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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

羽月紫苑の短編集。

Distortion, distorted world of Halloween.

作者: 羽月 紫苑

 初めまして、秋山伊織(あきやまいおり)です。 

 

 先月16歳になったばかりの、ぴっちぴちの高校生。


 あ、けっこういい歳じゃないかって思いました?


 私も最近思います。若い頃が懐かしい。


 そんな“いい歳”して――――、今、ハロウィンイベントやってます。


 友達4人と、クラス企画で学区内を回って、おなじみの「トリックオアトリート」。


 小さい頃は、「トリックアートリート」なんて言ってたなぁなんて思いだしますね。


 まぁともかく、高校生にもなって「トリックオアトリート」って言うのは少し恥ずかしいけども、お菓子を貰いつつ町中を練り歩いてたわけです。


 そして、お菓子を貰い終えて、友人……美嘉の家でパーティも終えて、帰路についたのが夜12時。


 ……そんな時でした。


 人口の街灯やら町のネオンやらで夜12時でも明るかった住宅街が、真っ暗闇に包まれたのは。



                  *



 「え、ちょっと……、何の冗談?」


 いきなり真っ暗になったら、そりゃ誰でも戸惑う。

 あたしだって例外じゃなく、きょろきょろと慌てて辺りを見回した。

 ……けれども。


 「美嘉ー? 奈津子ー? 絵美ー? 彩絵(さえ)ー?」


 ……いやいや、さっき美嘉の家で分かれたのは知ってます。

 でもやっぱり、心細くなったら呼んじゃうじゃないですか。

 

 ……まぁ、やはりというか、返事が返ってくるはずもなく。


 真っ暗闇の中歩くのも抵抗があるので、とりあえず座り込む。


 停電? とか、ハロウィンイベント? とか、いろいろな疑問が頭に浮かぶ。


 けれど、これだけは言わせてほしい。


 いきなりな上に真っ暗闇に一人で放置とか、これがイベントだったら主催者ぶっ殺す。


 「さっさと元に戻しなさいよぉーっ!」


 暗闇に向かって叫んでも、返事が返ってくるはずも――――、ん? はずもなく?


 幻聴だろうか。


 あたしの耳に、何か音楽のようなものが聞こえてきた。


 ポップで、けれどどこか不気味な音楽。


 次第にそれは大きくなって……、遠くに、真っ暗闇に浮かぶ小さな白。


 音楽に至っては、もうはっきりと聞こえる。


 この季節、ショッピングモールとか某夢の国の お化け館とかで流れる、ハロウィンソング。


 けれど不気味なことに、所々音割れしている。


 それは、あたしの恐怖心を仰ぐには十分すぎた。


 “腰が抜ける”っていうのを、初めて体験したと思う。


 次第に近づいてくる白い火の玉を凝視したまま――――、あたしは、一歩も動けなかった。


 あたしに近づいてくるそれは――――、なんというべきだろうか、大きな黒い布だった。


 目に当たるであろう部分は破れていて、その下に白いぎざぎざの口。きっと、あの白い火の玉の正体はこの口だろう。


 はっきり言って――――超怖い。


 それが、布の下から細く黒い手を、あたしの方に――――。


 「いっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ごめんなさい神様これから宗教しますから信じますからどうか助けてくださいここで死にたくありませんつか恐怖で死んじゃいますまじで。


 それだけの言葉を、一度も噛むことなく心の中で唱えた。


 そして――――、次の瞬間、思った。


 

 神様って、いるんだ……って。



 だって、まるで小さい頃聞いた御伽話みたいなタイミングで、あたしの腕がひっぱられて、誰かの胸の中に納まったんだから。


 少し涙目でその“誰か”を確認すると、あたしと対して年は変わらないであろう少年の姿。


 御伽話みたいに、金髪隻眼じゃなかったけど。白馬もいなかったけど。

 

