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devils forest  作者: 紺野 柚季
深禍の森の日常編
2/3

01_起床時刻、大体6:30。 ミラの場合

一言も喋ってません。

朝。

起きてまず天気を確認することは、私にとってここ十数年程の、朝の日課となっていた。


自室のベットの際の窓から外を覗き、一分の陰りもない青空に、寝起きで緩慢な動きで両開きの窓を押し開く。

ふわりと薄手のカーテンをなびかせて入ってくる風はまだ少し冷たく、けれど格段に早くなった日の出に、春の訪れを感じた。

冬の間静かだったこの森も、そろそろ起き出した動物達で賑やかになるのだろう。

ぼんやりとそう思いつつ、ベッドから起き上がる。

クローゼットの中から、適当に掴んだシンプルなワンピースを取り出し、さっさと夜着を脱いで着替え、ついでに昨日うっかり椅子にかけてしまっていた、腰に巻くタイプのエプロンも身に着ける。

少し汚れているが、洗濯は明日でも良いだろう。

そう結論付けて、部屋を出る。


こんな森の奥だ。しかも曰く付き。

幻惑の魔法もかけているから、滅多にお客は来ない。

だからこそ、私はこの森を選び住み着いたのだけれど――今はつい先日14歳になった養い子のためにも、最低限の身嗜みは整えるようになっている。


子は親の背中を見て育つ。


その昔、知り合いの賢者に教えられた言葉だ。

その意味までは察せなかったので、拾ったばかりの赤子を抱いて太古の魔女を訪ねた際に、人間の育て方ついでに訊いた事によると。

曰わく、

“朝起きて夜寝る規則正しい生活を送る”

“他人を気遣う精神を持つ”

“体や衣服、環境を清潔に保つ”

の、三つが出来たら大体は大丈夫らしい。


服装に関して言えば、大切なのは他を不快にさせない清潔感らしいけれど、家族だったらその基準が多少甘くなるそうだから、このくらいなら問題ない。


一階に下りてまず行くのは洗面所だ。

洗面台の前に立ち、壁に掛けてある木の板の表面に金、水、光の要素を付加した魔力を薄く張る。

即席で作った鏡に、灰白色の髪の女――私の事だ――が歪まずに映ったのを確認して、今度は蛇口に何の要素も付加していない魔力を流す。

水量は流す魔力の量で調節するのだけど、眠い時には難しいと不評だから、今度改造する必要があるかもしれない。

歯を磨き、顔を洗ってタオルで水気を拭き取った後もう一度見た鏡の中には、濃紫に金銀の散った目が先程よりもちゃんと映っていた。


眠気が少し取れた所で、軽く髪を梳かしてから、台所へ向かう。

朝に強い方ではないが、あの子のためなら仕方ない。

なんでも、人間は毎日ちゃんとご飯を食べなければいけないらしい。

栄養バランスにも気を付けた方が良いと賢者が言っていたから、きっとそうなのだろう。

私も近頃は“食べる”という行為を楽しく感じるようになってきていた。

これが良い事かは分からないけれど、きっと悪い事ではないはずだ。

さぁ。

今日も、美味しい食事を作らなければ。


台所に立ち、朝食を作りながら、ふと考える。

私がここに来て、もう何年になるだろうか。

随分と長い間この森に暮らしているが、はっきりと言えるのは14年以上である、という事だけだ。


14年。

私が“ミラ”と明確に名乗り始め、そしてあの子――ストックを拾い育てた時間。


この14年間は、これまでのおそらくは長い時間とは、比べるまでもなく短いはずだったというのに。

とても密度の高い、それこそ比べるまでもない程に充実した、私にとってかけがえのない時間になっていた。


基本的にはミラ視点ですが、次はストック視点です。



2014/01/25 投稿

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