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異界の旅人  作者: ろーりんぐ
《第一章》
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3.行きます!異世界

 蒼のベッドに入り、早夜は天井を見上げていた。


 実はあのファッションショーの後に一騒動あったのだ。

 なんと早夜の母のアヤが乱入して、突如早夜の撮影会が始まったのである。

 何故アヤが出てきたのかという事の真相は、着替えの終わった早夜を蒼が隠し撮りして、こっそりアヤに送った為であった。

(それにしても、いつの間に二人はメルアドを交換してたのかな?)

 その事実を早夜は全く知らなかった。


「早夜? どったの? 眠れない?」


 蒼が起きている気配を感じ取ったのか声を掛けてきた。


「……うん、何か目が冴えちゃって……」

「やっぱり夢が気になる?」


 その言葉にドキリとする。図星だったからだ。


「……うん、リュウキさん無事かなって……こんな事思うのって変だよね、ただの夢なのに……」


 蒼はむくりと起き上がると、早夜に言った。


「……私は、ただの夢じゃないような気がするんだけどな……」


 そう言う蒼の顔はどこまでも真剣だった。早夜は彼女に目を向ける。


「もしかして、本当にあるのかもよ? その夢の世界。そして何かしらの原因で早夜とリュウキさんの意識が繋がったのかも」

「でも私、夢の中で魔法使ったんだよ?」


 有り得ないという風に首を振る。

 信じてみたいという気持ちもあるが、まるで御伽話の様な事。それを手放しで信じるほど、早夜はもう子供ではないのだ。


「試してみたら?」

「え?」

「だから、現実のこっちの世界でも、魔法を試してみるのよ! もしかしたら使えるかも!」


 そんな突拍子も無い言葉に、早夜は目を瞬かせた。

 蒼の瞳は、暗闇の中でも判る位に輝いている。まるで御伽話を強請る子供のように。

 けれど、ただ夢見がちに言っているわけではなく、ちゃんと現実を見据えている事はその理性的な眼差しを見れば分かった。


「そうと決まれば、早く寝ましょ? 明日、朝一で起きて、その事確かめましょう!」


 そのまま横になる蒼に、早夜は声を掛ける。


「蒼ちゃん……」

「大丈夫。何も起きなくても、私は馬鹿にも笑い飛ばしたりもしないよ……寧ろ笑われるのは私の方じゃない? 他人の夢の話を本気にしてるんだから」


 早夜は起き出して首を振る。


「蒼ちゃん、そんな事無いよ……」

「早夜ってさ、初めて会った時から感じてたんだけど……何か、他の人と雰囲気が違うなって……。それに今時珍しく髪も弄ってない、化粧気もない、アクセサリーも香水も一切つけてない。そりゃあもう天然記念物ものだって……。

 でもね、それなのにすごくキレイなの。逆にそういう人たちがみっとも無い位、早夜はキレイなの……」


 そんな事を真面目な顔で言われて、早夜は凄く照れてしまう。


「そ、そんなの、これは、私……子供の頃お寺に住んでて。そこのおじぃ……ご住職に、そういうのは駄目だって教えられて。それに、お母さんも何故かすごく怒るの……」

「早夜はそのままが良いよ。ううん、そのままでいて……お願い」


 懇願するように言われ、最初は少し困惑した風の早夜だったが、やがてふっと笑った。


「うん、分かった。ありがとね、蒼ちゃん。私、明日試してみる……あのね、蒼ちゃん……。私は、他人の夢の為にそこまで真剣に考えてくれる蒼ちゃんは、すごく素敵だと思うよ……」


 そして早夜は横になり目を瞑った。


「おやすみ……蒼ちゃん。明日、がんばるね……」


 目を瞑りながら、殆ど消え入りそうな声で早夜は呟く。


「……蒼、ちゃんは……私の……救世主、だ、よ……」


 そのまま寝息を立て始めた。


「早夜?」


 顔を覗き込む蒼。早夜が完全に寝てしまった事を確認する。

 色々辛い事があったのだろう、時折見せる憂い顔がそれを思わせる。常日頃、人に囲まれて生活する蒼には全く想像できないが、一人でいる事はどんなに寂しい事だろうか。

 そして決心する。


「早夜、私は何があっても、早夜の傍にいるからね……」


 その誓いと共に蒼も眠りに付くのだった。






 翌朝、昨夜言っていた通り朝一に起き出すと、制服に着替え庭に出た。


「んー、気持ちのいい朝だねー!」

「うん、そうだね!」


 にこやかに言う早夜。昨夜もやはり夢を見なかったが、何か吹っ切れたような晴れやかな顔。

 

