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異界の旅人  作者: ろーりんぐ
第一部《序章》
4/107

3.運命の日(四日前〜そして今)

(今日はいよいよバスターシュとの戦なんだな……リカルドさん何もしなければいいんだけど……)


 昨日見た夢を思い出し、嫌な予感を胸に心の中で呟く早夜。

 逸る思いで意識をリュウキに合わせてゆく―――



 **********



 一同が戦場へ赴く中、アルフォレシアの軍隊でとある問題が発生していた。

 リカルドが居なくなっていたのである。

 早夜の不安は当たっていた。


「あぁーんの馬鹿王子がっ!! どぉこいきやがったぁ!!」


 そう怒鳴る声が辺りに空しく響き渡った。

 茶色とベージュの斑模様の髪を振り乱し、怒っている彼は名をカートと言う。

 彼は部隊の隊長で、第一皇子ミヒャエル直々にリカルドのお目付け役を受け賜っている人物である。

 そんな彼を前に、兵士達もリカルドを探そうと慌しく右往左往している。

 そんな中、リュウキは落ち着き払った態度で、彼らに冷静さを取り戻させるように言った。


「皆安心するといい。こんな事もあろうかと、リカルドには首輪をかけておいた」


 リュウキはある物を取り出す。出てきたのは、金色のガラスで出来た玉だった。

 それをよく見えるように掲げる。

 しかし、それを見たカートは真面目な顔である言葉を言い放とうとした。


「それって、きんた……っごぉふっ!!」

「下品な言葉はやめろ……」


 カートが全部言い放つ前に、リュウキの剣の柄が見事に彼の鳩尾にめり込んでいた。

 蹲るカートを一瞥する事無く無視して、リュウキはこの玉の説明を始める。


「これはルードに造ってもらったリカルドの探索装置だ。金色なのはあいつの髪を利用した為だな。

 ああ、別に髪の毛である必要は無いらしい。爪でも血液でも、兎に角、探索する者の体の一部分であったら何でもいいみたいだからな」

「それは分かったが、それでどうやって探すって言うんだ?」


 もう回復したのか、何事も無かったようにカートはリュウキの手元を覗き込む。

 そんな彼に、リュウキもまた何事もなかったように答えるのだが、どこか不適な感じで二ヤッと笑いながら、


「こうするんだ」


 と言うが早いか、その手に持つガラス玉を地面に叩きつけた。

 パリンと音を立てて、ガラスで出来たその玉はいとも簡単に砕け散る。

 すると、そこから金色の靄が現れたかと思うと、シュルシュルッと蛇のように細く長くなり移動し始めた。


「ほら行くぞ、早くしないと見失う」


 リュウキは不適な笑顔をそのままに、呆然とするカートや他の兵士を置いて金色の蛇を追う。


「ちょ、ちょっと待て、そうならそうと言えって。心の準備が無さ過ぎるだろーが!」


 カートは我に返ると慌ててリュウキの背を追い始める。そして更に遅れて慌ただしく動き出す兵士達。


 先頭を走るリュウキ。

 暫く金色の蛇を追ってゆくと、その蛇がスピードを上げた。


「どうやら近いみたいだな……」


 蛇に倣ってリュウキも走るスピードを上げる。

 ふと気が付くと後ろには誰もいなかった。どうやらカート達は追いつけなかったようだ。

 目印になるように、すれ違う樹木に目立つように剣で傷をつけていった。


「いた……」


 目に映ったのはリカルドと――そして黒服の男達。




 リカルドは黒服の男達に囲まれ、剣を向けられていた。

 ジリジリとした緊張感の中、シュルシュルと金色の靄がリカルドに纏わりついたと思うと、もう役目は終えたとばかりにフワリと空中で溶けて消えた。


「な、なんだぁ!?」


 当然の事ながら驚くリカルドと黒服の男達。次の瞬間、リカルドの後ろに立っていた黒服が二人同時に倒れた。


「単独行動を取るからだ。馬鹿め」


 黒服の男達はそこに立つ人物に驚きを隠せないようであった。

 リカルドは罰の悪そうに顔を背ける。


「わ、わるい……」

「謝るのは後だ。今はこいつらの事に集中しろ」


「こいつっ!! 魔眼使いのリュウキ!」


 途端に騒がしくなる黒服達。

 リーダー格の男がリュウキに向かい剣を構える。


