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異界の旅人  作者: ろーりんぐ
《第五章》
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13.星降る日・前編

「ごめんな、蒼。何も気付いてやれなくて……」


 すまなそうに亮太は言った。

 そんな亮太を見て、苦笑しながら、蒼は彼を小突いた。


「別に謝んなくてもいいって。隠してたのは私なんだし、こっちこそ謝るべきだわ。これのせいで、早夜ん所に戻れなくなっちゃったんだからさ」


 そう言って、袖を捲って見せると、そこは包帯と呪符で巻かれた腕が存在する。リジャイによって施されたものだった。

 日本から此方に戻ってきて、そしてピトの元でリジャイが来るのを待っていた蒼と亮太。

 漸くリジャイに会えたのだが、彼は蒼を見た途端、眉を顰め、腕を見せるように言ってきたのだ。

 ずっと隠していた蒼は、見せるのを渋ったが、命に係わるとまで言われ、慌てて見せた。そこは既に、最初の頃よりも赤黒い場所が広がり、触れなくてもジンジンと痛みがあるほどであった。

 それを見た、亮太や花ちゃんは驚き、リジャイとピトは、それを呪いだと言った。

 おまけに、多少魔力が発せられており、アルフォレシアに移動するのは無理だとも言われ、その後、リジャイによって、呪いを防ぐ為の術を施された蒼。

 その間に、蒼達は日本であった事を語った。

 リジャイは始終無言で、険しい顔をしていた。


「とにかく、君達はここで待機だ。後でロイロイやイーシェにも見てもらおう。僕にはそれを抑えるので精一杯。解くのは無理だ」


 いつもは飄々とした彼が、至極真剣な顔で言ったので、改めて事の重さを感じる蒼達。

 花ちゃんは、ずっとそんな蒼にくっ付き、蒼よりも痛そうな顔で、ずっと励ましていたのだった。






「これはイーシェにも如何にも出来ないミョ」

「ウム、我にもリジャイがやった処置以上のものは出来ないのだ」


 その後、リジャイが言ったとおり、蒼の元にイーシェとロイがやってきた。


「これは、相当の恨みを買った奴からうつされたミョ。元を如何にかしないと駄目ミョ」


 自己紹介もそこそこに、そんな事を言うイーシェ。


「……元って言われても……ねぇ?」

「ああ……」


 蒼と亮太は何とも言えない顔をした。

 あの影だけの人物に、如何こう出来るものなのだろうか。こことも、日本とも違う世界の者。

 一体如何したものかと、思いを巡らせていた時、蒼はハッと顔を上げた。


「そうよ、リュウキさんに聞いてみるべきよ! 何でもっと早く気付かなかったのかしら! リュウキさんなら、あの影の事について何か知ってるかも!」


 そもそも、この世界に遣って来たのは、彼に会う為だったと思い出した蒼。

 この国に遣って来た時点で、彼に会うべきだったと、蒼は悔やんだ。

 亮太もそれに賛同する。


「ちょ、ちょっと待つのだ! お主ら何故、リュウキの事を知っておるのだ!?」


 ロイが戸惑う様に言った。


「何ジャ。リジャイから何も聞かされとらんのか?」


 ピトが聞くと、ロイとイーシェは首を振った。


「我は、呪いを受けた者がいるから、診てくれと言われただけなのだ」

「イーシェも同じミョ。呪いの種類とか、そんなものを調べて欲しいと言われたミョ」


 それを聞いて、これは最初から説明しなくちゃ駄目かな、と思う蒼と亮太であった。





 そして全てを説明し、今、蒼達の目の前には、リュウキが立っている。

 初対面であるのも拘らず、リュウキは蒼と亮太の事を知っていた。

(うわぁ、これがリュウキさん……。凄くカッコいいかも……。あ、でも、何処となく纏う空気というか雰囲気が早夜に似てる……)

 リュウキを目の前にして、蒼はそんな事を思っていた。

 ふと、隣にいる亮太を見てみれば、カチコチに固まっていて、緊張しているのが傍目から見ていても分る。

 そしてリュウキは、蒼の腕を見て眉を顰めると、膝を折り、頭を下げた。


「えぇ!? あの、リュウキさん!?」


 焦った様な声をあげる蒼。

 リュウキは頭を下げたまま言った。


「我ら兄妹の為に、その様な呪いまで受けさせてしまい、真に申し訳ない。君はある意味、早夜の恩人だ。あの子の傷付いた心を癒してくれた……。何度詫びと礼を言っても足らぬほどだ」