「おはようございます! 桜花さん、早いですね」


 既に起き出して、竹刀を持って朝の日課である素振りをする亮太が元気に挨拶する。

 一男子高校生として実に爽やかである。


「あ、亮太君おはよう! いつもこれくらい早いの?」

「そーなのよ、こいつってば、夜明けと共に起き出すのよ! おじーちゃんかっての!」


 早夜の質問に蒼が答える。すると、質問に対する答えを取られた事も相まって、亮太は青筋を立てて怒鳴った。


「んな訳ないだろ!! 俺だってついさっきだ!」


 一通り怒鳴ると、怪訝な顔をして早夜と蒼を見る。


「それよりも珍しいのはお前だ、蒼。いつもはこんな早くないだろ? 桜花さんまで連れ出して、何する気だ?」

「あー、何か私が早夜に悪い事するみたいじゃない。人聞きの悪い事言わないでくれる?」


 何を企んでいると言わんばかりの亮太に、侵害だと蒼。睨み合う二人に、早夜は「まーまー」と宥める仕草。


「さあ、早夜? こんな奴ほっといて、さっそく試しましょ?」


 つんとして蒼は早夜の手を引くと庭の真ん中に立たせる。


「夢の中の事を思い出して、魔法を使ってみるのよ!」


 肩に手を置き力強く言う蒼に、早夜は頷くと真剣な顔で目を瞑り集中しだした。

 だがやはり、夢の中とは何か勝手が違う。あの感覚を引き出す事が出来ない。

 そもそも夢の話だ。そのことがどうしても頭を離れない。


「……だめ、どうしても集中できないよ……」


 目を開け息を吐く。その表情は諦めの色が濃い。


「一体何の話ですか?」


 ずっと様子を見ていた亮太は、自分の練習を止め早夜の元へと近づく。


「これから早夜が、魔法を使おうとしてんだから邪魔しないでくれる?」

「はぁ!?」


 変な顔をする亮太だったが、早夜の顔を見て本気の話なのだと気付いた。

 そして記憶に新しい彼女の夢の話を思い出す。

(なるほど、昨日落ち込んでたからな……それを吹っ切る為か?)

 そう自分なりに解釈し、納得すると、頷いて早夜を真正面から見た。


「それで、魔法ってまず何をしようとしてるんです?」


 いきなり真面目な顔で聞いてきた亮太に、驚いた様子の早夜。

 何でこの人たちはこんなにも自分の事を信じてくれるのか……ある種、感動を覚える。


「……えっと、それが魔法を使おうと、魔力を引き出そうとしてみるんだけど……集中が出来なくて……」


 引かれないだろうかと、おそるおそる相手を窺いながら言葉にする。だが、早夜の危惧したような事は何も起きず、亮太はその言葉に頷くと、普通の態度でアドバイスを始めた。


「集中ですか……そうですね、まず深呼吸してみたらどうですか? そんな風に体を強張らせたままじゃ、集中できるものも出来ないと思いますよ」


 蒼はそんな一連の亮太の発言に驚いていたが、やがて苦笑すると彼の肩にポンと手を置いた。


「何よ、たまには役立つ事言うじゃない」


 ついでにボソッと耳打ちする。


『早夜にいい所見せるチャンスよ、頑張んなさい』


 見る間に顔を赤くする様に呆れながら、蒼は彼等から少し離れた所に移動して見守ることにした。


 早夜は亮太に言われた通り、まず深呼吸してみる事にした。


「そう、そうして肩の力を抜いたら、次は何かをイメージした方が良いかもしれませんね。例えば水だったり、風だったり、空だったり、とにかく心を静かに出来るものがいいと思います」


 そんな彼の言葉に早夜は考える。

(イメージ……何が良いだろう……)

