7.仲直り
サニアの家を出て、集会所に行く道すがら、早夜はマシューにポツリと言った。
「マシューさん、私リカルドさんに謝りたいです……」
「は? 何で早夜が謝るんだ?」
「だって私、リカルドさんを怒らせてしまいました……」
先程のリジャイとの件だ。
あの時の事を思い出し、マシューは尋ねる。
「あのリカルドが嫌うくらいの奴だ、一体お前に何したんだ?」
途端に真っ赤になる早夜。
「へっ!? あ、あのっ、そのっ……い、言わなきゃ駄目ですか?」
「俺は別に謝んなくてもいーと思ってるから、ちゃんと理由言ってくんねーと、協力は出来ねーぞ?」
マシューがそう言うと、早夜は俯き考えていたが、やがて意を決して言った。
「キッ、キスされましたっ!」
「はぁっ!? それは……怒るだろ、フツー。俺だって、今、怒りが湧くぞ……」
可愛い妹みたいな早夜に手を出したのだ。自然と怒りが湧いてくる。
「で、でもっ、最初のは、私の傷を治す為の応急処置だったんですよぅ!」
「……最初? ……一度じゃないのか?」
ハッと口を押さえる早夜。
「それも、リカルドの目の前でか……」
はぁ、と溜息を吐くマシュー。リジャイを嫌う理由と、怒りの真相が分った。
マシューは、早夜の頭に手をポンと置く。
「そりゃ、怒って当然だわなー……」
「はい。リカルドさん、私を心配してくれただけなのに、関係無いって言っちゃいました……」
マシューは早夜をまじまじと見る。
あんなにあからさまな態度なのに、それに気付かない早夜と、そして恐らく自分自身のその感情に気付いて無さそーなリカルドを思い、最早呆れるしかないマシュー。
彼はもう一度溜息を吐くと、
「じゃあ、謝んなきゃなぁ……」
と呟き早夜を見る。
そして、何かを思いついた様にニヤッと笑うと言った。
「なぁ早夜。一発で仲直りできる方法、教えてやろうか?」
マシューの言葉に顔を輝かせる早夜。
彼は何やら、耳打ちをしてくる。それを聞いた早夜は、顔を赤くしながらマシューを見上げた。
「そ、それ、本当にやらなきゃ駄目ですかぁ?」
「だって、仲直りしたいんだろ?」
その言葉にウウッと言葉を詰まらせると、グッと拳を握り、決心したように頷いた。
「わかりましたっ、やってみますっ!!」
(ほんっとーに素直だなー、サヤは……)
吹き出しそうになるのを必死で堪えながら、そうでない者を多く見てきたが故に、その素直さに心が和むのを感じた。
「なぁー、リカルドー。何でさっき、あんなに怒ってたんだよー」
デュマが先程のリカルドの剣幕を思い出し訊ねる。
リカルドはその言葉にリジャイと早夜の事が脳裏に浮かび、また怒りが湧いてくるのを感じた。
「言いたくねー!」
リカルドはそれっきり黙ってしまう。
「えー、何だよー、気になるなぁ……」
その時キースは、顎に手を置きうーんと唸っていた。
「もしかして……いや、でも、うーん……」
「リカルドさんは、ヤキモチ妬いてたんスよ!」
「は!? 誰に?」
突然のハルの言葉に、デュマが声を裏返して尋ねる。
「サヤに決まってるっス!」
セインもまた腕を組み、うんうんと頷いている。
「っな!? ちっ、ちがっ!!」
リカルドは否定しようとするも、そう考えると一番しっくり来る様な気がして、ハッとなる。
そう考えるのが、一番今まで感じてきた自分の感情に、ぴったり当て嵌まるのではないだろうか。
「あー、ハル。やっぱりそうなのか? アレ……」
キースがハルに確認をとる。彼は早夜の正体に気付いたようである。
そしてデュマ。彼は少々検討違いをしていた。
彼は早夜とリカルドの何とも初々しい様子を見て、以前から女性は苦手だと言っていた事と、そして早夜が女の子と見紛うばかりの愛らしい少年だと言う事で勘違いをしたまま確信してしまった。
