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通路

「勇人は、大丈夫なのか?」

「問題ない。小僧なら今もその辺りを浮いておる」

 その辺り、そう言って俺の肉体が幽体となった俺を指した。ライナはその指を追い、そして眉間に皺を寄せる。見えないのだ。

「それに、頃合いじゃの。えらく小僧に有利な機能じゃ、これは我が不服を申し立てたとしても仕方がないとは思うのじゃがの」

 そして、俺たちはまた入れ替わった。肌は以前よりも黒の割合が多く、恐らく目も灼眼の魔王に近くなっているだろう。もっとも灼眼を使うことは出来ないだろうけれども。


 火が爆ぜる音がしたかと思うと、灼眼による炎に包まれていた全てが完全に消滅した。再形成は生じず、後には俺たちと、そして潰れこそしてないものの落涙によってその原型を失った通路が残る。

「行くの」

 童女が先んじて通路の奥へと足を運ぶ。常と変らずその足取りは酷く無警戒だ。

「待て、あいつらが復活して挟み撃ちにされたらさすがにまずいんじゃないか?」

 ライナの指摘はもっともだった。しかし、童女がこともなく言う。半眼はまるで相手をあざ笑っているようだったし、実際鼻まで鳴らしていたのだからライナを見下していることがわかる。

「あの灼眼であいつらが何度死んだと思っているなの。そして幽世に居る灼眼が何も言ってこないのは何故? 少し考えればすぐにわかることなの」


 落涙の言葉を受け、多命の賢者が続く。

「あいつらがいくつストックしてたのかまでは知らないけど、いくつあっても足りないだろうねえ。僕ならともかくあいつら再形成位しか出来ないし」

「わかるように話してくれないか? 勿体ぶるのはあまり好きじゃない」

 あまり気に入らない相手だからか、自然と棘のある言い方をしてしまった。だけど、本当に何でだかこいつは気にくわない。


「おーけーおーけー、まま、落ち着きなよ。まず僕とあいつらの違いだ。僕は死んだあと幽世に意思を持って顕現する。つまり復活のタイミングは選べるし、実は復活する場所も選べる。選んだ場所で身体も再形成される。あいつらは死んだあと身体に組み込まれた僕の肉体の自動反応で再形成される。まあつまり無意識だ。あいつらは生き返るタイミングも場所も選べない。そんでもって生き返っても肉体は灼眼に焼かれてるからまた死ぬ。あはは、あいつら百回くらい焼死したんじゃない? 可哀想だねえ」

 そして灼眼によってストックを消費尽くすまで焼かれた。そういうことのようだ。改めて伝説とまで言われた魔王の規格外の能力に驚かされた。しかも魔王は五割の力しか持っていないはずなのだ。


「わかった。つまり挟み撃ちの心配はないんだな?」

 ライナの言葉には俺が首肯した。爆弾をどうにかするため、ライナが童女を追い抜き、通路の奥へと進む。


 通路奥の扉は落涙を受け、拉げていた。それをライナが錬気を加えた膂力で取り払うと、さらに通路が続いていた。わずかに冷気を放っているかのような滑らかな天井、壁。足を取られないようにか、床にだけは細かな凹凸が刻まれている。


「どこまで続いてるんだよ」

 思わずそう言ってしまったが無理もないだろう。戦場になり得る通路が既に三つ続いているのだ。

「わからない。ただ、この先に佐伯の部屋があるのは間違いないんだ。例の煙を吸ったあと、意識を取り戻した俺はそこにいたはずだ。酷く頭がぼーっとしていたし、身体が怠くて動かなかった。視界もおかしくてその場所がどんなところかもわからなかった。だけど、声だけはよく聞こえたんだ」

 その声ってのは? 俺が目で語るとライナは頷く。


「サンジの声だった。内容はよく覚えていないけどな、だけど覚えていることもある。あいつは確実にそこが佐伯の研究室だということを口にしていたし、その後俺はエレベーターに乗せられたことも覚えている。だからこの先に必ず佐伯の研究室ってのがあるはずなんだ」

「小僧。そこの小僧に何故自分が生かされたのか訊いてみよ」

 魔王が、口を挟んだ。意図を探ろうと浮かぶ魔王の様子を窺うが、魔王の表情はいまいち上手く読み取れない。訊いてもいいがわからないと答えるのが当たり前だろう。


「ライナ、灼眼の魔王に何故お前が生かされたと思うか訊けって言われてるんだけど」

「知るかよそんなの」

 まあ、当然予想できた答えだったし、ライナもそう答える以外何もないだろう。

「佐伯に何かされておるの」

「どういうことだよ?」

「言葉通りじゃ。そこの小僧を生かしておく利点がそれ以外にないじゃろう。何故佐伯が小僧を助ける? 肉体のスペアは騎士団長とやらがある、本命の賢王の肉体がある。手駒はサンジ以下勇者がおる。わかるの? 小僧はな、不要なのじゃよ」

 ついライナの頭の天辺からつま先まで視線を巡らせてしまう。そして、今度は改めてその顔を見た。


「どうした?」

 魔王の言葉が耳に届かないライナは、怪訝な顔つきを俺に向けている。ここに妙なところはない。むしろどれだけ観察してもおかしなところなどなかった。どこからどう見てもライナだ。

「なあライナ、どこか調子の悪いところはないか?」

「なんだ急に、ないぞ」

「ないだろうねー、僕の身体が少し混じってるし。何回か死んでも大丈夫なんじゃない? というかもう何回か死んでるんじゃないかなー」

 多命の賢者の言葉に、ライナが不満そうに顔を顰めた。


「俺がさっきの奴らと同じだって言いたいのか?」

「うん。ほぼ間違いなくね。君は僕こと多命の賢者の身体の一部を埋め込まれている。メリルの原住民を材料とした命のストックも組み込まれてるだろうなあ。ああ、勘違いしなくてもいいよ。君の意思でそうしたんじゃないんだろう? 君は被害者だ。身体を改造されただけの改造人間だ。しかも完全生体パーツ、人間百パーセント! 思い悩む必要何てないねえ」

 多命の賢者の言葉は、ライナの心に波を立てたようだ。ライナは拳を握り込み、そして深く息を吐いた。


「メリルの原住民に命を返すことは出来るか?」

「出来る訳ないじゃん? そんな命を切ったり貼ったり出来ると思う?」

「だよな」

 静かに、そして長くライナは息を吐いた。そして頭を振る。

「もしもそうなら、佐伯をぶっ殺すためにこの命使わせて貰うさ」

「おお、君勇者っぽいじゃないか」

 多命の賢者の乾いた言葉だ。

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