 そして頭を上げ、リュウキは蒼を真っ直ぐに見つめる。


「出来る事ならば、早夜には君達の世界で、何も知らぬまま幸せになってもらいたかった。あの時、この手を放しさえしなければ、あの子にあんな寂しさを感じさせずに済んだ。今回のような事も起きなかったはずだ。全ては俺の責任……」


 そう言って、リュウキは自分の右手を見つめ、握り締める。


「君達には、俺の知っている事を全て話そう。とは言っても、俺も当時六、七歳の頃だ。知らぬ事や忘れてしまっている事もあるだろう、それでもいいと言うのならば……」

「それでも構いません!」


 蒼は言った。亮太もその隣で頷く。

 リュウキは二人を見て微笑んだ。


「しかし、今日は特別な日だ。話すのは後日にしよう。それに、リジャイにも話したい。あいつには本当に世話になってるしな」

「……? 特別な日、ですか?」

「ああ、今日は星が降る日だ。人々は願い事の入ったかごを手に、一晩中星を眺める日なんだ」


 その言葉を聞いて、蒼と亮太は顔を見合わせ、首を傾げた。


「星が降る? 流れ星ですか?」


 そう言う蒼に、リュウキはフッと笑うと、一つのかごを取り出した。


「これは星かごと言う。運が良ければ、このかごに星が入る……。つまり、実際に降ってくるんだ、星が……」

「うわぁ……さすがファンタジー……」

「蒼……お前、他に言い様は無いのかよ……。早夜さんだったら、もっとこう……女の子らしい反応とかしてる筈だぞ……」


 蒼の感想に、呆れたように亮太は言い、蒼は口を尖らせた。


「どうせ私は、早夜みたいに女の子らしくないでしょうとも……」


 と、その時、リュウキが実ににこやかに亮太に訊ねた。


「ああ、君は亮太と言ったかな。一体何時から、君は早夜の事を名前で呼ぶ様になったんだ?

 俺が最後に見た夢の中では、君はまだ、苗字の方で呼んでいた筈だが……」

「えぇ!? いや、その、実はお兄さ――」

「君にお兄さんと言われるいわれは無い筈だ。君の様な弟を持った覚えも無いな……」

「うっ、いや、あのっ、これは――」


(け、牽制されてる……。実はリュウキさんって、シスコン……?)

 にこやかに笑うリュウキを前に、だらだらと汗を流す亮太を見ながら、蒼はそう思うのだった。




「そう言えばピト。リジャイはここにはいないのか? 我やイーシェを呼び出したのはあの男なのだ。

 報告しようにも、当の本人がいないのでは、どうしようもないであろう?」


 ロイはピトに向かいそう言った。


「フム、リジャイなら、何でも星見祭が如何のと言って、アルフォレシアに行っとるぞ」

「ちょっと待て! この大変な時に祭りに行ったのか、あの男は!? それに、枷は如何した、枷はっ!!」


 そうロイが怒鳴ると、蒼と亮太が顔を見合わせながら言った。


「えっと、枷って、その首につけてるのですよね……。それなら、ねぇ?」

「ああ、早夜さんが解除してたよな」

「んなっ!? 解除だと!? そんな事一言も――……」


 ロイが驚いた声を上げると、ピトは頬を掻きながら、


「おー、悪いのー。混乱すると思って、黙っとったんジャ。しかし、イーシェとムエイにはバレとったみたいだのぅ……」

「何!?」


 ピトに言われてロイは、イーシェとリュウキを見る。

 二人は別段、驚いた様子も無い。


「俺は何となくだ。リジャイは、如何やらしょっちゅうあちらの国に行っている様だったからな。早夜の力も考えて、もしかしたらと考えたんだ」

「イーシェはあの枷が、偽者だと分ったからミョ。イーシェ、そういうのには敏感ミョ」


 その言葉を聞き、ロイはムムゥと唸る。


「と言う事は、リジャイは自由の身になったという事なのだな。なのに、何故まだこの国に囚われたフリをしておるのだ? あの男の事だから、直ぐにでも好きな所に行ってしまいそうなものなのに……」