「そうか、リカルドお前……女の子、苦手苦手って言ってたもんな……実はそっちの人だったなんて……」
「それは断じて違うっ!!」
とんでもない勘違いをして離れてゆくデュマに、リカルドはきっぱりと否定する。
「まぁ、確かにサヤは女の子みたいにカワイーけどさぁ……何もそっちに走んなくても……」
「だからっ、違うって!!」
彼らのそんな会話を聞きながら、ハルはクスクスと笑い、セインは苦笑するのだった。
そんな中、満面の笑みでマシューが部屋の中に入ってきた。
「マシュー、お前一体何処に行ってたんだよ。サヤはどうした?」
彼を見るなりそう訊ねてくるリカルドを、彼は意味ありげに見やると、一同を見回す。
「おーい、お前ら! 改めて紹介するぞ、リュウキ様の妹のサヤだ」
「なっ!?」
リカルドが焦って声を上げる。それを無視してマシューは扉を開け、早夜を中に招き入れた。
俯き加減で、おずおずと入って来る早夜。チラッと見ると、皆驚いた顔で此方を見ていた。正直気まずい。
「ご、ごめんなさい、皆さんを騙してました……」
心底申し訳なさそうに頭を下げる早夜。どんな罵りの言葉を受けるのだろうと目を瞑り、彼らの反応を待っていたのだが、そこにハルの声を聞いた。
「何だ、もうバラしちゃったんスか? もうちょっと今の状況を楽しみたかったッス!」
「嗚呼……やっぱり」
キースは納得するように頷き、ハルはニッコリと笑って言った。
「声を聞いた時にあれ? と思ってたんスけど、手の感触と匂いで確信したッス!」
目が見えない分そういうのには敏感なのだとハルは言った。
(ああ、だからあの時……)
出会いの挨拶の時にハルに匂いを嗅がれたのを思い出し、納得すると共に羞恥も思い出して頬を染める。
その時、セインも手を上げにっこりと笑って頷いた。
「セインも知ってたのか!?」
セインは近くにあった紙に、サラサラッと書いて見せる。
『骨盤の位置』
早夜には何と書いてあるのかは読めなかったが、皆が何故か自分の腰の辺りを見るので、思わずマシューの後ろに隠れた。
「何だ、結構バレてたんだな。ガマじぃも何か、分ってたみたいだし……」
集会所の横に座るガマじぃに会ったのだが、彼は早夜の姿を見ると頷き、
「うむ、やっぱり女性は、女性の格好が一番似合いますなぁ」
等と、別段驚いた様子もなく笑って見せたのだ。
「おい、デュマ。お前、いつまで見惚れてるつもりだ?」
キースが呆れてデュマを見やる。
彼は呆けた顔で早夜に魅入っていたのであるが、皆に注目されている事に気付くと、ハッとして早夜に詰め寄った。
「何だよー、だったら早く言ってよ。女の子には第一印象が大事なのに、口説き損ねちゃったじゃないかっ!」
「ごめんなさい……」
別に謝る必要はないのだが、何故か悪いような気がして謝ってしまった。
それに対してデュマは、ぶんぶんと首を振ると、
「ううん、全然サヤは悪くないって! 寧ろ気付かなかったオレが悪いんだよ。こんなに可愛いのに……。
ああ……それにしても、その服とっても似合ってるね。サヤってすごく肌が白いんだー……。あっ、赤くなった……へぇ、赤くなると肌もピンクに染まるんだぁ、すっげー色っぽい……」
等と宣いながら、どんどん顔を近づけてきた。
今までこんなにベタな口説かれ方をされた事がない早夜は、顔を真っ赤にして後退る。
「おい……」
その時、低い声でデュマの首根っこを掴み、引き離す者が居た。見れば、物凄く底冷えのする眼差しでデュマを睨んでいるリカルドの姿が。
只ならぬ殺気をその身に感じ、たらりと冷や汗を垂らすデュマ。
「ははは……リカルド、チョー怖いよ? オレって女の子見ると、つい口説きたくなっちゃうんだって。これって性分だよ? 条件反射なんだよ?