「これはこれは……俺達も運がいい。偶然にもアルフォレシアの要人に、同時に二人も出会えるとは……此方から出向くまでも無かったな」

「それは、お前達が刺客だと言う事でいいという事か? 元々俺達を狙っていたのだと……」

「ああ、そう言う事だ。少々予定が狂ったが、あんた達が死ぬ事には変わりはない。ここで死んでもらおうか」


 その男は、不適に笑いそう言い捨てると、まっすぐにリュウキに向かっていった。それに習うように、他の黒服の男達も、一斉にリカルドとリュウキに襲い掛かる。


「クッ!!?」


 だが誰一人として、二人に近づける者はいない。体が金縛りにあったようにピクリとも動かないのである。


「リュウキ、お前魔眼使ったな?」

「ああ、これぐらいの人数だったら大丈夫だ」


 そう言ったリュウキの瞳は普段の黒とは違い、血の様な紅に染まっていた。


「くくっ、異界の化け物め……」


 黒服のリーダーは何故か笑っていた。

 そして、動きが封じられているにも拘らず、その手を僅かに動かすと、掌を前に出した。

 見ればその掌には、何か紋様が描かれているようだ。そして男が何か口の中で呟くと、その紋様は淡く輝き、治まると同時に手の中に赤い液体の入った小瓶が握られていた。

 リュウキもリカルドも、その訳の分からぬ行動に眉を顰める。


「別にあんた達を剣で殺そうとしていた訳じゃないんだよ。本当の目的はこれさ……。

 予定通りならもっと大勢殺せたのにな……実に残念だ」


 そう言うと男は、小瓶から手を離した。

 重力に従い小瓶は地面に垂直に落ちてゆく。パリーンと、やけに高く澄んだ音を立てて小瓶が割れた。中身の液体が地面に広がる。血のような赤い色だった。

 とろりとしたその赤い液体は、やがて生き物のように蠢き、近くにいた男の足をアメーバーかスライムの様に這い上がっていった。


「バスターシュに栄光あれ!!!」


 瓶を割った男がそう叫ぶと、力ずくでリュウキの魔眼の束縛を解き、自らの剣で腹を刺した。男はごふりと血を吐き出し、にやりと笑うのを最後に先程の赤い液体がその顔を覆っていった。

 そして完全に液体に包まれた男はその場に倒れ、ブスブスとくすぶったかと思うと次の瞬間には煙を上げて燃え出した。

 リュウキは驚きのあまり、いつの間にか魔眼を解いてしまっていた。

 自由になった他の者達もまた、リーダー角の男に続き自らの命を絶ってゆく。

 リュウキはハッとして、呆然と立っているリカルドを振り返って叫んだ。


「リカルド逃げろっ!!」


 何か嫌な予感がしたのだ。

 そしてその予感に従い、リュウキはリカルドを突き飛ばした。

 とっさのその力は思いの他強かったようである。リカルドはかなり遠くまで突き飛ばされ転がっていった。

 その次の瞬間である。


 地面が赤く輝いた――


 見ると、あの赤い液体が先程と比べられぬ程に成長していた。そして地面に何やら描きながら、他の死体にも覆い被さっていく所だった。

 輝いているものは液体の描いた魔方陣。

 リュウキはその光景に薄ら寒さを覚えた。


「や、やっと追いついた。リュウキ、俺らを置いてくな――って、何なんだこれは……」


 その時、漸く追いついたカートが目の前に広がる光景に目を丸くする。

 カートの登場にさして驚きの色は見せずにリュウキは答える。その目は蠢く液体から離れなかった。


「分からん……恐らく何かの術を行おうとしているんだろうが、こんな術見た事が無い……」


 赤い色に覆われた死体が、ひとつ燃える度に、あの液体は益々大きくなっていった。

 その様は、それを見ている者達に何か不吉な予感を感じさせるには十分だった。


「何かヤバイ感じだな……」


 カートの呟きがその場に異様に響いた。




 **********




(何だろう、凄くいやな感じがする)


 リュウキの目を通してその光景を見ている早夜だったが、その術の禍々しさが早夜にも直接伝わってくるようだった。


 このままここにいてはいけない。早く逃げなければ取り返しのつかない事が起きる。


 そう直感的に思った早夜は、殆ど無意識でリュウキに話しかけていた……。


(リュウキさん早く逃げて! ここにいちゃだめ!)


