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異界の旅人  作者: ろーりんぐ
《第二章》
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1.悪夢


 ―――……ウ……キ……―――



 ――……リュ……ウ……キ……――



 自分を呼ぶ、温かく懐かしい声。


 ぼんやりと目を開くと、リュウキの目の前に、白髪の美しくも儚げな女性が立っている。


 その瞳の色は、血のように紅かった。


 リュウキが女性の姿をその視界におさめると、その女性はふわりと嬉しそうに笑った。


 温かく穏やかで、思わず縋ってしまいそうになる程慈悲深く……。


 実際、その女性に手を伸ばしていた。


 だが次の瞬間、女性の額からは、つうっと紅い筋が流れた。


 それを認めると、それからは堰を切ったかの如く次から次へと女性の白い(かんばせ)を赤く汚してゆく。


 そしてその赤い奔流は、そのまま女性の足元に赤い泉を作っていく様だった。


 視界を赤が占領する。


 そして、すっかり赤に染まった女性は、まるでこちらに助けを求めるように手を伸ばしてきたのだ。


 リュウキもまた必死に手を伸ばすが、今正に触れようとした瞬間、バシャリと地に落ちた。


 そこには女性の姿はなく、血だまりしかなかった。



 ふと気配を感じる。



 後ろを振り返ると、そこには男が立っていた。


 仮面で顔半分を隠した男。


 男は嬉しそうに、その仮面から覗く口元を、引きつらせるように笑みの形に歪めた。


 男はその腕に、黒髪の少女を抱いている。


 少女の目は虚ろで、何ものも映してはいなかった。


 そして男は手をこちらに突き出してくる。


 その手に握られていた物は―――。





「―――っ!!」



 声にならない声を上げて、リュウキは目を覚ました。


 目の前には見知らぬ天井。


 心臓の音がうるさく、額に手をやればじっとりと汗をかいているのが分かった。



「随分と、魘されていたようだな……」



 突然声を掛けられ、慌てて起き上がる。


 浅黒い肌に金色の髪と瞳を持った男が壁に寄りかかってこちらを見ていた。


 男のリュウキでさえ、ハッとするような美しい男だ。


 しかし、奇妙な事にその男には獣の耳と尻尾が生えている。


 まさか、自分はまた異世界へと来てしまったのだろうか?


 いくらどこに飛ぶか分からないとはいえ……それ程、早夜の力が強いという事なのか?



「言っておくが、ここはクラジバールだ。お主がいたアルフォレシアより南の国だな……」


「っ!!?」



(何だって? クラジバールだと!?)


 どうやら早夜の魔法は、とんでもない場所へとリュウキを運んでしまったらしかった。




 ―――クラジバール―――



 砂漠の国と呼ばれており、魔法が発達した国である。


 そして、アルフォレシアとは敵対していた。


 噂では異世界から異界人を呼び寄せ、兵としているらしい。


 異界人を国の宝とし、大切にするアルフォレシアとは違い、異界人を使い捨ての駒の様に扱うという。


 もし自分がアルフォレシアから来て、しかも異界人だと知れたら……恐らく……いや、間違いなく殺されるだろう。


 だがこの男は今『お主がいたアルフォレシア』と言った。


 どうやら既に自分がアルフォレシアの人間だと知れているようだった……。



「少し前に魔力を感知してな……行ってみたら、お主が砂漠の真ん中で倒れておったのだ」



 そう言う金髪の獣人を、リュウキは険しい顔で見ている。最悪な場合、戦闘になるかもしれない。


 リュウキは油断無く、目の前の男を警戒色の強い眼差しで見つめる。


 彼はそんなリュウキの様子に、少し耳を倒し尻尾も項垂れた様にする。



「我はお主の敵ではない。今はこの国に囚われているだけなのだ……。本当なら、お主をアルフォレシアへ送ってやりたかった……。だが、途中で邪魔が入ってしまったのだ……スマン」



 そのように謝ってくるものだから毒気が抜かれてしまった。見た目、自分と同じ位か少し年上に見える。


 しかし、今の彼はまるで悪い事をして怒られている時のような、幼い表情をしていた。




「邪魔だなんて酷いな。僕は逆に君を救ったんだよ? 褒めて欲しい位だよ」



 いきなり現れる気配。警戒する暇もない。


 そして声の主を見れば、これもまた奇妙な出で立ちをした男だった。


 顔の右側と右腕には不思議な模様の刺青を入れ、その目は細く笑みの形をしている為に色は確認できない。


 耳は尖っており、髪はグレーで後ろに一本の三つ編にして垂らしている。その長さは腰まであった。解けばもっと長いかもしれない。


 そして、最も気になって変わっている部分。それはその男の額。


 そこにはもう一つ目があったのだ。第三の目である。


 その瞳の色はどこか不思議で、まるで何もかも見通しているかのようだった。


 彼もまた整った顔をしているのだが、ニィ……と笑うその笑顔は、どこか爬虫類を思わせた。


 雰囲気も飄々としており、何処かふざけたような、おどけているような口調ながら、何を考えているのか窺い知れない為に侮り難い。


 そんな印象を受ける男だった。


 そんな二人の存在に意識を奪われるリュウキは、いつしか先ほど見た悪夢の事は記憶の奥底に埋もれていったのだった。




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