おまけ(癒し手花ちゃん)
「蒼ー、大丈夫ー?」
「ええ、大丈夫よ、花ちゃん。ありがとう」
包帯と呪符の巻かれた腕を、花ちゃんは献身的に擦る。
蒼にとって、触れる事さえ痛い筈のその場所は、不思議な事に花ちゃんが触ると痛みが和らいだ。
だがそれは、治る訳でもなく、その傷はゆっくりとだが着実に進行してしていっている。
いまや、肘を超えつつある赤黒いしみは、蒼に言いようのない不安と恐怖を与えた。
そして、その不安と恐怖はまるで、痛みへと変換されるようであった。
と、そこに、扉をノックする音がして、部屋の中に亮太が入ってくる。
「よっ、蒼。メシ持ってきたぜ」
「あ。ありがとう、亮太」
「何だ、また痛むのか?」
花ちゃんに腕を摩ってもらっている蒼の姿を見て、眉を顰める亮太。
そんな彼を見て、蒼は苦笑すると首を振った。
「花ちゃんは暇さえあれば、こうやって擦ってくれるのよ。私が痛がってても、そうでなくてもね」
蒼は亮太の前では、なるべく痛がったり不安な顔はしないようにしている。
亮太はここの所、蒼に優しい。
蒼に分かる程度の優しさではあったが、彼なりに責任を感じての事だと蒼には分かった。
守れなかったという思いがあるのだ。
だから蒼は、これ以上心配させる事の無い様に、笑顔を見せる。
「メシ、食えそうか?」
心配そうに訊ねてくる亮太に、蒼はニッと笑ってこう言った。
「何? 食べさせてくれるの?」
「うっ……」
一瞬たじろぐ亮太であったが、直ぐに蒼に向き合うと、
「ム、ムリそうならそうする……」
そう言って、硬い表情でスプーンを手に構える。
そんな彼に、蒼は噴き出すと、
「気持ちはありがたいけど、止めておくわ。あんたは早夜の事でも考えてなさいよ」
早夜の名前を聞いた途端、顔を赤くする亮太に、蒼は苦笑した。
そして、
(お願いよ。早夜の事だけ考えて。私なんかに構わないで。私が足手まといになってるのは分かってる。亮太だけであれば、早夜の所に行けたのに……本当に馬鹿よね……。お願いだから、優しくなんかしないでよ……)
笑顔の裏でそんな事を考えている蒼。何だかまた、腕が痛くなってきた気がする。
すると、花ちゃんがピトッと、蒼の腕を抱き締めてきた。
「花ちゃん……?」
「蒼ノ痛ミガ、無クナリマツヨウニ。僕ノ元気ガ、少シデモ伝ワリマツヨウニ……」
その願いは、あまりにも純粋で健気で、蒼は花ちゃんを手の上に乗せると、自分の頬っぺたに押し付ける。
花ちゃんは「キャー」と嬉しそうに叫び声をあげた。
「ありがとう、花ちゃん。ちゃんと花ちゃんの元気は伝わってるから。痛みも、花ちゃんのお陰で、大分楽よ。
花ちゃんは、最高の癒し手ね」
「アウッ、本当デツカ!? 蒼ガ笑ッテ、喜ンデクレル事ガ、僕ハ一番嬉シイノデツ!」
幸せそうに頬を染める花ちゃん。
蒼は堪らなくなって、花ちゃんを両手で掴むと、そのもちもちとした体を、モギュモギュとし始める。
「お、おい、蒼!?」
「んもー! なんて可愛いのかしら! もう、うちの子、健気すぎるわ! そう思うでしょ? 亮太!」
「え? あ、ああ……そうだな……」
正直、亮太も花ちゃんの言葉に感動を覚えたのだが、蒼のその興奮した様子に、少々尻ごみをする。
何より、蒼の手の中で、モギュモギュと握られている花ちゃんを見て、大丈夫だろうかと心配になった。
しかし、花ちゃんは、
「アウー、キャハハ。クスグッタイデツー!」
と、身もだえをしている。
そして、花ちゃんをモギュモギュとしている蒼の顔は、至福そのもので、そんな蒼を見て、
(そんなに気持ちいのか!?)
と、思わず自分も触ってみたくなる亮太であった。
らぶりぃ花ちゃん、私もモギュモギュしたいです……。(ああ。癒されたい)