でも、どうしてサヤは男の子の格好なんてしてた訳?」
デュマが早夜に尋ねた。
早夜はリカルドをチラッと見ると、少し困った顔で答える。
「あの、それは……リカルドさんに言われて……」
「へ? 何で?」
今度はリカルドを見るデュマ。
怖い顔をしていた彼だったが、そう訊ねられると、ウッと言葉を詰まらせる。
デュマは一人、「うぅん……」と唸ると、ハッと考えを閃かせた。
「そうか! さては、こんな可愛いサヤを誰にも見せたくなかったんだな? まったく、独占欲が強いなぁ、リカルドは……」
すると、ずっと傍聴していたハルも会話に入ってくる。
「そうッスね! やきもち焼く位ッスもんね!」
「やきもち?」
それを聞いて、首を傾げる早夜。さっぱり分かっていないようだった。
逆にリカルドの方はと言うと、顔を真っ赤にして否定している。
「なっ!? ち、違う――……!」
「なるほどなー、でもリカルド、お前女性が苦手だったんじゃ……?」
キースがポツリと疑問を口にすると、デュマが空かさず答えた。
「そんなのっ! サヤのあまりの可愛さに、目覚めちゃったに決まってるだろー!!」
「ほぅ、そうなんだー……」
皆がジーッとリカルドを見る。
すると、彼は必死になって叫んだ。
「だからっ! 俺はただ、動き易いようにと――」
「だったら別に、弟と紹介しなくてもよかったんじゃないか?」
マシューが意地悪く言う。
「うぅっ、そ、それは思わず……」
「思わず、弟って言っちゃう位、私が男みたいだったんですね――……」
早夜がぽつりと言う。
見ると、しょんぼりとしたように顔を俯かせていた。
「ほらー、見ろよ! リカルドがはっきり言わないから、サヤ誤解しちゃってるだろー?
サヤ、男みたいなんてとんでもない! 男装してたサヤもすっごく可愛かった! 寧ろ不思議な魅力でドキドキしちゃったって!」
そんな風にデュマが早夜をフォローすると、マシューも空かさず言った。
「そうだよなぁ。実際デュマとキース以外は女って気付いてたしなー……」
その言葉に、今度はデュマとキースが落ち込むのだった。
「なぁサヤ、そろそろ言うか?」
マシューがぼそっと訊いてきた。
早夜はハッと顔を上げると、真剣な顔になって頷く。
(まぁ、もうそろそろ勘弁してやるか……それに、これからがメインだしな……)
リカルドを見ながら、これから起きる事を思うと、待ち通しくて仕方がない。
「おい、リカルド。サヤがお前に話があるそうだ」
「えっ?」
リカルドが驚いて早夜を見る。
早夜は少し緊張した面持ちで彼の前に立つと、リカルドもその緊張が移ったのか顔を強張らせた。
「あの、リカルドさん……今日は色々とごめんなさい……」
そう言って頭を下げる早夜に、リカルドはポカンとなる。
「何でサヤが謝んだよ?」
(寧ろ謝んのは俺の方じゃないのか?)
リカルドがそう思っていると、早夜は更に言った。
「それは……私が勝手にリカルドさんに対して怒ってしまいましたし。後、リカルドさんを怒らせてしまいました……」
「……それは別に、お前のせいじゃ――……」
「あの、でも、リカルドさんは私を心配してくれただけなのに……私、関係ないなんて言っちゃいました……」
「……別に、もう怒ってねーよ……」
心配という言葉にちょっと引っ掛かったが、リカルドは早夜を安心させるように言った。そして、彼もまた謝罪する。
「俺の方こそごめんな、弟なんて言って。怒って当然だよな……」
「い、いえ、あれはチビとか胸が無いって言われてつい……」
恥ずかしそうに言う早夜に、リカルドは首を傾げる。
「は? 俺はそんな事言ってねーぞ?」
『…………』
お互い無言で見つめ合う事暫し。
そして、二人同時にマシューを見ると、彼は頬を掻きながら気まずそうにしていた。
その顔は「あれ? 俺やっちゃった?」とでも言うように苦笑いを浮かべている。
「あー、ワリー。それ言ったの俺だわ……」
「マーシュー……テメーのせいかぁ……」
拳を震わせながら、リカルドはマシューに詰め寄る。
「いやー、ワリーワリー。そっかー、原因俺かー……それは気付かなかったなー、ごめんなー、2人ともー……」
冷や汗を流しながら、ジリジリと後ずさるマシュー。
原因は彼ながらも、早夜に怒る意志はなく、逆にリカルドの不穏な空気に焦りの表情を浮かべる。
これは止めなければ。何か大変な事が起きる気がする。
早夜はそう思った。