 そしてふと思い浮かぶ映像があった。


 それは、子供の頃過ごしたお寺のお堂。


 小さい頃は、そこに一人でいるのは怖かったが、おじぃちゃん先生……その寺の御住職は、よく膝の上に小さい早夜を乗せ、お堂から外を眺めながら色々な話をしてくれた。

 その殆どは難しすぎて幼い早夜には理解できなかったが、その低く静かな声は心地よく、そこから見る景色……特に春の桜の季節が大好きだった。


「桜花さん? どうしましたか?」


 急にボーとしだした早夜に、不思議そうな顔をする亮太。怪訝に思って声を掛けた。

 

「ううん、何でもないよ。それより、イメージするものを決めたよ」


 そう言ってニコッと笑う早夜を、亮太は一瞬眩しそうに見たが、我に返るとこくりと頷いた。


「そうしたら、どこか一点に集中する為に、何か手に持っていた方がいいと思います。何なら額にシールとか貼ってもいいかも」


 そう言われ、「あ」と手を叩く早夜。


「これでもいいかな」


 胸元からあのお守りを取り出した。


「それは?」

「お母さんから貰ったお守り、これでもいいかな?」

「はい、いいと思いますよ。馴染み深い物の方が上手くいくかもしれません」


 早速集中を始めてみる。

 まずは最初に深呼吸。リラックスできた所でイメージを頭に思い描く。

(薄暗いお堂。御香匂い。そして低い静かな声と桜の花びら……)

 すると、ピンと何か体の中に一本線の入った感覚。そして確かに感じる手の中のお守り。

(あっ……)

 体の奥底に感じる何か……それはあの夢と同じ感覚だった。

 何かが内から湧き上がってくる感じ。それは夢の時よりもはっきりと存在感を持って感じる事が出来る。

 そう、それは確かにあったのだ。


 早夜は目を開けると蒼を見た。


「蒼ちゃん! あった、あったよ!!」


 興奮して叫ぶ早夜に、蒼も顔を輝かせる。


「本当!? すごいじゃない早夜!! ……で、何があったの?」


(おいっ!!)

 思わず心の中でつっこむ亮太。

(分からないで喜んだのかよ……)


「あ、そっか。あのね、私の中にあの夢で感じた魔力があったんだよ!」


 嬉しそうに言う早夜に、今度こそ喜びに顔を輝かせてその手を取り、ぴょんぴょんと跳ねた。


「やったー!! 良かったね早夜! そーと決まればさっそく魔法を使うのよ! 夢の世界があるか確かめましょ?」


 そんな様子の二人をボーと眺めていた亮太は、ついていけないながらも取りあえず良かったですね、と手を叩いておいた。



 それから、先ほどの要領でもう一度集中してみると、さっきよりもスムーズに魔力を感じる事が出来た。

 そして、あの世界を思い浮かべる。

 あの景色。そこにいる人間達。そして何よりリュウキの事を。


 すると手の中で何か温かくなるのを感じる。

 そして、早夜の中でまるで鈴の様な澄んだ音が鳴った気がした。それと同時に何か道が繋がった感じもする。

 早夜が自分の中にある魔力の知識に触れようとした時だった。

 もう一度早夜の中で鈴の音がした。先程聞いた音よりも低い音。

 手の中のお守りが更に熱くなる。


(……くる……)


