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義父と婚約者
















私の顔はきっと頬紅が無ければ真っ白かさもなくば真っ青に違いなかった。









(な、ななな何故サムエル様がっ…こんな粗末な我が家に!?)









今日の今日で。

騎士隊をまとめる総隊長殿が、国でも指折りの大貴族が我が家でにこやかに食事をとっている。

幸い妹たちの夫からもらったシリーズのワインやチーズ、肉類などと元一流侍女の母の腕前があったから急ごしらえでどうにかまともな食卓ではあるが、小さな我が家は取り繕いようがない。






「いや、急にすまないね。」

「いえ、しかしまさかサムエル様がお越しになるとは…」



私は中々頭をあげることすらできない。

原因ならもうわかっている。



「父上、いくらなんでも耳が早すぎます。」



フローリアはパンをちぎりながら思った。

(行動が早すぎる貴方にだけは言われたくない…)





「いやー、今年は娘が二人もできるだなんて思うと嬉しくてな!早い所ご挨拶せねばと思ってね。」

「ふた、り…?」



無邪気に笑う初老の紳士。

普段なら優しげではあるが今は完全に親ばかの顔をしていた。



「サリーだよ。君なら聞いたことがあるはずだ。」



キュッと胃が縮こまった。

確かつい先ほどサラッと上官殿から彼女との婚約は破棄だと聞いたばかりでまだ耐性ができていない。

というか、破棄したはずの彼女の名前が何故今…とじんわり冷や汗がつたう。





「ダニエルは君一点張りだし、サリーは弟のガブリエル一筋でね。でもガブリエルも策士でね。サリーの気持ちを離さないのが上手いんだ。」

「サリー様と弟さん…?」

「ああ、言ってなかったな。弟のガブリエルとサリーが婚約したんだ。まだ公表は来月なんだけどな。」



サリー様と弟さん…頭の中でいくら反復しても中々うまく入ってこない。

サリー様は上官殿と婚約してたはずでは?

あれ?




「俺はガブリエルが成人するまでのダミーだよ。先月ガブリエルが成人したからな。」

「弟さんがいらっしゃるのすら知りませんでした…」



疲れたように私が言えば上官殿は笑って頭をぽんぽんと撫でた。



「俺がわざわざ男を紹介するわけないだろう?」

「なっ…そんなこと聞いてません!」

「あらま!フローリア貴方愛されてるじゃな〜い!」

「いや、正解かもしれんぞ、ガブリエルは可愛いからな。今度はうちにおいで、紹介するよ。」


サムエル様、上官殿や母の笑い声。

この日はなんともむず痒い夕食をとるはめになった。


















「で、幸せ家族計画を練ったわけだ?」

「そ、そういうわけでは…」

「またまた〜顔が真っ赤だよ〜?カラスちゃん。」




ニヤニヤ顔のロッドさん。

長いようで短い休暇をあと一日残し私は引っ越し作業のため寄宿舎へと戻った。





その途中にロッドさんと遭遇。

お茶に誘われ、寄宿舎近くの喫茶店に向かった。ロッドさんオススメのそこはレトロで店内にはクラシカルなレコードがかかっていてケーキが美味しいらしい。

いざ注文したものが来ると、お茶を一口飲んだ頃には彼はやはり察してしまったらしい。というよりは何か知っていたという方があっているかもしれない。




「恋を頑張れとは言ったけど、婚約してこいとまでは言ってないのにな〜。」

「そんなこと言われましても、私としてもフェイントだったんですよ。てっきり別の人からの縁談かと…というよりなんでそんな残念そうなんですか。」

「えー、まだ二人のこと見たかったんだよー。長年見守ってきた僕としてはもう一波乱くらいあると思ったのに。」




ロッドさんは口元は不満そうに、でも目が完全に笑っている。

この人は本当に策士なんだろうかと疑いたくなる。




「まぁ、サムエル様までいらした時は心臓飛び出るかと思いました。」

「あー、あの人息子たち溺愛だもんね。ダニエルは実子じゃないのを気にしてるのなんて気にも留めない。」

「え、ご存知なんですね。」



ロッドさんは頼んでいたモンブランのてっぺんをフォークで刺した。



「有名な話だよ。戦争孤児のための孤児院をポケットマネーで設立する人だよ?愛する奥さんの子供を捨てるわけがないよね。」

「あの…愛してるなら余計に捨てるのでは…」

「あー、結婚前にサムエル様と結婚できないと勘違いしてヤケになって出来たのがダニエルだからね。愛の結晶と言えなくもないんじゃない?今でもあの夫妻は仲良いしね。」

「そ、そんな…なんだか複雑な事情が…」





そんな理由なら確かにサムエル様が上官殿を大事にするのもまた愛情の深さを示していると言えるのかもしれないけど…。

呆れたような顔でロッドさんはモンブランを口に運んで行く。

所作が美しいのは流石貴族…。

私も目の前のフロマージュに集中することにした。




「あ、やば…」




ケーキを半分ほど食べ進めた頃、ロッドさんがふいに声をもらした。



「ロッドさん?どうかされましたか?」

「後ろ。」




え?と思いながら振り向くとそこには笑顔なのに怒ってる器用な上官殿がいらした。

あれ、上官殿はまだこちらには来ないはずじゃ…一足先に帰宅しますねって一昨日別れたばかりなのに。




「ウェザー。これはなんだ?」

「ただのお茶会だよ。断じてデートじゃない。断じてね。」




ロッドさんはニヤニヤとしながらからかうようにお茶を一口飲んだ。

頼むから煽るのやめて下さい。




「ああ、もちろんそうだ。俺が今来たから三人だもんな?これはデートではない。」

「上官殿、申し訳ありません。ロッドさんと寄宿舎前でばったりでくわしまして…」

「フローリア、私たちの初デートはいつかな?」



上官殿が私の横にさりげなく座り肩に腕を回した。

そんなことをされては顔が真っ赤になってしまうというのにきっと彼はわざとに違いない。

私はぎこちなく答えた。







「み、未定であります…」









もちろんこのあと私とロッドさんは上官殿にこってり絞られた。

まったく理不尽である。

でもそれが嬉しい私もきっとどこかおかしいのかもしれない。































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