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devils forest  作者: 紺野 柚季
深禍の森の日常編
3/3

02_起床時刻、大体6:50。 ストックの場合

「ん……」


カーテンの隙間から差し込んでくる光に、自然と目が覚める。

二、三度ゆっくりと(まばた)きをして、しばらく天井をぼんやりと眺めた後、俺はようやくベッドから起き上がった。


昨日の内に用意しておいた服に着替え、部屋を出る。

階段を下りていると、一階から何やら忙しない生活音が聞こえてくる。

良い匂いがするから、母さんが朝食を作っているのだろう。

今日の朝食を楽しみにしながら、俺は洗面所へ向かった。


こう言っては何だが、俺の母さんはおかしい。

こうして木の床から靴下越しに、足裏に伝わる冷たさを感じていると、色々な意味でそう思う。


そろそろ春とはいえ、まだまだ気温は低いし、風が吹くと寒い。

だというのに、この寒さを“少し”で済ませるところとか。


友人の家に遊びに行って初めて知った事だが、こうして家の中では靴を脱いで生活する事だとか。


この洗面所だってそうだ。

鏡の代わりに板をかけている家なんて、交友関係が狭いからかもしれないが、俺の知る限り一つも無い。

確かに、万が一鏡が壊れたとして、割れたガラスは危ないと思うし、このサイズの鏡を用意するには時間と労力が必要になるが、それでもおかしいだろう。

何だよ、『古くなったら薪に出来るでしょう?』って。

薪になるから何なんだ。

意味が分からない。


それでも一応は身支度を整えるため、鏡に魔力を張る。

付加する属性は、金と水と、光の代替として風。

光の適性が皆無の俺は、自分で鏡を張り出してからしばらく、窓ガラスに映した方がよっぽど良いとしか言えない酷い物しか出来なかった。

それを見かねて、当時8歳だった俺に風を上手く使えば良いと教えてくれたのが、賢者である、エルフのレノスさんだった。

太古の魔女と呼ばれるキャロラインさんからは、昼行灯だの、いつまで経っても色持ちになれないただの賢者だのと好き放題言われているが、あのメンバーの中では一番常識的で良心的だというのは、俺とココの共通認識である。

因みに母さんは、“ね、簡単でしょ?”を地でいく人だ。魔法に関する気遣いは皆無と言って良い。

悪魔だから、分からなくても仕方ないのかもしれないけど。


所々歪んではいるが、以前よりは綺麗に映るようになった鏡面にこんなものかと頷き、上半身裸になる。

冷たい空気に体を震わせながら、蛇口に慎重に魔力を流す。

ちょろちょろと水が出てきた所で、魔力を固定。

これから歯と顔を洗うのには大分時間がかかるだろうが、これも仕方ない。

下手に量を増やして辺り一面を水浸しにするよりはましだ。


鏡は、魔力の量はどうであれ、比率さえ合わせれば張れるからまだ良い。

問題はこの蛇口だ。

ただでさえ寝起きだというのに、日中でも苦労するような微細過ぎる魔力量の加減を出来るはずがない。

レノスさんでさえ、初めは失敗していたのに。


前から何度もどうにかしてほしいと言っているのだが、母さんは一向に気にしていない。

もう諦めて、これに慣れるしかないのだろうか。

すでに5年以上経っているのに。

……一体、あと何年かかることやら。


長い長い時間をかけて歯を磨き顔を洗った後、水を止めて、柔らかいタオルに顔を埋める。

ふかふかとした感触と、本当に微かに香る、爽やかな花の香り。

母さんの匂い。

血は繋がっていないけど、それでも安心する、そんな。


「ストック、朝食が出来たのだけどー」

「今行くー!」


タオルに顔を押し付けたままじっとしていると母さんの声が聞こえてきて、慌ててタオルから顔を離して返す。

洗濯籠にタオルを投げ入れて、服を着直す。

美味しそうな匂いに朝食のメニューを予想しながら、母さんの待っているであろうリビングへと向かった。



冷たい床と、朝の爽やかな空気と、いつも、いつまでも変わらない、悪魔である母さん。

一般的な家庭の普通と我が家での普通の価値観は多分違うんだろうけど、最終的にはそれでもいいかと思ってしまうのは、俺が母さんに育てられたからか、それとも。


この森が何と呼ばれているか、どういう風に見られているか。

そして、真実、この森がどんな場所なのか。

それらを、俺はちゃんと理解しているつもりだし、数少ない友人達との会話から、実際にそれはあっている。


深禍の森。

悪魔の森。

恐ろしい魔獣が跋扈する、黒い霧に覆われた、魔法の森。


全部、間違っていない。

間違ってはいないけれど。


それでも俺にとって、この森は、この家は。

暖かくて、優しくて、安らげる。

ちょっとずれたところのある、悪魔な母さんの作った、とても居心地のいい場所だ。

次からはまたミラさんに戻ります。

色々起きるのはストックだけど、主人公はミラさんなので。


章タイトル通り、延々と日常パートです。

誰得って、そりゃあ私得((


この章では大体の世界観紹介と、一応は登場人物紹介ついでに、殆どのキャラを出揃わせておこうかと思っています。


次の章はテンプレと言っても良い、魔法学園編だったり。

いつになるかは分からないんですけどね。



2014/03/02 投稿

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