おまけ(楓と百合香は見ていた)
今回のおまけは、一章の終わりのその後の話です。
まばゆい光が、早夜達3人を包んでゆく。そして、光が最高潮に達し、ふと消える。
早夜達三人の姿は、忽然と消えていた。
そして、その光景を見ていたものが2人、楓と百合香である。
「……なんか今、凄い物を見なかったか?」
茫然と呟く楓。
「ええ……何かよくアニメや漫画に出てくる魔方陣によく似てたわ……」
今日は何故か、女教師風の百合香が言った。彼女もまた茫然としている。
すると、それを聞いた楓がでれっと頬を緩める。
「そっかー……早夜チャンは魔女っ子だったのかー……」
そんな楓を冷たい目で見つめる百合香。
そして頬に手を当て、ほぉーと息を吐き出し外を見る。
「……それにしてもこの状況、パパやママにどう説明しようかしら……」
「うーん……正直に言って理解されるかどうか……」
「じゃあ、こんなのはどう? いつまでも告白しようとしない亮太に、痺れを切らした蒼が、早夜ちゃんと手に手を取り合い愛の逃避行……亮太はそれを追って愛を探す旅へと――……」
「ぶっ! 何それ、うそくさっ! でもおもしろっ!」
「じゃあ、それでいきましょう……」
誰もつっこむ者がいないため、二人の暴走は止まらなかった。
「……それ、本気で言ってるのかな……」
蓮実が静かに言った。
その顔は笑ってはいたが、彼からは冷たい冷気が流れ込んでくるようだった。
そんな蓮実の様子に目を泳がせる楓。
百合香は、はぁーと溜息を吐くと申し訳なさそうに言った。
「私はそんな馬鹿げた話、止めなさいと言ったんですけど……」
「っ!! 百合香! てめっ、裏切ったな! お前が先にっ、ウガッ!!」
ガシィッ!! と、片手で楓の頭を掴む蓮実。そのままギリギリと指に力を込めてゆく。
「女の子のせいにするなんて、最低だね、楓? 僕はそんな風に育てた覚えはないよ」
「そうだよ、楓。たとえ事実はどうだったとしても、そこは自分が言い出しましたって言わなきゃ……それで? 早夜さんや蒼たちはどうなったって?
今度は本当の事を話しなさい……」
茜も怒っているのか静かに言った。
黙って聞いていた、マリアや翔太郎もこくこくと頷く。
「楓? 早夜さんのお母さんにも、納得いくように説明するんだよ」
そう言って蓮実は、ようやく楓から手を離した。
そう、早夜の母、アヤもこの場にいた。
そしておろおろと落ち着き無く、不安そうにしている。
突然の報せに化粧もろくにせず、慌ててやってきたアヤ。
「……ううーん、正直に話すけど……例え信じられないような話でも、信じてくれよな。今度のは、本当に本当の話だから……」
と、そういう前置きをして、真剣な顔で話し出す楓。
その話を聞いて、皆、信じられないとゆう顔をしていたが、ただ、アヤだけはその話を真剣に聞いていた。そして、顔を真っ青にして震える。
そして、「そんなまさか……」とか「ありえない……」等とブツブツと呟き始める。
「あ、あの、お母さん?」
さすがに異常に思ったのか、蓮実が声を掛ける。
すると、アヤは突然ガタンと立ち上がり言った。
「私、探してきます!!」
そう言って、出て行こうとするアヤに蓮実が言う。
「あ、僕達も探しますよ」
しかし、アヤは首を振った。、
「恐らく、あなた方には無理でしょう……」
そう言って、出て行ってしまった。
シーーンと静まる部屋の中。
「と、とにかく本当の事だからっ!」
楓は、居心地の悪いこの空気を吹っ切るように怒鳴った。そして、百合香もそれにかぶせるように言った。
「ええ、彼の言っている事は本当よ。私もこの目で見たわ」
皆が戸惑う中、翔太郎が口を開いた。
「……分かった、信じる……」
蓮実と茜が驚いて彼を見る。そしてマリアは、翔太郎を見て頷いた。
「うん、私も2人を信じるよ。ユリちゃんや楓君の目は、真実を言ってる目だよ」
「……翔さん……マリアさん……」
「……パパ……ママ……」
楓と百合香の声が重なる。2人とも感動していた。
「……? 皆何してるの?」
その時、漸く起きてきた海里が、皆のその様子にぽかんとしていた。
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一方、あのまま家を飛び出したアヤは、自分の家へと向かっていた。
「……早夜……」
悲痛な顔でケータイを握り締める。
家に着き、扉を乱暴に開け中に入った。そしてケータイを見つめる。しかし画面ではなく、そのケータイに付いたストラップの方。
よく見るとそれは、早夜も身に付けていたあのお守りだった。その小さな袋の口をけると、中にあるものをつまみ出し、その手に握りこむ。
そして、念じた。
(早夜っ!!)
しかし、何の反応も見せない。それに愕然とする。
「そんなっ! じゃあ、まさか本当にこの世界にいない……」
口に手を当てて、震え始めるアヤ。
そして何か思い出したように、お守りの中にあるもうひとつの何かを取り出した。
それは、小さく折りたたまれた紙だった。
アヤはそれを丁寧に広げ、何かのお札のようなそれを見つめる。
「……これは、一度しか使えない……でも、確かめてみるべきだろうか……」
そう言って考え込むと、目を開け頷いた。
「考えていても埒が明かない……あの方に会えば何か分かるかも……」
何かを決意し、親指に歯を当て、傷つけるとその血を札に押し付けた。
すると、お札は血を吸い輝きだす。
そして、深く深呼吸をすると、アヤはそれをビリッと音を立てて破いたのである。