。
不思議な事に、カンナは魔力の封じられるこの場にあっても力を使う事が出来るようであった。
それは、呪印と魔法が違う所にある為かもしれない。
魔法が、魔力というエネルギーを図式や呪文といった物で構築して発動するのに対して、彼女の力は既に呪印という形で構築済みなのだ。
だからカンナは、こうして体に纏わり付かせた呪印を解けさせ、刄を作り出して男の腕を切きる事が出来た。
そして今もまた、カンナは何かをしようとしているようであった。解けさせた呪印を四方に広げ、まるで蜘蛛の糸の様にその場に居る男達を取り込んだ。
「だ、駄目! カンナさん!」
落ちた男の腕から目を離せないでいた早夜は、カンナが次に何をしようとしているのかに気付き叫んだ。
しかし、彼女の名を呼んだ時にはもう遅く、次の瞬間には早夜は飛び散る赤い飛沫と、男達の呻き声に囲まれていた。
「ご無事ですか、サヤ様……何処かお怪我などはございませんか?」
しかし、早夜は答える事が出来ずに、この惨状にただ茫然と立ち尽くすだけ。
けれどその時、足をガシッと掴まれ我に返ると、そこには腕を無くしたあの男が「助けてくれ……」と早夜を見上げ訴えている。
「っ! サヤ様に触れるな!」
カンナがそれを見て、また呪印を解けさせようとした。
「やめて!!」
カンナが動きをピタリと止める。
「サヤ様?」
「もう止めてくださいカンナさん……」
悲しげに顔を歪める早夜。
一瞬、何故止めるのかと心底不思議そうな顔をするカンナであったが、早夜の言う事に素直に……いや、恍惚とした表情で従った。
早夜は目の前で片腕を無くし苦しむ男の傍らにしゃがみ込むと、近くに落ちている男の腕を震える手で拾い、その断面を合わせる。
「カンナさん、この絨毯を切り裂いてください」
カンナは早夜が男の腕を拾うのを見て止めさせたかったが、早夜のその強い眼差しにそれが出来なかった。そして、早夜の言うとおりに絨毯を切り裂く。
すると早夜は、切断された腕に小さく陣を現わした。そして一部分だけ治して見せると、男に向かって言った。
「今、ほんの一部分だけ治しておきました。私はこのあなたの腕を、完全に元通りにする事が出来ます。後遺症も痕も残す事無く……」
「なっ!? 本当か!! た、頼む! 早く治してくれ! その暁には私がお前を大事に飼ってやろう! 思う存分贅沢もさせてやる!」
早夜は眉を顰め、短く溜息をつくと首を横に振った。
「それは(ナイール王子で)間に合ってます……謝って欲しいんです」
「わ、分かった! 謝る! 謝るから早く腕を治してくれ! このままでは私はおしまいだ!!」
この世界では目立つ傷を負うという事は、社会的地位も、身分も、全て無くなるという事。一生隠れて暮らさなくてはならなくなるだろう。男はそれを恐れているのだ。
そして今、目の前の黒髪の少女は一部分ではあるが、傷痕も残さずに治して見せたのだ。
「では謝ってください……他の人達もです。そのままでは傷が残りますよ……」
見れば、他の男達も決して浅くはない傷を負っている。余程腕の立つ術師でなければ痕も残さずに治す事など不可能であろう。
すると、早夜の魔法の腕前を見た男達は、皆一斉に早夜に向かって我先にと謝り始める。
「わ、悪かった! 許してくれ!」
「この通り謝るから、早く治してくれ! 血がさっきから止まらないんだ!」
けれども早夜は首を振る。
「いいえ、謝るのは私にではなく、あの子にです……」
そう言って指差す方向には、あの魔導生物の亡骸があった。
男達は、もう既に死んでしまった者へ謝罪しなければならないと言う早夜の考えが理解できなかったが、それでも傷を治して欲しい一心で謝った。
そこに心など一切篭っていなかったが、早夜は頷き全員に治癒を始める。
そうして早夜に完璧に治してもらった男達は、傷が塞がった場所に不思議な文様が刻まれている事に気付いた。
「何だこれは!?」
男達が声を上げる中、早夜は静かに言った。
「今後、同じような事があった場合、今回掛けた治癒魔法は無効となる呪です。この子達魔導生物を傷つけたり、奴隷だからと言って人を傷つけたりした時も同様です」