 蒼と亮太は、それを聞きながら、何とも言えない顔をする。特に亮太は、不機嫌そうな顔をしていた。

 リジャイは、早夜の為に動いているからだろうと推測したからだ。

 だが、その事を伝えるのは、リュウキの手前、憚られる。

 しかしリュウキは、そんな彼らの考えを他所に、


「それは恐らく、早夜がいる為じゃないか? 如何やらリジャイは、早夜が気に入ったらしいからな。

 恐らく今回、星見祭に行ったのも、早夜を守る為かもしれない。何せ、今年の祭りには、他国からも多くの国賓が招かれている。

 それにこの前、侵入者を捕らえたと言っていたし、何が起こるか分らないからな……」


(な、何か俺の時とは、偉く信用度が違う気がする……)

 亮太は、先程のリュウキの様子を思い出しながら、そう心の中で呟いていた。






「クシュンッ!! あー、誰か僕の噂してるかもー。うぅー、むずむずするなー……」


 アルフォレシア城の屋根の上にて、リジャイはそう呟いた。

 彼の周りには、呪符がずらりと並んで、リジャイを取り囲んでいる。時折、指で札に触れると、目の前に映像が浮かんだ。

 国賓達に貼り付けた、見張りの札の効果だった。

 貼り付けたものの視界を、こうして映像として見ている。もしルードが見れば、何と凄い魔術だと言って、目を輝かせた事であろう。だが、この場にはリジャイしかいない。

 そして、リジャイはふと指を止めた。

 ある映像が目の前に浮かぶ。

 そこにはシェルが映っていた。


「……これは確か、クリオーシュのマウローシェ王女様の札だね……」


 そしてリジャイは面白そうに、ニヤリと笑う。


「何か二人だけ出会ってるみたいだな。この二人って、もしかしてそういう仲だったのかな?」


 リジャイはもう一度、その札に指を触れさせた。

 映像がさらに大きくなり、音も聞こえてきた。


『急に呼び出すなど、どういうおつもりですか? マウローシェ様……』





「どういうつもりも何も、君を口説く為に呼んだのさ。君が他の女性と仲良くしてるのを見て、何だかどうにもまた、君が欲しくなった」


 いつもの様に男の服に身を包み、赤い薔薇の咲き乱れる庭園の中でもなお、赤い鮮やかな髪を、肩に垂らしたマウローシェ。彼女は艶っぽく笑うと、シェルの肩に手を置く。


「もう一度、私と付き合わないか? まさか、本気であんな小娘に懸想している訳ではないだろう? 何より、相手は子供じゃないか。君が満足するとは思えないな……」


 そう言うと、シェルの首に手を回し、彼の唇に自分の唇を近づけていった。

 だが、マウローシェが唇を触れさせる寸前で、シェルは顔を逸らす。


「お止め下さい……」


 そう静かに呟くと、シェルは首に回された手を掴み離させると、至極冷たい目で彼女を見た。


「冗談であるならば、その辺にして頂きたい。それに、早夜を小娘呼ばわりする事も止めて欲しい……」


 ギリッと手を掴む力が強くなり、マウローシェは痛みに顔を顰めた。だが、マウローシェは面白そうにニヤッと笑うと言った。


「私を見たな」

「……?」


 何を言われているのか分らず、シェルは眉を顰める。


「ははっ、漸く私を見たぞ。一度でいいから、私を真正面から見て欲しかったんだよ、うん。

 これで心置きなく国に帰れるな」


 陽気に笑うマウローシェに、シェルは毒気を抜かれたように手を離した。


「……一体、何の冗談だったのですか?」


 マウローシェは手首をさすりながら、彼を真っ直ぐに捉え言った。


「君は、私と付き合っていた頃、その目に私を映していても、決して私を見ようとはしなかった。それに、私は別に代わりでも構わなかったのに、一度としてアイーシャの代わりにもしようとしなかった」


