表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/25

悩み

久しぶりの投稿です。小説賞への応募が済んだので本日より以前のような更新頻度が期待できる……といいなあです(笑)

 冷えた血では、俺を上手く機能させることが出来ないらしい。ばかみたいにベッドを見下ろしたまま固まってしまう。そんな俺に熱を加えたのは魔王だった。

「落涙が入ってこんの」

 そうだ。何かあったのだろうか。俺はそんな心配と共に窓へと足を進めた。


 窓の外には相変わらず静寂が広がっていた。

 月明かりが生んだ影は真っ黒だ。

 夜行性の動物の息吹も感じられない。


「にゃ~ん、なの」


 どこからか、愛玩動物めいた鳴き声がした。

 それ自体は見事なものまねではあったけれども、残念ながら特徴的な語尾が台無しにしている。


「何してるんだ?」

 どこから声がしたのかわからない手前、俺もどこへともなく語り掛けるしかなかった。

 何かを考えているような時間が少しだけ流れ、童女が姿を現す。

「中の様子がわからなかったの」

 相変わらず無表情で半眼なのだが、不思議とどうしてばれたのかという顔をしている気がする。

 あまり深く追求すると歓迎したくない光景が見えそうだ。


「我も内からは落涙を感知できなんだ。何らかの結界やもしれんの」

「なの。それで、中では何があったなの」

 あらかた伝え終えると、童女が魔王と目を合わせた。


「科学者、確かにそう言ったの?」

 肯いて見せると、童女は顎に手をやり記憶を探るように一点を見つめ告げる。

「科学者。奇声を上げながら世界を解明し、己が理想のために世界を改変する存在なの」

「貴様が親しくしていた異界人の知恵かの?」

 童女は、軽く首を縦に振って見せた。

「マリアなの。マリアが知ってる科学者は『ひら……めいたぁぁぁぁ』とか言いながら研究室とかいう特殊空間でやたらと物音立てながら妙な物を作り出す変態らしいの」

「落涙、その異界人の話は話半分に聞けと言うとるじゃろうが」

 魔王は、胡乱気な目をしていた。


「お前はどうしてそのマリアさんの話を信じてないんだ?」

「彼奴の話を信じるならば異界人はとうに滅びておるからじゃ。やれスイッチ一つ押せば子供でも国を滅ぼせるじゃの、人の身体を機械などという物と合わせ不滅の肉体にするだ――いや、待て。まさか、の」

 それきり魔王は口を閉じた。出来れば気になったことを教えて欲しいが、今は邪魔しない方がよさそうだ。


「具体的にその妙な物ってのは何だったんだ?」

「火を使わない灯りだったり動く大きな人形だったり弓より遠くの敵をより強く攻撃出来る武器だったりとにかく存在する意味がわからない物なの」

 確かだ。別に火を使った灯りを使えばいいし、遠くの敵を攻撃したければ錬気を使えばいい。大きな人形に至っては存在価値がわからない。


「その変態は何が目的なの?」

「俺に聞かれてもわからないって」

 俺が魔王に乗っ取られるように賢王さまはその科学者に肉体を奪われたのだろうか。

 しかし当事者ではない俺には幽霊みたいになった賢王さまの姿は見えない。


「なあ、賢王さまは――」

「――死んでおるよ。我が幽世に居るのは以前話したと思うのじゃが、我がこの形態でおる以上幽世に存在する物は知覚出来る。じゃが、付近に王の姿はなかった。既に消滅しておるのじゃろう」

 相談のつもりだった。だけど、魔王の言葉は解答そのものだ。


「じゃあひょっとしたら勇者制度を崩壊させたのもあいつじゃ」

「それはないじゃろう。先ほどの光景から察するにエレンシア王が肉体を奪われたのは今宵じゃ。目的は国庫じゃと言っておったし何らかの理由で金が必要なのじゃろう」

 なんのために金が必要なのか。そう疑問を覚えたところで俺は一つ気付いた。


「なあ、例の科学者ってのは随分前から居たんじゃないのか? そんで妙な物を作り続けた。それで財政が悪化して金食い虫の勇者制度を止めた。ついでに科学者も予算を減らされて賢王さまは殺された」

「ほう、小僧にしては中々な推理じゃ。じゃが、今それの解明に意味はないの」

 確かに解明したところで魔王たちには関係ないだろう。こいつらにとっては勇者制度の崩壊も、賢王さまの死も何ら意味を見いだせない。そして俺自身にとっても今はさほど意味がなかった。少しだけ、人類に見放された現実から目を背けたかったのかもしれない。


「それはそうとこの先どうするなの?」

 どう、とはなんだろう。そう疑問符を浮かべていると童女が半眼の目をさらに細めた。

「城を消し飛ばせば科学者とか何もかも終わりなの。灼眼の右眼持ちは死なないしで私もあなたもハッピーなの」

「だから迷惑を被る奴が――」

「――人の世に見放された奴が何を慮っているなの」

 耳に痛い言葉だった。


「お前は人からは魔、魔からは半魔と受け入れられない存在なの。そんな存在が人の世を慮る。滑稽なの」

「別に俺が人間だと思っていれば俺は人間だ。だから人の世の迷惑を考えて何がおかしい」

「あらあら、本当に人の世を考えているのならばお前は今すぐ死ぬべきなの。かつて人の世を混乱に陥れた灼眼の魔王を身に宿したお前は人類の天敵である灼眼の魔王を滅すべく死ぬべきなの。何故お前はまだ生きているの?」

 返す言葉はなかった。俺は春奈に助けられるままに今の今まで生きてきた。かつて人類を窮地に追いやった魔王を身に宿し、人類の代表たちからは明確に剣を向けられたのにも関わらず。もしも人類を第一に思っているのならばなるほど童女の言葉通り俺は死ぬべきだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