 黒髪黒眼、その上黒ずくめな服の彼は、王子様(ヒーロー)に見えてしまった。


 彼は黒い布お化けを睨みつける。


 「マンテイア、また魂狩りか?」


 その声音は、予想外に低いものだった。


 というか、魂狩り? なんですかそれ。どこのオカルト信者ですか。


 あたしの心の中の突っ込みも知らず、黒い布お化け――――“マンテイア”と呼ばれたそれは、身体をゆさゆさと揺らす。笑っているのだろうか。


 「ふっふっふ……、ジャック、此度(こたび)も貴様に邪魔をされたな。今宵こそは、新鮮な血肉を喰えると思うていたが」

 

 しゃがれた声に、時々しゅーしゅーという異音が混じる。

 ぞくりと背筋が寒くなって、ジャックとよばれた彼の服を強く掴んだ。


 それに気付いたのか、彼はあたしの手の上に、自分の手を載せてくれた。


 正体が分からない彼だけれど――――、暖かい。



 「残念、今夜は諦めることだな。たぶん、吸血鬼(ヴァンパイア)狼男(ヴァラヴォルフ)は、若い女を楽しんでるだろうけど」

 

 嘲笑にも似た笑みを浮かべるジャックに、マンテイアは身体を震わせる。

 今度は、怒っているのだろうか。表情が無いのでよく分からない。


 「くぅ……、これで貴様に邪魔されたのは101回目……。此度は奪わせて貰うぞ」


 ぐるるる、と、動物の唸り声のような音を発しつつ、マンテイアは自分の身体――――黒い布の中へ手を入れた。

 ずずず、と手を出すと、細い指には似合わないほどの、大きな黒い、錆びついた鎌。心無しか、血が付いている気がする。


 「はっ、まーた()んのか? お前、俺に101敗0勝だろ」


 余裕の笑みを浮かべたジャックも、黒いコートの内ポケットに手を入れる。

 出てきたのは、一組のトランプだった。


 ……ちょっと待ってよ、それで勝てるの?


 相手の大きな鎌とジャックのトランプを見比べ――――、どう見ても、彼が勝てるとは思えない。


 けれど、彼は“101敗0勝”と言った。


 今はそれを、信じるしかない。


 そして――――、勝負は、あっけなくついた。


 マンテイアの大きく振りかぶった鎌の一撃を、ジャックはあたしと共に跳躍して避ける。……ちなみに、こんなに高く飛んだのは初めてだ。

 そして、人差し指と中指で挟んだカードをマンテイアに向かって飛ばし――――、それは見事、心臓に当たるであろう部分に直撃。

 赤黒いどろどろとした液体を滴らせ、マンテイアは黒い霧のように霧散した。


 「一撃……? あれ、でも、101回て……」


 なんで今の一撃で死んじゃうのに、101回も戦ってるの?

 呆気なく霧散したマンテイアがいた空間を見つめながら、ぽつりと呟く。


 その問いの答えは――――、少々、信じられないものだった。


 「この世界に死はない」

 

 簡潔に述べられたそれは――――、当たり前だけど、信じられるものじゃない。


 「えっ、ちょ、どういうこと?」


 きょとんとジャックを見て尋ねると、彼は面倒くさそうに頭を掻く。


 「この世界の住人に、“死”は無いんだよ。あれは、消滅しただけ。来年のハロウィンの一か月前には復活して、また若い女の魂を狙う」

 

 今度はちゃんと説明してくれてよく分かったけど――――。


 もう一度、突っ込ませてもらおう。


 アナタ達、一体どこのオカルト信者?


 

 「……じろじろ見んなよ。つか、俺は助けてやったんだぞ」


 少し口を尖らせて、そう文句を言うジャック。

 そういえば、と、礼をまだ言っていないことを思いだす。


 「ご、ごめん。……ありがとう、助けてくれて」


 ぺこり、と頭を下げ――――、聞きたいことを聞く。


 「で、ここはどこ? ていうか何? イベントなの? それとも夢? ねぇどういうこと?」


 一気に疑問を畳み掛けられ、ジャックはおろおろとする。

 仕方ない。だって、急にこんな真っ暗なとこに――――、真っ暗?