 困惑するシェルを見て、マウローシェは微笑む。


「その点は、とても好ましく思っていたよ。少々切なくなるくらいにね……」

「……マウローシェ様……」


 名を呟かれ、マウローシェは一度フッと笑うと、今度は挑む様な目でシェルを見て、ニヤリと笑った。


「では、そんな君に、三度目のプロポーズを告げよう。私と結婚しないか?」


 一度、呆れたようにマウローシェを見たが、ハァと溜息を吐くと、彼女を真っ直ぐに見つめ言った。


「それはお断りさせて頂きます」

「理由は?」

「誰にも譲りたくない者が居るからです」


 その言葉を聞いて、マウローシェは実に清々しく笑った。


「うん、その理由なら、私も諦めがつく。以前したプロポーズは、二度とも、今は誰とも結婚するつもりは無い、だったからね。

 それを思えば、凄まじい進歩だ! おめでとう」


 そしてマウローシェは、ふと視線を移し、ある方向を見ると、クスリと笑う。


「シェル、君を応援するよ。元恋人として、友人としてね。そしてこれは、そんな私からのささやかな贈り物だよ。受け取って欲しい」


 そう言うと、いきなり抱き付き、その唇を奪った。シェルは目を見開き、マウローシェをを引き剥がした。


「なっ、何を――」

「だから贈り物さ、『試練』と言う名のね」


 ニッと笑いながら、マウローシェが言う。

 パキリと音がして、シェルは振り返った。


「っ!! サヤ!!?」


 そこには早夜が立っていた。酷くショックを受けた様な顔をして、シェルを見ている。


「あの、私、その……御免なさい!!」


 そう言って頭を下げると、踵を返して走り去ってしまう。


「待て、サヤ!!」

「さぁ、頑張れ元恋人君。今の仲を進展させるチャンスだ」

「とんだ贈り物ですよ、マウローシェ様!」


 そう忌々しげに言うと、早夜を追って、その場を去る。


「さて、如何なるかな? 元恋人で友人の私としては、進展して欲しいものだけれど……でも、片想いしている彼も、結構そそるものがあるんだよな……」


 腕を組みながら、うーんと考え込むマウローシェであった。






 早夜は夢中で走る。

 場内に入り、自分の部屋に戻ろうとするが、どうしても耐えられず、壁に寄りかかり嗚咽を漏らしてしまった。

 胸を押さえながら、声を殺して泣いていると、いきなり目の前の扉が開いた。

 中から出てきた人物は、金茶の髪の青年。彼は早夜を見て、目を見開かせている。

(あ、この人は確か――)


「バーミリオンさん……?」


 早夜がそう呟くと、彼はハッとして、心配げに声をかけてきた。


「一体如何したんですか!? 何を泣いて――……。とりあえず、中に入って下さい。

 自分は水を貰ってくる所だったので、ちょっと行ってきます。直ぐに戻ってきますから」


 一気にそう言うと、問答無用で早夜を部屋の中に押し込めてしまった。


 それからバーミリオンは、早夜を部屋に押し込めると、急いで水を貰いに駆け出す。すると、角の所で人とぶつかりそうになった。


「ああ、申し訳ありません!」


 それだけ言うと、その人物は、ろくに此方を見ずに走り去ってしまった。


(確か今のは、ミヒャエル――いや、シェル王子か……? 何故あんなに急いで……)

 それは、早夜を追いかける為であったのだが、バーミリオンがそれを知る由もなく、そんな事を思いながら、彼の背を見送っていた。

 そしてハッとして、自分もまた駆け出す。

(急いで戻らねば! あのサヤという娘が帰ってしまうかもしれない!)

