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異界の旅人  作者: ろーりんぐ
《第二章》
16/107

3.異界人

 ※この回からリュウキはムエイとなります。

 その後リジャイは、散々ロイをからかった後、用事があると言って出て行った。


「全くあの男は、いつもいつも……一体どんな用事があるというのだ?」

「いつもなのか?」


 リュウキ……いやムエイはそう訊ねる。


「そうなのだ。まぁ、恐らくはナイール王子が関っているのだろうが……」

「……王子が?」

「ああ、何か企んでいるのかも知れんな。あの男……」


 そう言って、ロイは空中を睨んだ。

 リュウキもまた、リジャイのあの胡散臭い笑顔を思い出し、ロイの言に頷く素振りを見せる。まだ出会って間もないが、リュウキはこの金色の獣人を信用に値すると判断した。

 実際、彼の瞳には一切の曇りはなく、誠実さをかいま見る事ができた。それに、彼の耳と尻尾は感情によってよく動くらしく、嘘はつけなさそうである。


「ナイール王子との面会の前に、この国を案内しよう」


 気を取り直した様子のロイは、金色の瞳を輝かせてそう言った。


「いいのか? 王子を待たせているのでは……」

「大丈夫だ。ナイール王子のいる場所は、ここから結構距離があるのだ。その間に案内してやろう」


 ふふんと機嫌良さ気に笑うロイの尻尾は、ふぁさふぁさと揺れて、触ると気持ち良さそうだった。




 屋敷を出ると、砂漠の国だというのに緑が多くて驚いた。乾いた空気という感じもなく、過ごしやすいすがすがしい風が吹いている。


「驚いたか? この国には巨大な結界が張られている。あれを見ろ」


 ロイが指さす方を見れば、遠くに塔のような物が見受けられた。


「あれが、このクラジバールを囲む様に、四方に建っておる。あれがその結界の要で、この地を人が住める土地にしている。

 あれが無ければ恐らく、この国は砂に沈んでおるだろうな」

「よく知っているな」


 感心してそう言ったのだが、何故かロイは眉を顰めた。


「フン、好きで知った訳ではない。この国の魔学者に教わったのだ」

「魔学者?」


 聞き慣れない言葉だった。


「ああ、魔学者は魔術について研究しているのだ。実はこの枷も、あの巨大な結界も、その魔学者が造り上げた物だ」

「そんな凄い人物がいるのか? この国は……」


 一応アルフォレシアとは山を挟んではいるけれど、隣りあった国だ。しかし、クラジバールの実体はそれ程知られてはいない。

 他国の者を受け入れようとしないし、外交もあまりしないのだ。時々、クラジバールから来た人間が、当たり障りのない噂を流してゆくだけ……。

 なので、ここまでこの国の内情を知った者は、自分が初めてではないだろうか。これを機に、この国の事を調べてみるのもいいかもしれない。

「実は、その魔学者も異界人なのだが……まぁ、あ奴の事は後で紹介してやろう……」


 そうして歩いていると、周りには土を固めた家が多くある事が分かった。

 これが、この国特有の家であろうか? ロイの屋敷を出てきた後なので、酷く粗末に見える。


「あれは、この国の奴隷達の家なのだ……」


 ムエイが周りを見ている事に気付いたロイは、それらを見回し鼻の頭に皺をよせた。


「ここは奴隷達の居住地でな。呼び出された異界人達もここに住んでおる。

 ……つまり、我々異界人は、この国の人間にとって、奴隷も同然なのだ!」


 ロイは感情に任せて近くの木を殴った。彼の尻尾も全体的に逆立ち、膨らんでいる。

 余程腹立たしいのだろう。


「ええい、腹立たしい! 我を奴隷だと!? フフフ、いいだろう……我が自由となったあかつきには、思う存分――」

「おい、気持ちは分かるが、早く案内してくれないか?」


 困ったようなムエイの言葉に、ロイはハッとして耳を倒した。尻尾の膨らみも元に戻る。


「スマン……つい我を忘れてしまったのだ。

 あっちに他の異界人がいる。案内しよう……」


 自分の行いに反省し、とぼとぼと歩いてゆく。

 その後ろを歩くムエイは、彼の金色の尻尾が元気なさげに左右に揺れるのを見て、先程から様々な表情を見せるこれは一体どういう仕組みなのだろう、と思わず触ってしまいそうになった。