「何だと!? 完璧に治したのではないのか!?」
「治しましたよ。その模様も時間が経てば消えます。でも、少しでも命を粗末にしようとすれば、またその模様は浮かび上がって、傷口は開くでしょう」
その言葉を聞いて、男達が怒りの表情で詰め寄ってくるのを、カンナが呪印を見せ付けながら阻んだ。
「これ以上サヤ様に近づけば、お前達にまた新しい傷を作ってやろう」
男達は恐れ、退く。
そして早夜とカンナはこの場から立ち去った。その際は、魔導生物の亡骸を抱いて……。
向かう先は魔法研究所。ピトと彼の仲間が居る場所へと……。
男達は「魔女だ」と呟き、立ち去る黒の髪と紫の髪の女の後ろ姿を見つめていた。
そしてもう一人。離れた場所におり被害を免れた人物が居る。彼はずっと物陰から早夜の事を見ていた。
「そう、魔女だ……黒い悪魔め……」
その人物はずっと早夜だけを見ていた。忌々しげに憎々しげに、まるで誰であるかを知っているように……。
「……陛下……」
「何だ王子よ……」
ナイールは、醜く膨れた体を玉座に埋めるその男を睨み付ける。
珍しく女を侍らせる事無く、香を焚く事もせず、けれどナイールに目を向ける事はせずに、傍らに置いてある盆の中の果物を一つ取って、食べるでもなく手の中で弄びながら出迎えた。
幾分か顔色が悪いようにも見えるが、ナイールはそれを構わずムハンバード王に言い募る。
「サヤは何処ですか……」
感情を押し殺している為、何の抑揚もない静かな声となっていた。
「……サヤとは誰だ……」
ぼんやりとした目で果物を眺めるムハンバードのその言葉に、ナイールはギリッと拳を握り締め絞り出すように言う。
「この前、あなたが鞭打った娘、そして今回はカンナに命じて連れ去った娘ですよ……」
知らないとは言わせないと言わんばかりに王を睨んだ。
しかし、胡乱げにナイールをチラリと見ただけで手の中で果物を転がし続けている。
それは当然だろう。誰も早夜を攫ってはいないのだから。
しかし、そんな事とは知らないナイールにとっては、ムハンバードのその仕草は白々しく腹立たしさを覚えるだけである。
「だからそれは誰なのだ。鞭打った娘とはどの娘の事だ? それにカンナというのも誰なのだ? 奴隷の名前など一々覚えてはおらぬわ」
小馬鹿にしたように鼻で笑うムハンバード王にますます怒りを募らせるナイール。
「よくもそんな事が言える……」
「何だと?」
ピクリとムハンバードの眉が上がった。例え息子であっても王に楯突く事は死を招く危険な行為である。
それでもナイールは王を睨む事を止めない。
青い瞳が怒りに揺れる様を見て、ムハンバードは眉を顰めやがて脂肪で膨らんだ頬をぶるぶると震わせた。
「止めろ! わしをそのような目で見る事は許さん!」
手の中の果物がグシャリと潰れ、辺りに甘い芳香が立ち上る。そのままぼたぼたと果汁が滴り、ムハンバードはナイールに向かって原型を無くした果物を投げ付けた。
けれどそれが彼に当たる事はなく、僅かに体をずらしただけでナイールはそれを避けた。青い瞳はそのまま王を睨み据えている。
「や、止めろ、見るな!」
今度は鞭を取出し、以前のようにナイールを打据えようと鞭を振るった。
鞭の先がナイールを傷つけようと近づくが、それは空を切り床を叩く。そして引っ込む寸前、足で押さえ付けられた。
「クッ、その足を退かさぬか!」
ナイールはその命令が聞こえぬ様に、身を屈め足で押さえ付けた鞭を掴み腕に巻き付けると、思い切り引っ張る。
体重の重いムハンバードであったが、意図せぬ行動にバランスを崩す。
手の下の冷たい床の感触に、何が起きたのか理解できぬ王は、頭上から聞こえてくる声で我に返った。
「不様ですね、陛下……」
冷ややかに王を見下ろすナイール。その瞳には嘲りの色が見て取れる。
「いつもとは逆ですね、陛下。こうしてあなたを見下ろす事はとても気分がいい……それで? サヤは何処です? 陛下が私に命じたアルフォレシアから連れ去ってきた娘の事ですよ」
「っ!!」
途端にムハンバードの顔色が変わる。恐怖に彩られたその表情にナイールは何処か違和感を感じた。
(まさかサヤを連れ去ったのはこの男ではないのか?)
