おまけ(花ちゃんの宝物)
「ハゥッ!! コ、コレハッ!」
花ちゃんは、目の前にあるそれを、ワナワナと震える手で触れる。
「ん? どうしたんだ? 花ちゃん」
楓がそう聞くと、花ちゃんは興奮したように叫んだ。
「ロボット、ナノデツ!!」
手に持つそれを、ババンと楓に見せる。
それは、花ちゃんの好きなロボットアニメのシールだった。
「ああ、それ? お菓子のおまけについてたんだ。何、花ちゃんそのアニメ好きなの?」
「アイ! ロボットハ凄イデツ!」
「そうかそうか、じゃあそれあげるよ。僕が持っててもしょうがないし」
楓がそう言うと、花ちゃんはヒシッとシールを胸に抱き、
「本当デツカッ?」
と目をキラキラさせた。
「僕ノ宝物二スルデツ!」
「ハハッ、大げさだなぁ」
苦笑する楓であった。
「花ちゃん、これあげるよ」
海里が、花ちゃんに何やら差し出した。
「何デツカ? コレハ……キラキラシテ、綺麗デツ」
「おはじきだよ。友達からもらったんだ。僕、こんなにいらないし、花ちゃんもいくつか貰ってよ」
そう言って、花ちゃんの前に、おはじきをザザッと広げる。
色とりどりのガラスでできたおはじきが、花ちゃんの目にキラキラと輝いて飛び込んできた。
花ちゃんは、その中で自分が綺麗だと思う物を、幾つか選ばせてもらった。
それを日の光に透かしてみれば、花ちゃんの目に、世界はキラキラとして見えた。
「百合香タン、何シテルンデツカ?」
テーブルの上で、何か作業している様子の百合香に、花ちゃんが尋ねる。
「ビーズアクセサリーを作っているのよ……」
そう言って、花ちゃんに、今作っている物を見せた。
「ハゥッ、綺麗ナノデツ……」
ウットリとそれを見つめる花ちゃん。
百合香は、その様子をクスリと笑って見ている。
「花ちゃんも作ってみる?」
そう訊かれ、花ちゃんはハッとして百合香を見た。
「僕ガ、デツカ?」
「ええ、そうよ……」
そう言って、ある物を前に出す。それは、ビーズでできた花ちゃんの顔だった。
「デザインはこんな感じでどう? これだったら、花ちゃんも作れるわ」
「アイ! 頑張ッテ作ルノデツ!」
そして、張り切って作ったものは歪んでしまったが、中々味のある花ちゃんの顔に仕上がった。
「蒼ハ喜ンデクレマツカ?」
「あら、蒼に作ってあげてたの?」
「アイ! 僕ノ宝物ヲ、オ裾分スルノデツ!」
「ふーん……他にもあるのね? 花ちゃんの宝物……」
何か考えるようにしている百合香に、花ちゃんは言う。
「ソウナノデツ! 楓タント、海里二貰イマツタ!」
「じゃあ、手紙も添えてみたらどうかしら?」
「手紙、デツカ?」
「ええ、なんだったら、パパに頼んでみるといいわ。字が凄く上手だから……。
それに、花ちゃんの頼みだったら、喜んで代筆してくれると思うわよ……」
「翔タン、翔タン、オ願イガアルノデツ。蒼二手紙ヲアゲタイノデツ。代筆シテクレマツカ?」
こっくりと頷く翔太郎の横で、マリアが顔を輝かせる。
「へぇー、お手紙かぁ。だったらマリアが、蓮実ちゃんに頼んでレターセット用意するね? 蓮実ちゃんだったら、多分カワイイのいっぱい持ってると思うよ。で? どんなのがいいの?」
「実ハ、宝物モ一緒二贈リタイノデツ」
「宝物? どんなの?」
そう聞かれ、楓、海里、百合香から貰った物を言った。
「うーん……小さい物だから、普通の大きさの封筒で、大丈夫だよね。なんだったらサプライズしてみれば?」
「サプライズ、デツカ?」
「そう! 相手がアッと驚くようにする事だよ! 喜びもひとしおだよ!」
さすがアメリカ人の血を引くマリアであった。
それを聞いて、花ちゃんはワクワクした。
「ジャア、秘密ノ場所二隠スノデツ!」
「…………?」
「秘密の場所?」
首を傾げる翔太郎とマリアに、花ちゃんはこっそりと教えた。
「……ゴニョ、ゴニョ……トイウ場所ナノデツ! ドウデツカ?」
「うん、いいんじゃないかな。見つかりそーで、見つからない場所だね。
その場所に合う、レターセット用意するね!」
そう言ってパタパタと行ってしまった。
そして数分後、レターセットを持って戻ってきたマリア。
何故か翔太郎と花ちゃんは、見つめ合っていた。
「こんなんでどーかな? 花ちゃんっぽく花柄だよ」
「ハゥッ……トッテモ素敵デツ……」
頬を染め、それを見つめる花ちゃんだった。
翔太郎が、便箋を前に万年筆を構える。そして、花ちゃんをジッと見て、手紙の内容を促した。
「エエットデツネ……ジャアコウ書イテ下サイデツ! 蒼ヘ―――」
『 蒼ヘ
これを見つけて、蒼はびっくりしている事でしょう。
これを見つけるのは一体何時になるのでしょうか?