 少し歩いてゆくと、“どりゃー!!”とか“とうっ!”などと、奇妙な掛け声が聞こえてきた。


「またやっておるな、あの男。ムエイよ、どうやら最初に紹介するのは、あの男のようだ」


 そう言って示す先にいたのは、体と同じくらいある巨大な斧を振り回している上半身裸の男だった。

 周りには何故か見物人がおり、見た感じからいって、この国の奴隷達のようだった。


「ははは!! 見ろ! 俺のこの勇姿を!! 俺はスゴイッ!! 俺は強いんだー!!」


 男は自身にも周りにも言い聞かせるように叫びながら、近くにあった大きな岩をその巨大な斧で砕いて見せた。

 すると、見物人達が『おおー!』と歓声を上げながら拍手をする。

 それに気を良くしたのか、男はまた“どりゃー!!”と叫んで斧を振り回し始めた。


 その男の容姿を上げるならば、茶色い肌に青い髪に瞳は碧、顔には傷があり頭に何やら派手なバンダナを巻いていた。

 剥き出しになったその上半身は鍛え抜かれており、斧を振り回す度にその筋肉は、盛り上がって見せる。


「いい加減にせぬか! お主に紹介したい者がおるのだ!」


 すると男は漸く此方に気付き、白い歯を見せた。


「何だよ、ロイロイじゃねーか! 如何したんだ?」

「な、なぜお主までロイロイと呼ぶのだ!?」


 酷く衝撃を受け、ロイの耳と尻尾がピンと立った。


「何でって、いつもリジャイにそう呼ばれてるじゃねーか」

「我はそのように呼ばれるのは嫌だ!!」


 ロイの主張に男は不思議そうに首を傾げた。


「別に変わんねーじゃねーか、ロイもロイロイも」

「違う! 断じて違う!」


 顔を真っ赤にして抗議するが、男はそれに反応せずにムエイを見やる。


「ロイロイ、こいつ誰だ?」


 ロイは膝を折った。耳も尻尾も垂れ下がっており、心なしかその金色も毛並みも煤けて見えた。

 流石に何か可哀想になって、ムエイが助け船を出してやる。


「あー……頼むからちゃんとロイと呼んでやってくれないか? これでは、話が進まないだろう?」


 ロイが顔を上げる。うんうんと頷くその顔は輝かんばかりだ。

 男の方はというと、しょーがねーなぁという風に頷いた。


「そんじゃあロイ。改めて訊くが、こいつ誰だ?」


 漸く立ち直ったロイは、コホンと咳払いをして、ムエイの横に立った。


「この者は新しく来た異界人で、ムエイと言う。ムエイ、こ奴はカムイと言って、見た通りの筋肉馬鹿だ」


 さっきの仕返しなのか、ロイはそんな事を言う。

 だが、カムイと呼ばれた男は別段気にした風も無く、二カッと笑いムエイに手を差し出した。

 その手を握ると、痛い位に力を込め、ブンブンと勢いよく振った。


「ははは! よろしくな、ムエイ! ところでお前強いのか?」


 無邪気に笑いながら興味深そうにジロジロと見てくるカムイに対し、ムエイは痛みに顔をしかめながら、一瞬目を眇めさせるとスッと身をずらした。

 次の瞬間、カムイの視界は反転し、気が付けば脳天にあった筈の空が目の前に。カムイは仰向けに倒れていた。

 途端に沸く見物人。

 ひっくり返った本人はポカンとし、見物していたロイは驚いた顔をしている。

 そしてリュウキはというと、涼しげな顔でカムイを見おろす。


「これで答えになっただろうか?」


