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異界の旅人  作者: ろーりんぐ
《第四章》
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おまけ(花ちゃんの宝物)

「ハゥッ!! コ、コレハッ!」


 花ちゃんは、目の前にあるそれを、ワナワナと震える手で触れる。

 

「ん? どうしたんだ? 花ちゃん」


 楓がそう聞くと、花ちゃんは興奮したように叫んだ。


「ロボット、ナノデツ!!」


 手に持つそれを、ババンと楓に見せる。

 それは、花ちゃんの好きなロボットアニメのシールだった。


「ああ、それ? お菓子のおまけについてたんだ。何、花ちゃんそのアニメ好きなの?」

「アイ! ロボットハ凄イデツ!」

「そうかそうか、じゃあそれあげるよ。僕が持っててもしょうがないし」


 楓がそう言うと、花ちゃんはヒシッとシールを胸に抱き、


「本当デツカッ?」


 と目をキラキラさせた。


「僕ノ宝物二スルデツ!」

「ハハッ、大げさだなぁ」


 苦笑する楓であった。




「花ちゃん、これあげるよ」


 海里が、花ちゃんに何やら差し出した。


「何デツカ? コレハ……キラキラシテ、綺麗デツ」

「おはじきだよ。友達からもらったんだ。僕、こんなにいらないし、花ちゃんもいくつか貰ってよ」


 そう言って、花ちゃんの前に、おはじきをザザッと広げる。

 色とりどりのガラスでできたおはじきが、花ちゃんの目にキラキラと輝いて飛び込んできた。

 花ちゃんは、その中で自分が綺麗だと思う物を、幾つか選ばせてもらった。

 それを日の光に透かしてみれば、花ちゃんの目に、世界はキラキラとして見えた。




「百合香タン、何シテルンデツカ?」


 テーブルの上で、何か作業している様子の百合香に、花ちゃんが尋ねる。


「ビーズアクセサリーを作っているのよ……」


 そう言って、花ちゃんに、今作っている物を見せた。


「ハゥッ、綺麗ナノデツ……」


 ウットリとそれを見つめる花ちゃん。

 百合香は、その様子をクスリと笑って見ている。


「花ちゃんも作ってみる?」


 そう訊かれ、花ちゃんはハッとして百合香を見た。


「僕ガ、デツカ?」

「ええ、そうよ……」


 そう言って、ある物を前に出す。それは、ビーズでできた花ちゃんの顔だった。


「デザインはこんな感じでどう? これだったら、花ちゃんも作れるわ」

「アイ! 頑張ッテ作ルノデツ!」


 そして、張り切って作ったものは歪んでしまったが、中々味のある花ちゃんの顔に仕上がった。


「蒼ハ喜ンデクレマツカ?」

「あら、蒼に作ってあげてたの?」

「アイ! 僕ノ宝物ヲ、オ裾分スルノデツ!」

「ふーん……他にもあるのね? 花ちゃんの宝物……」


 何か考えるようにしている百合香に、花ちゃんは言う。


「ソウナノデツ! 楓タント、海里二貰イマツタ!」

「じゃあ、手紙も添えてみたらどうかしら?」

「手紙、デツカ?」

「ええ、なんだったら、パパに頼んでみるといいわ。字が凄く上手だから……。

 それに、花ちゃんの頼みだったら、喜んで代筆してくれると思うわよ……」




「翔タン、翔タン、オ願イガアルノデツ。蒼二手紙ヲアゲタイノデツ。代筆シテクレマツカ?」


 こっくりと頷く翔太郎の横で、マリアが顔を輝かせる。


「へぇー、お手紙かぁ。だったらマリアが、蓮実ちゃんに頼んでレターセット用意するね? 蓮実ちゃんだったら、多分カワイイのいっぱい持ってると思うよ。で? どんなのがいいの?」

「実ハ、宝物モ一緒二贈リタイノデツ」

「宝物? どんなの?」


 そう聞かれ、楓、海里、百合香から貰った物を言った。


「うーん……小さい物だから、普通の大きさの封筒で、大丈夫だよね。なんだったらサプライズしてみれば?」

「サプライズ、デツカ?」

「そう! 相手がアッと驚くようにする事だよ! 喜びもひとしおだよ!」


 さすがアメリカ人の血を引くマリアであった。

 それを聞いて、花ちゃんはワクワクした。


「ジャア、秘密ノ場所二隠スノデツ!」

「…………?」

「秘密の場所?」


 首を傾げる翔太郎とマリアに、花ちゃんはこっそりと教えた。


「……ゴニョ、ゴニョ……トイウ場所ナノデツ! ドウデツカ?」

「うん、いいんじゃないかな。見つかりそーで、見つからない場所だね。

 その場所に合う、レターセット用意するね!」


 そう言ってパタパタと行ってしまった。

 そして数分後、レターセットを持って戻ってきたマリア。

 何故か翔太郎と花ちゃんは、見つめ合っていた。


「こんなんでどーかな? 花ちゃんっぽく花柄だよ」

「ハゥッ……トッテモ素敵デツ……」


 頬を染め、それを見つめる花ちゃんだった。



 翔太郎が、便箋を前に万年筆を構える。そして、花ちゃんをジッと見て、手紙の内容を促した。


「エエットデツネ……ジャアコウ書イテ下サイデツ! 蒼ヘ―――」



『   蒼ヘ


 これを見つけて、蒼はびっくりしている事でしょう。


 これを見つけるのは一体何時になるのでしょうか?