「い、いえっ! 決してマシューさんのせいではありませんっ! 悪いのは、そんな事で拗ねてしまった私ですぅ! ごめんなさいぃー!!」
彼らの間に入り込み、自分が悪いのだと必死にマシューを庇う。それが悪かったのか、リカルドの不穏さが増した。
何故と思いながら、今度はリカルドに近づき、彼の服の裾を引っ張って気をそらせる事にした。
「リ、リカルドさんっ! だからっ、あの、そのっ、私と仲直りしましょう!!」
とっさに出た言葉。
リカルドは訝しげな顔をしながら心の中で首を捻った。
(仲直りなら今さっきしなかったか? 俺たち……)
そんなリカルドの考えを余所に、早夜は更にグイグイと彼の袖を引っ張る。
「立ったままじゃ、仲直りできませんよぅ」
「は?」
何の事やらサッパリのリカルド。
マシューはそんな彼らの後ろで口を押さえていた。
よく見ればその目は笑っている。
そして、チラとセインを見ると、リカルドを指し示した。セインはそれを見て、彼が何かた企んでいる事に気付いて頷いた。
セインは背後からリカルドに近づき、彼の肩を掴むと、グイッと下に向かって押しやる。
「おわっ!!」
彼は見かけによらず馬鹿力な為、当然の事ながらその力に抗えず、リカルド床にひざまずく形となり、その結果膝をしこたま打つ事となった。
「いっでーー!!」
膝を押さえるリカルド後ろで、セインが早夜に向かって爽やかに笑い、どうぞと言う様に掌を上にする。
マシューが満面の笑みで、セインに親指を立てた。セインもそれに答えて親指を立てる。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
早夜は、痛そうにするリカルドを心配そうに見つめる。
「だ、大丈夫だ……」
そう答えるが、彼の目は涙目だ。相当痛かったらしい。
(だ、大丈夫じゃないよぅ……)
つられて早夜も涙目になりそうになった。けれど、意を決してリカルドの肩に手を添え、当初の目的だった“仲直り”をする事にした。
「……?」
「あの、リカルドさん。私、つまらない事で意地を張って、リカルドさんに対して失礼な態度をとっちゃって、ごめんなさい……」
そう言って早夜はその身を屈めた。
リカルドは、ふわりと鼻腔を掠める甘い香りと、それと同時に頬に感じる柔らかな感触に思考を停止させる。
周りが「おおっ」とどよめいた。
「後、リカルドさんに、関係無いって言っちゃって、ごめんなさい……」
今度は反対側の頬にその柔らかな感触。
それが離れ、リカルドは早夜の顔を真正面に捉える事となる。
頬をほんのりと染め、照れたように笑うその笑顔は、とても可愛らしかった。
「これで、リカルドさんと仲直りできましたよね!」
早夜は嬉しそうにそう言ったが、周りの反応に「あれ?」となる。
リカルドは固まっているし、周りの者達は皆一様に驚いた顔をしている。
「何で皆さん驚いているんですか? 女性から仲直りしたい時は、謝罪の言葉と共に相手の頬っぺにチューをするって、マシューさんから聞いたんですけど……」
夢の中で知ったこの世界の風習の中にはその様な話は聞いた事も無かったのだが、もしかしたらこの街の中だけの風習なのかもしれないと思ったのだ。
だが、教えてくれたマシューを振り返って見てみると、彼は必死の形相で笑いを堪えている所だった。
「っ!? な、何で笑うんですか!? ハッ! もしかして、嘘なんですかぁ!?」
漸くマシューにからかわれたのだと気付いた早夜。
それを見たマシューは、とうとう堪えきれずに声を上げて笑い出した。
「はははっ! スゲーよ、サヤ! 俺の想像以上だ。まさか、二回もするなんてっ! ククッ」
「それは、だって……謝罪の言葉と共にっていうから、一つの謝罪につきキス一回なのだと……謝りたい事、二つあったんですよぅ……。でも酷いです! 何で騙したんですか!?」
早夜は頬を膨らませマシューを睨む。
まだ笑いの治まらない彼は、目に涙を浮かべていた。
やっと笑いが治まって、漸くと息を吐く頃、マシューはリカルドを指さし言った。
「別にだましてねーって。一発で仲直り出来ただろーが」
そう言われてリカルドを見てみると、彼はまだ呆けた状態から抜け出してはいないようだった。
「リ、リカルドさん!? 大丈夫ですか?」
早夜は彼に近づく。
今しがたキスした場所に、淡い色の口紅が薄っすらと付いているのが見えた。
改めて自分がした事を実感し、顔が熱くる。
(ふぇ〜〜〜っ! 恥ずかしいよぅ〜〜!)
