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異界の旅人  作者: ろーりんぐ
《第一章》
7/107

~焦がれる家族~

『 あたたかい 家族


  にぎやかな 家族


  おもしろい 家族


  それは、少女にとって心から求めるものだった…… 』


  


   〜約10年前〜



 長い廊下を、アヤは忙しなく箒で掃いていた。


 ふと外に目を向けると、桜が見る者の目を楽しませていた。


 風が吹き、花弁が散って、桜吹雪となる。その様の何と美しい事か。


 アヤはこの季節限定の絶景に溜息を漏らす。


 そして、その花弁の一片は、廊下にも舞い降りた。


 長い年月で黒く艶のある木の廊下に、まるで飾り模様のように花弁が映える。


 自然に出来たその芸術作品は、掃くには惜しく、躊躇えば模様は広がる。



「なんだか掃くのが勿体無いわね……」



 そう微笑みながら呟く。


 そんなアヤの耳に、軽やかに此方に向かってくる、小さな足音が届いてきた。



「お母さん!! ただいま!」


「おかえりなさい、早夜」



 その小さく愛しい存在に、アヤの頬は緩まずにはいられない。


 そしてその愛し子は、何かを探すように首を巡らせる。



「あれ? おじーちゃんせんせいは?」


「御住職は、お勤めがあるって、今日の朝、言っていたでしょう?」


「あっ、そっか!」



 そう言ってふにゃりと相好を崩す早夜に、アヤは益々愛しさを覚えた。


(ずっと、こんな日が続けばいいのに……)


 そう思う程に、アヤは幸せを感じていた。


 しかし、次に早夜の発した言葉に全てが凍る。



「そういえばね、今日学校で、お父さんについて作文を書いてきなさいって」



 アヤは顔が強ばるのを感じた。


 そんなアヤに構わず、早夜は無邪気に、そして残酷な言葉を発した。



「ねぇ、お母さん。何で私には、お父さんがいないの? お父さんってどんな人?」



 何とか不振に思われないように、いつもと同じように微笑もうとするが、それは叶わなかった。



「お母さん? どうしたの? どこかいたいの?」



 自分でも気づかない内に涙がこぼれ落ちたようだった。


 そんなアヤの様子に、早夜は眉を下げながら「大丈夫?」と言って頭を撫でるのだ。


 堪らなくなって、この目の前の尊い存在を抱きしめる。


 そして、声にならない声で訴える。



「ごめんね、ごめんね早夜……」



 しかし声に出さぬ筈のその言葉は、何故か早夜に届いた。



「お母さん? 何で謝るの? 私はお母さんが大好きだよ。もうお父さんのこと聞かないから泣かないで……」



 更に涙を溢れさせる母の姿に、早夜もまた泣き出した。


 アヤはその姿に心を痛めた。



「違う、違うのよ早夜……ごめんね……ごめんなさい……」



 そうやって二人は、暫く抱き合って泣き続けるのだった。




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