 まだ日本でしょうか、それとも僕たちの世界?


 蒼には、僕から宝物を贈りたいです。


 蒼は僕に大切なものをくれました。


 僕に名前をくれました。温かいものをくれました。


 僕は魔道生物だから、


 ご主人様以外でちゃんと生き物として扱ってくれたのは、蒼達が初めてです。


 だから僕は幸せです。皆が大好きです。


 いつか、僕と蒼はお別れするでしょう。


 僕達にはそれぞれ、絶対に離れられない人たちがいるからです。 


 蒼には家族がいて、僕には御主人様やマザーや仲間がいます。


 だけど悲しくありません。


 僕には、蒼から貰った花ちゃんという名前があります。


 だからずっと、僕は蒼を忘れる事は無いでしょう。


 蒼も皆も、僕の事を忘れないでくれると嬉しいです。


 ありがとう蒼。それから、他の皆にもお礼を言います。


 皆ありがとう』 





 そこまで書いて、翔太郎はピタリと止まった。

 後は『花ちゃんより』と書くだけである。


「……どうしたの? 翔さん……」


 隣で聞いていたマリアは、その手紙の内容に涙を浮かべ、そして翔太郎を不思議そうに見る。


「……花ちゃんも書くか……?」


 ボソリと聞いてくる翔太郎に、花ちゃんは驚いた顔をする。


「そっか! そうだね、自分の名前は自分で書いた方が良いよね! 気持ちがこもるもんね!」

「僕ガ書クデツカ? ……ジャア、蒼大好キ! トイウ字モ書キタイデツ!」



 そうして、字を教えてもらった花ちゃん。

 もう一枚の便箋に『蒼大好き! 花ちゃん』と大きく書いた。

 ペンを抱えて書いた為、かなり歪なものになってしまったが、書き終わった花ちゃんは、自分の書いた字を満足げに見つめる。

 そして、自分の名前を見ると、それをなぞる様に手を動かし、「ウフフー♪」と嬉しそうに笑った。


 それらをマリアに丁寧に折ってもらい、封筒の中に宝物と一緒に入れると、花のマークのシールをぺたりと張った。

 花ちゃんは、それを大事そうに抱えると、凄く嬉しそうに頭を下げる。


「翔タン! マリアタン! アリガトーナノデツ!!」




 蒼が寝静まった頃を見計らい、花ちゃんは自分の寝床のタオルを捲り、手紙を取り出す。

 そして、眠る蒼の顔をのぞき見て、クスクスと笑う。手紙を抱え、ある場所にそれを隠す。

 蒼を見下ろし、それを隠した場所を見て、嬉しそうにまた、クスクスと笑った。

(キット蒼ハ驚キマツ! 喜ンデクレルカナ……?)

 そんな事を思っていると、花ちゃんはつるっと手を滑らせてしまった。そしてそのまま、蒼の上にぽとりと落下してしまう。

 蒼がウウーンと言って、もぞもぞと動くのを見て、花ちゃんはギクリとする。


「花ちゃん? どうしたの?」


 目を擦りながら、蒼が眠そうに言う。

 自分のせいで起こしてしまったと思うと、悪い事をした気になり、落ち込む花ちゃん。


「蒼、起コシテシマッテ、ゴメンナサイデツ」


 花ちゃんがそう言うと、蒼はクスリと笑って謝らなくていいと言ってくれた。


「それより何してたの?」


 そう聞かれ、花ちゃんは宝物の事を思い浮かべ、自然と笑みがこぼれる。


「蒼! 宝物ヲ隠シマツタ! 秘密ノ場所ナノデツ!」

「えぇ!?」


 驚く蒼を前に、花ちゃんはクスクスと笑うのだった。




「ヒミツ、ヒミツ〜ソレハ秘密ナノデツ〜♪」


 花ちゃんは身体を揺らしながら嬉しそうに歌う。


「……デモ僕ニトッテ、蒼ノ笑顔ガ、一番ノ宝物ナノデツ……」


 小さな声で呟く花ちゃん。その顔は、とても幸せそうだった。





 ああっ、花ちゃん健気だなぁ、もう。

 でもね、花ちゃん、言っちゃったらサプライズにならないよ。 なんて心の中でつっこんでいた作者だったのでした。

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