 「あれ? なんか……、明るくなってる……?」


 きょろきょろと辺りを見回せば、さっきの真っ暗闇とは比べ物にならないほど明るい。

 少し赤みがかった闇、といったところか。

 そして――-、見える景色に、絶句した。


 「何……、ここ……」


 歪な丘に、歪な館。蜘蛛の巣が張っていて、コウモリが飛んでいる。

 月は赤く大きく、星はない。遠くには荒れた墓場も見える。


 はっきり言って、不気味過ぎる。


 「ねえなんなのここは!!」


 助けてくれた恩人に対して申し訳ないけど――――、きっとここについて知っているであろう彼に、掴みかからずにはいられない。

 

 「ちょ、やめ……っ、説明するから!」


 その言葉と、少々彼が咳き込み始めたので、シャツを掴む手を離した。

 息を整え、彼は私に向き直る。


 「そもそも、こんなとこにきたのはお前が原因なんだからな」

 「……あたしっ!?」

 

 ちょっと待ってあたしにオカルト趣味はないぞ。

 確かにトリックオアトリートはしてたけれども。


 顔をしかめるあたしをみて、はーっとため息をつくジャック。


 「ハロウィンの日に、12時を過ぎても外にいただろ。そんなやつはこっちの住人の目に留まって、こっちに引きづり込まれるんだよ」


 常識だぞ? みたいな眼であたしを見るけど――――。


 ちょっと待ってよ、全然それ常識じゃない。何その中二チックな設定。


 でもすなわち、クラスに一人か二人はいる男子の“中二思考”で考えるとすると――――。


 「ここは、あたしのいた世界じゃないって意味?」


 あたしの質問に――――、いとも簡単に頷くジャック。

 

 待ってよそれ大問題。あたしの世界は? 家は? 学校は?


 「それで、帰れる方法は?」


 その質問に、気まずそうに視線を伏せる。

 あ、なんか、嫌な予感。


 「ない」


 あらら、やっぱりー……って、それどころじゃないわよ!


 再び、あたしはジャックに掴みかかる。


 「ねえそれどういうこと!? 帰れないの!?」

 「うあー……、えっと……、すまん、俺のせいだ」


 ……ねえねえそれホントにどういうこと!?

 ジャックの首を絞めるかというくらい、シャツの襟元を掴む。


 きっと苦しいであろうその状況で、彼はちゃんと説明してくれた。


 「この世界の住人と関わったら―――、つか、会話したら……、その時点で、元の世界には帰れなくなんだよ。……関わりが無ければ、10月31日が終わった時点で元の世界に返されるんだけど……。まぁ、正確には10月31日の夜―――、11月1日の午前4時だな」

 「……へっ?」


 慌てて自分の口を押える――――けれど、もう手遅れだ。

 初対面にしては話し過ぎるほど、もう彼とは話してしまった。


 「ちょっと……、どうすんのよこれ……、こんなオカルト世界から帰れないって……冗談でしょ……」


 がっくりと項垂れるあたしを見て、ジャックは苦笑した。

 ちょっと。もとはといえばあんたの責任でもあるんだからね。

 初っ端彼を見て、王子様(ヒーロー)だと思った自分を呪いたい。


 「ま、まぁさ、今日はもう帰れないだけで、もしかしたら帰る方法とかあるかもしんないし。が、頑張ろうぜ……?」


 顔を引き攣らせて言う彼を、ぎろりと睨む。


 

 「……手伝いなさいよね、元の世界に帰る方法探し」


 

 かくして、あたしのオカルト世界生活は始まったのだった。








表示では11月1日だけど、まだぎりぎりハロウィンだよね!!

ということで、12時過ぎて書き始めたハロウィン短編。←


ジャックは“ジャック・オウ・ランタン”のつもりです。…かぼちゃ頭じゃないけど。

そして、作中に出てきた黒い布お化け“マンテイア”は、どこかの国の言葉で、黒魔術的な感じで、“死者”という意味です。



…そして、いつもの私の悪い癖。

短篇かいたのに長編的なカンジになってしまう。…嗚呼。

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