まだ日本でしょうか、それとも僕たちの世界?
蒼には、僕から宝物を贈りたいです。
蒼は僕に大切なものをくれました。
僕に名前をくれました。温かいものをくれました。
僕は魔道生物だから、
ご主人様以外でちゃんと生き物として扱ってくれたのは、蒼達が初めてです。
だから僕は幸せです。皆が大好きです。
いつか、僕と蒼はお別れするでしょう。
僕達にはそれぞれ、絶対に離れられない人たちがいるからです。
蒼には家族がいて、僕には御主人様やマザーや仲間がいます。
だけど悲しくありません。
僕には、蒼から貰った花ちゃんという名前があります。
だからずっと、僕は蒼を忘れる事は無いでしょう。
蒼も皆も、僕の事を忘れないでくれると嬉しいです。
ありがとう蒼。それから、他の皆にもお礼を言います。
皆ありがとう』
そこまで書いて、翔太郎はピタリと止まった。
後は『花ちゃんより』と書くだけである。
「……どうしたの? 翔さん……」
隣で聞いていたマリアは、その手紙の内容に涙を浮かべ、そして翔太郎を不思議そうに見る。
「……花ちゃんも書くか……?」
ボソリと聞いてくる翔太郎に、花ちゃんは驚いた顔をする。
「そっか! そうだね、自分の名前は自分で書いた方が良いよね! 気持ちがこもるもんね!」
「僕ガ書クデツカ? ……ジャア、蒼大好キ! トイウ字モ書キタイデツ!」
そうして、字を教えてもらった花ちゃん。
もう一枚の便箋に『蒼大好き! 花ちゃん』と大きく書いた。
ペンを抱えて書いた為、かなり歪なものになってしまったが、書き終わった花ちゃんは、自分の書いた字を満足げに見つめる。
そして、自分の名前を見ると、それをなぞる様に手を動かし、「ウフフー♪」と嬉しそうに笑った。
それらをマリアに丁寧に折ってもらい、封筒の中に宝物と一緒に入れると、花のマークのシールをぺたりと張った。
花ちゃんは、それを大事そうに抱えると、凄く嬉しそうに頭を下げる。
「翔タン! マリアタン! アリガトーナノデツ!!」
蒼が寝静まった頃を見計らい、花ちゃんは自分の寝床のタオルを捲り、手紙を取り出す。
そして、眠る蒼の顔をのぞき見て、クスクスと笑う。手紙を抱え、ある場所にそれを隠す。
蒼を見下ろし、それを隠した場所を見て、嬉しそうにまた、クスクスと笑った。
(キット蒼ハ驚キマツ! 喜ンデクレルカナ……?)
そんな事を思っていると、花ちゃんはつるっと手を滑らせてしまった。そしてそのまま、蒼の上にぽとりと落下してしまう。
蒼がウウーンと言って、もぞもぞと動くのを見て、花ちゃんはギクリとする。
「花ちゃん? どうしたの?」
目を擦りながら、蒼が眠そうに言う。
自分のせいで起こしてしまったと思うと、悪い事をした気になり、落ち込む花ちゃん。
「蒼、起コシテシマッテ、ゴメンナサイデツ」
花ちゃんがそう言うと、蒼はクスリと笑って謝らなくていいと言ってくれた。
「それより何してたの?」
そう聞かれ、花ちゃんは宝物の事を思い浮かべ、自然と笑みがこぼれる。
「蒼! 宝物ヲ隠シマツタ! 秘密ノ場所ナノデツ!」
「えぇ!?」
驚く蒼を前に、花ちゃんはクスクスと笑うのだった。
「ヒミツ、ヒミツ〜ソレハ秘密ナノデツ〜♪」
花ちゃんは身体を揺らしながら嬉しそうに歌う。
「……デモ僕ニトッテ、蒼ノ笑顔ガ、一番ノ宝物ナノデツ……」
小さな声で呟く花ちゃん。その顔は、とても幸せそうだった。
ああっ、花ちゃん健気だなぁ、もう。
でもね、花ちゃん、言っちゃったらサプライズにならないよ。 なんて心の中でつっこんでいた作者だったのでした。