 そう、首を傾け訊ねると、カムイは倒れたまま笑い出した。


「あははは!! スゲー! つえーなあんた! 俺、こんな風に引っ繰り返されたのは、初めてだ!!」


 心底愉快そうな笑顔で起き上がると、ムエイの肩を盛大に叩いた。かなり強い力で叩かれた為、前のめりになりながら眉を顰める。


「おし! 気に入ったゼ!! 何かあったら何時でも俺のとこに来てくれ! 何でもしてやるぞ!!」


 歯を剥き出しにして豪快に笑うカムイ。そうしていると、周りで見ていた見物人達が声を掛けてきた。


『カムイ殿、今日の見世物は面白かったですぞ』

『また見せてね!』

『兄チャン、ありがとな! あの岩、邪魔だったんだ!』


 そう口々に言ってぞろぞろと去ってゆく。

 去り際、ムエイにも声を掛けてくる者もいた。


『あんたもすごいねー! あのカムイを引っ繰り返すなんて』


 正直どう返せばよいのか、困惑気味に取り敢えずは会釈にとどめた。


「おう、また来いよ!」


 カムイは慣れているのか二カッと笑うと、そんな彼らに手を振る。


「あの者達も娯楽が欲しいのだろう。仕事の合間にああやって、カムイの特訓を見に来るのだ」


 そう言ってロイもまた、仕事に帰る彼らを見送っていた。




「如何して、カムイまで付いて来るのだ!?」 


 あれからあの場所を去ろうとしたロイ達に、何も言わずにその後を付いて歩くカムイ。

 まるで自分がここにいるのが当たり前だというように、カムイはロイの言に心底不思議そうな顔をする。


「ん? いーじゃねーか、俺はついでだ、ついで」


 やれやれと溜息を吐くロイは、ふと思い出したようにムエイを見た。


「それにしても、あのカムイを引っ繰り返すとは……あれは一体どうやったんだ?」

「……どうやったも何も、ただ相手の重心をずらしてやっただけだ。こつさえ掴めば、小さな子供だって出来るぞ」


 そう、事も無げにムエイは言ったが、ロイは顔を引きつらせながら思った。

(いや、あの動きは子供には出来ぬぞ……)

 何せロイには、ムエイの動きが早すぎて、ただぶれた様にしか見えなかったからだ。


「何だ、そうだったのか!? じゃあ、俺が油断しただけか?」

「ああ、まぁそうなるな。でも力で勝負するなら、恐らくカムイの圧勝だったさ」

「ガハハ!! いやいや、相手の油断を誘うのも強さの内だゼ!! 気にすんなっ!」


 カムイはそう言って、片目を瞑り親指を突き出した。





 そしてまた暫く行くと、向こうから目立つ容姿をした女性が2人歩いてくる。

 一人は、前髪を紅く染めたオレンジ色の長髪の女性。

 もう一人は、真珠色をした、ふわふわの綿菓子のような髪の女性で、その背には透明な羽が生えていた。

 オレンジの髪の女性が此方に気付くと、眉を顰め心底嫌そうな顔をして踵を返そうとする。

 それを、慌ててロイが呼び止める。


「ま、待てミリア! お主に紹介したい者がおるのだ!!」


 ムエイを前に立たせ「この男だ!」と叫ぶように言った。

 仕方なさそうに此方を向くミリアと呼ばれた女性。しかし、ムエイを見た瞬間、彼女は驚いたように目を見開き固まった。

 リュウキはその様子に冷や汗を浮かべる。

(!? 何だ? なぜ驚く? まさか正体が……)