 何故か漠然とそう思った。

 目を開けた早夜は蒼達に向かって叫んだ。


「二人共ここから離れて!」


 そう早夜が叫ぶのと、足元が輝きだしたのはほぼ同時だった。


「な、何だ!?」

「うわっ! これって魔法陣ってやつじゃない? 早夜がやったの?」


 驚き興奮気味に早夜を見る蒼に、早夜は困ったように首を振った。


「違う……これ、私じゃないよ……何か、誰かが呼んでる……」


 茫然と呟いた時、魔法陣の中から紫っぽい靄が出てきて早夜に纏わり付く。


「ひゃあ!?」


 思わず悲鳴を上げるが、亮太達が駆け寄る前にそれはまた魔法陣の中へと消えていった。


「今のって、探索魔法……?」

「早夜? 探索魔法って……」

「それにこれ……この魔方陣は、召喚魔法だよ……」


 今早夜は、自分の中で知識が湯水の様に湧いてくるのを感じる。魔法に触れる傍からそれが何か事細かに分かるのである。

 その感覚を、少々怖いと感じる早夜だったが、これであの夢の世界に行けるかもしれない、リュウキに会えるかもしれないと思うと、恐怖よりも期待の方が大きくなる。


「だ、大丈夫なんですか? これ」


 恐々と聞いてくる亮太にハッとする。このままでは、彼等も巻き込まれてしまう。


「蒼ちゃん、亮太君、お願いここから離れて。でないと蒼ちゃん達も巻き込まれちゃう!」


 悲痛な声で言うと蒼は眉を顰めて言った。


「早夜、あなたはどうするつもりなの?」


 本当は答えなど聞かずとも分かっている。


「……私、行ってみたい……リュウキさんに会いたい。あの人が無事なのか確かめたいよ!!」


 すると蒼は、早夜の前に立った。


「蒼ちゃん?」

 

 蒼は、早夜の手を取ると言った。


「私は早夜と一緒に行くわ。あなたを一人にしない。あっちに行ったら早夜の事、知ってる人なんていないでしょ?」


 そう真剣にいったかと思えば、二カッと笑い、


「それに、異世界よ? 異世界! めったに行けるもんじゃないわ! こんなチャンス二度と無いかも!!」


 と、楽しげに言った。

 

「じゃ、そーゆー事だから! 亮太、後の事お願い」


 まるで後片付けでも頼むように軽い調子で手を上げて言う蒼に、亮太は怒った表情でずんずんと近づき、その腕を掴んだ。


「亮太?」


 驚いて亮太の顔を見る。


「お前らだけで行かせられる訳無いだろ! それにな、女を守るのは男の仕事だ!! と、親父も言ってた! もし、お前らだけで行かせて見ろ、俺は親父に殺される!!」


 フンッと鼻息を荒くする。

 そんな蒼と亮太を呆然とした顔で見ていた早夜だったが、決意したように頷くと、もう片方の手で亮太の手を握った。


「お、桜花さん!?」


 突然握られた手を見て、当然の如く顔を赤くする。

 青春まっしぐらな純情恋する少年には、それだけで刺激が強いようである。


「蒼ちゃん、亮太君、本当にいいんだね?」


 確かめるように聞いてくる早夜に、二人は頷いて見せた。


「じゃあ二人とも、この手を離さないでね、逸れると空間の中で迷子になるよ」

「まいご?」

「うん、一生、時空間の中を彷徨う事に……」


 真剣な顔で言うと、二人はごくりと唾を飲み込んだ。



 早夜は目を瞑ると、魔方陣に意識を乗せてゆく。少しだけ魔法陣に手を加える。多分言葉は通じないだろうから……。

 それから、自分の魔力で蒼と亮太を保護するように包み込む。念の為、用心の為に。

 そして目を開くと、何故か蒼と亮太は驚いた顔をした。

 その事を不思議に思わないでもなかったが、構わず魔法を行使する。

 魔方陣から次々と現われる魔力の帯。その帯が光を発し、自分達を絡め取るのを見る。


「行くよ」


 早夜がそう言うと、魔法の輝きが頂点になり、瞬き程度の瞬間、その場所には何者も存在しなかった。



 先程、蒼と亮太が見て驚いたもの、それは紅く輝く早夜の瞳であった。





 ++++++++++




 眩しい位の光が消えて、おそるおそる目を開ける蒼。


「……?」


 そこは薄暗く広い空間。壁を見ると、うっすらと輝いて見える不思議な紋様。

 そして、自分達を取り囲むように数人の人間がいた。


「……これは!?」


 その中の銀髪の眼鏡を掛けた男性が呟いた。

 そして、その場にいる人間は皆、一様に驚いた顔をしている。


「早夜! もしかしてこの人達って……」


 予想の是非を問う為に早夜を見る蒼だったが、ただ事じゃない様子を見て目を見張った。彼女は頭を抑え、顔色は血の気が引いて真っ青。苦悶の表情を浮かべている。

 そして口元を覆い咳込んだかと思うと、大量の血を吐き出したのである。


「早夜っ!!」

「桜花さん!!?」


 蒼と亮太、二人の声が重なった。



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