そう思った時、目の前のムハンバードが弾かれたようにその場から飛び退く。そして玉座にしがみ付き震え出した。
一体何に怯えたのか、ナイールはムハンバード王のその視線を追いかけた。
するとそこには、じっと此方を見据える紫の髪の女の姿が。
そう、カンナである。
ナイールは、もう一度目線をムハンバードに向け、そしてまたカンナに戻す。
これは一体どういう事か。
ムハンバードはカンナを見て怯え、カンナは自分を真っすぐに見つめている。
すると、カンナが口を開いた。
「ナイール様、サヤ様は魔術研究所内です。私と一緒に行かれますか?」
「なっ!? それはどういう事だ!? サヤを攫った者がそこに居るのか?」
訝しげに眉を顰めて訊ねるナイールに、カンナは首を振った。
「いいえ、サヤ様は誰にも攫われてはおりません。サヤ様ご自身の意志で参られたのです」
「何だって!? でもだとしたら何故君があの場に居た?」
「それは……」
カンナが何事か言い掛けた時である。
彼女はハッと首を回らせ、とある方向をジッと見つめていたと思うと、驚きに目を見開かせた。
「そんなっ! サヤ様の魔力が消えた!?」
「何だと!?」
早夜は男達のもとから離れると、ピトの居る研究所へと向かった。
その途中、カンナはすまなそうに早夜に言った。
「サヤ様、申し訳ございません。実は、私の姿をナイール王子に見られてしまいました」
早夜は立ち止まり、カンナを見る。
「サヤ様が急に居なくなられ、ナイール王子が近づいてくる事に気付かず、しかも何もよい言い訳も浮かばずにそのままサヤ様の元へと……」
「じゃあ、ナイール王子は……」
早夜が言い掛けると、カンナは「はい」と頷いた。
「きっと今頃サヤ様が攫われたと思って、恐らくムハンバードの元へと向かっているやもしれません」
「それは大変な事じゃないですか!」
怒りに脂肪を揺らし、鞭を振るう王の姿を思い出す。
「今すぐナイール王子に、私は無事だと知らせないと!」
でも、と早夜は手の中の亡骸を見つめる。
この子を早い所、ピトの元へと運んでやりたい。
そこでカンナにナイールの事を頼む事にした早夜。自分が無事だという事と、王の所に居たならば連れてきて欲しいと言った。
そしてカンナは呪印を纏わせナイールの元へと向かったのだ。
早夜はカンナを見送った後、ある決心をする。
(ナイール王子に全部話そう。全部話して協力してくれるように頼もう。きっと今のナイール王子なら……)
そこまで思ってハッとする。
(でもこれってナイール王子を利用する事なんじゃ……)
そう思った時、辺りから魔導生物達が現れ早夜に近づいてくる。
そして、早夜の手の中に居る自分の仲間の亡骸を見て哀しげな顔をすると、一体一体その小さな口を開いて歌を歌いだしたのだ。
それは何処か子守唄の様に聞こえた。
「あなた達は……」
「僕達ノ仲間ヲ大切ニ扱ッテクレテ、アリガトー」
「後ハ私達ガ運ブノー」
そう言って早夜から仲間の亡骸を受け取り数体で運ぶ。
早夜は茫然としながらも彼らの後を追った。
しかしその直後、早夜は何者かに口を塞がれてしまう。
「ふむぅ!?」
薬のような物を嗅がされ、抵抗する暇も無く意識を失う早夜。
そして、完全に意識を手放す前の朦朧とした中で、早夜は目の前で大慌てで右往左往している魔導生物達の姿と、男の声を聞いた。
「黒い魔女め……王だけでは飽き足らず、ナイール王子様まで誑かすつもりか? そんな事私がさせるものか……」
呪印と魔法の違いを書きましたが、解りづらかったらごめんなさい。
念の為、もう一度説明。
カンナの呪印は、魂自体に刻まれた物で、種族自体に掛けられた呪いと申しましょうか……命令してくれる者がいなければ、無力に等しいです。
でも、命令してくれる者がいれば、おまけにその者が人を支配できるような強い力を持っていれば持っているほど、呪印の開放が自由になります。結構何でもあり。
今回の場合、あの絨毯に刻まれた魔法陣は、魔力封じのものなので、カンナの意思だけで発動できる呪印には効かなかった、という訳です。
等と説明してみましたが、やっぱりわかりづらかったでしょうか?