 しかし、ミリアと呼ばれた女性は無言のままズンズンと近づき、ムエイのその手を取り言った。


「好きですっ! 付き合ってください!!」


 彼女の頬は赤く染まり、その茶色の目もハートのなって、完全に恋する物のそれであった。


「す、すまないが、俺には婚約者がいる……」


 たじろぎ、正体の事ではないと安心しながらも、これはこれで厄介なのではとすぐに諦めてくれる事を願いながら告白を断る。

 ミリアは当然の事ながら落ち込んだ。まるでこの世の終わりのような顔をして、その場にガクッと項垂れた。


「……恋して5秒でふられた……」


 その時、後ろに居た真珠色の髪の女性が、項垂れる彼女に近づき、その肩に手を置いた。


「元気出すんだミョ、ミリア。この男、こっちの世界に呼び出されたんだミョ。

 超ー、遠距離恋愛ミョ! ミリアにも付け入る隙があるんだミョ!!」


 ……語尾がかなり可笑しかった。

 黙っていれば、儚げで神秘的な美少女である。見れば瞳も真珠色であった。

 そして、彼女は此方を向くと、にっこりと笑った。その笑顔は、思わず見惚れてしまう位綺麗だった。


「初めましてだミョ! イーシェ・ファンというミョ。それで、こっちの娘がミリアっていうミョ!」

「ど、どうも、ミリア・スティングスです。銃の扱いが得意です。お、お友達からでも良いんで、宜しくお願いします……」


 イーシェの励ましのお陰か、ミリアはいつの間にか立ち直り、もじもじとしながら自己紹介した。

 ムエイは困った表情をしながらも、それに応じる。


「あー、俺はムエイという。初めまして……」


 敢えて宜しくとは言わないムエイであった。


「ムエイ様? なんて素敵なお名前!」


 惚けた顔でムエイを見つめるミリアに、今まで茫然としていたロイが声をかける。


「う、うむ、自己紹介が済んで何よりだ……」


 それまで目をハートにしていたミリアだったが、ロイを見ると明らかにその表情を嫌悪に変えた。


「何で獣人がムエイ様といるのよ。前に私から50m以内に近づかないでって言ったわよね? もちろんムエイ様にも近づかないで!」


 そう言ってムエイの腕を掴み、ロイに対してシッシッと手を払う仕草をする。

 その明らかな嫌悪の感情に、ロイは悲しそうな顔をする。耳と尻尾も元気なく項垂れた。

 その様子を見たムエイは、自分の腕に絡まったミリアの手を外すと、冷たい声で言った。


「彼は俺の命の恩人だ。そういう態度はどうかと思うが?」


 言われてハッとするミリア。目を潤ませ俯いた。

 そこに庇うようにイーシェが割り込んでくる。


「ミリアは前の世界で、獣人に両親を殺されてるミョ! だから、ミリアは獣人が嫌いなんだミョ。ここに居るロイロイは違うと分かってても、どうしても駄目なんだミョ! 許して欲しいミョ!」


 そう言ったイーシェの言葉に、ロイはショックを受ける。

(そんな、イーシェまでロイロイと呼んでいるなんて……)