 無意識に叫んだ早夜だが、本来なら観客席の声は幕の向こうには届かない筈である。

 早夜はそう思い、届かない不安にハラハラとしていた。

 だがその時、驚くべき事が起こる。

 リュウキが早夜の声に反応したのだ。


「……早夜?」


(っ!!?)


 リュウキは早夜の名を呼んだ――


 とても驚いたが、考えてみればこれは夢なのだ。己の望んだ事が起きたって何ら不思議な事じゃない。

 そう思い直した早夜は、そのままリュウキに話しかけ始めた。




 **********




 リカルドはその光景を呆然とした様子で見ていた。

 全ては自分の蒔いた種なのだ。まさかリュウキが自分を庇って、この様な事になってしまうとは……。

 全て自分の責任だ……。


 そう感じたリカルドは、意を決してリュウキのいる魔方陣へと足を踏み入れようとする。

 しかし、見えない壁のような物が行く手を阻んで立ち入る事が出来ない。

 もう一度試そうとした所でリカルドは肩を掴まれた。


「無理だ、さっき俺も試してみたんだが、髪の毛一本も入る余地がない……」


 リカルドは自分の肩に手を置いた人物を見る。


「カート、俺は……」


 眉を下げ、辛そうにするリカルドに、カートは首を振る。


「今は何も言うな。俺だって聞きたい事は山程あるさ……。

 今だって怒鳴り散らして、拳の一発でもお見舞いしたい所だが、今はリュウキを助ける事に専念しよう。

 間に合えば、ルードが何とかしてくれるだろう」


 カートのその言葉に、暫し物言わず考え込んでいたが、やがて思い直すように頷くとリカルドはリュウキの方を見た。

 するとリュウキは一人で何かを喋っているではないか。

 その奇行に愕然としたリカルドは思わず叫んでいた。


「リュウキッ!! お前、いよいよおかしくなっちまったのか!?」


 悲痛な声で叫ぶリカルドに、リュウキは振り向くと苦笑して首を振った。


「こんな状況だ。おかしくなりたいのは山々だが……。

 まぁ、今はそんな事より……お前達は早く此処を離れた方がいい。どうやらこの術は爆発する、らしい……。

 しかもかなり大きなものだ」

「はっ!? いきなり何言ってんだよ!

 そんな事、何でそんなこと知ってんだ?

 それに、それが本当だとして、お前を置いて逃げるなんて出来る訳無いだろ?」


 リュウキはその言葉を聞いた後、フッと笑いリカルドを見た。


「そう言ってくれるのは嬉しいが、この術は恐らくルードでも解除不可能だ。

 リカルド、頼む。少しでも自分が悪いと思っているのなら、戦場に戻れ。そしてこの戦に必ず勝て。

 それが、俺がお前に望む償いだ」


 リカルドはそれでも納得できないと言うように、目の前の見えない壁を叩き出した。


「俺の事は心配するな。自力で何とかして見せるさ。何せ俺には女神が付いてるからな……」


 そう言ってニヤリと笑って見せると、リュウキはカートを見た。

 その強い眼差しにカートは頷くと、リカルドの腕を引っ張る。


「リュウキは大丈夫だって言ってんだ。行くぞ!」

「本当に大丈夫なんだな?」


 確かめる様に聞くリカルドに、リュウキはしっかりと頷いて見せた。


「セレンと約束したんだ。必ず帰ると……だから俺は死なない」


 腰の辺りに手を置く。

 そこにはセレンから貰った御守りがぶら下がっている。


「……分かった。俺はお前を信じる」


 そう言ってリカルドは、カートを伴いその場を去っていった。





 その場に残るのはリュウキのみとなった。


「さて、と……自力で何とかすると言ったが、早夜の手を借りる事になるとは……」


 リュウキは周りを見る。既に半分以上の死体は無くなっている。

 あの赤い液体も、死体を食べる事と魔法陣を描く事で忙しそうだ。

 最初は死体に覆いかぶさる様に襲われるものと思っていたが、この物体は自分の事など見向きもしていない。

 その事を寂しいとは思わないが、危機的状況は変わらないまでもいくらか気持ちに余裕も生まれる。

 どこまでも強いその眼差しは少しの陰りを見せずに前を見据えていた。


「で、早夜。如何すればいい?」




 **********




 そう言われた早夜は戸惑う。

 如何すればいいのか分からないからではなく、その逆で何もかもが理解できたから。

 まるで辞書でもひくように知りたい事が頭の中をかけ巡る。


 この魔法は『(にえ)の魔法』と呼ばれるものだった。

 人の命を糧とし発動する魔法で、贄が多ければ多い程その威力は絶大なものとなる。

 力を蓄えたあの液体は、いずれ爆発する。

 そう、周りのもの全てを巻き込んで――…… 


(まずは、爆発を最小限にする為の結界を張ります)


