おまけ(花ちゃん隊長)
ピー、ピッ! ピッピッピッ!
「アイ! ソコ! 動キガズレテマツヨ!」
「花チャン隊長、ツミマテンデツ!」
「ウァイ! ソコ! ソコハモット、動キニ切レヲ! コウデツ、コウ!」
「アイ! ワカリマツタ! オ見事デツ、花チャン隊長!」
「な、何してんの? あれ……」
その光景を見た蒼は、呆気にとられた顔をする。
「さぁ……ってゆーか、すげー……」
その隣に立つ亮太もまた、同じ顔をして、それらの光景を眺めている。
「フム、何でも、お前さん達の世界で会得したロボットの舞を、皆に伝授しておるようじゃの。
あの子もすっかり、リーダー格ジャ」
確かに、今や花ちゃんは、魔道生物達の先頭に立つ存在となっていた。
そして、彼らの憧れの的となっている。
花ちゃんから教わる、ロボットの舞や、ロボットアニメの話は、彼らの中で一種のステータスとなっていた。
「うーん……リーダー格ねぇ……」
蒼は思い出していた。
この前、花ちゃんは魔道生物を集め、日本で見たロボットアニメの話を、楓から贈られたロボットのおもちゃを使って説明していた。
花ちゃんがそのおもちゃを動かす度に、彼らは感嘆の声を上げる。
最初はそれ程でもなかった彼らの数も、日を追う毎に増え、今ではここに居る魔道生物全てにまで広がっていた。
そして今、彼らにロボットの舞を教えている花ちゃん。
皆、その踊りを見て、かつての花ちゃんのように衝撃を受け、その踊りを真似し出したのである。
そしてやはり、その時も花ちゃんは、あの奇妙で微妙な顔と掛け声もそのままだったので、彼らもまた、そっくりそのままその部分を真似するのである。
「これだけ大勢でやると、圧巻よね……」
ザッ、ザッと音を立てながら、数百という数の魔道生物達で、一様に同じ動きをしている。
「あの子等にとって、踊りは特別なものの様ジャからのぅ。妥協とかは一切しないのぅ」
ピトが微笑ましげに見ている。
(こ、これの何処が微笑ましいのかしら……?)
ピトを信じられない思いで見る蒼。
すると、踊りを教えていた花ちゃんが、此方に気付く。そして、彼らの踊りを続けるよう、厳しい顔で言うと、パッと顔を輝かせて、蒼の元にやってきた。
「如何デツカ? 如何デツカ? 僕ラノ踊リ、大分、様ニナッテキマツタカ?」
頬を紅潮させ、そう言ってくる花ちゃんに、蒼は苦笑しながら頷いた。
「ええ、凄いわね、これは……」
「今のままで、十分凄いって、花」
蒼と亮太の言葉に、花ちゃんはフルフルと首を振った。
「ソンナ! マダマダナノデツ!」
グッと拳を握る花ちゃん。更に高みを目指しているようである。
「おお、そうジャ! あれを見せてやっては如何ジャ? そっちも練習したんジャろ?」
ピトに言われ、花ちゃんはハッと顔を上げ、
「ソウデツタ!」
と大きな声を上げた。
そして、「ピーー!」と笛を吹き、魔道生物達を集合させ、彼らに言う。
「我々ハコレヨリ、ロボット合体ノ成果ヲ見セマツ! 皆、練習通リニ頑張ルデツ!」
『オオーー!!』
彼らの雄叫びが響き渡った。
それから皆、円盤に乗り込み、花ちゃんの合図の下、列を組み、何らかの陣を取ってゆく。
「デハ! ポチットナ」
花ちゃんが、円盤の中のとあるスイッチを押す。
すると一斉に、
『ポチットナ!』
と、皆が声を出し、スイッチを押していた。
途端に、ミョミョンと円盤から、細いアームの様な物が出現したかと思うと、ガシッ、ガシッと隣同士でそのアームを繋げてゆく。
それはやがて、一体の大きな人形となった。
「も、もしかしてこれって……」
「うおー、すげー……」
蒼達は呆気に取られ、それを見上げていた。
「フム、ワシもロボットの話を聞いての、面白そうジャから、円盤をちょっと弄った」
ピトが楽しそうに笑っている。
ピーーピッ! ズシーーン!
ピーーピッ! ズシーーン!
笛の合図と共に、その巨大ロボットは、一歩一歩歩き出す。
そしてその笛を吹いているのは、勿論、我らがアイドル花ちゃんである。しかも、ロボットの頂上に居たりする。
花ちゃんは、物凄く真剣な顔で、彼らに指示を出している。
「それで、これって何が出来るんだ?」
亮太がふと、疑問をピトに投げかける。
ロボットならではの機能はあるのだろうかと思ったのだ。
だがピトは、キョトンと彼を見る。
「何がって、何がジャ?」
「え? いや、ミサイルとか、腕とか飛ばしたりとか、出来るのかなって……」
するとピトは、眉を顰めて言った。
「そんな事をしたら、あの子等が傷付いてしまうジャろーが……」
「え? じゃあ、ただ合体するだけ?」
「ウーム、そうじゃな……。重い物を持ち上げたり、運んだりする時は、便利かのぅ……」
それを聞いた亮太は、頭を抱えた。ちょっと期待してしまった事に後悔する。
そんな彼に蒼はポンと手を置いて言った。
「まぁ、平和でいいじゃない。花ちゃん達も楽しそうだし……」
蒼は、巨大ロボットを見上げる。
彼らは皆、真剣な顔をしていたが、その目はキラキラと輝いていた。
「ウオッ!? 何だ。これは!?」
その時、丁度やって来たロイは、その巨大な人形を見て、度肝を抜かれた。
そして、ズシーン、ズシーンと動く様を見て、顔を青くさせ、慌てて研究所を飛び出した。
「何言ってるの、ロイ? あんた、夢でも見てたんじゃないの?」
「そうミョ。巨大な人形が、研究所の中を闊歩していたなんて、夢以外ありえないミョ」
「そんな、夢じゃないのだ! この目でしっかりと見たのだ!」
「なら、目を開けたまま寝ていたんだミョ。器用な奴ミョ」
ロイは泣きそうになった。
「ははは、それってつえーのか?」
「おお、信じてくれるか、カムイ! でも、強いかどうかは分からん。ただ物凄くデカかった」
「ピトがまた、何か研究でも始めたんじゃないか?」
ムエイことリュウキが言った。
すると、ミリアがパッと手を上げる。
「はい! 私もそう思います、ムエイ様!」
「ミリアがそう言うなら、イーシェもそう思うミョ!」
そんな二人にロイはシュンとなる。
「我の言う事は信じなくて、ムエイの言う事は信じる……。何だか、物凄く悲しいのだ……」
「ははは! 元気出せ、ロイロイ!」
バシーンとカムイに叩かれ、ロイは哀れ、地面に倒れ付すのだった。