早夜は、サニアから渡されたハンカチを取り出すと、リカルドの頬を拭いた。
「ご、ごめんなさい〜〜! 今すぐ拭きますっ!!」
リカルドはごしごしと拭かれる感触に、ハッと我に返る。
顔を赤くし、眉を寄せる早夜の顔が、目の前に存在して吃驚した。彼女は今、もう一方の頬も拭き取ろうとしている。
リカルドはそれに気付くと、バッと立ち上がって早夜の手が届かないようにする。
「あっ! 立ったら上手く拭けませんよぅー」
早夜は目一杯手を伸ばして頬を拭こうとするも、リカルドが手で隠して邪魔をする。
「いい!」
「えぇ!? でも、口紅が付いちゃってますよ?」
「だからっ、別にいいってっ!!」
「そんなっ、良くないですよ!」
こうして、何とも微笑ましい追いかけっこが始まった。ここにいる者達はそれを微笑ましく眺めている。
ただデュマだけは羨ましげだった。
「クッソー、いーなーリカルド。オレもサヤにチューしてもらいたい!」
夕方近くなり、早夜とリカルドは城に帰る事にした。
また屋根の上を歩くのだろうかと思ったが、このゴミための街の中央にある移動用の魔法陣で、中央広場の転送装置へと直行できるらしかった。
マシュー達が見守る中、ガマじぃが早夜に、ある物を渡す。
それは、緑と赤の石の付いたブローチ。
「サヤ殿、それはこの街の住人の証。それが在れば、中央広場の転送装置から直接ここへ来る事が出来ますぞ。サヤ殿なら、いつでも歓迎しますからな」
そして、この街に来たい時は、ブローチの赤い石を上にするのだと言われた。
それを見ていたリカルドは、憮然として言った。
「ちょっと待て! 俺は今までこんな便利な物貰った事が無いぞ!」
「ははは、リカルドの坊ちゃんは男性ですし若いですからな。しっかり運動して下され」
「それに、渡したら最後、ここに入り浸るだろ? 一応王子なんだから、城の執務もちゃんとこなせよ!」
マシューの言葉が耳に痛かったのか、リカルドは拗ねたように横を向く。
「んなのは別に、俺が居なくても兄貴らがやってる事だ!」
そんな様子のリカルドを、マシューは困ったように見つめた。
「あ、そういえば……マシューは裏路地歩いてたけど、お前はそのブローチ持ってないのか?」
リカルドがはたと気付いてそう尋ねると、マシューはフフンと笑った。
「俺は見回りも兼ねてだ。昔のお前みたいに、迷ってベソかいてる奴が居ないとも限らねーからなっ!」
意地悪そうににかっと笑って言われたリカルドは、再び拗ねて今度はムスッとするのだった。
△▼△▼△▼
〜日本・一時帰宅その後 其の七〜
皆が寝静まる深夜の事。
蒼もまた例に漏れず眠りについていた。
そんな彼女の胸の上に何かが落ちてきた。
軽い衝撃だったが、丁度眠りの浅い時だったらしく、目が覚めてしまった。
謎の落下物の正体を見極めようと目を開けて見てみる。
「花ちゃん? どうしたの?」
謎の落下物の正体は花ちゃんだった。
確か、枕元の花ちゃん用に作ったベッド(果物籠の中に、タオルを敷いた物)の中で寝ていた筈である。
すると、花ちゃんは申し訳なさそうに首を振った。
「蒼、起コシテシマッテ、ゴメンナサイデツ」
「別に謝らなくてもいいわ。もともと浅い眠りだったし、それより何してたの?」
蒼の質問に、何故か花ちゃんはちっちゃなその手で、口を押さえてクスクスと笑いだした。
「蒼! 宝物ヲ隠シマツタ! 秘密ノ場所ナノデツ!」
「えぇ?」
花ちゃんのその言葉に、目をぱちくりとさせる。
「トッテモ素敵ナ物ナノデツ! ダカラ、蒼ニモオ裾分ケスルノデツ!」
そう言ってまたクスクスと笑う。
「も〜、花ちゃんったら、何処に隠したの!?」
朝起きて探してみたが、結局見つからず、花ちゃんに尋ねる。
すると花ちゃんは、嬉しそうにクスクス笑うと言ったのだ。
「ヒミ〜ツ秘密、ヒミツナノデツ♪ デモ大丈夫ナノデツ。チャント見ツカル場所ナノデツ!」
「ええ〜? わかんないよ〜、花ちゃん教えて?」
「ウフフ♪ ヒミツ、ヒミツ〜ソレハ秘密ナノデツ〜♪」