アイノカタチ
愛が欲しいと嘆く、一人の少年がいた。
彼は幼いうちに両親をなくし、親族もいなかったので、児童養護施設に送られた。
もちろん、そこで乱雑な扱いなどをされたわけではなかったが、「愛」とかんじとれるものは何ひとつとしてなかったように思えた。
少年がある日、施設の庭をひとりで散歩していると、大きな木の下にあるベンチで、腰をかけている少女を見つけた。少女は、施設にいる人間にとても人気があり、いつも人の中心におり、笑顔を絶やさない可愛らしい少女であった。少年はベンチに座る少女の姿に見とれてしまい、おもわず声をかけてしまった。
「きみは、どうしてそんなところでひとりでいるの?」
「あら、あなたもじゃない?」
ごもっともだ。しかし、ちがうのだ。少女は居場所があるはずだ。今から施設の友達のところにいけば、すぐにでも仲間に入れてもらえるはずなのだ。自分はちがう。いつも施設内で孤立していた。友人といえる者はひとりとしておらず、だいたいはこうして外を散歩するか、読書をしている。
そのことを少女に伝えると興味がなさそうに顔をすまし、髪を耳にかけながら言った。
「あなた 『あい』ってしってる?あなたの『あい』のかたちは、なに?」
「ぼくの 『あい』のかたち?」
すぐに思い浮かんだ。これで間違いはないだろう。そして自慢げに口を開いていった。
「もちろん おかねにきまってるだろっ」
得意げに鼻をならしたが、少女は少しかなしそうな顔をした。
「あなたはほんとうの『あい』をしらないわ」
「え?」
「あたしがいまからあなたに『あい』をあげるわ ほんとうの『あい』をおしえてあげる」
ドキリとした。ちょっと、いや、かなりうれしかった。こんな可愛い子から愛を注いでもらえるなんて、自分はなんとしあわせ者なのだろか、そんなことを考えていると、次の瞬間、腹部に衝撃がはしった。
少女はすぐ目の前におり、顔はとても近い。なんと美しいのか、人形のようだ。
彼女の手にはナイフが握られており、赤く染まっていた。
なにが彼女のナイフをよごしたのか、ナイフの先には自分の腹があった。血により真っ白だった自分の服は徐々に赤に侵食されていった。
「いっいたいいいいいいいいいいいいい」
その場に座り込んだ。少女は少年を見下ろすと口元を不気味にゆがめ
「くるしかったでしょ?かなしかったでしょ?いたかったでしょ?あなたはこのいっしゅんのいたみだけで、これからもずっとかかえていかなきゃならない『くつう』からぬけだすことができるのよ?これが、『あい』。わたしの『あいのかたち』よ!おかね?くだらない!しあわせ?くだらない!!あなたがいまいちばんしつようなものは おかね でも しあわせ でもないわ。『し』それだけよ。そしてあなたはこのりふじんなせかいからときはなたれるのぉぉぉぉぉ・・・・わたs・・は・・m・・ここかr・・で・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼女のことばは最後までききとることができなかった。朦朧とする意識の中、彼女の声をきいていられるほどの体力はのこっていなかったのだ。
これが、彼女の
「あいのかたち・・・」
口からこぼれたその言葉は彼女にもとどいていなかっただろう。
自分でもききとれないほどだったから。
もしかしたr・・・ちがう・・こ・・・と・・・ば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・