 そう思って、バーミリオンは急ぐのだった。




「え? あ、あのっ!!」


 早夜が何か言おうとするも、バーミリオンはバタンと扉を閉め、行ってしまった。

 如何しようと、部屋の中を振り返り、とりあえず近くにあったソファーに腰掛ける。

 どうやらここが、彼らに用意された客室のようだ。

 オースティンは何処だろう、奥の部屋に居るのだろうか、と思っていると、バーミリオンが戻ってきた。肩で息をしている事から、急いで戻ってきたのだと分る。

 彼は早夜を見ると、ホッとした顔を見せ、


「ちょっと待ってください」


 そう言って、奥の部屋へと向かい、その手に盥を持ってきて、今しがた持ってきた水をその中に入れる。そして布をその中に浸すと、絞って早夜に差し出した。


「どうぞ……」

「え?」


 キョトンとして、彼を見てしまう早夜であったが、彼は目を逸らすと、


「涙を……」


 と言う。早夜はハッとして、布を受け取りと、目に当てた。ひんやりして気持ちがいい。

 しかし、目を覆うと、また先程の光景が浮かび、早夜は口をキュッと引き結んだ。


「何故――」

「え?」

「……何故泣いておられたのですか?」


 そう問われ、何と答えていいのか分らず、早夜は俯く。

 とてもじゃないが、こんな事を会って間もないこの青年に、言える訳がない。


「いえ、凄く個人的な事ですので……」


 早夜はそう答えたのだが、また胸が痛くなって、ポロポロと涙がこぼれてしまい、慌てて濡れた布で目を覆った。


「本当に御免なさい。子供みたいに直ぐ泣いて、凄くみっともないですよね……」

「いえ、そんな……」


 戸惑うように目を泳がせながら、バーミリオンが呟く。

 そして唐突に言った。


「ぶすが笑えば、3割増しだとお館様が言っていました」

「は!?」


 呆けたような声をあげてしまう早夜。バーミリオンは更に言う。


「そして、ぶすが泣くと、目も当てられないそうです」

「はぁ……」


 一体何が言いたいのだろう。それは自分がブスだと言う事だろうかと、少々ムッとした時、彼は赤くなりながら、早夜を見て言った。


「でも、貴女はぶすではなく、その……愛らしい方ですので、笑うとその、もっと……」


 最後の方は顔を俯け、言葉も小さく聞き取りづらくなってしまった。

(……これは、励まそうとしてくれてるのかな……?)

 そう思い、早夜は思わず笑ってしまう。

 何と不器用な励まし方だろう。何だか、こういう事に慣れていなさそうである。

 バーミリオンは、そんな早夜を見て、驚いたように顔を上げ、そして眩しげに目を細めると、恥ずかしそうに目を逸らした。


「……良かった、笑って下さって。やっぱり笑うと、その……」


 ゴニョゴニョと、またもや最後の方が聞き取り辛い。

(バーミリオンさんって、照れ屋なのかな……?)

 顔を赤く染める彼を見て、そう思う早夜であった。


「そういえば、オースティンさんは如何しているんですか?」


 鞘がそう聞くと、バーミリオンはああと言って答える。


「お館様……祖父は奥の部屋で夜に備えて寝ていますよ」

「え、そうだったんですか? じゃあ、そんなにお邪魔しちゃ駄目ですね」


 うるさくしてはいけないと思い、早夜はそう言ったのだが、バーミリオンを見ると、彼は少し寂しそうな顔をしている。

 そんな彼を見て、思わず、


「またお話して下さいね」


 と、そう言っていた。

 それを聞いて、バーミリオンはとても嬉しそうに笑って、


「こちらこそ」


 と言ったのだったが、早夜はそんな彼に魅入ってしまう。

 そうすると、彼はとても人懐こそうな印象になった。

 普段の彼を知る者が見たら、きっと別人だと思った事だろう。普段の彼は、あまり笑わない、と言うかそもそも感情を表に出さず、表情が乏しいと言われているのだ。

 そんな普段の彼を知らない早夜のバーミリオンに対する印象は、不器用だけど優しく、照れ屋で、人懐こい人となっていた。


「じゃあ、ありがとうございました」


 早夜はそう言って頭を下げると、部屋を出てゆく。

 送ろうかと、バーミリオンが申し出たが、いいと言って、早夜は首を振った。

 これ以上、彼に迷惑をかける訳にもいかない、とそう思ったのだ。


 バーミリオンは早夜を見送って、部屋に戻る。そして奥の部屋に行くと、何とオースティンが起きていた。


「フン、帰ったか」

「お、起きてらしたんですか!?」


 孫の焦った声を聞き、オースティンは苦笑する。


「ああ、最初からな。全部聞いていた」

「………」


 バーミリオンは顔を赤くしていたが、当然の事ながらオースティンはそれが見えない。だが、オースティンには、彼が今、どの様な顔をしているのかが、ありありと分った。


「お前はもう少し、女性との接し方を学ばねばならんな」

「お館様……?」

「いきなりブスがどうのこうのと言うのは、女性を不快にさせるぞ」

「え!? いや、それは……」


 オースティンはクックッと笑う。


「あのサヤという娘が、優しい性格で良かったな。でなければ誤解されて、横っ面を叩かれているぞ。因みにわしは叩かれた」

「っ!!? お館様が?」

「ああ、お前のばーさんにな。お前と同じ事を言おうとしたんだが、最後のセリフを言う前に、ぶったたかれた! 全く、お前とわしは本当によく似ている!」


 ハッハッと笑うオースティンを前に、バーミリオンは如何反応すればいいのか分らず、困ったように祖父を見ているのだった。





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