「ああ、それから?」


 驚いた事に、リュウキは早夜が語り掛けたにも拘らず平然としていた。

まるで以前から知っていたように親しげに……。

 その事を追求したい早夜であるが、今はそれ所ではない。この状況を何とかせねばならないのだ。そして打破できるのは早夜しかいない。


(それから、リュウキさんを移動させる術を発動させます)


「術といっても、魔法陣を作るスペースが無いぞ?」


 その言葉に地面を見てみれば、確かに見えない壁の中いっぱいに魔法陣が描かれている。

 でもその事は早夜にとって何の弊害にもならない。

 早夜の中にある不思議な辞書は、様々な状況にも対処できる程に膨大な知識量を誇っていたのである。

(地面に描けないのなら、空中に描けばいいんです)


 早夜のその言葉にリュウキは口角を上げた。

 彼は今、子供のような、好奇心と冒険心を兼ね備えた眼差しをしていた。どこか楽しげでもある。


「成る程、発想の転換というやつか……」


(で、でもそんな魔法、リュウキさんは使えるんですか?)


 今まで見ていた夢の中で、リュウキがそういった大掛かり魔法を使ったという記憶は無い。

 なのでこのリュウキの余裕さを、何処か不思議に思っていたのだ。

 だが次に彼の言った言葉に、疑問が解決すると共に困惑した。


「俺ではない。早夜、お前がやるんだ。

 お前にはこの魔法が理解出来たのだろう? ならば、他の魔法も理解出来る筈だ。

 まずは集中してみるといい。自分の中にある魔力を感じるんだ。

 後は、お前の中の知識が全てやってくれる筈だ……」


 何故そんなにも自分の事を知っているのだろう? 自分でも知らない事を……。

 そう疑問に思ったが、周りの状況が一切の質問を拒んでいた。とてもじゃないが余裕などない。

 早夜はリュウキに言われた通りに自分の中に意識を集中させた。


 まずは爆発を押さえる結界だ。

 そう考えながら探っていると、頭の中に浮かんでくるものがあった。

 集中して行ったそれは先程の知識の比ではない。

 辞書と言うよりももっと規模の大きい知識の泉。

 ありとあらゆる辞書を選り集めた図書館、または情報を蓄積するパソコンか。

 結界を思い浮かべれば、様々な方法、様々な種類の結界が頭の中に浮かんでくる。早夜は嬉しくなった。


 ――これならいける!


 数多くある知識中で相応しいと思うものを選び出すと、途端に自分の中から魔力が溢れ出すのを感じる。

 リュウキもそれを感じるのか、息を呑む音が聞こえた。


「……万物の力とは、これ程の物なのか……?」


(万物の力?)


 詳しく聞き出したかったが、一度溢れ出した魔力をどう抑えればいいのか分からない。しかし分かった所で止める事はしなかっただろう。時間がないのだ。


 この『贄の魔法』を大きく取り囲むように、半月状の結界が姿を現した。


 その事に満足げに頷くと、次は移動する為の魔法だと意気込んだ。

 そうやって、さっきと同様に意識を集中させていく。

 慣れなのか先程よりも早く、それは検索できた。

 だが困った問題が起きた。

 知識から、移動魔法は自分が行った事のある場所でなくてはならないとある。または、正確な目標地点。

 早夜は夢で断片的にしかこの世界の事を知らない。正確な地理など把握していないのである。

 だからこの方法は却下だ。

 それ以外の移動魔法は、ある事にはあるが、あまりお勧め出来るようなものではなかった。


「如何した? 早夜」


 早夜が悩んでいつまでもぐずぐずしていると、リュウキが話しかけてきた。


(そ、それが移動魔法なんですけど、自分の行った事がある場所か、正確な目標がなければなりません。それ以外にもある事にはあるんですが……)