 彼にとっては呼び名の方が重要らしい。

 ミリアの事は悲しいが、事情は知らなかったとは言え、彼女の眼差しの中に嫌悪だけでない恐怖の色も見て取って、世の中仕方のない事もあるのだとロイは考えていたのだ。

 ミリアはというと、ムエイの怒りを感じ取り、小さな声で「ごめんなさい」と呟く。

 一応反省しているらしい彼女を見て、ムエイはさっきよりは幾分か声を和らげて告げた。


「悪いと思うんならまず、ロイに謝れ。そこに居る友達じゃなく、自分の口でな」


 ムエイに促され、ミリアはロイを見る。

 ロイもまたそれに気付き見つめ返すが、その金色の瞳を見た瞬間にミリアはブルリと震え「やっぱりダメー!!」と叫んで走って行ってしまった。


「あっ! ミリア、待つんだミョー!!」


 イーシェもその後を追いかける。

 そしてその場に残された男3人。

 それまで黙って事の成り行きを見ていたカムイは、ロイとムエイの背中をバンと叩いた。


「モテる男はつらいな、ムエイ! ロイロイも元気出せ!」

「ま、またロイロイに戻っている……」


 ガハハと笑いながらバンバンと叩いてくるカムイに、ボソッと呟くロイであった。




「……もう異界人はいないのか?」

「いや、いるのだが……大体の者は怯えて引き篭ってしまっている。

 あまり力のないものは、他の奴隷と同じ扱いを受けるからな。

 我々のように力を認められさえすれば、まだ扱いは楽なのだ。国の中も自由に歩きまわれるし……」

「俺がムエイを王子に推選してやるよ。この俺を引っ繰り返した男ってな!」


 カムイはそうやってムエイを注視していた為、自分に近づく人影に気付かなかった。

 そして案の定、相手にぶつかってしまった。 

 恐らく、相手にとっては壁にでもぶつかってしまった様であったろう。

 その被害者となった相手は、紫色の髪をした女性であった。その目は不機嫌なのか元からなのか座っており、色もグレーで何処か暗い印象を与える女であった。


「おお、すまねえ……って、お前はカンナか?」


 そんなカムイを、女はジトッと見つめると立ち上がり、深々と頭を下げた。


「ぶつかってしまって申し訳ありませんでした……」

「ちょっ、カンナ! 謝って早々帰ろうとするな! 紹介したい者がいるのだ。来てくれぬか?」


 頭を下げた後、すぐさま踵を返そうとする彼女を慌てて引き留めると、その女性は暗い眼をしてロイを見やり、「……それは、命令?」と、ボソッと訊いてきた。


「あ、ああ。命令である。彼に自己紹介をするのだ」


 そう言うロイの顔は引き攣っていた。額には冷や汗が見受けられる。

 ムエイはと言うと、その大袈裟とも取れる対応に困惑気味だ。別に命令なんかしなくても……と声を掛けようとするが、カムイがつんつんとムエイを小突き、「あれ」と女を示した。

 見れば女は、何処か恍惚とした顔をして感嘆の溜息を吐いている。

 そして、ムエイの前に立つと、胸に手を当て深々とお辞儀をした。


「お初にお目に掛かります。私は、カンナ・ハマと申します。以後、お見知りおきを……。

 あなた様のお名前は何でございましょう?」


 やけに礼儀正しく挨拶をされ、つられてムエイも礼をした。


「俺の名前はムエイと言う。宜しく頼む」


 そして手を差し出すのだが、カンナはふいっとそっぽを向いてしまう。

 ロイが慌てて言った。


「あ、握手するのだ! 命令だ!」

 すると、途端にカンナはにっこりと笑って、差し出された手を握り返した。


「宜しくお願い申し上げます」


 これまた丁寧に言う。

 しかし全てが終わると、あの暗い表情に戻り、踵を返して去っていった。

 ロイはふぅと息を吐き額を拭う。


「やはりあやつは苦手なのだ……。いちいち疲れる……」


(だが、まだロイロイと言われないだけ良しとしよう……)

 内心、うんうんと頷いていたのだが、何故かカンナが戻ってきた。


「私とした事が忘れておりました。リジャイ様よりロイロイ様へ言伝を請け賜っております。『ロイロイ、早く行かないと王子様に怒られちゃうよ』との事です。では……」


 そして深く頭を下げると去っていった。

 ロイは固まっていた。

(あ、あ奴だ。あのリジャイの陰謀なのだ! そうだ、そうに違いない!)

 あまりにタイミングが良かったので、リジャイの陰謀説がロイが心の内で展開していった。

 そして、その間にムエイはカムイに尋ねていた。


「一体なんだったんだ? あのカンナと言う女性は……」

「ああ、あいつはな、他人に命令されるのが大好きなんだ。何か頼むにもいちいち命令しなくちゃ、何もしないんだゼ?

 そんでもって、ああ見えてかなりの魔術の使い手らしい。聞いたところによると、あいつの身体には呪印がびっしり施してあるって話だ」


 そう言ってカンナの去った方向に目を向けていた。





 あの後、立ち直ったロイは、城を目指し歩き出す。


「フン! いちいち気にしてては体がもたん!」


 鼻息を荒くするロイ。その尻尾も、少々怒りの混じった様にぶんぶんと揺れている。

 それを後ろで見ていたムエイとカムイ。


「なぁ……あの尻尾見てると掴みたくならねーか?」


 そう訊いてくるカムイにムエイは頷く。


「お前もか……実は俺もなんだ……」


 そのように言い合う二人は、揺れる尻尾を何処か物欲しげに眺めているのだった。




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