無題5
(ある男の日記)
『 私はその魔術師に会った。
何の変哲もない、ただの少年に見えた。
だが、その内に秘めた力は計り知れない。
何でも“万物の力”というものを授かった者らしい。
何にしても、どれ程の力が得られるのか、楽しみだ。
まずは信用させなくては、
あの旅人が主にしたように――― 』
〜次ページ〜
『 その少年は意外なほど素直で、直ぐに私を信用した。
そして、その少年はいやに人に好かれる人物であった。
これも“万物の力”の成せる技なのだろうか?
その少年の元には、様々な人間が集まっている。
これならば、私が入り込んだとしても怪しくはないだろう。
心臓を喰らうのは、もう少し信用させてからだ。
散々信用させた後で、裏切られた者の心臓は、
絶望と恐怖に彩られ、格別の味となるのだから 』
〜その後、少年との日常が書かれており、始終「退屈」という文字が見受けられる〜
『 今日、少年の近くにいる者に怪しまれた。
一体何がいけなかったのだろう?
だが、そろそろ頃合であろうか……。
少年は、十分私を信用している。
明日、決行しよう――― 』
〜次ページ〜
『 何という事だろう。
あの、私を怪しんでいた者に邪魔をされた。
おかげで、少年を直ぐに殺してしまった。
絶望と恐怖を植えつける事が出来なかった……。
変わりに、その邪魔をした者をいたぶる事にした。
だが、その者は最後まで私を睨んでいた。
私は、そいつの心臓を喰った後、
ゆっくりと少年の心臓を喰らう事にした 』
〜次ページ〜
『 すばらしい!
実にすばらしい!
何という力、何という知識の宝庫!
“万物の力”とはこれ程までに素晴しい力なのか。
だが、何故だろう?
この胸に残るしこりの様なものは……。
少し長く居過ぎたのか?
あの瞳のせいだ。
最後のあの少年の瞳。
あれは、私を哀れんではいなかったか?
死んでゆくのに、恐怖ではなく、私を哀れんでいた。
それに、声を出す事に出来ない少年は、最期、何かを言おうとしていた。
少年は一体、何を言おうとしていたのだろう?
だがまぁいい……。
主よ、私は漸くあなたを超えた。
だが、まだ足りない。
あの旅人は、あれからどれ程の心臓を喰ったのだ?
恐らく、あの頃以上の力を得ているのに違いない。
もしかしたら旅人も“万物の力”を持った者の心臓を喰らったかもしれない。
だとしたら、また探さねば、その“万物の力”を持った者を――― 』
漸く、万物の力の事が出てきました。その力が人を惹き付けるのか……。
そもそも、そういう人間に力が宿るのか……。早夜が人気の理由かもしれません。