「何だ?」


(えっと、どこに飛ぶか分かりません)


 一瞬動きの止まったリュウキだが、足元の魔法陣が、輝きを増した事で我に返った。


「考えている暇はない! それで頼む!」


(で、でも、もし崖の上や海の真ん中だったら……)


「大丈夫だ。俺は、早夜を信じるよ」


(……何でそこまで……)


「もし無事だったら全部話そう。俺が何故君を知っているのか、君が何故魔法を使えるのか……」


(……や、約束ですよ)


 早夜が決心すると、途端に膨れ上がる魔力。リュウキの上空で、その魔力が魔法陣を形成する。


「ああ、約束だ」


 何処か感懐深げで、何故か嬉しげな響きの言葉。リュウキが笑う気配を感じる。早夜は、魔法を発動した。




 **********




「あ、あれ?」


 気が付くと、早夜は自分の部屋の中だった。

 どうやらあのまま現実に戻ってきたらしい。

 体を起こすと、どこか頭が重いような気がする。

 しかし、リュウキの事を思うとそれらの不調はどうでもよくなった。


「……あれからどうなったんだろう……次の夢で分かるかな?」


 二度寝でもして今すぐ状況を知りたかったが、学校がある為それは断念した。

焦らずともいつものように夜になれば続きを見れる。

 そう思っていたのである。


 しかし、それから早夜がリュウキの夢を見る事はなかった。





 ++++++++++





「と、いう訳なのよっ!!」


 握り拳を作りながら、熱弁する蒼。

 そして、その傍らにはぐったりとした様子で机に突っ伏した、亮太の姿があった。


「つ、疲れた……」


 蒼はあの後、長々と早夜の夢の話を聞かせたのである。

 その結果、今ホームルームが終わった所であった。


「蒼ちゃん凄いね。先生に気付かれないように話し続けるなんて」

「まぁね!」

 と、得意そうにしている蒼だったが、亮太は知っている。

 先生は気付いてなかったのではなく、気が弱い為に蒼に注意出来なかったのだと……周りの人間も、いつもの事なのでただ気の毒そうに見ているだけだった。

(気の毒だと思うなら誰か止めてくれ……というか、桜花さんも何で気付かれない等と思うのか……まぁ、そうゆう所も可愛いのだが……)

 最後の所でへらっと笑い、いかんいかんと首を振る。そして、かばんを手に持つと席を立つ。


「あ、亮太これから部活?」


 蒼が尋ねると亮太は頷いた。


「あっそ、じゃあ私たちは帰りましょ? 早夜」


 蒼達も帰り支度を済ませると、席を立つ。

 そうして教室を出る時、亮太が早夜に声をかけた。


「あの、大体の話は分かりましたけど、どうか元気出して下さいね……」


 そんな亮太に早夜は、にこりと笑うと、

 

「亮太君ありがとう、大丈夫だよ。それよりあの話を真剣に聞いてくれて嬉しかったよ。普通、笑い飛ばされるか、思い切り引かれるかどっちかだもんね」

「大丈夫、私たちは絶対に笑わないから」


 蒼が、そう言って早夜を抱きしめる。

 

「そうですよ。それが例え、どんなバカバカしい話しだったとしても、俺達はちゃんと真剣に聞きますよ」


 思わず涙が出そうになる早夜だったが、我慢すると二人に改めてありがとうと言った。




 その後、亮太と別れ家路に付く二人。蒼が早夜に言った。


「早夜、今日よかったら家に来ない? 蓮実ちゃんがどうぞって言ってたよ。今日はすき焼きパーティだって」

「え? ほんと? じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」

「もう、早夜だったらいつでも甘えちゃって!!」


 そう言うと蒼は、キュウッと早夜を抱き締めたのだった。




 アルフォレシアの4兄弟、彼らは皆、美形ぞろいです。

 リュウキは見た目はどことなくサムライっぽいイメージで書いています。(年齢は二十二くらい)

 カートは、一番年上か、ミヒャエルとシェルの双子と同じくらいと思って下さい。(二十代後半位かな……)

 リカルドは二十才前後。 セレンは十八くらいです。 こうだという確かな設定はしていないので、皆様がお好きなように考えてもらって結構です。

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